表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/237

28話:可及的速やかな死を

 剣舞会の会場コロッセオの舞台で、ボクの身体は轟々と燃ゆる炎に包まれていた。

 理由は正直わからない。

 身体に貯めた地獄の熱が暴走したのかもしれないし、そうではないかもしれないけど、それはこの際どちらでもいい。



「…ッぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!!!!!!!」



 熱い!! 死ぬほど熱い!! 

 燃えているのだから当然だ。

 身体が燃えたら死ぬほど熱いに決まっている。


 それなのに。


 一体どういう訳か、ボクの身体は未だに“皮膚が焦げていない”。

 髪の毛一本燃え尽きない。

 間違いなく身体が燃えているのに、だけどボクの身体は地獄の業火に耐えている。


 地獄の鬼族でもないのに――。


 むしろ地獄の鬼族だったら、そもそもこんなの「熱い」とも思わない筈。

 それでもボクの身体が炎に耐えているのは、燃え尽きる様な暑さの地獄で4000年もの時を過ごした為か。

 もしくは他の理由があるのか、それが何にせよ“不本意”だ。


 この炎では、ボクが死ぬことは出来ない。



(このままじゃ駄目だ!! 今すぐ死んで、『Soul World (魂世界)』の『魂別道』でパルフェを見つけなきゃ……ッ!!) 



 頭の中はそのことで一杯だった。

 “生き返る”という言い方が正しいのかどうかは知らないけれど、死んでも地獄から脱獄すれば、またこの世界に戻って来られる。

 その可能性があることを、ボクはこの身を持って知っている。

 身も蓋も無い言い方をすれば――。



 『死んでも脱獄すればいい』



 「味を占めた」と言われればそこまでの話。

 だけど、言いたい奴には言わせておけばいい。


(まだ、何も約束を果たしてないッ。このまま死んで終わりだなんて、そんな人生には絶対にさせない……ッ!!)


 生まれて初めて誰かと約束を交わした。

 一方的な命令ではない、心の籠った暖かい言葉を交わしたのだ。

 あの温もりの前には命の倫理観などどうでもよく、今ここにある問題はパルフェの魂に出逢えるかどうかだけ。


 燃える身体、その全ての痛みを無視して。

 それでも無視出来ぬ痛みは悲鳴で掻き消し、ボクはナイフを握りしめる。


(いっそのこと、これで一思いに……ッ!!)


 「死に方」に時間をかけている場合ではない。

 『Soul World (魂世界)』の『魂別道』は複数ある。

 時間が経てば経つほどに、死んだボクの魂がパルフェとは“別の『魂別道』”に逝く可能性が上がっていまう。


 可及的速やかな死を。

 躊躇いも覚悟も思考も捨て、狙いはただ己の首。

 そこにナイフを構え、振るうだけ。


「“のこぎりかま――”」



“時賭け三鐘ときかけさんしょう”」



 ふと、苦しみから解放される。


(……あれ?)


 気が付けば、世界の景色がモノクロに変わっていた。

 轟々と燃ゆる業火の音が消え、業火の揺らめきも写真を見ているかのように止まっている。


 ボクの身体は炎の中にいるのに、その中心にいるのに、熱を一切感じない。

 どよめいていたコロッセオの観客達もピタリと静止していた。

 周囲の時間が完全に止まっている。


(これは……)


 薄っすらと覚えた予感は、すぐに的中することになる。

 見に覚えのある顔――真っ白い髭を蓄えた老人の顔が隣にあった。


「おじいちゃん?」


「この馬鹿者が!!」


「あいたたたたっ!?」


 いきなり杖で殴られた。

 ボクが地獄から脱獄する際、時間を止めて『世界扉』までの道筋を作ってくれたあのおじいちゃんだ。

 手持ちの杖で的確に頭を狙って来るので非常に痛い。


「ちょっと、どうしておじいちゃんがここに? 『Lawless World (無法世界)』で待ってる筈じゃあ……」


「どうしてもこうしてもあるか!! お前さんが剣舞会で暴れとる噂が地獄まで届いて来たぞ!?」


「え? それはマズいね……」


 今更ながら、100万Gに目が眩んだ剣舞会の出場は不用心が過ぎたらしい。

 一応服装は変えたものの、見る人が見ればボクだとわかっても致し方ないか。


「これ以上目立たぬように注意しようと、リスクを冒してまでやって来てみれば……まさか自殺を試みておるとは。一体何を考えておるんじゃ?」


 ボクを叩いて少しは気分が晴れたのか、おじいちゃんの興奮が少々落ち着いて来た。

 これなら話は通じるだろうと、ボクは身バレの話を一旦脇に退けて、「パルフェを生き返す為の作戦」だと伝える。

 するとおじいちゃんは「やれやれ」と首を振り、「ふ~~」と大きく深呼吸。


 ここで一度“鐘の音”が鳴り、その音が鳴りやむ前におじいちゃんが口を開く。


「努々《ゆめゆめ》忘れるな。今のお前さんの身体は、地獄の秦広王によって魂から創られた“借り物の身体”じゃ。魂の全てが定着しておるわけではない」


「……と言うと?」


「その身体のまま死ねば、お前さんの魂は『魂別道』に行くこともなく“即座に消滅する”」


「ッ――!?」


 最後の文言に背筋が凍る。

 先ほど燃えていた身体でなければ、今頃は氷漬けになっていたかも知れない。


「それ……本当?」


「お前さんの浅はかな考えなどお見通しじゃ。どうせ『死んでもまた脱獄すればいい』とでも考えたのじゃろうが、秦広王も馬鹿ではない。脱獄した者が必要以上の悪さをせぬよう、魂の半分は本来の身体に、つまりは遺体に定着させておる。お前さんみたいな馬鹿が稀におるから、魂の全てを咎人に与える真似はせぬのじゃよ」


「そんな……」


 ボクが疑いの目を向ける間に、もう一度鐘の音が鳴り響く。

 決死の覚悟で挑んだパルフェの救出作戦、その終了を告げるかのように――。


 その音が鳴り止まない内にボクが疑いの目を向けると、おじいちゃんは苛立ち気味に口を開く。


「今、ここでワシを疑うことに意味があるか?」


「………………」


 意味があるかどうかなんてボクは知らないけれど、先ほど聞いたおじいちゃんの話は恐らく本当だろう。

 別世界で待っていると言っていたおじいちゃんが、それを覆してまでこの場にやって来た訳で、嘘を吐く為にわざわざボクの前に姿を現したとも思えない。


 つまり、ボクが死ぬと魂は残らずに消滅する。

 『魂別道』でパルフェを見つけ、一緒に脱獄する作戦は使えない。


「それじゃあボクはどうしたらいいの? 『Soul World (魂世界)』に行かないとなると、『Heaven or Hell World (天国か地獄世界)』で待ち伏せでもする?」


 言って、自分の言葉を即座に自分で否定する。


「いや駄目だ。認められた管理者でもない限り、『世界扉』からは『Heaven or Hell World (天国か地獄世界)』に行けない筈だよね?」


「左様。一般人が天国や地獄へ簡単に出入り出来たら大問題じゃからな。普通では行き来出来ぬ作りになっておる」


「じゃあどうするの?」


「だからどうもこうもない、諦めるのじゃ」


 グイッと、おじいちゃんはボクに杖を額に突きつけた。

 本気でボクを諭そうとしている目だと、すぐにそれを悟る。


「よいか、相手は大天使の娘じゃぞ? その魂にアレコレと手を出すと相当ややこしい事になる。今後のことを考えるなら、何もせずに大人しくしておることじゃ」


「別にいいよ。どうせ既にややこしい事態だし」


「おいおい、自棄になるな。いいから諦めるのじゃ」


 グイグイっと、おじいちゃんが更に杖で突いてくる。

 真面目にちょっと痛いので辞めて欲しい。

 どうせボクに引くつもりは無いのだから。


「何を言われても諦めないよ。何か良い方法ない?」


「いい加減にせんか、キレるぞ?」


「キレられても諦めないよ。何か良い方法ない?」


「本気でキレるぞ?」


「好きにすれば? それより何か良い方法ない?」


「……チッ、この頑固者めが」


 おじいちゃんは悔しそうに顔を歪め、「はぁ~~~~」と盛大にため息。

 それから大きく息を吸い込み、恨みがましい目をボクに向けながら唱える。


「“時賭け追加:望三鐘もうさんしょう”」


 おじいちゃんが唱えた直後、ゴーンと鐘の音が鳴る。

 これで最初の鐘の音から3回目だけれど、時間が進む気配が無い。

 景色はモノクロのまま、炎も観客も止まったままだ。


「時間停止の延長じゃ。はぁ、はぁ……お前さんが頑固なせいで、無駄に体力を消耗するわい」


「大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど」


「心配する余裕があるなら……はぁ、耳の穴をかっぽじってよく聞いておけ。頑固者なお前さんに、一つだけ悪知恵を授けてやる」


 吐き捨てるように呟き、そしておじいちゃんは言った。


「“元の身体”を取り戻すのじゃ」


「……へ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■続きに期待と思って頂けたら、ブクマ・ポイント評価お願いします!!!!
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ