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12話:十人十色の“魂乃炎《アトリビュート》”

 地獄の熱で氷塊を溶かし、管理局へ連行される前に脱出。

 掴まりたくないので当然ながらボクは逃走を開始するも、当然で言えば管理者達もタダで見逃す筈もない。


「密猟者は屋根の上だッ、絶対に逃がすな!!」

「妖精パイセンも呼び戻せ!! それに“魂乃炎アトリビュート”を使える管理者もだ!!」


(あらら、面倒な事になってきた。まぁ全員倒せば問題ないか)


 真っ当に仕事をこなしている彼等には悪いけど、だからと言ってこちらも引くには引けない身。

 ここで捕まって地獄に追い返されでもしたら、一体何の為に脱獄したのかわからない。

 『Fantasy World (幻想世界)』の覇者:魔人には手も足も出なかったけれど、既に彼が去ったこの街に、ボクの脅威となる人物はいないだろう。


 その証拠に。

 地面から2階建ての屋根まで、一気に跳んで来た管理者も――


「止まれ!! 俺は跳躍人ジャンパーの“魂乃炎アトリビュート”をもぶへッ!?」


 瞬殺。

 いや、実際に殺してはいないけど、わき腹にケリを入れて屋根から突き落とした。

 続けて、肉球の様な手足で壁に張り付き、屋根まで上って来た“尻尾持ち”の管理者も――


「私は“蜥蜴女トカゲレディ”!! このキュートな手足で何処にでも張り付くことがきゃあッ!?」


 口上を述べ終わる前に退場。

 ナイフでちょっと尻尾を傷付けただけなのに、その尻尾をポトリと落として一目散に逃げてゆく。

 更には、“緑色の軟体生物”を連れて来た管理者も――


「待ちな!! 俺の鍛え上げた幻獣:スライムちゃんが、お前を血祭りに……って、スライムちゃん!?」


 スライムを蹴飛ばすと、管理者が慌てて飛んで行ったスライムを追いかけてゆく。


 頼りになるのか、ならないのか。

 何とも判断に困る管理者達だけど、それでも通信機で連携は取れているのか、ボクの行く手を遮る様に次から次へと新手が現れる。

 それら全員を返り討ちにするのは簡単だけど、あまりやり過ぎると魔人:ホルスが呼び戻される可能性もあるだろう。


 かと言って、このつまらないいたちごっこを、追手がゼロになるまで続けるのは悪手。

 機を見て人ごみに紛れるか、覚悟を決めて追って全員をやっつけるか、それとも……。


(理想は『世界扉』で他の世界に渡航することだけど、肝心の『世界扉』は管理局にしかない。流石にそのルートは警戒網が布かれているだろうし、例え顔バレしてなかったとしても、この服装で管理局に入ったら怪しまれる)


 そもそもの話。

 脱獄の際に獄卒から奪ったお金では「渡航費用」に足りていない実情がある。

 警戒網の敷かれた街ではどうしたって行動の制限が掛かる訳で、お金を稼ごうにも一苦労どころか三~四苦労するのは確実か。


 となると、やはり街を出るしかない。


 光溢れる幻想的で賑やかな景色に後ろ髪を引かれる思いもあるけれど、こればかりは致し方ない。

 4000年振りに人間らしい生活を味わってみたかったけど、よくよく思い返すと4000年前のボクだって、人間らしい生活をしていたかどうかは甚だ疑問。

 今はきちんと追っ手を撒いて、ジーザスへの復讐に向けての段取りを考える方が有意義か。


「そういう訳で、ちょっと逃げさせて貰うね」


「何がそういう訳だ!! 我々がそう易々と逃がすとでも……って、速ぇーな!?」


 指針が決まれば話は早い。

 一段階ギアを上げて追っ手を振り切り、早々に街からの脱出を目指す。

 郊外に続く細かい道まで全て検問することは不可能で、例え検問されたところでゴリ押しすれば済む話だ。


(一旦外に出れば、そこはもう幻獣達の棲み処。保護法だか何だかのおかげで無茶は出来ないだろうし、追跡するのも困難な筈)


 彼等が保護する幻獣が、今度はボクを守る盾になってくれる。

 その後は隙を見て他の街に忍び込み、何とか管理局の『世界扉』を使って渡航する手段を考えよう。


 そうやってアレコレ考えている間に、街と郊外を分ける生垣が見えてきた。

 慎重な幻獣ならコレを「境界線」として認識し、街の中に入ってくることはないだろうけど、乗り越える意思があれば単なる障害物でしかない。

 勢いのままにヒョイと飛び越えれば問題は無い筈だったが、しかし。


 生垣の前に小さなシルエットが――“見覚えのある妖精族”がいた。

 他の誰でもない、先刻ボクを捕まえに来た妖精族の管理者だ。


「先回りされた!?」


 慌てて急ブレーキをし、歯噛みする。

 決して手を抜いていたつもりはないのに、まさかボクを上回る速度でこちらの逃走ルートを封じに来るとは。

 この問題の解決手段として「逃走ルートの変更」が正解になることはなく、内心でアレコレ思案を巡らせたところで、ボクは“彼女の異変”に気付く。


(アレ? 何だか顔色が……)


 完全に青ざめている。

 どう見たって気分の悪そうな様子で、それから間を置かず、彼女は“吐いた”。



「ウゲロロロロロロロォォォォ~~~~」



「………………」


 流石に唖然とする他ない。

 可憐な少女の如き妖精族が、いきなり目の前でキラキラの滝を流したのだ。


 あまりの衝撃に動くことすら忘れ、その場で棒立ちしていたのが運の尽き。

「ぜぇ、ぜぇ」と呼吸を整えた彼女が、不機嫌な顔でボクを睨みつけてくる。


「ちょっと、何よアンタ。妖精が酒飲んじゃ悪いっての? あぁ~ムカつく!! アンタの勝手なイメージを押し付けてんじゃないわよ!! おいッ、何か言えよ!! アタシに言いたいことあんだろ!?」


「いや、ボクは別に何も……(アレ? ボクのこと気づいてない?)」


「ケッ、どいつもこいつも『小さくて可愛いねぇ』って、馬鹿の一つ覚えばっかじゃねーか!! この語彙力ガリガリ野郎共が!! 鼻の下伸ばして情けないったら……って、あれ? 何かアンタの顔、何処かで見たような……」


「い、いやッ、初対面だよ。それじゃあ妖精さん、ボクはこれで」


 これ以上の長居は厳禁。

 別れ言葉を告げ、早々にこの場を離れようとするも、彼女の小さな腕がボクの肩をガチっと掴む。


「ちょっとアンタ、話はまだ終わって……ん? やっぱり何処かで見た気が……ハッ、思い出したわ!! 見つけたわよ密猟者!!」


「ッ~~!!」


 願い叶わず正体がバレた。

 すぐさま彼女の腕を振り切り、生垣を越えて逃走を開始するも、追いかけてくる妖精族の管理者はいい顔をしない。


「絶対に逃がすもんですか!! 一度捕まえた密猟者を逃がしたなんて、そんな事が上にバレたらボーナス査定に響くじゃない!!!!」


「そんなの知らないよ!!」


「知らなくても結構ッ、“眠りなさい”!!」


 バサリッ!!

 小さな身体で力強く羽ばたき、予想外の強風を生み出した妖精族の管理者。

 その風に乗ってキラキラと輝く「黄金色の鱗粉」をまき散らした彼女の胸には、轟々と燃ゆる炎が爛々と輝いている。


(“魂乃炎アトリビュート”の鱗粉!? コレは逃げ切れない……ッ!!)


 直感で理解した。

 瞬間的な速度は彼女の鱗粉が上だ。


 ならばこそ、これ以上は“逃げない”。

 急ブレーキをかけてボクが止まると、妖精族の管理者はニヤッと笑みを浮かべて速度を落とす。


「賢明な判断ね。そうよ、時には諦めることが最善手な日もあるわ。今度こそ、アンタは牢屋で頭を冷やしなさい。そして私は飲み直す!!」


 完全に勝ち誇った顔。

 その羽から生み出された鱗粉が、小さ過ぎて斬ることも敵わないそのキラキラが、ボクへと降りかかる――直前。


 バサリ!!

 “脱いだ咎人の服”で、鱗粉を扇ぎ返す!!


「ちょッ、私の鱗粉を!?」


 完全に勝ったと油断していたのだろう。

 返って来た鱗粉をもろに浴び、彼女の目が急にトロンと眠たくなる。


「まさか、自分の鱗粉で眠るなんて……」


「なるほど、鱗粉は“眠り粉”だったのか。それじゃあ悪いけど、ボクが逃げ切るまで寝てて貰える?」


「生意気なッ……でも眠気が、ヤバい……けどッ、このままじゃ終わらせない!!」


 怒りの籠った声と共に。

 彼女の“魂乃炎アトリビュート”が今一度大きく燃え上がる。


 バサリッ!!

 今度の羽ばたきで生まれたのは、キラキラと舞う“紫色の鱗粉”。

 明らかに怪しいその鱗粉を、ボクは先と同様に脱いだ服で仰ぎ返すが――。



「“春一番はるいちばん”」



 妖精族の管理者が羽ばたき、小さな羽で物凄い突風を生み出した!!

 

「ゲホッ!?」


 カウンターへのカウンター。

 扇ぎ返された鱗粉が再度襲いかかり、“ボクの呼吸を奪う”!!

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