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14話:不思議な“魂乃炎《アトリビュート》”

 何とも理解に苦しむ事態となった。

 ボクが斬撃を放つと、その一撃をスライムが「つるんッ」と弾き、そして喋ったのだ。


 

「わーッ、待って待って!! 斬らないで~!!」と。



(スライムが“喋った”? ――いやいや、そんな訳がない。これはきっと幻聴だ)


 脱獄から今まで動きっぱなしで、疲労が溜まっているのが原因か。

 もしくは妖精族から受けた毒が知らぬ内に発症していて、ボクの耳をおかしくしてしまったのかも知れない。


「落ち着けボク、スライムが喋るわけないじゃないか。これは幻聴に違いない」


「幻聴じゃないよ。あとスライムでもないし」


「ッ!?」


 独り言の筈が、スライムに真っ向から否定された。

 しかも隠れる必要性が無くなったのか、ボクの前に“にゅるり”と出てきた桃色のスライムは、何故か自分で「スライムじゃない」と言っている。

 でも、その軟体生物的な姿はどう見てもスライム……とも言い切れないのが問題。


(あれ、スライムってこんな感じだったっけ? 何て言うか、何か違うかも……)


 例えるなら、本物のスライムが“丸いプリン”であれば、こちらは“溶ける寸前のバター”に近い。

 パッと見はスライムに見えなくもないけれど、よくよく見るとスライムとは言い切れない容姿で、管理者が繰り出してきた緑色のスライムと「同種」とは言い難い。

 それに何より「喋った」という事実は、どう足掻いても無視出来る要素ではないだろう。


「その容姿でスライムじゃないなら、キミは一体……?」


「ふっふっふ~、まだわからない? それなら“コレ”でどう?」


 言うな否や。

 正体不明のスライムもどき生命体が、子供にこねくり回される粘土の様に「うにょうにょ」と大きくうねり始める。

 そして僅か数秒で人の形に、それも“見覚えのある少女”に姿を変えたのだから、先の「喋った」以上にボクは驚きを隠せない。


「――パルフェ!?」


「うん、私だよ。驚いたでしょ♪」


 自慢げに「えっへん」と胸を張る少女は、脱獄の際にこの『Fantasy World (幻想世界)』を選んだ張本人。

 その胸には当然の様に炎が灯っており、全身が不自然なくらいにテカテカと艶のある姿をしていた。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



「“当たったモノを滑らせる”……それがパルフェの“魂乃炎アトリビュート”なの?」


「うん。そういう性質の液体を身体にまとえるの。キミの斬撃も防いだし、結構凄い能力でしょ?」


 言って、再び「えっへん」と胸を張るのは、“スライムもどき”から人間になった少女:パルフェ。

 彼女とは一緒に観光街:グラジオラスを訪れたものの、魔人:ホルスの登場でいつの間にか姿を消し、二度と逢うことも無いと思っていた。

 まさかこんな形で再会を果たすことになるとは……。


「ちなみに液体の強度を変えるとね、良い感じに“身体が溶ける”の。私は“ゲル状態”って呼んでるけど、その状態ならどんな隙間からでも逃げられるんだよ」


「あー、スライムっぽいあの姿か。もしかして魔人が降って来た時、人込みの中で急に姿が消えたのはコレのおかげ?」


「うっ……その、あの時は吃驚して、一人で逃げちゃってゴメンね?」


「ん? 別に気にしてないからいいよ」


 逃げれる時に逃げるのは賢明な判断で、むしろボクの手を煩わせなかっただけありがたい。

 それよりも気になるというか、触れない訳にもいかない話題が1つある。


「一応聞くけど、パルフェもあの街に行くつもり?」



 ――――――――



 ~ 30分後 ~


 想定通りの時間で辿り着いたのは、『Fantasy World (幻想世界)』で2つ目の街:シャンテローゼ。

 全体的な雰囲気は1つ目の街:グラジオラスに似ているものの、街の規模としてはこちらが一回り大きく、人も多いので脱獄者のボクが紛れ込むにはピッタリか。


(悪くないね、当分はここを活動の拠点にしよう。やらなきゃいけないことは山積みだし……というかお金がいるし)


 別世界へ渡航するにもお金が必要だし、そのお金を稼ぐ為の日常生活にもお金がかかる。

 脱獄の際に極卒から貰ったお金だけでは足りないし、何かしらお金稼ぎの手段を考えないと、と考え込み始めたところで。


「ねぇねぇ、ご飯食べに行かない? 動き回って疲れちゃったでしょ?」


 後ろに付いて来ていたパルフェが、“前回”と同じような提案をしてきた。

 正直、デジャヴ感が凄い。

 どうせ短い付き合いだとここまで一緒に来たけれど、流石にこれ以上は一緒に居る理由も無いだろう。


「いや、ボクは遠慮するよ。これからどうするか考えたいし、パルフェ一人で行って来て」


「えぇ~、せっかくだから二人で食べようよ。サラマンダーから助けて貰ったお礼もしてないしさ~」


「気にしなくていいって。もうお互い自由行動にしよう」


「えぇ~、でもでも~」


「何? まだ何かあるの?」


「うっ、急に素っ気ないなぁ……」


 素っ気ないも何も、元々ボク等は赤の他人。

 少しくらい同じ時間を共有したからと言って、アレコレ付き合う義理もない。

 いい加減にお別れだと「無言の圧」を送ると、パルフェが居心地悪そうにモジモジと身体を揺らす。


「その……あのね、正直に言っちゃうけど“不安”なの。初めての街で右も左もわからないしさ、誰かと一緒の方が心強いし……駄目?」


「悪いけど、ボクはキミの御守りをする為にここへ来たんじゃない」


「それはわかってるけど、でも助けて貰ったのに何もしないってのは私も心苦しいの。だからさ、せめて食事くらい奢らせてよ。お腹も減ってるでしょ?」


「別に減ってないし――」



 ぎゅるるるる。



 ――最悪のタイミングでお腹が鳴った。

 こちらを見つめるパルフェの優しい視線が痛い。


「お腹、減ってるよね?」


「別に減ってな――」



 ぎゅるるるる。



「………………」


 流石に二度目は誤魔化せない。

 別に恥ずかしくは無いけれど、かと言ってこれ以上「お腹が減っていない」と言い張れる程、ボクの心も強くなかった。



 ■



 ~ ドラノア達が食事をしていたその頃 ~


 『Heaven or Hell World (天国か地獄世界)』の『Hell』側。

 地獄を管理する『全世界管理局:地獄支部』にある“閻魔王の私室”で、とある密談が行われていた。

 最初に口を開いたのは、大きなソファーに小さな身体で座る白髭の老人だ。


「ホッホッホッ、とりあえずドラノアの脱獄は成功じゃな。お前さんの協力に感謝しよう」


「感謝しよう、じゃねぇよ。アンタのおかげで地獄はてんやわんやだ。あんな堂々と脱獄されちゃあ、俺達十王の面子も丸潰れだろうが」


 部屋の主である閻魔王が、目の前に座る老人をギロリと睨む。

 その眼光は今にも老人を射殺しそうな気迫を放っているが、しかし白髭の小さな老人は「ホッホッホッ」とどこ吹く風。

 地獄の時間を止めてドラノアを正面突破で脱獄させた老人は、閻魔王の視線すら意に介さないらしい。


「多少の面子が潰れたところで、地獄の覇者:十王達の支配が揺らぐわけでもあるまい。ほれ、饅頭やるから機嫌を直せ」


「舐めてんのかテメェ?」


「おーおー、何じゃその生意気な態度は? ワシとやる気か? 勝てる算段はあるのか?」


「……チッ、くそが」


 相手は時間を止める老人。

 その実力は閻魔王も知るところであり、地獄の覇者を以てしても一筋縄ではいかない。


(ムカつく話だが、この髭ジジイは“世界最高クラスの賞金首”。今の俺では勝てない相手だ。何を企んでやがるか知らねぇが……それでも、せめて監視くらいはしとかねぇとな)


 それが閻魔王の考え。

 直接勝てはせずとも、相手の動向を探るくらいは出来る。

 その為に部屋を追い出すことはせず、怒りを抑えて本題を切り出す。


「『世界管理術』――新世界を創造する“神の魂乃炎(アトリビュート)”とも言われる代物だ。『全世界管理局:本部』はその存在をひた隠しにしているが、アンタがそれを知り、狙っているのは知っている」


「ふんッ、何を今更。ワシみたいな連中は全員狙っておるに決まっとるじゃろう」


「あぁ、それもそうだな。ただ、俺が気になるのはこの前アンタが『火種』と言った小僧だ。『世界管理術』と脱獄者:ドラノアがどう繋がる? 何故アンタはあの小僧を脱獄させた?」


「それを問われて、ワシが馬鹿正直に答えるとでも思うか?」


「思わねぇよ。だが、俺の考えを言うのは自由だ。もしその考えが当たっていても、それを顔に出すか出さないはアンタの自由だがな」


「……ふん」


 ならば言ってみろと、クイッと顎で示す白髭の老人。

 その対応に反することなく、閻魔王は自信満々に告げる。


「この新世界『AtoA』に存在を許された世界の数は“26”。そして今現在、『AtoA』に存在している世界の数も“26”で既に上限に達している。よって、アンタの狙いは――」


 ここでグイっと、閻魔王は白髭の老人に顔を近づける。


「――あの小僧を使って、既存の世界をぶっ潰すつもりだろ?」



*次話、密談の続きです。

 途中からドラノア視点に戻ります。

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