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223話(5章最終話):記憶

 ~ 翌日 ~



「私、逢いに行くよ。ヨルムンガンドさんに」


 隠れ家(アジト)のロビーにて。

 皆を集めて宣言したパルフェの発言を、ボクに止める術は無かったし、元々止めるつもりも無い。

 彼女が自分で考え、自分で決めた決断を、ボクはただ応援するだけだ。


 それは他の皆も同じなのか、誰一人として反対意見を口にする者はいない。

 唯一、テテフがパルフェに抱き着き不安げな顔で見上げるも、彼女はそれを優しく抱き留め「大丈夫だよ」と頭を撫でるに留まった。


「では、これより“魂死反逆”を行う。」


 ここまでの光景を見届け、おじいちゃんが白い杖で床を叩く。

 すると不思議な紋様が地面に浮かび上がり、その上に真っ白い光の玉が浮かび上がる――ボクが『Fantasy World (幻想世界)』で見た時と同じだ。

 あの光が『Soul World (魂世界)』にある“最果ての地”に繋がっていて、そこで元:覇者の巨大な黒蛇ヨルムンガンドと交渉することになる。


 後はパルフェがあの光に触れるだけで、既に覚悟を決めていた彼女はそれを躊躇うこともしない。


 テテフ、コノハ、クオン、ゼノス、おじいちゃん。

 そして最後にボクを見て、彼女は力強く頷き、触れる。


「それじゃあ行って来るね」


 緊張の面持ちで告げると同時。

 パルフェの身体が真っ白い光に包まれ――消えた。


 テテフが「あっ」と声が上げ、ボクも思わず息を飲むけれど、おじいちゃんの「さも当然」という表情を見て安堵する。


「自分の時はわからなかったけど、身体ごと消えるんだね」


「左様。“魂死反逆”とは、魂を“最果ての地”へと送る術じゃからな。魂から作られた仮の身体は、魂が送られた時点で現実世界から消える。それよりも問題は、娘っ子が“何処を喰われるか”じゃ」


「……だね。まぁ何処を食べられても痛手ではあるんだけど」


 本来、無くしていい身体の部位なんて無い。

 それでも本物の肉体を手に入れる為に、何かを犠牲にする必要が出てくるなら、否が応でも自分の身体に優先順位を決めなければならない。

 交渉の主導権を握っているのはヨルムンガンドだけれど、それでもなるべく彼女の要望通りに事が進むことを祈るばかりだ――と思考を回している場合でもない。


「ちょっと下僕、しんみりしている暇があるなら“氷を溶かしなさい”。天使ちゃんが戻って来た時に氷漬けのままでいいの?」


「それはよくないから頑張って溶かすよ。皆も手伝って」


 クオン(大)に急かされ、ボクは地獄の熱で氷を解かし始める。

 隠れ家(アジト)を燃やさない様に気を付けつつ、パルフェの身体を保護していた氷を徐々に減らしてゆく作業だ。


 ――傍から見ると、氷漬けの身体は眠っているだけの様に見える。

 『Fantasy World (幻想世界)』で凶弾に倒れた後、南方大天使が引き取って処置を施したのか、パッと見た限りでは特に怪我も見当たらないけど、油断は禁物。

 服で銃痕が隠れているだけかも知れないし、魂がこの身体に戻って来た時に痛みも戻るかもしれない。


 どのみち身体の何処かを失えば、その痛みは確実に襲って来るだろう。

 その際は“彼女”の出番だ。


「コノハ、治療の準備は出来てる?」


「問題ねぇ。牛乳うしぢちの魂が戻って来て悲鳴を上げた瞬間、ドラゴンすら一瞬で眠らせる麻酔をぶち込んでやる」


「それは……人に使って大丈夫なの?」


「問題ねぇ。何なら牛乳うしぢちが寝てる間に豊胸手術でもしてやろうか? 元々手術の必要も無いほどクソデカいけどな。ハハハハッ」


「………………」


 相変わらず問題発言の多いコノハ。

 その人間性に多少の不安は残るものの、まぁ医療に関して口出しできる知識をボクは持ち合わせていないし、これまでの実績から彼女の腕には不安を覚えていない。


 それに今回はゼノスが――機械技師がいるのも頼もしい。

 彼の前にある机には「機械の腕」や「機械の脚」等、つまりは機械部品ギアパーツがいくつか並べられている。


「ゼノスも頼むね。どう転ぶかわからないけど、万が一“手”とか“脚”とかだったら……」


「あぁ、その場合は俺の出番だ。機械部品ギアパーツの取り付けは、可能な限り早い処置が望ましいからな。一旦は在り物を仮でつけて、後から嬢ちゃん仕様の機械部品ギアパーツに交換してやる。ま、本当にその必要があればの話だが」


 ヒョイと肩を竦め、それからゼノスはおじいちゃんに視線を向けた。


「正直な話、あの嬢ちゃんは何処を喰われると思う? 多少なりとも予想は出来るだろ?」


「いや、こればっかりはワシにも何とも言えぬ。ヨルムンガンドが何処を喰らうかは、その時になってみなければわからぬことじゃ」


 残念そうにフルフルと首を振り。

 ここでおじいちゃんは「ただし」と言葉を付け加える。


「これはワシの予想でしかないが、場合によっては“改めて子を孕めぬ”身体になる可能性もあるじゃろう。ヨルムンガンドにとって子宮や卵巣は珍しく、それを望まれる可能性も大いにある。内臓を喰われた例は過去にもあるからな。無論、それらを理解した上で、あの娘っ子はこれを望んだ訳じゃが」


 ――わかっている。

 “その可能性”も、昨晩パルフェと話した

 その上で、それでもパルフェが「やる」と決断したのだから、ボクはそれを受け入れるだけ。


「どんな身体になっても、パルフェはパルフェだよ。足りない部分は、ボクが――ボク等が支える。そうでしょ?」


「当たり前だ。アタシの大好きなパルねぇは、アタシが――アタシ達が支える」


 ふんすッと鼻息を荒げるテテフの、ボクと同じく“訂正した台詞”が嬉しい。

 どんなパルフェが帰って来ても、これからも変わらず一緒に歩んでいける自信が持てる。

 ボクと、テテフと、それに隠れ家(アジト)の皆がいれば大丈夫だ。


 何も心配する必要は無い。

 仮に心配する必要があるとすれば、それは時間。

 壁の時計に目を向け、クオン(大)が僅かに眉を潜める。


「結構かかってるわね。そろそろ戻って来てもよさそうな頃合いだけど……下僕、氷の方は?」


「見ての通り、ほとんど溶かしてソファーに寝かせたよ。パルフェが戻ってきたら最後は一気に溶かして――」



 光!!



 予兆など一切なく、パルフェの身体が突然光を放った。

 ボクは慌てて最後の氷を溶かし、おじいちゃんは珍しく声を張り上げる。


「娘っ子の魂が戻ったぞ!! 失った身体は何処じゃ!?」


「わかんないッ、手足じゃないし顔のパーツでもなさそう!! ってことは、もしかして身体の中をッ!?」


 ――ボクが見る限り、彼女は何処も失っている様には見えない。

 テテフも、コノハも、クオンもゼノスも、パルフェの身体の何処が変わったのかわかっていない。

 つまるところ、失ったのは外から見える部分ではなく、外から見えない“中”ということになる訳だけど……。


「パルフェッ、大丈夫!?」


「えっと……」


「何処が痛いの!? ヨルムンガンドにどの部位を食べられたの!?」


 思わず肩を掴み、強い口調で問い詰める。

 結果、返って来たのは困り気味なポカンとした顔。


「え~っと、どちら様ですか?」


「……へ?」


 何だ? 何を言っている?

 パルフェは何を言っているんだ?



 “どちら様?”


 

 何だそれは?

 それじゃあまるで……。


「パルフェ、冗談は辞めてよ。“魂死反逆”でヨルムンガンドに逢ったんでしょ? 身体の何処を食べられたの?」


「こんしはんぎゃく? ヨルムンガンド? あの、何の話ですか? それにパルフェというのは……もしかして私のことですか?」


「ッ~~~~!!」


 言葉が無い。

 思考も止まりかけたが、ここで止める訳にはいかないだろう。

 ギリギリ残った回路を動かし、ゆっくりとおじいちゃんに顔を向けると、おじいちゃんは目を瞑ってフルフルと顔を横に振った。


「正直、これはワシも想定しておらんかった。まさかヨルムンガンドが――娘っ子の“記憶を喰らう”とは」



 【5章】(完)


 ■■■あとがき■■■


 これにて「5章」完結となります。

 見て下さる方がいなければここまで続けていませんので、無事に「5章」が完結で来たのは読者の皆様のおかげです。

 この場をお借りして、改めて読者の皆様に感謝申し上げます。


(5章の最後はヒロインが記憶を失う不穏な終わり方ではありますが、タグにある通り「ハッピーエンド」で終わる物語は確定していますので)

 

 そんな訳で、物語は「6章」へと続く予定なのですが、現時点ではまだ「6章」が完成していません。

 また、『カクヨム』の方でも別ストーリーの「黒ヘビ少年」を書き進めており、こちらの「6章」投稿時期は未定となります。

(カクヨムの方も「1章」が終わった段階で、「2章の」投稿時期は未定です*興味ある方は『黒ヘビ』で検索して頂ければと)


 体調と相談しつつの執筆なので進行が遅いですが、何卒ご容赦頂ければ幸いです。

 健康でなければ何事も継続は難しいものなので、読者の皆様におかれましては健康第一を忘れずにお過ごし下さい。


 以上。

 またお会いできることを楽しみにしています。

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