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167話:お兄ちゃん/パパ

 ~ ドラノア視点:鬼の管理者:エンジュが、ヴォン・ヴァーノに勝利する少し前 ~


 “ボクの右腕が切断された”。

 ドゥークの手刀により、クロが二の腕から千切れたのだ。


「クロッ!?」


 まさかの事態に気も動転する。

 よもやクロが斬られるとは思ってもみなかった。

 一瞬の出来事に頭も真っ白になったところで、更にドゥークの脚が迫る!!


「ッ!!」


 直撃寸前で避けた。

 が、脚から放たれた斬撃までは避けられない。


「“脚大刀ベルティオ”」


「痛ッ~~!!」


 下から上へ。

 右わき腹から左胸部に渡って斬撃が走り、ボクの上半身を激しく抉る。

 尋常ではない量の血が噴き出し、足元に赤い湖を作り始めた。


(マズいマズいマズいッ……予想以上に強い!!)


 ただの機械技師じゃないし、ただのお偉いさんでもない。

 “ちゃんと鍛えている人”だ。

 見通しが甘かったと言わざるを得ない。


 開始早々にクロの右腕を失い、致命的な深手を負った。

 ――いや、開始早々だと思っているのはボクだけか。


「呆気ねぇ終わりだな。もう少し楽しめるかと思ったが、随分と俺を侮ってくれてたみてぇで……あ? 何故“傷口が塞がっている”?」


「え……?」


 ドゥークが眉を潜め、続けてボクも眉を潜める。

 言われて気づいたけれど、先ほどボクの身体に付けられた大傷が、真っ黒な物体によって塞がれ出血を防いでいる。

 痛みはあるものの、出血死する可能性は一気に狭まった。


(コレは……?)



≪お兄ちゃん、まだ終わってないよ≫



(ッ!?)


 突然、声が聞こえた。

 ボクを「お兄ちゃん」と呼ぶ不思議な声。

 それは他の誰でもない、人ですらない“クロの声”だ。


 そして――


「ぐッ!?」


 ドゥークの腹に“クロが噛み付く”!!

 身体を斬られ、首だけとなっても動いたのだ。


 直後。

 斬ッ!!!!


 奴の腹から斬撃が生まれ、噛み付いたクロが切断される。

 頭を左右真っ二つにされたが、しかし、それでもクロは負けじと喰らい付いている。


「クソッ、まだ動くのか!? この死にぞこないが!!」


 痛みに歯を食いしばり。

 ドゥークがクロの顎を両手で掴み、力づくでクロを引きはがして投げ捨てる。


 放物線を描くことなく宙を飛んだクロは、脳の水槽を覆った鉄の装甲に激突し、床に落下。

 胴体の半分を失い、頭も半分に切断された姿ながら、しかしそこで動きを止めることなく、蛇らしい蛇行運動でスルスルとボクの足元へ移動。

 その間、真っ二つにされた頭は弱い磁石みたいに自然とくっつき、そこからボクの足・胴体・首を経由して“切断された右腕と何事もなく繋がった”。


 つまりは元通りの姿になった。


「クロ、平気なの?」


≪うん。ボクも吃驚したけど、特に問題は無いみたい。お兄ちゃんは?≫


「まぁボクも何とか……っていやいや、何でいきなり喋ってるの? しかもお兄ちゃんってどういうこと……?」


≪ん? あ、本当だ。お兄ちゃんって言ってるね。何でだろう? ねぇ何で?≫


「それをボクに聞かれても――」



「誰と喋ってんだチビッ、気味悪ぃんだよ!!」



(ッ!?)


 左右に2発の斬撃!!

 片方は避け、もう片方はナイフで弾く。


(うッ、傷が痛む――けど、止まってられない!!)


 一瞬が命取り。

 クロの話も興味深いけど、命が無ければ話も出来ないだろう。

 ナイフで斬撃を弾いた時点で、ボクの真横にドゥークが位置取っていた。


「受けきれるものなら受けてみろ」


 交差させたその腕を、彼は同時に振り下ろす。

 掌を開き、指を真っ直ぐに伸ばし、左右5本ずつ――計10本の斬撃を同時に繰り出す!!



「“五大十字フィグロム刀断絶ナイド”」



 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!

 10本の斬撃が床を斬り裂き、ボクに襲い掛かってくる!!


 瞬時にクロを床に叩きつけ、“黒蛇クロノ跳躍ダット”で一旦宙に回避。

 ボクの真下を斬撃の嵐が過ぎ去り、着地を待つことなくクロを放つ!!


「“黒蛇クロノ蜷局拳バネッサ”」


「だから効かねぇよ!!」


 斬ッ!!

 速攻でクロが切断されるも、ここで攻撃の手は緩めない。


「“鎌鼬かまいたち:五月雨”」


 続けて、


「“鋸鎌鼬のこぎりかまいたち:群れ”」


 連続で放った無数の斬撃。

 どれか一つでも当たれば御の字だと、そう思っての連撃は――



「小賢しいッ!!」



 “全て”弾かれる……ッ!!


(身体中から斬撃をッ!?)


 手足だけではない。

 奴の全身から斬撃が生まれ、ボクが放った全ての斬撃を弾いた。

 360度、全方位に死角は無いらしい。


(でも、まだ終わりじゃないッ)


 斬られたクロがくっつき、顎が外れる程に大口を開け、再びドゥークに迫る!!



「“黒蛇クロノ大顎オオアギト”!!」



「ぐッ!?」


 喰いついた!!

 先程全身から斬撃を放ち、奴の動きに僅かな隙が生まれたおかげだ。

 しかし、牙が深く食い込む前にドゥークは腕を振り下ろす。


 “手刀断絶シュナイド


 またもやクロを切断し、その頭を掴んで投げ捨てるドゥーク。

 その場所がたまたま悪かったのか、それとも良かったのか。


 投げられたクロがレバーに当たった。


 すると、先ほど水槽を覆った「鉄の装甲」が土台の中に戻ってゆく。 

 加えて、ボクの身体に戻ろうとするクロの通り道には、“とても重要なスイッチ”があったようで……。


「おいッ、それを押すんじゃない!!」


≪あ、もう押しちゃった≫


 ドゥークが慌てても遅い。

 二股の真っ赤な舌をチロチロ出し入れしつつ、こちらに戻って来るクロが途中で何かのスイッチを押した。

 途端、急に水槽がライトアップされ、再び照らし出された“脳の声”がスピーカーから聞こえてくる。


 その第一声は――



『パパッ、もう辞めて!!』



 ■



 ~ 7年前 ~


 “ドゥーク・A・ジョンドルファー”。

 言わずと知れた『ブーリアン・カンパニー』のCEO:ドゥークのフルネームだ。

 その間の“世界名”が記す通り、『After World (はじまりの世界)』出身であるドゥークの幼少を知る者は、彼のことを「機械に魅せられた人間」だと語る。


 同年代の子がボール遊びに興じる中、彼は時計を分解して組み立てたり、通信機を自作したりと、明らかに他とは一線を画す子供だった。

 その変わった子供は変わったまま成長し、やがて大人になった彼は目指すまでもなく機械技師を志し、『Robot World (機械世界)』へ渡航する。


 そこで出逢った女性の機械技師:ミネタと出逢い、結婚。

 数年後には子供も生まれ、機械技師としても徐々に名を上げる順風満帆な生活を送るが――幸せな時間はそう長く続かない。


 娘が小さな段差につまずいて転んだ。

 それが始まりだった。


「リナ、大丈夫かい?」


「うん、大丈夫だよパパ。でも、足がちょっと変な感じなの」


「変な感じ……?」



 ~ 数日後 ~


 念の為に娘を連れて行った病院で、彼は医者から聞いた言葉をそのまま繰り返す。


「樹石、硬化症?」


「はい。皮膚が石の様に硬くなってゆく難病で、硬化した皮膚の断面が年輪の様に見えることからそう呼ばれています。原因不明の病で、今の医療技術ではどうすることも……」


「そんなッ……いつまで!? 娘の命はいつまで持ちますッ!?」


「明確なことは言えませんが、過去の例から推察するに、身体の末端から症状が進行する場合は……呼吸が難しくなるまで恐らく3年。早ければ2年くらいの可能性もあります。ただし、これは大人の場合です。ヘカテリーナさんはまだ幼い。子供の症例は数える程しかありませんが、そのどれもが大人よりも症状の進行が早い結果が出ています。最悪、1年ほどそうなる可能性も……」


「1年? では、すぐに足の機械化を。私は機械技師です。私が娘の脚を新しく――」



「無駄です」



「ッ――」


 無慈悲な医者の一言に、ドゥークは唇を噛み締める。

 その隣では妻のミネタが椅子から立ち上がり、何か言おうと口を開くも、結局はパクパクと動いただけで何も出て来ない。

 代わりに、「どういうことですか?」とドゥークが口を開くことで会話は先に繋がり、医者も気の毒な顔で話を進める。


「樹石硬化症が難病と言われる所以は、硬化の指令が脳から出ている事にあります。例え手足を切断しても、指令が脳から出ている限り、遅かれ早かれ硬化の症状は必ず脳まで到達します。自分で自分を殺すウイルスのようなモノです。脚を機械化すれば正常に歩けるようになるかも知れませんが、それは一時しのぎに過ぎません。むしろ徐々に硬化する筈の身体が無くなる為、その分だけヘカテリーナさんの脳は硬化する時期が早まる可能性もあります」


「ならッ、だったらどうすれば!? どうすれば娘の命を助けることが出来るんですかッ!?」


「……ですから、今の医療技術ではどうすることも……」


「ッ~~!!」


 ここが涙腺の限界点。

 妻ミネタが号泣しながら崩れ落ち、ドゥークに出来ることは血が出る程の力で唇を噛み締め、崩れ落ちた妻をただ支えることだけだった。



 ――――――――



「パパ、ママ、わたし死んじゃうの?」


 病院からの帰宅後、暗い表情の両親を見て娘のヘカテリーナが尋ねた。

 彼女は自分の病気の詳細を知らない。

 まだ知らせていないのだ。


 だからこそ、ドゥークは優しく微笑みかける。


「大丈夫、リナは死なないよ。お医者さんはすぐに良くなるって言ってたから」


「ほんとう? でもママ、すごく悲しそう……」


「ママは……最近仕事が忙しくて疲れてるんだよ。今はそっとしてあげようね。パパは少しやる事があるけど、リナは一人で眠れるかい?」


「うん。だってリナ、もう子供じゃないもん」


「はははっ、それは知らなかったな。そうか、リナはもう子供じゃないのか。――だったら安心だ。それじゃあリナ、お休み」


「うん、おやすみパパ」


 愛娘のおでこにキスをして。

 それから夫婦は一晩中話し合い、翌日から“とある研究”を始めた。



*次話もドゥークの過去回です。

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