2話:『Heaven or Hell World(天国か地獄世界)』
お話し的に“地獄っぽい単語”が色々と出て来てますが、あまり難しく考えずにさらーっと流して下さい。
Q.そもそも「地獄」とは?
A.アルファベットの「H」を頭文字に持つ、『Heaven or Hell World (天国か地獄世界)』で『Hell』側に属する世界。
人智を越えた力:“魂之炎”を有する、十人の覇者:十王が支配する世界だ。
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そんな死後の世界で、ボクは教育係の獄卒に宣言された。
「お前には、今日から“殺し合い”ばしてもらうど」
「……え?」
「安心するど。死んでも明日には復活させてやるど。思う存分ここで殺し合いば続けるど」
「……え?」
「逃げるなど? さっきも言ったが、オイの持つ鍵を奪わん限り、この等活地獄からは絶対に逃げられんど」
「………………」
話を信じたくなさ過ぎて、最早言葉どころかため息の1つも出て来ない。
出来れば質の悪い冗談であることを願いたいところだけれど、この場面で冗談を言う相手でもないか。
獄卒の太い首からぶら下がる「鍵」だけが、ボクが助かる唯一の道らしい。
無罪なのに地獄に落ち、その上で「殺し合い」への強制参加という理不尽過ぎる待遇から逃れる為には、どうにかして獄卒が持つ鍵を奪わなければならない。
(真正面から向かって勝てる相手じゃないのは明白だけど、どこかで隙を見て鍵を盗みさえすれば――)
「一応言っとくが、オイはここの咎人が全員かかってきても一瞬で勝てるぐらいには強かど。眠っとっても隙は無か。下手な真似は辞めとくど」
「………………」
言葉どころか思考の1つも出て来ない。
ボクが逃げる手段は最初から用意されていなかった。
■
(……はぁ、もう死ぬほど嫌になる)
毎日毎日、巨大な穴の中で繰り返される咎人達の殺し合い。
そこに強制参加させられたボクは、ただただ一方的に殺され、獄卒に復活させられ、そしてまた殺されるだけの日々を送っていた。
無論、ボクもただ殺されるのは御免だ。
当然の様に渡されたナイフで反撃に出る。
反撃には出るけれど、武器なんか使ったことの無いボクの攻撃が――元々小さな身体でリーチが短い上に、加えてリーチの短いナイフの刃が、好戦的な咎人達にそうそう当たるわけもない。
ボクの攻撃は笑いながら躱され、そのまま笑う咎人達に反撃を食らって死に続ける日々が続いた。
(理不尽だよ。他の咎人は剣とか斧とか持ってるのに……何でボクだけこんなリーチの短いナイフなの? せめて武器を変えて欲しい)
そんな理不尽を獄卒に訴えても、ボクの訴えが通ることは無かった。
投獄から1カ月。
痛い日々が続いていた。
投獄から1年。
辛い日々が続いていた。
投獄から10年。
苦しい日々が続いていた。
投獄から100年。
終わる気配も無く続いていた。
――100年。
普通の人間にはとてつもなく長い時間だけど、八大地獄の中は時間の流れが外とは違う。
ここでの100年は現世での1日に値する為、つまりボクが地獄に入ってから外の時間では1日しか経っていない。
だというのに、ボクの心は100年分の時を過ごし、完全に疲労困憊。
これが明日も明後日も明々後日も、その後もずっと続くと思うと反吐が出る。
この日々に嫌気がさし、魂が擦り減った咎人達は自然消滅してしまうらしい。
ボクがそうなってしまうのも、多分そんなに遠くない未来の事だろう。
けれど、だからといって。
ボクに出来ることは殺し合いに参加すること、それ以外に何一つ無い。
殺されては生き返り、生き返っては殺される日々をボクは続けた。
地獄の日々をただただ繰り返し続けた。
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代わり映えのしない日常に。
そこに「変化」が訪れたのは、一体いつの事だっただろう?
ある時、殺し合いの最中で“死んだふり”をしていたボクの前に「ヘンテコな生き物」が現れた。
目の前にいるのは、体長10センチほどの真っ黒なゼリー状の物体だ。
それがプルプルと震えながら、カタツムリみたいにゆっくりと動いている。
(何コレ……黒いスライム?)
ボクの中にある知識でコレと一番近しいのは、『F』の世界こと『Fantasy World (幻想世界)』にいる幻獣:スライムだ。
実際に『Fantasy World (幻想世界)』へ行って実物を見たことは無いけれど、スライムは最弱の幻獣として『AtoA』中でも有名。
目の前にいる生命体はそのスライムに近い印象だけれど……でも、黒色のスライムというのは聞いたことが無い。
しかも幻獣は『Fantasy World (幻想世界)』特有の生き物なので、それが地獄にいるというのも理解出来ない。
(もしかして、スライムも死んだら地獄に来るのかな? でもここには人間しか見当たらないし……ん? 段々こっちに近づいて来てる……)
その黒いスライムが、ボクの口にスルリと入り込んだ!!
「ちょっ!?」
流石に慌てた。
ボクは急いで口に入った黒いスライムを吐き出そうとしたけれど、声を上げたのは失敗か。
倒れただけでまだ生きていたことが近くにいた咎人達にバレてしまう。
「おいおい、死んだふりなんてつまらねぇなぁ!! 大人しく死んどけや!!」
斬ッ!!
首を刎ねられ、ボクはいつも通りに死んだ。
そして翌日にはいつも通り獄卒によって生き返され、殺し合いを続ける地獄の日々が再開した。
――そんな“地獄の日常”に。
黒いスライムを食べたこの一件が、どのくらい関係しているのかはわからない。
もしかしたら異様に長く殺し合いをしていたせいで、単にボクの感覚が研ぎ澄まされていただけかもしれない。
何が言いたいかと言えば、とにかくその一件以降ボクが変わり始めていたということ。
より具体的に言えば、“ボクが少しずつ強くなり始めていた”。
■
少しずつ強くなり始めた、というボクの感覚は間違いではなかった。
数えきれないほどの殺し合いを続けたからか。
相手の動きが何となく読めるようになっており、相手の動きが読めれば攻撃を躱すことができ、攻撃を躱せば反撃する余裕も生まれる。
少しずつ、本当に少しずつだったけれど、リーチの短いナイフでも相手を捌けるようになった。
少しずつ、本当に少しずつだったけれど、生き残れる時間も増えていった。
そしてある日、とうとう最後まで生き残った。
猛者ばかりが集う等活地獄の中で、最も小柄なボクが最後まで生き残るという奇跡が起きたのだ。
しかし、それが何日も続けば、もはや奇跡と呼ぶのは相応しくないだろう。
確固たる事実は一つ。
自分でも信じられないことだったけれど、ボクはいつの間にか等活地獄で一番強い咎人になっていた。
「まさかあのチビ野郎が?」
「馬鹿なッ、何か卑怯な手を使ったに違いねぇ!!」
「でも、大穴の中じゃ“魂之炎”は使えない筈だぞ!?」
「それじゃあ実力で生き残ったっていうのか……?」
咎人達は信じられないとばかりに顔を合わせ、それからコクリと頷く。
「「「「あのチビガキをぶっ殺すぞ!!」」」」
ボクの勝利に納得がいかない咎人達。
それ以降、徒党を組んでボクへ襲い掛かるようになった。
流石に二人、三人と同時に相手にするのは辛く、ボクは再び死んでは生き返る日々を繰り返す羽目となる。
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~ 投獄から500年 ~
「このチビガキッ……俺達が束になっても勝てねぇってのか!?」
「くそがッ、俺より後に入って来たくせに!!」
「ふざけやがってテメェ、女みてぇな顔してやがるくせに!!」
「次こそ俺がぶっ殺してギャアアアアァァァァ!?」
襲い掛かって来た咎人の首にナイフを突き刺し、引き抜く。
そうすると自然と流れてくる真っ赤な血と、咎人達の断末魔はこの500年で死ぬほど聞き飽きた。
500年の時を経て、等活地獄でボクに勝てる咎人は一人もいなくなっていた。
長年殺し合いを続けたせいか、今や咎人達の動きは大体読める。
その上、僕自身の動きも相当速い。
まるで背中に翼でも生えたかのような素早さだ。
咎人全員が徒党を組んでボクを倒しに来ても、それでもボクに勝てないレベルに到達している。
(――もしかして、今のボクって獄卒より強いんじゃない?)
一人生き残った等活地獄の大穴にて。
そんな自惚れを抱いてしまうのは致し方の無いことだろう。
死んだ咎人達を復活させに来た獄卒に、ボクは真正面から向かい合った。
その首にぶら下がる鍵を奪う為、ボクは獄卒をギロリと睨む。
「ん? オイとやるんか?」
「……やる」