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114話:バグ:ドラゴン

 覇者:レオパルドが告げた。


「見たこともねぇ馬鹿デカい扉が、その不思議な空間にはあったんだ。アレは一体何の為の扉なのか……」


「………………」


 思わず言葉を失う。

 10年前、深層の洞窟で豪奢な祭壇を見つけたレオパルド。

 その更に奥で、知らず知らずの内に辿り着いた『桃源郷』だと思われる場所。


 そこには“馬鹿デカい扉”が存在していたという。


「クオン、その扉って……」


「でしょうね。まさかこんな所で情報を掴めるとは思わなかったわ」


 クロの椅子を近づけ小声で問うと、彼女も「意外」を隠し切れない顔を返した。

 思いがけない場面で『原子の扉』の情報を得ることが出来たけど、それは同時に重要な問題を孕んでいることを示している。


「洞窟が閉じられている――進んでも他の洞窟と繋がってしまうんだとしたら、どうやってそこまで行けばいいんだろう? 10年前に行けたってことは、何か方法があるってことだよね?」


「そこが俺にもわからねぇんだ。10年前はたまたま行けたのか、何か条件を満たしたのか……流石にアレが夢だったってことはねぇ筈だが、今のところはさっぱりだ」


 当然ながらレオパルドもそれは知らない。

 知っていたら10年も洞窟に挑み続けていないだろう。


「クオンはどう思う?」


「そうねぇ」


 一言発した後、しばし沈黙。

 それから足を組み替え、彼女は口を開いた。


「世の中にある不思議な出来事には、結構な割合で“魂乃炎アトリビュート”が関わっているわ。それを踏まえると、『桃源郷』への道が閉じられているのも“魂乃炎アトリビュート”による代物だと考えるのが筋でしょうね」


「だが、あの時洞窟にいたのは俺達兄弟の二人だけだ。俺も弟も“魂乃炎アトリビュート”は持ってねぇし、あの時に発現したって記憶もねぇぞ? “魂乃炎アトリビュート”は関係ないんじゃねーか?」


「あら、そうとも限らないわよ。登場人物ならもう一人いたじゃない。まぁ一人というか一匹だけど」


「おいおい、まさかあの真っ黒い岩奇獣ガンズマンが“魂乃炎アトリビュート”を使ったとでも言いてぇのか? そんなことがあり得るのかよ」


「あり得ない、と証明することが出来ないからあり得るんじゃない? あくまでも可能性の話よ」


 一体何処までが本気なのか。

 ヒョイと肩を竦めたクオンに、レオパルドも難しい顔を返すほかない。

 悪魔の証明的な話を持ち出すとキリがないけれど、逆に言うと、思いつく可能性がそれくらいしか残されていないという話でもある。


(レオパルドが10年掛かって辿り着けない場所だ。そう簡単にボク等が辿り着けるとも思えないし、ここに“ある”とわかっただけでもまずは御の字と思うべきかな? 一旦隠れ家(アジト)に戻っておじいちゃんに相談した方が――ん?)


 思考の最中、違和感を覚えた。

 発信元は右肩だ。

 クロが身震いしたような感覚だけど、今現在クオンの椅子となっているクロにこれといった変化はない。


(ただの思い過ごしか?)と気を引き締め直したところで、ボクの耳が捉える。


 “何かがこちらに迫ってくる音”を。


「これは……?」


 明らかに人の足音ではない。

 かといって岩奇獣ガンズマンの足音にしては変な感じもする。

 ドリルか何かで壁を削っている音にも思え、尋ねる意味を込めてレオパルドに視線を向けると、彼もまた不可解と言わんばかりの顔を返す。


「何だこの音は? 徐々に大きくなってるな」


「レオパルドにもわからない?」


「あぁ、こんな音は初めてだ。後ろから? いや、前……でもないな」


 それから間を置かず、パラパラと天井から小石が降ってきた。

 洞窟全体が揺れているのが嫌でもわかる。

 

(地面も揺れてる――まさか下から?)


 そう警戒した直後。



『オォォォォオオオオオオオオ!!!!』



 天井が崩壊し、真上から真っ黒い生き物が落ちてきた!!

 その異様な姿を見てレオパルドが目を見開く。


「何だ、この黒いドラゴンは? あの時の岩奇獣ガンズマン……じゃなさそうだが」


(これは……この見た目、もしかして“あの時”のッ!?)


 クオンに視線を送ると、彼女がコクリと頷く。


「絵の世界から逃げた“バグ:ドラゴン”ね。大穴へ逃げたとは聞いていたけれど、管理者が追ったと聞いていたから大丈夫だと思ってたわ。どうやら出来の悪い管理者が担当に当たったみたい」



「誰がッ、出来の悪い管理者だコラァ!!」



 ズンッ!!

 叫びつつ、天井に空いた穴から“見覚えのある”管理者が降って来た。

 大きな鎌を持った野性味溢れるその顔を、先日見たばかりの顔を忘れる訳もない。


(『Ocean World (海洋世界)』で逢った天使の管理者だ。確か兄弟の弟の方……この人がバグを追ってたのか)


「くぅ~~~~ッ」


(あ、痛そう)


 かなりの高さから着地に脚が「ジ~~ン」としているみたいだけど大丈夫かな?

 とか思っていたら、天井の穴から翼を生やした“もう一人の管理者”がゆっくりと降りてくる。


「素直に翼を使えばいいのに。後先考えずに飛び降りるなんて、ブラ君って馬鹿なのかい?」


「うるせぇ!! 最初に舐められたら終わりなんだよ!!」


「僕的には脚をジ~~ンとさせてる方が舐められると思うけどね。――さて、戯言はここまでだ」


 これまた見覚えのある顔の登場。

 天使の管理者兄弟、その兄の方が知的な顔をボクに向けて来る。


「やぁ、また逢ったねドラノア君。突然だけど、“後ろ”危ないよ?」


「ッ!?」


 思わぬ二人の登場で完全に油断していた。

 気づいた時にはバグ:ドラゴンの尻尾が目前に迫っている。


 クロの右腕で咄嗟にガードするも、呆気なく弾き飛ばされた!!


「ぐッ」


 壁にぶつかって強制的に止まるも、ダメージは最小限。

 お返しとばかりに“鎌鼬かまいたち”をお見舞いすると、風の刃が当たった尻尾から、血飛沫の様な黒いモノが「ブシュッ」と噴き出す。

 それを「血」と呼んでいいかどうかはビジュアル的に微妙なところだけど、岩奇獣ガンズマンより柔らかいのは間違いない。


 ただし、素早さはその比ではなかった。


 

『オォォォォオオオオオオオオ!!!!』



 咆哮と共に。

 ボクの反撃を喰らったバグ:ドラゴンが暴れ、尻尾を振り回す!!


 狭い場所での巨体 + 範囲攻撃だ。

 避けるのは不可能に近く、ボクも天使の管理者兄弟二人も吹き飛ばされるが、しかしレオパルドだけは動じない。

 太く大きな尻尾が直撃しても吹き飛ぶことはなく、むしろその尻尾をガシッと片手で捉えた。


「マジかよあのおっさんッ、今のでビクともしねぇのか!? 一体何者だ!?」


「何者って、『Closed World (閉じられた世界)』覇者:レオパルド氏だよ。そんなことも知らないなんて、ブラ君って馬鹿なのかい?」


「だからブラ君言うな糞兄!! ってか覇者かよアイツ、そりゃ強ぇ訳だ」


 ボクも含め、全員を吹き飛ばした攻撃をレオパルドはものともしない。

 弟の管理者も流石に認めるしかなく、そのレオパルドがバグ:ドラゴンの尻尾を掴んだまま兄の管理者に問う。


「お前等、本部の管理者か? このバケモンは洞窟の岩奇獣ガンズマンじゃあなさそうだが、倒していいんだろ?」


「勿論です。是非ともレオパルド氏の力をお借りしたい。想像以上に手ごわい相手で、僕達も苦労していたところです」


「そうかい。なら遠慮なく」


 掴んでいた尻尾を振り回し、バグ:ドラゴンを狭い壁に叩きつける!!

 そのままズルズルと崩れ落ちたバグ:ドラゴンの腹に、レオパルドが更なる追撃の拳を入れた。


「オラッ!!」


 ――轟音!!

 爆弾でも使ったのかと勘違いする音が響き、堪らずバグ:ドラゴンが耳をつんざく悲鳴を上げる。


 それで躊躇することなく、もう一撃!!

 今一度悲鳴を上げたバグ:ドラゴン、その背後の岩盤にバキバキッと無数の亀裂が走った。


「おっとマズイ。手加減したつもりだが、あまり力を入れると崩落しちまうな」


(嘘、アレで手加減してるの……?)


 削るのも一苦労する深層の岩盤を、いとも簡単に破壊するレオパルド。

 “魂乃炎アトリビュート”も無しにそれをやってのけるのだから、呆れると言うか何と言うか……。

 

 ともあれ。

 その圧倒的なパワーによって、腹を殴られたバグ:ドラゴンの動きは完全に止まっていた。

 クルリと、レオパルドが振り返る。


「おいヒョロ天使、このままとどめ刺していいのか?」


「えぇ、お願いします。ちなみにヒョロ天使ではなく『リョードル』です」


「あーそうかい。そっちの野生児もそれでいいな?」


「誰が野生児だコラ!! テメェこそゴリラばりの腕力出してんじゃねーぞタコ!!」


「おーおー、えらく威勢がいいな。元気なのは結構だが、近くに寄ると怪我するぞ。下がってな」


 言って、レオパルドが指を弾いた。

 いわゆる“デコピン”の要領で、しかし誰のおでこを弾くわけでもなく、空を弾いた――途端。

 

「うおッ!?」


 弟の管理者がいきなり吹き飛ぶ。

 10メートル近く宙を舞い、最後は勢いを失ってフワリと地面に着地。

 呆気に取られて言葉を失う弟の管理者だけど、何が起きたのかは誰の目にも明らかだ。


(デコピンの風圧で人を飛ばした? デタラメ過ぎるでしょ……)


 でも、だからこそ。

 デタラメが過ぎる無茶苦茶な人だからこそ、レオパルドは「覇者」の肩書を持っている。

 凡人風情には務まらない圧倒的強者の証。


 その覇者:レオパルドが、バグ:ドラゴンの前に立ち。

 さっさと終わらせようと拳を振り上げた時、彼は、そして同時にボク等も気づいた。



 “バグ:ドラゴンの身体が溶けている”ことに。



「あ? 何だこりゃあ?」


 炎で焼かれた蝋人形のように、ドロリと崩れ落ちるバグ:ドラゴンの真っ黒い身体。

 怪訝な顔を向けざるを得ないレオパルドの前で、バグ:ドラゴンはスライムみたいな不定形の姿となり――滑る様に逃げ出した!!

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