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36話:(1章最終話)一度死んだボク等の未来は、この地獄の中から再び始まる

 ボクの眼前。

 これ以上ない至近距離に、ギュッと目を瞑ったパルフェの瞼が見える。


 ――俗にいう接吻だった。

 

 今度こそボクは本当に呆気に取られ、呆気に取られている間に、生暖かいぬるっとした液体がボクの口に入って来る。

 ねっとりと甘い蜂蜜の風味が口一杯に広がり、大好きなその味を堪能している間に、ボクの唇から柔らかい物が離れた。

 

 少しだけ遠ざかった彼女の顔。

 それが真っ赤に染まっているのは、周囲を染めた血の色を反射している為だろうか?


「えへへへッ、ドラの助の初めてを奪っちゃった♪ ファーストキスが大好きな蜂蜜味ってのも悪くないでしょ?」


「……いや、別に初めてじゃないけど」


「ふぁっ!? どういうこと!?」


 元々大きなパルフェの瞳が、過去最大級に見開かれた。


「何で!? 私はファーストキスだったのに!! 不公平だよ!! どうしてドラの助は初めてじゃないの!? 嘘でしょ!? 嘘だって言ってよ!!」


(う~ん、うるさいなぁ……)


 こんな近距離で大声を上げられると、耳がキーンとして頭がクラクラする。

 それに「どうして?」とか言われても、そういうものなのだから「仕方がない」としか言いようがない。

 自分が初めてだからと言って、相手にもそれを求めるのはナンセンスだ。

 

 そもそも。

 ボクの“初めて”は、ほんの数日前の話。

 湖で溺れた誰かさんを助ける為に、ボクは生まれて初めての人工呼吸をした訳だけれど……まぁでも、人工呼吸はキスに数えないって意見もあるし、その理論で言うと、確かに今のキスがボクの“初めて”だったのかもしれない。


「ちょっとドラの助ッ、その女を今すぐここに連れて来て!!」


「へ? ……一応訊き返すけど、その女ってのは?」


「決まってるでしょッ、ドラの助の初めてを奪った女だよ!! 私が八つ裂きにしてあげるから、今すぐここに連れて来て!! ギタンギタンのメチョンメチョンのヌルンヌルンにしてやるんだから!!」


 ギタンギタンのメチョンメチョンのヌルンヌルン?

 ちょっとどんな状態か興味あるけど、それが八つ裂きを現す言葉であることを忘れてはならない。


「パルフェ、どうやって自分で自分を八つ裂きにするの?」


「へ? 自分で自分を? ……どういうこと? 謎かけ?」


「……わからないなら別にいいよ」


 説明してもいいけれど、面倒なので辞めておこう。


「うぅ~、凄くムカムカするけど諦めるしかないかぁ……。でも、だったらドラの助、ファーストキスを諦める代わりに一つ質問いい?」


「代わりってのがよくわかんないけど、別にいいよ。何?」


「ドラの助ってさ、絶対これまで彼女いたことないよね?」


「………………」


 何? 何なのこの人?

 何でそんなこと訊いてくるの?


「ねぇ、どうなのドラの助? そこのところどうなの? ねぇねぇねぇ?」


「………………」


「あれ? 何で黙っちゃうの? 正直に白状しちゃいなよ~。ほれほれ~」


 ボクの頬を掴み、むにぃ~と引っ張るご機嫌なパルフェ。

 さっきまで結構シリアスな雰囲気だったのに、随分と平和な頭の持ち主だ。


(まぁ暗い表情をされるよりは、頭にお花が咲いている方がマシだけど……)


 と、そんな感じで馬鹿なやり取りを交わしていたせいだ。

 ボクはギリギリまで気づかなかった。


 等活地獄の大穴。

 その崖上に、“閻魔王が現れた”事に――。



「吸い込め、『地獄の壺』」



「えっ!?」「わわっ!?」


 ボクとパルフェの身体が自然と浮き上がり、そのまま閻魔王の持つ壺の中に吸い込まれる!!


(くっ、流石に油断し過ぎた!!)

 

 壺の中は真っ暗でほとんど何も見えない。

 頭上にお月様みたいな丸い穴が見えているだけ。


 状況的には“壺の中に捉えられた”と考えて然るべきだろう。

 青鬼を気絶させ、咎人達を全員始末し、周囲に誰もいないだろうと油断し、自分の家でもない地獄の中であまりにも悠長にし過ぎた結果だ。


 “閻魔王に捕まった”。

 

 これが事実。 

 パルフェが不安そうにボクへと抱き着き、ボクは脱出路を求め、唯一の光が見える壺の口へと視線を送る。

 すると――。


「うわっ!?」「きゃあっ!?」


 壺の口に大きな目玉が出て来た。

 閻魔王が覗き込んでいるのだ。

 

(いや、ちょっと……流石に無理だよこんなの、逃げようがない……ッ!!)


 地獄の覇者、十王が一人である閻魔王。

 ボクが真正面から戦って勝てる相手ではなく、まして今や完全に相手の手中に収まっている状況だ。

 4000年鍛えた右手も無ければ、一か八かを狙う大逆転の手すら無い。

 最早ボクにはどうしようもない。


 ブルブルと震えるパルフェの振動。

 それが嫌と言うほど伝わって来て、ボクまで震えたくなってしまう。


 “ここに勝ち目はない”。


 どう上手く負けるかの問題だ。 

 せめてパルフェだけでも天国へと行けるよう、閻魔王に出来る限りの懇願を――そう考え始めたボクの耳に“予期せぬ言葉”が届けられた。


『おい小僧、逃げ先は『Lawless World (無法世界)』でいいんだな?』


「えっ、何でそれを? もしかして閻魔王も、あのおじいちゃんの……?」


『黙って答えろ。行くのか、行かないのか、どっちだ』


 ボクを問い正す閻魔王の目玉は、冗談無しの真剣そのもの。

 どういう事情かはわからないけれど、それ相応の事情があるのは間違いない。


「ドラの助……どうするの?」


 震えながらもパルフェが訊いてくる。

 ここで訊かれても、例え訊かれなかったとしても、ボクの答えは一つしかない。

 選択肢がそれしかないのだ。


 こちらを見つめる大きな目玉を、ボクは真っ直ぐに見返す。


「行くよ、『Lawless World (無法世界)』へ」


『だったら、次からはもっと上手くやれ。あまり俺の手を煩わせるんじゃない』


 その言葉を捨て台詞に、閻魔王の目玉が壺から離れた。

 そして入れ替わるように、壺の暗闇に“青い光の柱”が出現する。


(『世界扉』、どうして壺の中に?)


 ――いや、それを考えたところで仕方がない。

 閻魔王が手を貸してくれる理由も同じだ。


 考えるのはここから脱出した後の話。

 今は『世界扉』を使うか使わないか、それだけだ。

 迷ったところで意味はない。

 

 覚悟を決めて『世界扉』に近づき、幻想的な青い光に触れる。

 すると、見覚えのある26文字のアルファベットが浮かび上がった。

 “前科”があるパルフェも、流石にここで勝手に世界を選ぶことはせず、ゴクリと唾を飲み込んでボクに全てを任せてくれた。


 ボクはパルフェを見返し、頷き、そして光にを手を伸ばす。


(これから先、どうなるかなんてボクには何もわからない)


 それでも、行くしかないのだ。


 一度死んだボク等の未来は、この地獄の中から再び始まる。


 始める為に手を伸ばす。



 『L』の世界:『Lawless World (無法世界)』へ――。



 【1章】(完)

 ■■■あとがき■■■


 ここまでお付き合い頂いた方、本当にありがとうございます。

 これにて1章は完結となります。

 もしよろしければ、「ブックマーク」や「★★★★★」評価もして頂けると嬉しいです!!

 見て頂けるだけでも十分嬉しいのですが、更に反応があると大きな励みになりますので……。


 それでは、引き続き2章もよろしくお願いします。

(タイトルにある黒ヘビも、ようやく2章から本格的に描かれます)

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