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170話:国盗り百景刀

 ボクの耳は確かに拾った。

 ドゥークの告げた『世界管理術』という言葉を。

 そして目を見開いたボクの反応に、ドゥークは「ほう?」と少々意外そうな表情を見せる。


「『AtoA』に27番目の“新世界”を追加する代物――それが『世界管理術』だ。裏社会の大物がこぞって狙うお宝だが……どうやらその反応だと知ってるみてぇだな」


「まぁ、ボクもそれを狙ってるからね」


「テメェが『世界管理術』を? クククククッ、こいつは笑わせてくれる」


「笑わせてるつもりはないけど――ね!!」


 懐に潜り込み、一撃!!

 喉元を狙ったナイフは、しかし僅かに届かず空を斬る。


「“脚大刀ベルティオ”」


「ッ!!」


 二度目は喰らわない。

 ドゥークの足蹴り、そこから生まれた斬撃を跳んで避け、クロにナイフを咥えさせる。


 着地してからの攻撃、では遅い。

 クロが塞いでくれた傷口からブシュッと血が噴き出しても、今は無視。

 着地する前に身体を捻り、放つ。



「“黒蛇クロノ大鎌鼬デスサイズ”!!」



 特大の斬撃!!

 これまでよりも強力な一撃を放ち、迎撃する暇も無かったドゥークに迫った斬撃が――“弾かれる”。


「えッ!?」


 弾かれた斬撃がいくつものパイプを切断。

 用途もわからない液体が漏れたり、黒い電気がバチバチと激しい音を立てているが、それよりもドゥークだ。

 彼の全身を“銀色の液体”が覆っていた。


「それはッ、“銀鱗ベール”……使えたんだ?」


「生憎とな。まだ不慣れで出来れば使いたくなかったが、いい加減に実力の差ってもんをわからせてやらねぇとな。現実が見えねぇチビに、あり得ない夢を見せ続けるのも飽きたのさ。――まだ、俺に歯向かうか?」


「当然。っていうか、それはこっちの台詞だよ。もう皆に悪事がバレちゃってるんだから諦めれば? 大人しく捕まった方が罪は軽くなると思うけど」


 まぁ彼の罪が軽くなったところで、「死刑」が「終身刑」になる程度のモノだろう。

 どのみち地獄行きは免れないし、だったら逆に逃げれるところまで逃げてやるという考えなのかと思ったけれど、そうではないらしい。

 “銀鱗ベール”を収めて元の状態に戻った彼は、「クククッ」と含み笑いを浮かべる。


「俺が捕まる? いや、そうはならねぇ」


 斬!!

 近くの壁を切断したドゥーク。

 破壊された壁の奥には黒い金庫が隠されていて、その金庫を開けたドゥークが中にあったボタンを押す。


 途端。

 床の一部が開き、下から“黒い球体の浮いた台座”がせり上がって来る。


(アレは……?)


 正体不明な謎の球体。

 そこにドゥークが両手を添えると、奴の身体から赤いモヤモヤとした煙の様な、霧みたいなモノが出てくる。

 その赤いモヤモヤが先程せり上がって来た謎の黒い球体に吸い込まれ、バチバチと電撃みたいな音が部屋に響き渡った。


「ドゥーク、お前、一体何を……ッ!?」



 ■


 ~ 同時刻 ~


 シュベルタワーの1F:商業フロアにて。

 

 2B爆弾の爆発により、機械部品ギアパーツの脚に故障をきたした人々はまだそこにいた。

 小柄な少年と管理者の少女が助けに来たかと思いきや、彼等は自分達を置いたまま建物の中へと入き、完全に置いてけぼりの状態。

 外では不気味な紫色の灰――死の灰が降り続けており、錆びた建物が崩落する音が街中から度々聞こえてくる。


 賞金稼ぎ:雑魚狩りのジョーも、変わらずその場に座り込んでいた。


「マズな。いくら頑丈なシュベルタワーでも、このままだといつまで持つことか……」


「おい、何だアレ?」


 その場にいた別の一人が捉えた。

 夕闇が降りた暗い街に見えた、“地上から空に伸びる一筋の赤い光”を。


 ――いや、一筋の光ではない。

 その光は次々と地上から空へと伸び、数えるのも億劫になる程の赤い光の群れとなる。


「……何だありゃあ? 真っ赤な光が街を囲ってやがるぜ」


「出ているのはドーム壁の下あたりか? 救難信号にしちゃあ随分と大がかりだが……」


 誰も答えを知る由もない。

 だからこそ、その赤い光が発し始めた「金属の切断音」に、彼等は不安を覚える他なかった。 



 ■



 ~ ドラノア視点:同時刻 ~


 シュベルタワーの地下:ドゥークの研究室にて。


 謎の黒い球体に、自身の身体から出て来た“赤いモヤモヤ”を吸い込まれているドゥーク。

 それと呼応するように地下室が小刻みに振動し、何処からともなく「ギギギギッ」と金属の切断音が聞こえてくる。

 振動は僅かなもので、その場に立てなくなる程ではないけれど、これは――。


「ドゥーク、一体何をした……ッ!?」


「クククッ、わからねぇか? わかる訳ねぇよな。この赤い霧は“魂気オーラ”と言ってな、俺の切断能力を極限まで小さくした代物だ。さぁて、ここからどうなると思う?」


 人を見下し、鼻で笑い。

 球体から手を離したドゥークは近くのアトコンを操作し、モニターの1つに“街の様子”を映し出す。


 時間的に暗い画面の中。

 2B爆弾の爆発でほとんどの灯りを失くした街中に、地上からライトを照射したみたいに、空に向かって真っ直ぐ伸びた赤い光が映し出されている。

 それも1本だけの光ではない。

 街を囲む壁のように、100本の真っ赤な光が空に向かって伸びていた。


「コレは……あの赤い光は、まさかお前の……?」


「『国盗り百景刀(エキシリオ・ガマ)』――長年蓄積させた俺の“魂気オーラ”を束ね、100本の巨大な斬撃に生まれ変わらせた代物だ。馬鹿にもわかるように教えてやろうか? つまり、今から俺は――“リンデンブルグの街を『Robot World (機械世界)』から切断する”」


「……は?」


 今、何と言った?

 この街を切断? 『Robot World (機械世界)』から?

 嘘みたいな話を告げたドゥークは再び黒い球体に両手を添え、“魂気オーラ”の放出を始める。


「聞き捨てならないね……どういうこと?」


「合理的な話さ。情報が外に洩れようが洩れまいが、この街と連絡が途切れた時点で『全世界管理局』は動く。遅かれ早かれな。それ以外にも相手したくない奴等はいるし、流石にそいつ等全員がこの街に来たら勝ち目はねぇ。だから“街ごと切断してアクセス出来ない様にする”のさ」


「まさか、そんな事が出来る訳……」


 ない、とは言い切れない。

 思い返してみれば、今だって渡航が出来ない状態だ。

 エンジュは『AtoA』ネットが使えず、情報を本部に送ることが出来ないとも言っていた。

 原因不明のトラブルだと思っていたが、もし原因が“人的な要因”であるならば……。


「あぁそうさ。俺の“魂気オーラ”と機械の力で、“世界の残糸”を上手く操れば可能なんだよ。『AtoA』ネットの遮断も渡航不能なこの状況も、街を切断するテストの一環に過ぎない。一応言っておくが、モニターの映像は録画じゃねぇぞ? 2B爆弾の爆発後、ヴォン・ヴァーノに設置させたカメラの映像だ。これからドーム壁に沿って、地下200メートル・上空1キロの空間を切断する」


「ッ――させない!!」


 “黒蛇喰クロノバイト”!!


「馬鹿か。そんな攻撃が“銀鱗ベール”に効くとでも――ぐッ!?」


 “銀鱗ベール”を無視し、奴の両腕に噛み付くクロ!!

 それをすぐさま切断し、ドゥークは両腕を黒い球体から離し、加えてボクからも距離を取る。

 不服そうな顔で噛まれた両腕をジロリと見下ろし、それからボクをギロリと睨んだ。


「……迂闊だったぜ。そういやぁ聞いたことがあったな、バグの直接攻撃に“銀鱗ベール”は無意味だと。おかげで余裕ぶっこいで無駄な傷を負っちまった。中途半端な知識は一番厄介だ」


 奴が喋る間。

 2つに切断されたクロがもぞもぞと動いて元通りになり、再びボクの右肩に戻って来る。

 やはり、クロはどれだけ切断されても問題ないらしい。


「おかえり」と思いつつ、ドゥークから目線を外すわけにはいかない。

「クロに噛まれた腕、痛いでしょ? もう諦めたら?」


「大きなお世話だ。この程度の怪我、動く分には問題ねぇ。――“手刀断絶シュナイド”」


 再び斬撃でクロが斬られる、その直前。


≪ちょっと離れるね≫


 斬られる前に。

 今度はクロ自ら身体を分離――つまりはボクの右肩から出てゆく。

 結果として斬撃を避けたクロが、ただの1匹の黒ヘビとなったクロが、蜷局を巻き、「シャーッ!!」とドゥークに飛びかかる。


 それを、ドゥークがバラバラに刻む!!



「“五大十字フィグロム刀断絶ナイド”」



 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!!!

 

 クロが十分割にされた!!

 しかし、バラバラに斬られたクロの身体は、すぐさまもぞもぞと動き出す。

 『Closed World (閉じられた世界)』の大きなバグもそうだったけど、原型を留めない程にバラバラだった黒い身体は1つにまとまり、いつも通りの黒ヘビとなって再びボクの右肩に戻って来る。


≪駄目だったー。お兄ちゃん、あの人強いねぇ。ボク吃驚≫


「う、うん。ボクはボクで、相変わらず普通に喋ってるクロに吃驚だけど……」


「チッ、不死身かそのバグ? アレだけ斬って緋核レッドコアに当たらねぇとは」


 不満を隠さないドゥークの呟き、その気持ちもわからなくはない。

 バグを倒すには弱点である緋核レッドコアを破壊する必要があるけど、クロにはそれが見当たらないのだ。

 10分割にして見当たらないのであれば、外に出たクロの中には無いと考えてもいいだろう。


「ねぇ、クロの緋核レッドコアは何処にあるの?」


≪う~ん、ボクにもよくわかんない≫


 ドゥークに聞こえない様ヒソヒソ声で尋ねたら、そんな答えが返って来た。

 相変わらず謎だらけのクロだけど、少なくともクロを切り離しても勝手に死なれることはない、と考えていいのだろうか?


「あぁ面倒くせぇ。テメェと遊ぶのはこの辺で切りあげて、さっさと『国盗り百景刀(エキシリオ・ガマ)』の制御に力を使いてぇんだがなぁ?」


「それをさせない為にボクがここにいるんだよ。これ以上、何一つお前の思い通りにはさせない」


 要するに、あの黒い球体にドゥークを触れさせなければいい。

 なら、一番手っ取り早いのはアレを破壊すること。



「“黒蛇クロノ大鎌鼬デスサイズ”」



 特大サイズの斬撃!!

 油断していたのかドゥークは動かず、阻むモノも無い一撃が黒い球体に直撃し――弾かれる!!


「なッ!?」


「何を驚いてやがる? 易々と壊れるモノをテメェの目の前に出す訳ねぇだろう」


(くッ……コレも『不可侵物質』ってやつか?)


 電気プラットフォームの無人倉庫。

 そこにあった打ち上げ施設でも使われていた“神の素材”とも言われる代物。

 その是非を見定める術は生憎と持ち合わせていないけれど、もしそうだとすればコレを破壊して奴の計画を壊すのは至難の業だろう。


 だけど――


「どのみち、ボクがアンタを倒せば済む話だね」


「ハッ、それはこっちの台詞だ。黒ヘビの緋核レッドコアを潰せなくとも、テメェを叩けば問題ねぇ。実力の差は歴然。それをこれから――教えてやる……ッ!!」


(また消えた!?)


 と思う程の速度は、奴の脚が高性能な機械部品ギアパーツである証拠。

 気付いた時には、ボクの真横から蹴りを繰り出している。


ゴウ:“脚大刀ベルティオ”」


(コレは――)


 今までの比じゃない。

 赤い“魂気オーラ”を纏った特大の斬撃。

 ナイフで反射的に斬撃を弾くも、全ては弾き切れない……ッ!!



 斬ッ!!!!



「痛ッ~~!!」


 左腕、負傷。

 勢いよく鮮血が噴き出し、直後にクロが動く。


≪ボクに任せて!!≫


 本日二度目。

 内側から黒い物質でクロが傷を塞ぐも、その間に次の攻撃が迫る!!



「“拡散切断ヴィルダイト”」



 先の攻撃とは真逆。

 強大な一撃ではなく、ドゥークの身体から無数の細かい斬撃が放たれた。

 それも、360度全方位に――!!


「ぐッ!?」

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