表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/237

121話:人の子

 圧倒的な速度で飛び出したバグの棘。

 異様に長い数百もの棘が、周囲にあるもの全てを串刺しにする!!


「「ぐッ!?」」


 天使の管理者兄弟、その兄:リョードル、弟:ブラミル共に僅かに逃げ遅れた。

 避けきることは出来ず、しかし致命傷に至らなかったのは、覇者:レオパルドが二人の“盾”になったおかげか。


「レオパルド氏!?」「おっさん!?」


「大丈夫だ、このくらい屁でもねぇ」


 無数の棘を正面から受け止め、それでもレオパルドは飄々としている。

 元々頑丈なことで有名な鉱石ゴーレム族の中でも、流石に覇者レベルとなれば規格外。

 そう簡単にはバグの棘も通さないらしい。


「ホント、呆れた硬さね」


(ッ――いつの間に僕等の後ろへ?)


 しれっと兄弟管理者二人の後ろに避難していたクオン。

 そんな彼女の名前を知る由もない兄:リョードルだが、例え名前を知っていたところで、続けて発せられた彼女の言葉には同意せざるを得ない。


「防御が得意なのは結構だけど、生憎と相手は“銀鱗ベール”持ち。攻撃が通らないと消耗戦で負けるわよ?」


「べーる? お前等さっきもそんな話をしてたな」


「あらやだ。そこのうるさい管理者だけじゃなくて覇者も馬鹿なの? 今の管理局ってお馬鹿さんしかいないのかしら?」


「うるせぇぞ女!! 御託はいいからさっさと教えろ!!」


 怒る弟:ブラミルの睨みも当の彼女は涼しい顔。

 それから「貴方は流石に知っているでしょ?」と言わんばかりの顔で兄:リョードルに視線を寄越した。

 必然的に彼が語る他ないだろうが、素直にその時間をくれる相手でもない。


 無数の棘がバグの身体へ戻り、「巨大な一本の槍」となって突き出る!!


 今度はそれを全員が避け、兄:リョードルは天使の翼で羽ばたきながら語る。


「――硬質化した特殊な血、それがあの銀色の液体:“銀鱗ベール”の正体だよ。液体の形をした盾だと思っていい。今はまだ表面積の2割ほどだけど、バグの分類上“銀鱗ベール”を纏った時点で『レベル5』は確定だ」


「マジかよッ、どうやって攻撃を通せばいい!?」


「こちらも“銀鱗ベール”を纏うしかないよ。だけど、生憎と僕達はまだその域に達していない。“魂乃炎アトリビュート”所持者の中でも、アレを使えるのは一握りの強者だけだ」


 バグの攻撃を避けつつ。

 説明を続ける兄:リョードルに、弟:ブラミルが怪訝な顔を返す。


「ならどうすんだよ!? このおっさんは“魂乃炎アトリビュート”持ってねぇから使えねぇだろ!!」


「大丈夫、打つ手が無いわけじゃない。“銀鱗ベール”に使えるエネルギーだって無限じゃないし、攻撃を続けて奴のエネルギーが枯渇すればチャンスはある」


「正気か? ついさっき手下を丸呑みにした奴だぞ?」


 満腹以上に腹が膨れたバグ。

 そのエネルギーは暴走する程に有り余ってる状態だ。


 それを今から枯渇させようというのは、重機も無しに素手で山を切り崩そうとするのと同じ。

 弟の指摘は珍しく的を得ているものの、正論を言ったところで兄の回答が変わる訳でもない。


「ブラ君、現実に文句を言っても仕方ないよ。“銀鱗ベール”が使えない以上、ボク等にはこの手段しか残されていないんだ。レオパルド氏もご理解頂け――」



「おい、これでいいのか?」



「――え?」


 珍しく、兄:リョードルが呆気に取られる。

 切れ長な睫毛を携えた彼の瞳に映るのは、“拳に銀色の液体を纏った”レオパルドの姿だった。


「……何故、貴方が“銀鱗ベール”を? “魂乃炎アトリビュート”所持者ではないと聞いていたが」


「あぁ、俺は“魂乃炎アトリビュート”なんか使えねぇよ。でもいつからか、本気出すとこの状態になるんだ。気味悪ぃからなるべく出ない様にセーブしてたんだが、何か問題あるか?」


「……いえ、何も(驚いた、これまた規格外な男だ。無能力者で覇者になったのも頷ける)」


 兄:リョードルとしては完全に想定外。

 しかしそれは悪い意味での想定外ではなく、状況的には好転している。

 泥臭い消耗戦を耐えなければ見えなかった勝機が、壁に空いた風穴の様に向こう側が見えて来た。


「レオパルド氏、気が済むまでバグに攻撃を。再生する部位は僕等に任せて、緋核レッドコアと呼ばれる赤い石を見つけてください。それがバグの弱点です」


「オーケー、とにかく暴れりゃいいんだな? それなら得意だぜ――ウオラッ!!!!」


 銀色の液体:“銀鱗ベール”を拳に纏い、殴り掛かるレオパルド。

 それを受けるバグが「棘」を突き出も、お構いなし!!


 ズンッ!!

 腹の底に響く音と共に、レオパルドが棘を折りながら一撃を入れた。


 その衝撃でバグの身体が10分の1ほど吹き飛び、これまた異空間の彼方に飛んで行く。

 弟:ブラミルの顔に思わず笑みがこぼれる。


「ハッ、やるじゃねーかおっさん!! 後でそのやり方教えてやがれ!!」


(イケるッ、やはり覇者の名は伊達じゃない!!)


 兄:リョードルの中で希望が確信へ変わった。

 自分達兄弟だけでは手繰り寄ることが出来なかった「勝利」も、覇者という太いロープがあれば力任せに引っ張ってこれる。


「ん? さっきの女性がいないな……避難したのか?」


 天使の翼で宙に舞い、上空から見下ろす景色。

 そこには、討伐すべき「バグ」と「弟:ブラミル」、それに「覇者:レオパルド」の姿しか確認出来ない。

 彼女が何処に逃げたのか気になる兄:リョードルではあるが、気にし過ぎても仕方がないだろう。

 急に姿を見せた女性が急にいなくなったところで、戦況に大きな変化はない。


 自分達の邪魔をしなければ問題ないと、兄:リョードルは改めてバグに集中する。


「“氷刑:価値割氷かちわりごおり”」


「“火刑:山火事やまかじ”」


 バグを襲う氷と炎!!

 それを“銀鱗ベール”で防ぐバグだが、完全な無意味ではない。

 強固な鎧である“銀鱗ベール”で防げる範囲は限られており、広範囲攻撃であれば多少なりともダメージが入る。


 加えて。

 拳に“銀鱗ベール”を纏ったレオパルドの一撃は防ぐことが出来ない。

 強烈な攻撃を喰らい、バグの身体が盛大に弾き飛ばされる!!


 それでも尚、再生しようと集まってきた身体の動きを鈍らせるには、“銀鱗ベール”の無い兄弟管理者の攻撃でも十分だ。

 氷で、炎で、再生を遅らせている間にも、レオパルドが次々とバグの身体を削り続ける――。


(徐々にバグが小さくなってきた。与えているダメージの方が大きい証拠だ……ッ!!)


 削り、削り、時に再生されて大きくなり、しかしそれ以上に削り続けるレオパルド。

 そんな彼に負けじと攻撃を放ち、再生を遅らせる天使の兄弟管理者。


 派手な、同時に地味な作業を3人がひたすら繰り返し。

 そして――。



「“我岩破ガガンパ”!!!!」



 剛腕による一撃!!

 直後、パンッと弾ける様な音と共に、バグの“銀鱗ベール”が完全に消失。


 同時に、黒い身体の上部に真っ赤な「石」が見えた。 

 兄:リョードルがすぐさま口を開く。


「アレが弱点の緋核レッドコアです!! レオパルド氏ッ、止めを!!」


「任せとけ!!」


 長かった“鬼ごっこ”もようやく終わり。

 “銀鱗ベール”を失ったバグに、今のレオパルドの一撃を防ぐ術は無い。


 逆に。

 バグの攻撃は元々硬いレオパルドには通らない。

 覇者の力量を見せつける一方的な展開だ。


 ここからはじき出される答えは「レオパルドの勝利」。

 後は緋核レッドコアを破壊するだけだと、“その時”までは誰もがそう思っていた。


 当初の見る影もなく小さくなったバグが、その姿を“人型”に変えるまでは――。



「まタ、兄さンはボクを見捨てルンだ?」



「ッ――」



 レオパルドに生まれた一瞬の躊躇い。

 振り上げた拳を振り下ろすだけだった筈が、そこに「是/非」の躊躇いが起きる。


 彼にもわかっていた筈だ。

 突如として目の前に現れたコダックは、本物の弟ではなくバグが化けた偽物なのだと。

 それは最初から理解していた筈だが、しかし、覇者:レオパルドもまた“人の子”か。


 一瞬の躊躇いが生んだのは、“銀鱗ベール”の消失。


「レオパルド氏!?」


 ここが勝負の分かれ目だった。

 レオパルドの弟:コダックの姿に化けたバグが、カチャリとその手に銃を構える。

 

 何処か“おもちゃ感”がある銃を。

 その銃口の先を、レオパルドが驚き、思わず開いた“口に向けて”。



“『Robot World (機械世界)』の最新型さ。小さいけど威力はすごいから、深層の岩奇獣ガンズマンでもダメージを与えられる筈だよ”



 かつて、コダックが自慢げに語った言葉がレオパルドの脳裏に蘇る。

 蘇ったからといって何も良いことは起こらない。

 レオパルドの拳は完全に止まっていた。



「ッ――」



 『桃源郷』に鳴り響いた単発の銃声。


 勝利を目前にして。

 『Closed World (閉じられた世界)』の覇者レオパルドは、口から血を吐き、地に伏せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■続きに期待と思って頂けたら、ブクマ・ポイント評価お願いします!!!!
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ