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29話:魂死反逆

 おじいちゃんは言った。

 パルフェを助けたいなら「“元の身体”を取り戻すのじゃ」と。 

 最初は何の冗談かと思ったものの、この状況で冗談を言う人でもなく、その目は何よりも真実に溢れている。


「元の身体……確か今のボクの身体は、地獄の秦広王が作った“借り物”って話だったよね。魂が半分だけしか定着していない。だから死んだも魂がすぐに消滅するって」


「左様。それを避けるには元の身体を取り戻し、魂も元通りにする他ない」


「そんなことが本当に出来るの?」


 訊ねた自分でもわかっている。

 出来ないなら、おじいちゃんはこんなことを言わない。


「”魂死反逆こんしはんぎゃく”」

 そう告げてから、おじいちゃんは続きを語る。

「『Soul World (魂世界)』に“最果ての地”と呼ばれる場所がある。本部の管理者ですら辿り着けぬ秘境中の秘境じゃ。そこで『Soul World (魂世界)』の覇者と交渉すれば、元の身体を取り戻すことも不可能ではない」


「えっ、覇者と交渉? でも『Soul World (魂世界)』には覇者がいないって学園で習ったけど……」


 ――トンッ。

 唐突におじいちゃんが杖で地面を叩いた。

 不思議な紋様が地面に浮かび上がり、その上に真っ白い光の玉が浮かび上がる。


「学園で教えられたことが全て真実とは限らん。時間が無いから手短に話すぞ」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 それからボクは“魂死反逆”の話を聞き終えた。

 とてもシンプルで、だけどとても難しい話を。

 その話の最後に、おじいちゃんはこう付け加える。


「改めて言うまでも無く、今からやろうとしておるのは“人類の禁忌”じゃ。成功した者は極々少数。覇者との交渉に失敗すれば、今のお前さんは消えてなくなるじゃろう。それでもやるのか? せっかく脱獄したんじゃぞ?」


「やるよ。それしか方法が無いなら」


「……その覚悟は理解した。しかし、何故そこまでする? 出逢ってせいぜい数日の相手に、お主さんがそこまでやる理由は何じゃ?」


「それは……」


 改めて問われると、即答は出来ない。

 先ほどは文字通り熱くなって勢いのままに死のうとしていたけれど、冷静に考えると躊躇ってしまう自分もいる。


 知り合って間もないパルフェの為に、何故ボクがそこまでやらなきゃならないのか。

 誰か答えを知っているなら、今すぐ教えて欲しいくらいだ。

 

 でも。

 それでも。

 わからない中でも。

 何故か一つだけわかってることもある。


「何て言うかさ、このままパルフェを死なせたら“絶対に後悔する”って思ったんだ。せっかく地獄で鍛えたのに、4000年も耐えたのに、結局ボクは誰一人守れない酷くちっぽけな人間なんだって……そんな惨めな思いはしたくないんだ。ボクの4000年がこの程度だったなんて思いたくない。だからさ、結局これは全部自分の為なんだよ。ボクはボクの為に、死んでもパルフェを助ける。絶対にね」


「……ふんッ」


 鼻息一つ。

 如何様にも受け取れるおじいちゃんの返事の後、再び「ゴーン」と鐘の音が鳴る。

 これで延長後、2度目の鐘。

 次に鐘の音が鳴る時が、時間が動き出す時となる。


 しかし、時間が動き出す前に、“ボク等以外”で動く者がいた。



「おい、俺の管理下で好きにさせると思うか?」



 ドンッ!!

 空から大男が降って来た。

 しかも、ボクの目の前に――。


(魔人ッ!? さっき帰った筈では!?)


 止まった時間の中で、空から降って来た5メートル級の大男。

 見上げる程に馬鹿デカい、この『Fantasy World (幻想世界)』を仕切る覇者:魔人だ。

 まさかの再登場に慌てて離れたボクを魔人が一瞥し、それから彼はおじいちゃんをギロリと睨む。


「不穏な空気を感じてやって来てみれば、まさかこんなところで“大物”に出会うとはな。『全世界管理局』は貴様の首を欲しがっているぞ?」


「ホッホッホッ。だったらワシの首にかかった懸賞金を今の100倍くらいにしておけ。ワシの首はそう安くない。――ところで魔人よ、今頃は誰かさんと会合の予定ではなかったか?」


「……貴様には関係の無い話だ」


 言って、魔人が左手を構える。


「“ドワーフの地下牢”」


 予告無し。

 魔人の魔法で“床が波打つ”!!


 その波打つ床に、おじいちゃんの身体がドボンッと沈み込む。

 捕らえられた、と思ったのも束の間、爆音と共に石畳のステージが吹き飛んだ!!


 石畳が大きくえぐれた爆心地には、先程と変わらぬおじいちゃんの姿がある。


「ホッホッホッ。いきなりジジイを地下に閉じ込めるとは、世界の魔法を一人で牛耳っている男は随分とドSじゃな。お前さんも『Fantasy World (幻想世界)』の覇者なら、ファンタジーの大本命たる魔法を庶民に解放したらどうじゃ?」


「……黙れ。何食わぬ顔で俺の魔法を打ち破るな」


「ふむ、話の通じない奴じゃのう」


 おじいちゃんは「やれやれ」と首を振り、それから視線をボクに向ける。


「ドラノアよ、あまり時間が無い。こやつの相手はワシがしてやるから、行くならすぐに行け」


 そしておじいちゃんが杖で指したのは、先ほど地面の文様から浮かんで来た真っ白い光の玉だ。

 時間的にもそろそろ本当に潮時だろう。


「やっぱり、おじいちゃんって只者じゃないんだね。いつかおじいちゃんの話も聞かせて貰える?」


「無事にここを切り抜けられたらな。――よいか、『Lawless World (無法世界)』にある『ベックスハイラント』という街までは自力で来い。これ以上は流石のワシも手助け出来ぬぞ」


「うん、わかった」


 これだけ助けて貰えれば十分。

 あとは光に入るだけ。


「それを俺が易々見逃すと思うか?」


(ッ――いつの間に!?)


 光に向かって走り出したボクの前に、突如として魔人が立ちはだかる。

 瞬間移動なのか、動きが一切見えなかった。


 が、その魔人の巨体が吹き飛ぶ!!

 入れ替わるように、つい先程まで魔人がいた場所におじいちゃんの姿があった。


「さぁ行け!!」


「ありがとう!!」


「くっ、余計な真似を……ッ!!」


 歯を食いしばった魔人の悔しそうな声。

 ゴーンと鳴った最後の鐘の音。


 それら一切合切を無視して、ボクは真っ白い光に包まれた。



 ■



 ――改め繰り返す。

 本部の管理者ですら辿り着けない『Soul World (魂世界)』の特別な場所:“最果ての地”。

 そこで覇者と交渉し、“魂死反逆こんしはんぎゃく”という術で元の身体を取り戻すことがボクの目的だ。


 おじいちゃんが秘境中の秘境と表現したその場所に、どうやってボクを送り込んだのかは謎。

 先ほど地面に描かれた魔法陣の意味などボクが知る由もないけれど……ともあれ。


 渡航を無事に終えたのであれば、今、ボクの目の前にいるのが『Soul World (魂世界)』の覇者だということになる。


 光の中とも闇の中とも思える、形容しがたい灰色の空間。

 そこで静かに鎮座する、蜷局とぐろを巻いた超大型生物――山すらも抱く特大の“黒ヘビ”が。


(なんて大きさだ……。これがおじいちゃんが言ってた、かつての『Soul World (魂世界)』の覇者:ヨルムンガンド……ッ!!)

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