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134話:世界が動く衝撃のニュース

 ~ ドラノア視点:クオンとグラハムが『原始の扉』を調べているその頃 ~


「よ~し、これで私もバンバンお金稼いじゃうから期待しててね!!」


 アトコンの箱を両手で抱え、パルフェが満面の笑みを浮かべた。

 その隣では骨付き肉を片手に、満面の笑みを浮かべてお肉を頬張るテテフの姿もある。


 ――“雑魚狩りのジョー”、その一件の後。

 テテフの所望するお肉を屋台で買い、機械販売店で目当てのアトコンも無事に購入。

 そしてもう一度テテフの為にお肉を買い、ようやく本日の宿を決めようかという場面だ。


「アトコン重いでしょ。ボクが持とうか?」


「ううん、自分で持つよ。一人で持てる重さだし、私がねだって買ってもらったんだもん。自分のことは自分でやらなくちゃ」


「そっか。なら落とさないように気を付けてね」


「大丈夫大丈夫。このくらいへっちゃ――あッ!?」


「っと危ない」


 前のめりになったパルフェの服を引っ張り、転倒を回避。

 その手から零れ落ちたアトコンの箱に関しても、地面に落ちる前にテテフが両手でキャッチした。


「大丈夫かパルねぇ?」


「ごめんごめん、箱で下が見えなくて躓いちゃった。二人共ありがと」


「怪我が無くて何よりだよ。でもアトコンの箱は没収ね。テテフが運んでくれる?」


「任せろ。パルねぇよりアタシは力持ちだ」


 アトコンの箱をグイっと持ち上げ、何故か真上に放り投げたテテフ。

 そのまま数メートルの空中旅行を経て、最後は“フワリ”と彼女の両手に収まった。

 

「えっ……今のは何? 最後だけ落下速度が落ちなかった?」


「おう。なんかコツを掴んで来たぞ。アタシの“魂乃炎アトリビュート”で、世界を肉だらけにする日も近いな!!」


 よくわからない夢を語って「ふんすッ」と鼻息を鳴らすテテフ。

 パルフェも「すごーい」と手放しで喜んでいるが、そんな単純な感想でいいのかは疑問が残る。


「今更だけどさ、テテフの“魂乃炎アトリビュート”って分類は何になるんだろうね? 浮遊系の何かだとは思うけど」


「う~ん、普通は学園とかで管理局で判定されるからねぇ。どっちにも行ってないテプ子の“魂乃炎アトリビュート”は――うん、ふわりと宙に浮くから『ふわふわ』に決定だよ♪」


「いや、そんな勝手に決めないでよ」と「否」を申し付けたのはボクだけ。

 当の本人であるテテフは「それがいい」と気に入った様子だ。


「『ふわふわ』、パルねぇの『ぬるぬる』っぽいな。似てるから凄く良いぞ。パルねぇにしては珍しく良い名前だ!!」


「えへへへ、それほどでも」


「………………」


 言いたいことは色々あるけれど、まぁ二人が納得しているなら構わないか。

 日も大分傾いて来てるし、これ以上の寄り道は無しにしてボクは真っ直ぐに宿屋へと向かった。



 ――――――――



「おい、階段が動いてるぞ。あっちは透明な筒の中を箱が移動して……あっ、中から人が出てきた!! もしかしてアレで移動してきたのか!?」


 “エスカレーター”も“エレベーター”もテテフは初見。

 ホテルのロビーから見える近代的な風景に、モフモフの尻尾をゆさゆさと揺らしながら瞳をキラキラに輝かせる。

 見ているだけで微笑ましいその反応は、受付を済ませて部屋の中に入ってからも同じだった。


「おぉッ、テレビだ!! テレビがあるぞ!! 久しぶりに見た!!」


「久しぶりって、テプ子は見たことあったの?」


「うん。パパが市長だった時は家にテレビが置いてあった。でも何も映らなかったから、ちゃんと見たことは無い。パルねぇ、つけていいか?」


「いいよ。私も天国以外のテレビ番組に興味あるし」


 一息つく暇もない。

 早速テテフがテレビに近づき、「ポチっ」とテレビの電源を押す。

 画面に映ったのはスーツを着た男性の機械人間ヒューマロイドで、確かアナウンサーとかいう職業の人だ。


 テテフが「おー!!」と感動し、その間にアトコンの箱を床に置く。

 速攻でベッドに寝転がってテレビを見る二人に続き、ボクもそちらに視線を移す。


(テレビか、見るのも久しぶりだなぁ。確か孤児院の院長部屋に一台だけあったけど、見せてもらったのは数える程だったな)


 『AtoA』26世界の中にはテレビ文化が無い世界も多いけど、流石に文明の最先端をいっている『Robot World (機械世界)』は違う。

 ホログラム表示されたホロビジョンではなく、モニターに表示された映像なので画質も綺麗だなぁ――などというボクの内心は、最新のニュースで吹き飛ぶことになる。


『――続いては、大勢の観光客が訪れたシュベルタワーの様子を……えー、たった今臨時ニュースが入りました。『Robot World (機械世界)』の覇者:ヤーイング様が、先日崩御なされ……ほ、崩御なされました!! 繰り返しますッ、覇者:ヤーイング様が崩御なされました!!』


「「ッ!?」」


 バットで頭を叩かれた、そんな衝撃が走る。

 パルフェがゆっくりとボクを見て、ボクもゆっくりと彼女を見返し、テテフは一人で首を捻る。


「パルねぇ、ほうぎょって何だ? 美味い肉か?」


「違うよ。崩御って言うのは、偉い人が亡くなった時に使う言葉なの」


「何だ、肉じゃないのか。がっかりだ。ってことは……え? 覇者が死んだのか? 何でだ?」


 キョトンと首を反対側に傾けたテテフ。

 その姿は愛くるしいモノがあるけれど、生憎とボクもパルフェもそれに対する答えは持ち合わせていない。

 答えがあるとすれば、アナウンサーの前にある原稿用の小さな機械だけか。


『えー、この情報は管理局による公式の発表であり、『全世界管理局:本部』も、正式にヤーイング様が崩御なされた事を確認したとの話です。死因についての公表は伏せられていますが……あー、事件性は無く、『Robot World (機械世界)』の皆さんには混乱しないよう呼びかけています。なお、次の覇者の選定は既に進められており、数日以内には新たな覇者が発表されるとのことです。えー、それはでここからは番組の編成を変えまして――』


 ピッ。

 いつの間に手にしたのか。

 テテフがリモコンを操作し、画面が別の番組に切り替わった。


 切り替わった先には女性の機械人間ヒューマロイドアナウンサーがいて、やはり覇者が亡くなったニュースを伝えている。

 窓のカーテンを開けて街の様子を眺めても、街頭のホロビジョンにも似たようなニュースが流れていた。


たちの悪い冗談、って訳じゃあなさそうだね。どうやら本当にこの世界の覇者は亡くなったみたいだ」


「事件性は無いって言ってたし、だとしたら病気とかかな?」


「かもね。確か『Robot World (機械世界)』の覇者は随分と高齢だって噂は聞いたことあったし。まぁ『全世界管理局』の発表が本当なら、って話だけど」


 “事件性は無い”。

 この言葉を疑い出せばいくらでも可能性は浮上するけれど、浮上させてまでボクがどうこうする話でもない。

 覇者:ヤーイングと面識があった訳でもなく、これまで関わらなかった知らない人の死に、悲しむ感情も生憎と持ち合わせていない。


「どれもこのニュースばっかりだ。つまんない」


 テテフがテレビをピッと消し、この一件に関してはこれで終わり。

 パルフェもいそいそとアトコンの箱を開け始め、テテフの関心も完全にそちらへと移った。


 ――出かけるなら、今がチャンスか。


「二人共、ボクちょっと外に出てくるね。すぐ戻るから」


「おう」と二つ返事を返したテテフとは違い、パルフェはスッとボクのパーカーの袖を引っ張る。


「何処行くの?」


「ちょっと外に」


「外の何処かを聞いてるの。何処に何しに行くの?」


「………………」


 やはり、そう簡単には見逃してくれないらしい。

 別にやましい気持ちはないのだけれど、出来れば何も言わずに出かけて、ささっと用事を終わらせたかったところだ。


「実はさ、おじいちゃんから頼まれ事をされててね。それをちょっと済ませてくるよ」


「じゃあ私も一緒に行く」


「いいって。一人で出来るし、すぐ戻るから」


「すぐってのは10秒くらい?」


「いや、流石にそれは……1時間もかからないと思うからさ。パルフェは部屋で大人しくしてて。遊びじゃなくて仕事だから」


「………………」


 ムスッとした顔を数秒。

 その後、「はぁ~」と諦めた顔で首を横に振った。


「仕方ないなぁ。我儘なドラの助を尊重して、ここは引くよ。でもコレを持っていくのは忘れないでね」


 リュックの中をゴソゴソと漁り、パルフェがギュッとボクの手に何か握らせてきた。

 それが見覚えのある“貝”――番貝ナンバールだとすぐに気づく。


「相方の貝は私が持ってるからね。いつでも私の元に帰ってこれる様に」


「……りょーかい」


 何だか痒い気持ちで頷くと、続けてパルフェは見覚えのあるマフラーを取り出した。

 『Closed World (閉じられた世界)』でもボクに巻いてくれたピンク色のマフラーだ。


「いつでも私は一緒だよ。ちゃんと無事に帰って来てね」


「うん、わかった」


 首に巻かれたそのマフラーから、ほんのりとハチミツの香りが漂って来る。

 身に着けるだけで心が休まる素晴らしい逸品だが、ふと隣に目を向けると不機嫌そうな顔と目が合う。


「パルねぇの独り占めは、断固反対だ!!」

 

「うッ!?」


 テテフから謎の飛び蹴りを喰らい、ボクは逃げるように部屋を飛び出した。

 直後。


「土産の肉を忘れるなよ!!」


 まさかのリクエストを受けたけど、そもそもリクエストは受け付けていないので聞かなかったことにしておこう。



 ――――――――



「全く、テテフったら……どんどん横暴さが増してるよ。ボクをおもちゃか何かと勘違いしてるんじゃないかな」


 小言を言いつつホテルの外に出ると、既にリンデンブルグの街は夜の帳に包まれていた。

 ただし、その暗さを弾き返すほどの明かりが街のアチコチに溢れている為、「暗くて不安」などいう気持ちは湧きようがない。


(さてと、何はともあれ仕事をしなきゃね。まず行くべき場所は――)


 “『全世界管理局』:リンデンブルグ支部”。

 脱獄の罪を認めて自首をしに、という流れではない。

 深めにマフラーを巻いたボクがここに来たのは、この場所でしか利用出来ない“あのサービス”を利用する為だ。


「あのー、ポッポを1羽頼みたいんだけど」


「おっとゴメンよ。今は鳩手紙ポッポレターの新規受付を中止してるんだ」


「え、何かあったの? 全部出払っちゃったとか?」


 だとすれば参った。

 今回は鳩手紙ポッポレターを利用した仕事だったのだけれど、早速出鼻を挫かれてしまった形だ。

 出かけたポッポが戻ってくるまで待たなきゃ駄目かー、と思ったのも束の間、受付の奥に数羽のポッポを確認。


「あれ、ポッポはいるみたいだけど? 何で受付中止なの?」


「う~ん、それがどういう訳か、ポッポが仕事をストライキしたんだ」


「……はい?」

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