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37話:『Lawless World(無法世界)』

2章も改めてよろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ↓

「ふむ、これは一体……」


 建物を出たボク等の目の前に広がるのは、灰色と茶色で構成された物悲しい風景。

 どこもかしこも“ボロボロに荒廃した街”の景色を見て、ボク等二人は呆然と立ち尽くす。


「何コレ……何があったの?」


 咎人の服を着たまま不安げに胸を抱くパルフェの問いに、ボクは正解を答えることが出来ない。

 見える限りほぼ全ての建物の窓ガラスが割れ、半数近い建物の壁は崩壊し、その内のいくつかは天井も崩落していた。

 街の規模に比べて見える人影が明らかに少なく、アチコチから立ち昇る今にも消えそうな煙の心細い軌跡が、既にこの街が終焉を迎えた事を教えてくれている。


 一体全体何がどうなっているのか?

 どうしてボク等がこんな状況下にいるのか――時間は僅か5分前に遡る。



 ~ 5分前 ~


 閻魔王の手助けで『地獄』から脱獄した直後。

 幻想的な蒼い光が消え、ボク等は呆気なく“次の世界に放り出された”。


「きゃッ!?」


「ぐっ――」


 ボクの身体がパルフェの下敷きとなるも、それが大怪我に繋がることはない。

 無防備な背中を受け止めてくれたのが「広くて柔らかいベッド」だったおかげだ。

 ただし、覆い被さるパルフェによって顔面が圧迫されているのは非常に困る。


「むぅ~~(息が……ッ!!)」


「あわわッ、ごめんドラの助。大丈夫?」


 パルフェが慌てて立ち退き、何とか気道の確保に成功。

 ちょっとだけ恥ずかしそうに胸を押さえた彼女をしり目に、ボクは早々に周囲を確認。


(どこか部屋の中だね……見た感じホテルの部屋っぽいけど)


 カーペットの上に大きめのベッドとサイドテーブルがあり、壁際には横長い机も設置されている。

 命の危険が無い場所なら何処に出ようと構わないけれど、しかし普通の部屋とは雰囲気が大きく違っているのは見逃せない。

 同じく部屋の様子を窺っていたパルフェが、眉を潜めつつポツリと呟く。


「この部屋、ちょっとボロくない? 壁紙が剥がれてるし、空気も埃っぽいよ」


「うん。ベッドも結構埃被ってるね。天井も一部崩れてるし、もう営業してないのかも」


「ありゃりゃ、水も出ないね。シャワーを借りれたら良かったのに、ちょっと残念」


 バスルームの蛇口をパルフェが捻ったところで、水道管にたまっていた水が「ちょろちょろ」と流れ出た程度。

 それも僅か数秒で止まった。

 照明のスイッチを入れてみても、カチッと音がしただけでうんともすんとも反応は無い。


「電気も来てないし、やっぱり廃墟みたいだね。まぁ人里離れた砂漠とかに出るよりはマシだけど……」


「ここがドラの助の言ってた街?」


「それは流石にわかんないかな。外に出て聞いてみよう」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 こうして建物の外に出たボク等を出迎えたのが、先程の荒廃した街の風景だ。

 唯一元気なのは「カーッ、カーッ」と響き渡るカラスの鳴き声だけで、その元気さが翻って不気味に思える。


 更には。

 より大きな鳴き声のする方を見ると、数匹のカラスが群がって“地面の何か”を突いてるところだった。

 そっと、ボクは左手でパルフェの手を握る。


「この街にいる間は、絶対ボクから離れないでね」


「えっ、何々ちょっと~。真面目な顔で言われると恥ずかしいんだけど~」


 一人で「えへへへ」と笑ったあと、パルフェも視線をカラスに向ける。


「何に群がってるんだろう? 鳥向けのエッチな本でもあったのかな?」


「いや、“死体”だよ、それも人間のね」


「え……」


 ピタリと動きを止め、その後ボクを掴む手にギュッと力が加わった。

 彼女がようやく緊張感を持ってくれたことが嫌でもわかったので、あえて何も言わずにパルフェを連れて歩き出す。

 それから近くの通路に座り込んでいた男性に声をかけた。


「ねぇおじさん、何があったの? 街がボロボロなんだけど」


「あぁ? 何があったって、見ての通り『無法集団アウトライブ』に襲われたんだよ」


「『無法集団アウトライブ』?」


「おいおい知らねぇのか? ルール無用の犯罪者集団さ。2日前にこの街に来たかと思ったら、街を破壊して何もかも奪って行っちまった」


「なるほど、それでこんな有様に……」


 どうやら「無法」の名を冠するだけあって、『Lawless World (無法世界)』はかなり荒れた世界らしい。

 噂には聞いていたものの、まさかここまで堂々と略奪が横行している世界だとは思わなかった。


 パルフェ曰く。

「『Lawless World (無法世界)』はね、あまりにも荒くれ者が多すぎて『全世界管理局』からもほとんど見放されてるの。管理局の施設も数える程度しかないし、統治する覇者も存在しないんだって」

 との話だ。


 経済や治安維持を一括して管理する管理局。

 その象徴的な存在である覇者がいなければ、こんな感じで荒れてしまうのもある種「必然」なのかも知れない。


(街の人達は可哀想だけど、だからってボクに出来ることも無いし……)


 今のボクは右手を失い、以前よりも確実に弱くなっている。

 この危険な世界で何があるかわからないし、アレコレ下手に首を突っ込むよりも、まずは“おじいちゃんとの再会”を優先する方が賢明か。


「おじさん、ボク達『ベックスハイラント』って街を探してるんだけど知らない? まさかこの街じゃないよね」


「ベックスハイラント? あの天上街に……“成金共の街”に行くのか?」


 如何にも「辞めとけ」とでも言いそうな眼をした後、おじさんは正にその言葉を発した。


「辞めとけ、辞めとけ。俺らなんかが行ってもゴミを見るような眼で蔑まれて終わりだ。あの街には入ることすら出来ねぇよ」


「そうなの? でも知り合いと約束してるんだけど」


「あん? 街に知り合いがいるのか……それなら金をくれたら教えてやる。5000Gでどうだ?」


「ちょっとッ、そのくらいタダで教えてくれても――」


「パルフェ」


 ボクを盾にしたまま、おじさんに抗議したパルフェ。

 そんな彼女の言葉を途中で止めて、ボクは懐から1万Gを取り出した。


「倍出すから、もう少し詳しく教えてくれる?」



 ――それからおじさんの話を聞き、ボク等は天上街:ベックスハイラントについての情報を得た。

 目的の街はこの街と鉄道で繋がっており、線路沿いに北へ進めばやがて到着するとの話だ。

 念の為、他の人にもお金を払って情報を聞き出したけれど、おじさんの話と相違は無かったので嘘の情報ではないだろう。


 既に太陽は傾き始めており、この荒れ果てた街に長居は無用。

 しばらく列車の運行は期待出来ない為、線路に沿って徒歩で北上を開始すると、パルフェが自信満々な顔でこう言い放つ。


「見ててドラの助、カーブが無ければ私は最強なんだから♪」


「ん?」


 言うな否や。

 走って線路に飛び乗ると同時に、彼女が“魂乃炎アトリビュート”:『ぬるぬる』で脚をコーティング。

 結果、氷上のスケート靴みたいにツーっと線路上を滑り始める。


「ほらほら、早く来ないと置いてくよ~。……っていうか、自分じゃ止まれないから早く追いかけて来てぇ~~!!」


「あらら、これはボクも急がないと」


 彼女のフォローもそうだけど、それを差し引いてものんびりしている場合ではない。

 ボクの到着を待つのは、『Fantasy World (幻想世界)』の覇者こと魔人:ホルスを相手に、互角以上に渡り合ったおじいちゃんだ。

 待たせ過ぎて怒られでもしたら大変だと、ボク等は一気に『Lawless World (無法世界)』を北上する――。



 ~ 2日後 ~


「パルフェ、ようやく見えて来たよ……って、大丈夫?」


「うぅ~、全然大丈夫じゃないよぉ。お腹空いたし、汗臭いし、『ぬるぬる』使う気力も出ないし……」


 ヘロヘロの足でゾンビの様に線路を歩くパルフェ。

 時間短縮の為に『ぬるぬる』で線路を滑って来たけれど、そのせいでかなりの体力を消耗してしまったらしい。


 食に関しては荒野にいた獣を狩って、それを焼いて食べた一回だけ。

 水分補給に関しても、岩場の小さな湧き水で少し喉を潤した程度なので、疲弊してしまうのも致し方ない。


(一応、途中で川は見つけたけど……ピンク色の怪しい川だったからなぁ。死んだ魚も浮いてたし、流石にアレを飲む訳にもいかない)


 おかげでこの2日間は体力が減る一方だ。

 彼女に相当な無理をさせてしまった感は否めず、かといって片腕のボクではパルフェを背負う事も難しく、ただただ申し訳ない気持ちになる2日間だった。


 しかし、ようやくだ。

 ようやく辿り着いた。


 目的の天上街:ベックスハイラント――その街を“頂きに抱える”3000m級の山。

 その山の麓に広がる“広大なゴミ捨て場”の元に、ボク等はようやく辿り着いた。



 ■



 ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ。

 見渡す限りの景色全てに、高く積み重なったゴミの山。

 あちらこちらで白い煙を上げる圧巻のゴミ山を前に、パルフェが久しぶりにその足を止める。


「はぁ、はぁ……ここが、廃墟のおじさんが言ってたゴミ山かな」


「だろうね。線路もこの中に続いてるし、ベックスハイラントがあるって言ってた“螺旋山”も見える。まずはあの山の麓まで行って、そこから登山すれば到着だよ」


 ――螺旋山。

 ゴミ山の中に天高くそびえ立つ、螺旋状の形をした3000メートル級の山だ。

 目的地:ベックスハイラントはあの山頂にあるらしく、最後にして最大の難関を見上げたパルフェが、鼻を抓んだまま「うぅ~」と項垂れる。


「酷い臭い……これがずっと続くの?」


「まぁこれだけのゴミが積もってるからね、仕方ないよ。一番高い所は50メートル以上積もってるんじゃないかな? それでも何故か線路の周囲だけは、綺麗に整理されてるみたいだけど」


「ちょっと、何でそんなに冷静なの? ドラの助の鼻ってただの飾り?」


「そんな訳ないでしょ。そりゃあボクだって臭いとは思うけど、地獄では死臭の中に居たし、慣れちゃった」


「慣れちゃったって……可愛い顔してたくましいなぁ」


 鼻を抓んだまま呆れた顔を向けてくるパルフェだけど、今のは褒め言葉として受け取っておく

 それからしばらくは線路に沿って歩き、周囲のゴミ山が一段と高くなったところで「そう言えば」と彼女が口を開く。


「この線路ってさ、あの山頂の街までずっと繋がってるのかな? だとしたら頑張り屋さんが過ぎる列車なんだけど」


「でも、多分そうだと思うよ。街へ行く為には“螺旋街道”を登るって言ってたから、きっとあの列車も崖沿いの街道を登ってくんだよ。ボク等もまずはその入口を目指そう」


「はぁ~、列車に乗れれば楽なのに」


「肝心の列車が動いてないからねぇ。聞いた話だと料金も異様に高いみたいだし」


「でもでも、剣舞会で貰った100万Gがあるんだから、別に払えない訳じゃ――あたッ」


 コツンッと、パルフェの頭に何かぶつかった。

 雨にしては少々強いなと足元に落ちた物を見ると、それは“錆びたネジ”か。


「ありゃま、どこからネジが飛んで来たんだろう?」


「さぁ、ボクにもサッパリ」


 問われたところでわかりようもない。

 お手上げとばかりに肩を竦め、それから何気なく空を見上げ――呆気なく「答え」が見つかると同時。

 ボクの背筋がゾッと凍り付く。


 “ゴミ”だ。


 一体どこから現れたのか、上空から大量のゴミが降ってきた!!

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