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212話:作戦通り

「ぐッ!?」


 『中位八隊』の一人:アゴンが、顔を歪めて地面に膝を着く。

 彼が“魂乃炎アトリビュート”で生み出した「雲の糸」を千切り、その巨体の背中に浮かぶ大きな翼も喰い千切った結果だ。

 身体から直接生えている訳ではない天使の翼の都合上、彼が悲鳴を上げることは無いが、驚きの声は上げざるを得ないらしい。


「馬鹿なッ、あり得ん!! この俺が後手を取るなど……ッ!! 貴様、一体何をした!?」


「何って、見ての通りだよ。あ、それとも見えてなかったの?」


「~~ッ!!」


 ギリリと歯を食いしばり、立ち上がった巨漢のアゴンがボク目掛けて椀を振るう。

 流石は天国の管理者といったところで、普段から鍛錬しているのか、翼を失っても“普通に速い一撃”だ。


 でも、逆に言えばそれだけ。

 

 こちらの攻撃は黒ヘビ2体分のパワーと、そこに掛け算される「2号」が巻き付いたことで生まれるバネの張力。

 そこから生み出される力は、今まで以上のスピードをクロにもたらしてくれる。


「せいッ!!」


 ブンッと振るわれた巨椀の一撃を、脚で生み出した爆炎で回避。

 そこから着地するまでの間に、お返しを入れる。



「“黒蛇クロノ――壱絡≪イガラ≫:鞭≪ウィップ≫”」



 鞭≪バチンッ≫!!


 アゴンの顎を揺さぶり、脳震盪を起こさせる。

 どんな相手でもコレが決まればまともに立ってはいられない筈――だと思っていたけど違った。


「うがぁッ!!」


 雄叫びと共に。

 自分の両頬をバチンッと叩き、アゴンがよろけた身体を無理やり戻す。


(嘘でしょッ、気合で何とかなるモノなの!?)


 ――いや、そもそも入り方が浅かったのだろう。

 5メートルもの巨漢は首も恐ろしく太く、顎に当てても思ったほど脳が揺れなかったのだ。


 これは少々想定外ながら、しかしボクの優位は変わらない。

 王宮広場外周の警備を任された「幹部クラス」が見せるこの光景に、周囲の警備兵は勿論のことながら、パルフェの処刑を見に集まっていた民衆も騒ぎ始める。


「おいおいマジか、アゴン様が押されているぞ?」

「嘘だろ? 『中位八隊』が押されるって……あのチビ一体何者なんだ?」


 ざわざわと、長引く程に嫌でも注目を集めてしまうこの状況。

 普段のボクならさっさとお暇するところだけど、今回は“注目を集めるのが目的”なので問題は無い。


(さてと、『中位八隊』がここまで食い下がるとは思わなかったけど……“上”はどう判断するかな?)


 パルフェの処刑まで、まだしばらく時間がある。

 天国側からすれば、絶対に失敗出来ないこの一大イベントを筒がなく終える為にも、不安要素は先に潰しておきたいところ。

 『中位八隊』レベルの「負け」を市民に見せたくはないだろうし、この騒ぎを治める為にも「格上」が出てくるのは時間の問題。


(さぁ、誰が出てくる? 『中位八隊』じゃボクを止められないよ)


 それをわからせる為に、勝負を決める爆炎を放つ!!



「“爆炎地獄:最大火力フルバースト”!!!!」



「ッ~~」


 翼を失い、目を見開くことしか出来ないアゴン。

 彼にこの一撃を避けることは不可能だ。

 勝負は完全に決まった筈だったが、しかし結論から述べるとその未来が訪れることはなかった。



「“却下≪イナ≫”」



(ッ――爆炎が消えた!?)


 言葉一つで、最大火力の爆炎は掻き消される。

 そして気づいた時、何故かボクが視界は“上下反転”していた。


「ぐッ!?(何が起きた!?)」


 背中には硬い石畳の地面。

「倒れているのだ」と理解したボクのお腹には、ガタイの良い人間の脚が乗っかっている。

 しかも、その人物は――


(南方大天使!?)


 見間違えようもない。

 南の王都を治める覇者:南方大天使が、つまりはパルフェの父親が目の前に現れた訳で、この出来事に周囲がざわつくのは必至。


「大天使様が何故広場に……?」

「この不届き者を自ら捕えに来られたのか?」

「わざわざ自分で? もうすぐ処刑だってのに?」

「馬鹿野郎。だからこそ、だろ。万に一つもあっちゃいけねーんだ。不穏分子を自ら摘んだのさ」


 ――そうだ。

 彼等の言う通り、今回の処刑に「万に一つ」は決してあってはならない。

 『中位八隊』でも止められないと判断し、すぐさま覇者自ら出て来たといったところだろう。


「パルフェのお父さん……久しぶりだね。パルフェは元気?」


「黙れ黒ヘビ。娘に無駄な希望を抱かせるな」


「無駄かどうかは、やってみないとわからな――うッ!?」


 腹を蹴られた。


≪お兄ちゃんから離れろ!!≫


 すぐさまクロが大天使へ噛み付きにかかるも、その牙は彼の身体に触れることなく“逸れる”。


≪えいッ、このッ、やぁ!!≫


 何度やっても同じだ。

 クロが懲りずに噛み付こうとするも、何故かクロの軌道が右に・左にと逸れてしまう。

 その間、『中位八隊』のアゴンが僅かにふら付きながらも近づいて来た。


「南方大天使様、ここは私が……ッ」


「無理をするな。それより早く医療班に翼を見せて来い。全てを喰われていないなら修復も可能だろう」


「いえ、私は大丈夫です!! まだやれます!! その不届き者に制裁を――」


「アゴン、お前では無理だ」


「ッ~~!!」


 歯を食いしばり。

 『中位八隊』のアゴンは何か喋ろうと口をパクパクと動かすも、結局は南方大天使を前に出てくる言葉が無い。

 今にも人を射殺しそうな恨めし気な目でボクを睨みつつ、王宮の方へと歩いて行った。


 そんな彼と入れ替わりで。

 空から降りて来たのは身長3メートル程の比較的若い天使族の男性。

 穏やかな雰囲気を纏う人の良さそうな優しい顔立ちで、ふわりと音も無く着地したその彼に、南方大天使は顔も見ずに指示を出す。


「丁度いいところに来た。“ユディル”、娘の処刑が終わるまでこいつを牢屋で見張っておけ」


「御意。と答えたいところですが、些か納得し兼ねますね。そんなことせずとも、ここで首を落としてしまえばいいのでは?」


「……横槍が入った。俺の一存では決められん」


「なるほど、そういうことなら仕方ありませんね」


 肩を竦めた後、恭しく頷き。

 それから彼は部下から受け取った足枷でボクの両足を拘束し、左腕は鎖でグルグルに身体へ巻き付ける。

 唯一自由だった右腕のクロも、ユディルが手を近づけると……


≪うッ!?≫


 何故か嫌そうな声を上げ、右肩に引っ込んでしまう。

 その後はクロが出て来ない様に拘束具を右肩に取りつけ、ボクの口も猿ぐつわで塞げば捕獲は完璧。

 一切の手出しが出来なくなったボクに向け、ユディルはニッコリと優しい笑みを浮かべる。


「さて、それじゃあ一緒に牢屋へ行こうか。楽しい楽しい拷問の時間だよ」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 それから2時間後。

 予定されていた通り、パルフェの公開処刑が始まった。

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