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21話:『剣舞会』開幕!!

 ~ ダンガルドに負けた屈辱の日から2日後 ~


 『Fantasy World (幻想世界)』でも有数の観光街:シャンテローゼ。

 その観光の目玉である『剣舞会』が開催される“巨大コロッセオ”は、中央公園の頭上に浮かぶ台地――つまりは空島の中にある。

 大勢の人達と一緒に水力で動くエレベーターで空島まで登り、コロッセオの入口で受付を済ませれば出場の準備は万全。


「それじゃあパルフェ、行って来るね。すぐに予選が始まるみたいだから」


「絶対勝ってね!! 決勝戦まで隠れて応援してるから!!」


 笑顔で手を振る彼女と別れ、選手専用の通路から控室に足を踏み入れる。

 中には50名程の男達が所狭しと屯≪たむろ≫しており、今にも溢れ出さん殺気を互いに放ち合っていた。

 そんな彼等が「何だこのガキ?」みたいな視線をボクに向けてくるけれど、身体が大きいだけであまり脅威には感じない。


「おいチビ、ママにお使いでも頼まれたか?」


「まぁそんなところ。貴方もママのお使い?」


「げへへッ、生意気なチビだぜ。後で舞台の上でたっぷり可愛がってやるよ。ここで暴れると出場停止処分になるからな」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら声を掛けて来た大男が、じゅるりと舌なめずりをして奥の方に歩いて行く。

 周囲からは「あーあ、あのチビ終わったな」とか「チャップマンに目を付けられたか、可哀想に」などと声が聞こえてくるが、あの程度の相手に負けるボクでもない。

 パッと見た感じ、恐らく今回出場する選手の中でボクより強い人間はいないだろう。


(新しい服もパルフェに買ってもらったし、これなら怪しまれることも無い。準備は万全だ)



『は~い、注目!! 予選C組に出場する選手の皆さんは、こちらに集まって下さい。まもなく予選を始めますよ~』



 受付した時間がギリギリだったらしい。

 コロッセオのスタッフが貝殻みたいな形の拡声器を手に、出場選手の誘導を始めた。

 ゾロゾロと歩き出した彼等に続き最後尾を歩いて行くと、ボクの更に後ろに“怪しい人物”が付いて来る。


(ん? 随分と細長い人だな……。仮面で顔を隠してるし、コートで素肌も一切見えない)


 正直言ってあまり強そうには見えないけれど、それは翻ってボクにも同じことが言える。

 不確定要素がある時点で、予選と言えど気を抜かない方がいいだろう――と思っていたら、その怪しい人物がクルリと踵を返しし、そのまま選手控室に戻ってゆく。


(何だ、C組じゃなかったのか? ちょっと気になる人だけど……まぁ無駄な警戒をする必要が無いからいいや)


 敵対しないのであれば、先の人物が何者だろうと今は関係ない。

 構わずボクは通路を進み、50名の男達と共に光溢れる舞台の上に躍り出る。


「おぉ~、これは壮観」


 『剣舞会』の舞台たる巨大コロッセオ。

 外から見るのも初めてだったけど、それを中から、しかも舞台の上から見るのは当然初めての経験だ。


 鮮やかな碧色が目を引く『Fantasy World (幻想世界)』の固有石:幻想紺碧石ファンタブルー

 それらを大量に使用した石造りのコロッセオは、満員の観客で埋め尽くされる訳でも無く、意外にも1/4程しか客席が埋まっていなかった。


「相変わらず予選は客入りが悪いな。俺の雄姿を大勢の前で見せつけてやりてぇのによ」

「うへへ、見せるのは無様な負け姿だろ? だったら客入りが少なくてラッキーじゃねぇか」

「何だとテメェ!? やんのか!?」

「おーおー、やってやんよ!! 合図が鳴ったら覚悟しやがれ!!」


 隣で始まった小さないざこざは無視し、ボクは舞台の隅っこに避難。

 そして大した間を置かず、実況の声がコロッセオの舞台に響き渡る。


『間もなく始まります第572回剣舞会の予選C組。実況は私、キョージ・F・アナウンがお届けします。コロッセオは相変わらずの客入りですが、決勝トーナメントになれば満員になること間違いなしでしょう。――さぁ、50名のバトルロイヤルで勝ち残り、決勝の舞台に行く2名はどの猛者だ!? 予選C組、試合開始です!!』



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



『試合終了~~!! 予選C組の勝者は、カーナバ選手とドラの助選手~~!!』


 試合終了と同時に、ボクは早々に選手控室に戻った。

 つい先ほど終わった試合内容に関しては、正直特筆することも無い。

 最後まで残っていた2名が決勝に行けるシステムだったので、他の人達がリタイアするまでとにかく逃げ回っていただけ。


「チビ、随分とうまく立ち回ったみたいだな。だが決勝トーナメントは1対1のタイマンだぜ? 勝ち残っても意味ねぇだろ」


「かもね。決勝で当たったらお手柔らかに」


 先に予選を終わらせていた男性が声を掛けてきたけど、やはりここでの喧嘩はご法度なのか手を出してくることはない。

 それは不機嫌を隠さない目で睨みつけてくるドワーフ族の大男、2日前にボクが敗北したチンピラの親分:ダンガルドも同じか。


「ふんッ、チビが随分と“おめかし”してきたみたいじゃねーか。なけなしの全財産でも叩いたか?」


「うん、まぁそんなところ。パルフェが新しい服を買ってきてくれたんだ。前の服は流石にボロボロ過ぎたしね」


「そうかい。だったら……」


 ズイッと立ち上がり、手を伸ばしたダンガルドがボクの頭を掴む。

 それからグイっと前のめりになり、一段低い声で告げる。


「その大事な一張羅、テメェの血で汚す前に棄権することだ。俺の機嫌がこれ以上悪くなる前に、さっさと視界から消え失せろ」


「勿論、言われなくてもさっさと立ち去るつもりだよ。優勝賞金を貰った後にね」


「ッ――テメェッ!!」



「おいッ、何してる!! 舞台以外での喧嘩は失格にするぞ!!」



 慌てた警備兵の声に「チッ」と舌打ちをし、それからダンガルドは何もしてないとばかりにヒラヒラと手を振ってボクから離れた。

 その後に警備兵から注意を受けるダンガルドだが、彼は「へいへい」と適当な返事を返すだけ。


(ダンガルド……力は確かに強いね。さっきもボクの頭を握り潰す勢いだったし)


 加えて強靭な身体になる“魂乃炎アトリビュート”:『青銅表皮ブロンズコーティング』の持ち主。

 このコロッセオに集まった男達の中では、一番の実力者と言っても過言ではないだろう。


 ただし、ボクが一番警戒するべきは彼ではない。

 早くも予選D組が終わったのか、マスクで顔を隠した細長い人物が選手控室に入って来た。

 C組の予選が始まる前、ボクの後ろに付いて来ていた怪しい人だ。


(う~ん、この人が残ったのか。得体が知れないし、今回の中では一番の要注意人物かも?)


 ――かくして。

 A組 ~ D組までの予選を勝ち残った、上位8名による決勝トーナメントがいよいよ幕を開ける。



 ■



「「「うぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!!!」」」


 ボクが決勝の舞台に上がると、観客達もボルテージが最高潮。

 予選では空席だらけだったコロッセオが、今や“決勝トーナメント”を見ようと集まった満員の観客達で溢れかえっている。


 ……いや、この表現には一部誤りがあるか。

 観客達が沸き立ったのはボクが舞台に上がった為ではなく、ドワーフ族の大男:ダンガルドが舞台に上がった時だ。

 事前の話では、彼はこれまで剣舞会で9連覇しているらしく、絶対王者の登場に観客達が盛り上がるのは当然か。


「おいチビ、俺の忠告も聞かずにテメェの意思でここに上がって来たんだ。死んでも文句を言うんじゃねぇぞ?」


「大丈夫、その心配なら要らないよ。死んだら文句は言えないと思うし」


 売り言葉に買い言葉。

 くじ引きの結果、いきなり対戦が決まったダンガルドと舞台の中央で睨み合う――そのつもりが。


(うっ、魔人がいる……剣舞会に来てたのか)


 実況席に座っている、黒のスーツを着たサラリーマン風の小柄なドワーフ族の隣。

 そこにはドワーフ族との対比で尚更大きく見える、身長5メートル越えの圧倒的に巨大な男『Fantasy World (幻想世界)』の覇者:魔人がいた。

 コロッセオに生まれた物凄い熱気、その一因は魔人が剣舞会を見に来ていることも無関係ではないだろう。


『さぁ、間もなく始まります。第572回剣舞会決勝トーナメント!! 実況は私、キョージ・F・アナウン。そして解説には『Fantasy World (幻想世界)』の覇者:魔人様を迎えています。改めまして、本日はよろしくお願いします』


『うむ、よろしく頼む』

 

『さて、魔人様。決勝は予選を勝ち残った猛者達による1対1の戦いとなります。既に上位8名の選手が出揃いましたが、注目の選手はいらっしゃいますか?』


『そうだな、やはり注目すべきは現在9連覇中のダンガルドだろう。噂では街の荒くれ者と聞いているが、その実力は間違いなく本物だ。喧嘩で培った格闘術に、抜群の才能を持つ”剣術”も文句無し。生まれつきの“魂乃炎アトリビュート”も相まって、ここ最近は本当に手が付けられない感じだな。予選でも鬼の様な強さで他を圧倒していた』


『なるほど、やはり優勝候補筆頭のダンガルド選手に注目ですね。まさに今から彼の戦いが見られますが、何とその対戦相手は今回初出場の子供です。魔人様、彼はご存知ですか?』


 ゾクリッ。

 実況が尋ねたこの質問に、ボクの背筋が凍る。


(今更だけど、魔人がボクのことを覚えていたら面倒だな)


 先日、ボクを氷漬けにしたあの一件。

 魔人は完全に酔っ払っていたので、天秤はどちらにも傾く可能性がある。

 はたして魔人が覚えているのかいないのか……。


『いや、多分……初見だな。予選の戦いは見ていないが、他の選手が敗退するまで逃げ回っていたと聞いている』


 ――天秤はボクを味方した。

 魔人の返事に実況も静かに頷く。


『えぇ、私もそれは見ていました。逃げっぷりは確かに見事でしたが、決勝は1対1のタイマンですからねぇ。尚且つ相手が優勝候補のダンガルド選手なので、これは火を見るよりも結果は明らかです』


『怪我する前に棄権するのが賢明だろう。可哀想だが俺の出る幕でもない』


『ですね。始まる前から既に勝負が決まった感もありますが、とにかく始めましょう!! 第572回剣舞会、決勝トーナメント1回戦、ダンガルド選手 VS ドラの助選手――今、ゴングが鳴りました!!』

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