表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

199/237

185話:討ち入り

「ありがとう!! このお礼はいつか必ず!!」


 天国でペガサス牧場を経営する老夫婦。

 彼等の見送りを待たずに家を飛び出し、ボクは大空に見える“魂虹橋こんこうきょう”を目印に駆け出した。


 おばあさん曰く。

「虹の根元を中心に、東西南北それぞれに王都があるんだよ。それを4人の大天使達がそれぞれ仕切ってるのさ」

 との話だ。


 つまり“魂虹橋こんこうきょう”の根元に向かって走れば、必然的に王都へ辿り着く。

 目印としては申し分ない存在で、迷う心配が無いのもありがたいけど、その大きさ故に距離感が掴み辛いのは困りどころ。

 老夫婦の話では、天使の平均的な飛行速度で2時程の距離だと言うが、それがボクの走りでどれくらいの時間かはわからない。


 それでも、ボクに出来ることは脚を回し続けることだけ。

 もし他にもあるとすれば、それは右肩から出て来た相棒の会話に付き合うことくらいか。


≪ちょっとお兄ちゃん、あんまり無理しちゃ駄目だよ? 多分、これから物凄い無茶をしようとしてるよね?≫


「うん、でもやらなきゃ。とにかくパルフェに逢って話を聞かないと納得できない。クロだって、このままパルフェとお別れは嫌でしょ?」


≪う~ん、もしもこのまま“蜂蜜お姉ちゃん”が居なくなったら、二度とあの蜂蜜を舐められなくなるんでしょ? それは確かに嫌かも≫


「別に蜂蜜の為じゃないけど……(そして蜂蜜お姉ちゃんって)」


 パルフェとは別ベクトルのネーミングセンスだけど、まぁわかり易いと言えばわかり易いので問題無い。

 それに彼女の蜂蜜は確かに美味しいので、アレを味わえなくなるのはボクとしても嫌だ。


≪だけどお兄ちゃん、蜂蜜お姉ちゃんが“どの王都”にいるかわかるの? さっきの話だと王都が4つもあるんでしょ?≫


「それは大丈夫。“南方大天使”の娘が話題になってるって、牧場のおばあさんが言ってたから」


≪なるほど、それなら南の王都に行けばいいんだね。それで、南ってどっち?≫


「……え?」


≪だから、虹の根元のどっちが南側なの?≫


「………………。……とにかく急ごう!!」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ~ 2時間後 ~


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 アップダウンの激しい道をノンストップで走り続けた結果、“魂虹橋こんこうきょう”の根元に広がる王都の近くまでやって来た。

 空障害物を無視出来る天使族の飛行速度と同程度と思えば、まぁ悪くない時間だろう。

 これ以上無い程にボクの息も上がっているけれど、パルフェに逢うまでは弱音を吐いていられない。


 それに王都へ辿り着いた訳ではなく、あくまでも王都の近くに来ただけ。

 加えて、王都へ入るには“乗り越えるべき困難”が待ち構えており、アレをどうにかしない限りは中の様子を窺うことさえ出来ない。


(参ったね、“凄く高い壁”が虹の根元を囲んでる。下には『南王都第一関所』って書かれた門が見えるけど、ボクを入れてくれる訳もないし……)


 計らずして南の王都に接近できたのはラッキーだったものの、肝心の関所には複数名の警備兵が確認出来る。

 彼等を倒して門が開くなら正面突破も辞さないけれど、そんなことをすればすぐに応援を呼ばれ、あっという間に取り囲まれるのがオチだろう。

 元々「一般人」は立ち入り禁止の世界だけど、渡航後も決して甘い警備体制ではないらしい。


(となると、やっぱり壁を乗り越えていくしかないか。高さは50メートルくらいか? 上の方は“雲の回廊”になってるみたいだ)


 空が飛べる天使族であれば気軽に超えられそうだけど、生憎とボクに翼は無い。

 クロを上手く使えば壁を上ることも可能だろうけど、警備側からの視点で見れば当然それも考慮している筈。

 雲の回廊を巡回している警備兵でもいるのか、もしくはそれ以外の措置が取られているのか……。


「――いや、考えたところで意味は無い。他に手段が無い以上、行くか行かないかの二択しかないんだ」


 答えがわからない問題は、出たとこ勝負でやる他ない。

 パルフェに逢うと決めた以上、リスクを負わなければ何一つ行動に移すことは出来ない。


 “黒蛇クロノ跳躍ダット”!!


 地面にクロを叩きつけ、大きく跳躍。 

 続けて、


 “黒蛇クロノ自爆逆流炎バックドラフト”!!


 という感じで、ここで爆炎を出せれば御の字だけど、出て来たのは「プスッ」という少量の煙だけ。


≪無理だよお兄ちゃん。地獄の熱が切れてるんだから≫


「だよねぇ」


 無いものねだりをしても仕方がなく、ボクに出来ることは思いっきりクロを伸ばすことだ。

 それでも何とか壁に噛み付き、縮める勢いで一気に上昇したとことで――“雲の回廊から糸が伸びて来る”!!


「何だコレ!? 雲の警備システム!?」


 逃げ場の無い空中。

 尚且つ、地獄の熱が切れていては打つ手も無い。

 無数の「雲の糸」が次々と伸びて来て、結局ボクは糸に絡まり空中で捕縛されてしまう。


(くそッ、ナイフじゃ斬れないか!!)


 切断を試みるも、しなる割に硬い特殊な性質によって断ち切ることが叶わない。

 だったら――と次の手段を試そうとしたところで、雲の回廊から“槍を手にした天使族”が姿を現した。


「愚かな侵入者よ、この“秩序の壁”に何の用だ? まさか乗り越えようとしたのではあるまいな?」


「あらら、随分と早いお着きで……。別に壁に用は無いんだけど、なんか雲の糸に捕まったんだよね。これ何?」


「見ての通りだ、詳細を貴様に話す義理は無い。それより、その右腕は何だ?」


「見ての通りだよ。貴方に詳細を話す義理は無いけどね」


「……ふんッ、減らず口を」


 浮遊したまま呆れた顔でため息を吐く彼は、ボクの感だけどただの警備兵ではない。

 恐らくそれなりの地位にいる管理者だろうと、そんな想定を抱いたところで彼の胸にある「下」と「十六」という文字に気づく。


 そして、ボクが気づいたことに彼も気づいたのだろう。

 隠すことでもないと、今度は自ら教えてくれた。


「貴様が察する通り、私は“下位十六隊”の一人だ。自分で言うのもおこがましいが、天国の秩序を守る天使部隊の幹部に当たり、この“秩序の壁”の警備を任されている。下手な抵抗は諦めて、素直に捕まることを勧めるが?」


「素直に捕まるくらいだったら、そもそも侵入を試みないと思わない?」


「相変わらず口が減らない奴だな。しかし、”この数”を前に同じことが言えるのか?」


 徐に槍を突き上げる男性。

 すると、彼の背後に50人は下らない数の警備兵が現れた。

 どうやら雲の回廊に待機していたらしく、このまま全員に囲まれたら「投了」も時間の問題だろう。


 となると、残された手段は一つしかない。


「クロ!!」


≪任せて!!≫


 阿吽の呼吸で雲の糸を食い千切り、脱出。

 これには下位十六隊の男性も目を見張った。


「その右腕、まさかバグかッ!?」


 驚くや否や。

 彼はすぐさま槍を構え、自由の身となったボクに迫り来る!!

 当然、成す術無くやられる訳にはいかない。



「“黒蛇クロノアギト”!!」



 クロを伸ばして攻撃するも、彼は翼を自在に操り綺麗に回避。

 しかし、そのおかげでクロが壁の上まで伸びて、雲の回廊へ着地することに成功した。


(避けられたけど、足場を得たのは大きい。ここなら戦える……ッ)


 翼を持つ天使族相手に空中戦をやっても勝ち目は無い。

 足場のある回廊の上なら相手の「地の利」も消えて、ボクもまともに戦えるだろうと、そう思っていたのは先程までの話。

 ボクが降り立った途端、回廊のアチコチから雲の糸が迫り来る!!


「ちょッ、これは……!!」


「足場があれば、私に勝てると思ったか!? 天国はそんなに甘くない!!」


「くッ!?」


 伸びて来た雲の糸をクロで喰い千切るも、立て続けに先の管理者が槍で襲い掛かって来る。

 ギリギリのところでナイフで捌き、クロで反撃に出ようとするも、その隙を与えないスピードで雲の糸が迫る!!

 息つく暇が無い。

 

≪お兄ちゃんッ、ここは無理だよ!! 糸の対処で精一杯!!≫


「それはボクも同感ッ、雲の糸を払いながら彼と戦うのは厳し過ぎる!!)


 こうなって来ると、ボクが行くべき先は一つ。

 さっさと王都内に入ろうと、回廊から壁の内側に飛び降りたところで、“50名の管理者”が空中で待ち構えているのは変わらない。


「一斉にかかれ!!」



「「「おおおおぉぉぉぉ~~~~ッ!!!!」」」



 名も知らぬ下位十六隊の号令を受け。

 50名の管理者が雄叫びを上げながら、次々にボクへ迫り来る!!


 正直、一人一人の動きは下位十六隊と比べてレベルが落ちる。

 ナイフで弾いたり、クロで弾いたりと対処は十分可能だけれど、流石に個別の対処では時間がいくらあっても足りない。


(クロ、2秒稼いで)


≪りょーかい≫


 左腕に意識を集中する、その間。

 襲い掛かる管理者を勝手に動いたクロが弾き返し、そうやって稼いだ2秒で、あらん限りの斬撃を放つ!!



「“鎌鼬かまいたち:五月雨”」



「「「ぎゃああああぁぁぁぁ~~~~ッ!?」」」


 無数の斬撃が天使部隊を襲い、防御が間に合わなかった天使の翼を斬りつけた。

 結果、翼の制御が出来なくなったのか、半数近い管理者が一直線に、もしくはフラフラと地面に落ちてゆく。


 翼は彼等の生命線で、アレを傷付けられれば当分まともに飛ぶことは出来ないだろう。

 それでも、多勢の恩恵を受けて残った天使部隊を――



「“黒蛇クロノ乱打鞭バズウィップ”」



 ――全て叩き落とす!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■続きに期待と思って頂けたら、ブクマ・ポイント評価お願いします!!!!
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ