表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

173/237

161話:街の暗部

「うおッ!? 何だこの鹿は!? 鉄皮ノ獣(マージナル)じゃねぇぞ!?」

植物グリン族の鹿だ!! でも後ろに乗ってるのは管理者じゃねーか!?」


 崩壊した街中を精霊鹿で疾走すると、人々から驚きの声が上がった。

 ここまでの状況を彼等に説明したいところだけど、むしろ状況を説明して欲しいのはボク等かもしれない。


(街の外にウォッチバードが沢山転がっていたし、ある程度の被害は予想はしてたけど……これは酷いね)


 街の状況はかなり悲惨だ。

 中央のタワーは上半分が消滅し、全ての建物から窓ガラスが失われている。

 市街地のアチコチから煙が立ち昇り、倒れた機械人間ヒューマロイドは死んだようにピクリとも動かない。


 ――間もなく夜を迎える街で、街灯や建物の明かりは皆無。

 それでも無事な非:機械人間(ノン・ヒューマロイド)は多数いるのか、複数の明かりが確認出来た広場にボク等は到着。

 直後、叫びにも似た大声が聞こえた。


「ドラの助!!」


「あ、パルフェにテテフ」


 内心でホッとし、跨っていた精霊鹿から降りる。

 すぐさまパルフェが飛びついて来て、勢いで後ろに倒れようとしたところで、今度は後頭部から柔らかい衝撃が走った。


 結果的に倒れずに済んだボクの両肩。

 そこに“細い足”が見えているのは、テテフがボクの首に飛び乗って肩車を強制した為だ。

 続けてペチペチと頭を叩いてくる。


「無事に戻って来たか。褒めてやるぞ」


「それはどうも。二人とも無事で良かったよ。やっぱり渡航出来なかったみたいだね」


「うん。『ポータブル世界扉』だけじゃなくて、何か管理局の『世界扉』も駄目みたい。それよりドラの助、何でポムぽんと一緒にいるの? あと、鬼の管理者に変なことされなかった? 無理やりキスとかされてない?」


「されてないよ。っていうか何の心配?」


「おい、それより土産の肉はどこだ? 早く寄越せ」


 再度ペチぺチと頭を叩いてくるテテフ。

 痛くはないので怒りは全く湧かないけれど、代わりに「呆れ」なら湧いてくる。


「流石にお土産は無いよ。旅行に行った訳じゃないんだから……」


「土産も無しとは、お前は駄目な奴だな。罰として頭を撫でろ」


「それでいいの?」


「耳の間は強めだぞ。ちゃんと力を入れろ。でも痛いのはやだ」


「はいはい」


 それくらいなら安い罰だ。

 パルフェも微笑みながら見守ってるので、グッと顔を下げて来たテテフの頭を撫でる――なんて微笑ましいやり取りを繰り広げている場合ではない。

 精霊鹿に乗っていきなり登場したボク達に、周囲の人々は明らかに警戒の視線を向けている。

 特に、植物グリン族であるポプラに対しての警戒心は高く、「この状況はお前等のせいか?」みたいな視線の人達も多い。


 早々に状況を説明した方がいいだろう。

 という考えはエンジュも同じで、彼女と目配せした後、立場的にも説得力のある彼女が声を上げた。



「皆ッ、早く逃げるんだ!! もうすぐここに“死の灰”が降る!! 鉄は錆びて皮膚も溶けるッ、アレに濡れたら命は無いと思え!!」



「な、何だそりゃ!? どういうことだよ!? ドームはもう無いんだぞ!?」

「ただでさえ爆発で参ってるってのに……ッ!! それに、そこの娘は植物グリン族だろ!?」

「俺は見たぞ!! お前等の里親がドゥークさんを連れて、シュベルタワーのてっぺんで自爆したんだ!! そいつを捕らえて八つ裂きに――」



 火炎!!



 空に放たれたエンジュの炎で、騒ぎ始めていた連中が一瞬にして黙る。


「吠えるだけの雑魚は黙ってろ!! これより私は、生きようとする者だけ助ける!! 今は避難が最優先だッ、邪魔する者は殺す!!」


「ッ!? テメェ、それでも管理者で――」


 スッと、エンジュが刀を抜いた。

 刀身を向けられた男性が「うっ」と怯み、エンジュは悲しげな顔で口を開く。


「本来ならば、アナタも守るべき対象だ。私にこの刀を振るわせないでくれ」


「す、すまねぇ。気が動転してて……」


「皆そうだ。いがみ合っていても失うモノの方が多い。騒ぐのは命が助かった後。まずは落ち着き、それから避難を」


「わ、わかった」


 一番騒いでいた男性が静かになり、他の者も我に返ったかのように黙り込む。

 ただ、「避難を」と言われたところで彼等が行動に移すのは難しい。


「避難したいのは山々だが、一体どこに逃げればいいんだ?」

「建物の窓は全て割れてるし、鉄の建物が錆びて崩れたらそれこそ死に兼ねない」

「そうだぜ。一体何処に避難すればいいんだ?」


 人々は希望の眼をエンジュに向ける。

 避難場所の無い街で、「避難しろ」と告げに来た彼女が何処を示してくれるのか。

 希望の道標、その場所は――。


「とにかく安全な場所だ!! 何処かは知らん!! 私に聞くな!!」


「「「えぇええええ~~~~ッ!?」」」


 まさかの逆ギレ。

 知らないモノは知らないので仕方ないとはいえ、期待外れも過ぎる彼女の回答に人々が絶望する――そのタイミング。

 一人の男が慌てた様子で走って来た。


「何してんだお前等ッ!! 死の灰が降る前に『地下のジャンク街』へ避難しろ!!」


「な、何だお前!? 地下のジャンク街? 何を言ってる!?」


(アレ? この人は……)


 街の人々は知らないみたいだけど、ボクはその顔に見覚えがあった。

 昨日会ったばかりなのに、もう既に懐かしい。


「俺はゼノス!! ジャンク街の機械技師だ!! 死の灰を喰らいたくなきゃ、さっさと地下に避難を!!」



 ――――――――



 ~ 工場地帯の一画:その地下 ~


「これがジャンク街……街の下に何故こんな場所が?」

「信じられねぇ。今までこの街の存在を知らなかったなんて……」


 リンデンブルグの地下に建造されたジャンク街を眼下に捕らえ、人々は困惑を隠せなかった。


 ――ここはジャンク街の外壁、その上部に設置された出入り用通路の上。

 無数にある工場倉庫の1つが、丸ごとジャンク街への出入り口になっていたらしい。

 先日ボクが侵入したマンホールでは大人数の移動が不可能なので、広い出入口があったことは不幸中の幸いと言える。


 そして、ここまで皆を案内したゼノスは語った。


「“これ”がリンデンブルグの裏の顔さ。このジャンク街には世界各地から身寄りのない連中が集められ、様々な実験の非検体にされる。大半は死ぬし、生き残った奴もここで強制労働をさせられるのさ」


「そんなッ、一体誰がそんな酷い事を!?」


「ドゥークだ。奴はゴーマンという男を使ってこのジャンク街を支配していた」


「まさか、彼は次期覇者だぞ? ドゥークさんがそんなヤバい実験に手を出す訳が無い」


 あり得ない話だと、ゼノスの話を聞いた人々は互いに口を揃える。

 むしろドゥークを貶めようとしている彼こそが本当の悪者ではないのかと、そんな顔でゼノスを見返す者も少なくない。


 ――ピエトロの時と同じだ。

 街の支配者の不正を誰も疑っていないが、しかしゼノスの一言が彼等の顔を一瞬で曇らせる。


「奴が『ビッグファイブ:破顔のヴィント』の手下だとしても、お前達は同じ台詞が言えるのか?」


「なッ!? ドゥークさんがビッグファイブの手下!? そんな馬鹿な話を誰が信じるってんだよ!!」


「別に信じろとは言わねぇよ。ただ、“誰かが何かをしてこうなっている”のは事実だ。お前等は真っ先に植物グリン族をやり玉に挙げるだろうが、彼等に天候を操る力があると思うのか?」


「それは……」


「まぁ今その判断はどうでもいい。とにかく今は避難を優先しろ。後ろがつかえてるぞ」


「………………」


 動揺は隠せないものの、避難が優先というのは皆の同一見解。

 ゼノスの話に納得した様子は見えないが、それでも人々は悶々とした心を抱えつつ避難経路を先へと進む。

 それに乗っかる形で脚を進め、ボクは彼の隣に位置付けた。


「ゼノス、どうしてさっきは地上に? 外に出たら爆発するんじゃなかったの?」


「あー、まぁ不幸中の幸いってやつだな。2B爆弾のおかげさ。アレの爆発で地上にあった機械類は全滅し、地上に近かった爆弾の検知ゲートも作動しなくなった。おかげで外に出れたって訳よ」


「……2B爆弾って?」


「簡単に言うと、機械をぶっ壊す爆弾だ。俺が鳩手紙ポッポレターを使って、植物グリン族の里親に作り方を教えてやった」


「なるほど、あの爆発音はそれか……って、ゼノスが教えたの?」


「あぁ。実力的に、里親くらいしかドゥークを拘束できる奴がいなかったからな。他に頼れる相手も――」



「ゼノスさん、と言いましたか。その後にドゥークを見た者は?」



 ここで声を発したのは植物グリン族の少女ポプラ。

 奴の生死を確かめる為に来た彼女としては、その確証を得るまでは気が気ではないだろう。


「お? こいつは珍しい。精霊鹿と植物グリン族の嬢ちゃんが何故ここに?」


「ドゥークの死を確かる為に。そして“父の死”が無駄ではなかったと、里の者に報告する為です」


「………………」

 ゼノスが息を飲み、それからポリポリと頭をかいた。

「そいつは悪いことしたな。恨まないでくれとは言わねぇが――」


「恨みません。私の父は立派な最後を遂げました。それは他の誰でもない、父自身が決めたこと。他の者が口出しする話ではありません。――それよりドゥークは?」


 切り替えが早い、訳ではない。

 ポプラだって悲しいモノは悲しいし、憎いモノは憎い筈だ。

 でも、それを今ここで口に出したところで、何も良いことは無いと彼女は知っている。

 冷静な判断で感情を押し殺しているだけ。


 恐らく、それをわかった上で。

 ゼノスは“必要な話”だけを進める。


「奴の目撃情報は今のところ無いが、間近で2B爆弾の爆発に巻き込まれたらまず生きてねぇだろう。死の灰が止んだら戦士達を連れて里に帰りな」


「戦士達がここにいるのですか?」


「あぁ、俺の家で知り合いが手当てしてる。外だと機械人間ヒューマロイドに見つかって何されるかわからねぇからな。まぁ地上にいた機械人間ヒューマロイドは全滅っぽいし、それが無くてもドゥークにやられたようで酷い怪我だ。植物グリン族の手当てには詳しくねぇから、同族の意見を貰えるとありがたい」


「……恩に着ます」


 ある意味では父の仇。

 同時に、ドゥークを倒す機会をくれた人間に感謝を述べ、ポプラは精霊鹿に乗ったまま数十メートルの高さから飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■続きに期待と思って頂けたら、ブクマ・ポイント評価お願いします!!!!
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ