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135話:差出人不明

 鳩手紙ポッポレターを利用する為、ボクは管理局のリンデンブルグ支部を訪れた。

 そこで聞いたまさかの話は、鳩手紙ポッポレターの主役たるポッポが仕事をストライキ――つまりは放棄しているという話だ。


「えっと、ストライキってどういうこと? ポッポが仕事を辞めたの?」


「いや、仕事を辞めたというか、手紙を渡すと一応飛び立ちはするんだ。飛び立ちはするんだが……しかし飛び立ったはいいものの、何故かすぐにここへ戻ってくるのさ。全部のポッポがそんな感じで参っちまうよ」


「つまりはポッポが機能してないってこと? よくある事なの?」


「いや、ここまで機能しないのは初めてだな。どう対応したものかこれから会議だ」


 言って、対応してくれた職員は「業務停止中」と書かれたプレートを置き、忙しそうに奥へ入っていった。

 他の利用客も唖然とした感じで、ボクにだけ塩対応という訳でもないらしい。


(参ったな。ポッポが仕事しないとボクも仕事出来ないんだけど……)


 不測の事態に頭をポリポリとかきつつ、ボクはおじいちゃんから言われた話を思い出す。



 ~ 半日前 ~


「とある人物の居場所を突き止めるのじゃ。ポッポ対策をしとらんなら、後を追えば居場所がわかる」


 出かける直前のこと。

 『Robot World (機械世界)』へ向かう直前、おじいちゃんがそんな仕事を頼んで来た。

 まぁそれ自体は別に構わないのだけれど、問題は話の中に出てきた「とある単語」。


ポッポ対策? 何それ?」


「そのままの意味じゃ。ポッポに己の居場所がバレぬようにする対策。――そもそも話の前提として、お主はポッポの能力を理解しておるか?」


「うん。届けたい相手の髪の毛とか切った爪とか、何でもいいから本人のモノをポッポに持たせれば、世界を越えて届けてくれるんでしょ? 便利というか凄いよね」


「あぁ。だからこそ、どんな悪人であろうと髪の毛一本でも痕跡を残せば、いずれポッポに居場所が割れてしまう。それを防ぐ為に、ワシ等の様な連中は“ポッポの能力を邪魔する妨害装置”を使う」


「へぇ~、そうなんだ? 全然知らなかった……」


 でも、確かに言われてみれば重要なことか。

 ポッポは世界を渡って手紙を届ける能力を有し、数えきれない人々の中からたった一人を見つけ出す。

 追われる立場の人間からすれば是が非でも対策しなければならない重要課題であり、当然その話はボク自身にも当てはまる。


「今更だけど、もしも管理局がボクの髪の毛とか採取してたらさ、結構簡単に居場所がバレるってこと?」


「いや、それがそうとも限らん。髪の毛にも“鮮度”があるからな。時間が経てば使い物にならないし、元々この隠れ家(アジト)ポッポ対策を施しておる。外に出てもしばらくの間は同様の効果が続く」


 これにはホッと一安心。

 知らないところでボク達を守る手は既に打ってあるらしい。


「ちなみにだけど、妨害装置っては具体的にどんなモノなの?」


ポッポの能力を狂わせる、とだけ言っておこうか」


「それは何も教えて貰ってないのと一緒なんだけど……まぁいいや」


 おじいちゃんの顔が口を開くのも面倒くさそうな感じになってきた。

 これ以上駄々をこねたところで、キレられるのがオチだろう。


「とにかく、ポッポを飛ばして後を追えばいいんだね?」


「うむ。頼んだぞ」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 という感じで頼まれたはいいものの、いざ管理局にやって来てみれば肝心のポッポが仕事をしていない。

 人探しの為にポッポの後を追う作戦が使えなくなってしまった


 仕方なく慌ただしい管理局を出て、ボクは路地の隅で一人思考を回す。


「まさかとは思うけど、ポッポ対策の効果がボクに残ってて、それでこんな事態になってるとか? ……いや、ボクが来る前から鳩手紙ポッポレターの業務は止まっていたし、流石にそれはないか」


 とはいえ、実際問題としてポッポに支障が出ているのは事実。

 おじいちゃんが言っていた“能力を狂わせる”何かを、誰かが近くで使った可能性は十二分にある。


 となれば。

 早急に犯人を見つけ出し、ポッポの機能を正常にさせたいところだけど、流石に今のままでは情報が足りない。


(そもそもポッポ対策がどんなモノかわからないし、本当に犯人がいるかどうかもわからないんだよね。一体どうしたものか……)


 はてさて本当に困った。

 仕事をせず、買い物だけして隠れ家(アジト)に帰ったとなれば、おじいちゃんに怒られる未来しか見えない。

 おじいちゃんの杖は異様に痛いので、アレでツンツン突かれる事態は避けなければならないけれど――


「ん?」


 視界の隅を何かが通った、と思ったら「紙飛行機」だ。

 音も無く静かに飛んで来た紙飛行機が、ボクの身体に当たってトンッと地面に落ちた。

 翼には何か描かれており、拾って広げるとそれが「地図」だとわかる。


 どうやらこの街の地図らしく、一か所だけ〇印が記されている。

 急いで周囲を見回しても、それらしい人物は見当たらない。


「ここに行けってこと? おじいちゃんの仕業、じゃないよね」


 先日、『Closed World (閉じられた世界)』でおじいちゃんが地図を残して一人逃げたのは記憶に新しい。

 今回おじいちゃんは来ていない筈だけど、ボクの知らないうちにコッソリとこの街に来たのだろうか?


 もしくは――

 

(“罠”を疑うのが妥当なところだけど……考えてもわからないや。とりあえず行ってみよう)


 どのみち八方塞がりの状況。

 実際の地図の場所へ行ってみて、危険があったら引き返せばいいだろう。

 驕っているつもりはなく、今のボクならそのくらいの事は出来る筈だ。



 ――――――――



「う~ん、段々と“工場っぽい敷地”に入って来たね。街の中心からは結構離れてるけど……〇印はこの先か」


 15分ほど歩くと通りの景色は一変した。

 賑やかな街の通りは鳴りを潜め、今ボクを取り囲んでいるのは無骨な工場地帯の風景だ。

 進入禁止のプレートがつけられたフェンスの向こうでは、巨大な歯車がアチコチで回り、至る所の配管から蒸気が噴き出し、無数の煙突からは様々な色の煙が立ち昇っている。


(『Robot World (機械世界)』にしては少々古めかしい工場にも思えるけれど、案外こんなものなのかな?)


 機械に詳しい訳ではないので、何がどの役割を果たしているのかはさっぱり。

 工場の中を覗けば最先端の設備がお目にかかれるのだろうか? などと考えている間に「〇印」が付けられた場所に辿り着いた。


「指定された場所には来たけど、誰かいる訳でもないのか。ここに何かあるのか?」


 辿り着いたのは三方向をフェンスで囲まれた一区画で、特に何がある訳でもない行き止まり。

 フェンスの向こうには工場があり、その間には何かしらのタンク、何かしらの設備があるが、それを詳しく知る由もない。

 この地図が罠にしろ、ボクを導く道標にしろ、少々乱雑な案内なのは否めないだろう。


「う~ん、誰か待ち伏せしてる訳でもないし、ここからどうするんだ? 他に何かあるとすれば……壁を伝わるパイプ、屋根に続く梯子、工場内に入る扉、排気ダクト、マンホール……マンホールか?」


 地図に記されていたのは「×印」ではなく「〇印」。

 そういうものかと特に違和感は覚えなかったものの、今となってはこの「〇印」がマンホールを差している様に見える。


 周囲に人はおらず、フェンスを越えるのは容易い。

 後は「行くか・行かない」か、それだけだ。


「……地下に行くのは、『Closed World (閉じられた世界)』で飽き飽きしてるんだけどなぁ」


 自然と愚痴が零れるものの、ここまで来たら引き返すのも「負け」な気がする。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、毒を食らわば皿までだ。


「よっと」


 クロの腕でフェンスを乗り越え、マンホールの蓋を開ける。

 中は真っ黒で何も見えないが、意を決して中へと入り、梯子を伝って降りてゆくと、10メートルほど降りたところで暗い通路に出た。


 ぼんやりと弱弱しいライトが1つ灯っているだけの狭い通路。

 奥行きはほとんどなく、降りてきた梯子の位置から少しずれたところに、更に下へと通じる梯子が伸びている。

 その梯子も更に降り、もう一度通路に出てから更に降り――そして視界が開けた。


「え? ここは……地下街?」


 梯子を下りた先。

 そこは『Closed World (閉じられた世界)』とか見紛う「地下空間」の天井付近で、眼下には薄暗い街が広がっていた。

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