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103話:新しい拠点

『詳しくは“新しい拠点”で話そう』


 そう告げたおじいちゃんに連れてこられたのは、巨大な岩盤をくり抜いて造られた武骨なビルの2階だった。

 石段を上って辿り着いた狭い廊下の扉前に、ボクとパルフェとクオン、それに案内人のおじいちゃんがいる。


「当分はこの新しい拠点から洞窟探索に出かけて貰う。入口の場所を忘れない様にしておけ」


「聞いたドラの助? 新しい拠点だって。ワクワクだよ!! 可愛い内装だといいなぁ」


 そんな願いを口にしつつ、我が物顔で勝手に扉を開いたパルフェ。

 誰よりも先に新しい拠点へ飛び込み――そして叫んだ。


「幽霊屋敷じゃん!! ここ、幽霊屋敷!! いつもの幽霊屋敷なんですけど!!」


 3回も「幽霊屋敷」と叫んだパルフェ。

 彼女の言葉に間違いはなく、扉の先には見覚えのある内装が広がっていた。

 古びた吹き抜けのロビーには、年季を感じさせるソファーとローテーブルが置かれ、奥には2階へと続く見慣れた螺旋階段がある。


 我が家へ帰って来たような安心感はあるものの、「はて?」と首を捻らざるを得ない。

 隠れ家(アジト)があったのは『Lawless World (無法世界)』の筈だけど、それが『Closed World (閉じられた世界)』にあるのはどういうカラクリだろうか?


「何コレ? 全く同じ内装で揃えた、って訳じゃないよね」


「そんな意味の無い真似をする訳なかろう。“扉の繋がる先を変えた”んじゃ。長期で寝泊まりするなら、慣れ親しんだ場所がよかろうと思ってな」


「そ、そうなんだ……?」


 サラッと言ってるけど、やっている事は何気に凄い。

 隠れ家(アジト)の扉は『世界扉』でもあるので、上手く使えば可能なのだろうけれど、相変わらず何をどうやっているのかは不明だ。


 気になるので「どうやってるの?」と直球で尋ねたところ、「ホッホッホッ」と微笑み返されただけ。

 そんなボクの隣では、パルフェがガックリと肩を落としている。


「うぅ、またこの幽霊屋敷で過ごすんだ。私はもっと可愛い感じの、お洒落でポップな隠れ家(アジト)がいいのに……」



「あッ、パルねぇ!! 何処行ってたんだ!?」



 落ち込むパルフェを元気づける為、という訳ではないのだろう。

 キッチンから骨付き肉を咥えたテテフが姿を現し、そのままパルフェにダイビング抱擁ハグを決めた。


「探したぞパルねぇ。いつの間にか部屋からも屋敷からも居なくなって、心配で肉以外何も喉を通らなくて……ん、その子は?」


 パルフェの肩越しにクオンを見つけ、テテフの目が丸くなる。

 そんなテテフを抱きかかえて下に降ろし、パルフェがクオンの肩を掴んだ。


「『クオたん』だよ。最初はちょームカつく女だったけど、今は小っちゃくて可愛い女の子なの」


「ん? ちょっと何言ってるかわかんない……」


 説明不足が過ぎるパルフェの紹介。

 テテフは小さく首を捻り、ピョンと跳ねてクオンの前に躍り出た。

 それでビクッと背を丸めたクオンに向かい、彼女は口を大きく開いて息を吸う。


「こんちは!!」


「ッ!?」


 再びビクッと身体を震わせたクオン。

 彼女が「こ、こんにちは」と小声で挨拶を返すと、テテフは彼女に近づいてジロジロと眺め始める。


「えっと、あの……」


 ただただ戸惑うクオンに向け、テテフが骨付き肉を突きつける。


「お前、パルねぇの何だ? アタシから妹の座を奪う気か?」


「え? いや、あの……ちょっと何言ってるかよくわからないですが、多分違うです」


「多分違う? 本当か? 本当の本当の本当だな? この肉に誓うか?」


「えっと、よくわからないけど誓います」


「よし、ならいい。よろしくなクオたん!!」


「よ、よろしくです」


 ホッと安堵したテテフに、ホッと安堵するクオン。

 小柄な二人のよくわからないやり取りは、とりあえず今ので終わったらしい。

 その光景を微笑ましく見ていたパルフェも胸を撫でおろし、しかし何を思い出したかハッと表情を変える。


「クオたんの紹介は終わったけど、問題は何も解決してないよ。どうするドラの助?」


「どうするって、何が?」


隠れ家(アジト)だよ。やっと幽霊屋敷からバイバイ出来ると思ったのに、結局今までと同じだし……よし、こうなったら私が可愛い隠れ家(アジト)に改装するよ!! テプ子も手伝って」


「わかった。もっと肉っぽくすればいいんだな?」


 そんな感じで不毛な会話を始めた二人については、一旦スルーでいいだろう。

 肉の部位や骨アリ・骨なし、そもそも肉じゃなくてお花とかスイーツとか、そんなどうでもいい話題で盛り上がっているので気にするだけ無駄。

 おじいちゃんも同感なのか軽くため息を一つ吐き、それから改めてボクとクオンに向き直る。


「――時は来た。いよいよ明日から『原始の扉』探索開始じゃ」



 ■



 ~ 翌日 ~


 空が無いことで有名な『Closed World (閉じられた世界)』。

 その生命線と言っても過言ではない、世界を照らす無数の蓄熱光石レイジナイトには、“熱を貯める時間”と“発光する時間”の2つがある。

 大きさや場所によって多少の誤差はあるものの、その時間は全ての蓄熱石で似通っている為、“暗い時間”と“明るい時間”が生まれるのは必然。

 そして、この時間が「夜」と「昼」の区別に使われるのも、これまた必然なのだろう。


「ふぁ~、面倒くさいわねぇ。『原始の扉』の捜索なんか、下僕一人でやればいいのに」


 “早朝”ということでいいのだろうか。

 蓄熱光石レイジナイトが本格的に輝き出す前の時間帯。

 

 隠れ家(アジト)を出たボクは真っ直ぐ洞窟管理棟に向かっていたけれど、気になるのは世界の明るさよりも後ろで欠伸をしている吸血鬼族か。

 そこには気が弱い「子供クオン」ではなく、高飛車で面倒くさがりな「大人クオン」の姿があった。


「その姿は絵の中だけじゃないの?」


「誰がそんなこと決めたのよ? 私の絵画転写アヴィズムは“理想の姿”を絵に描いて、現実の自分に反映させることも出来るのよ。まぁ染料の消費量が多いのが難点だけど」


「えぇ、勿体ないなぁ。別に元のままでもよかったじゃん」


 彼女の“魂乃炎アトリビュート”は大筆の軸にある「染料」に依存しており、一日の使用上限が決まっていた筈。

 大事な染料をいきなり消費してしまったクオンに批判的な視線を向けると、「仕方ないでしょ?」と悪気なく肩を竦めた。


「元の姿はちんちくりんだから、正直あまり好きじゃないのよ。気が弱過ぎて外での行動にも向いてないし、それに下僕だって“こっちの姿”の方が好きでしょう?」


「知らないよ。っていうかどうでもいいし」


「あらやだ、下僕のくせに生意気な態度ね。別に誤魔化さなくてもいいのに。顔に『大きい方が好き』って書いてあるわよ?」


「そんなわけないでしょ。馬鹿言ってないで、さっさと洞窟管理棟に行くよ」



 ~ 洞窟管理棟 ~


 こんな時間から手続き出来るのかと半信半疑だったけれど、建物内は先日と変わらぬ明るさを保っている。

 『Closed World (閉じられた世界)』では昼夜休みなく採掘が行われる為、手続きがいつでも出来る様に洞窟管理棟も休みなく動いているようだ。


「採掘は初めてか? ……2回目? ならそっちの端末で手続きしてくれ」


 前回手続きをしてくれたエルフ族の女性ではなく、カウンターで寝ていた男性が面倒くさそうに隣の端末を指差す。

 通称:“アトコン”と呼ばれる機械の1つで、採掘に慣れた人はこちらで受付を済ませるらしい。


 ここでボクの出番は無く、クオンが慣れた手つきでアトコンを操作。

 そのまま支払いを済ませ早々に洞窟管理棟を後にしたボク等は、特に何事もなく大穴の淵にある“昇降機”まで辿り着いた。


 既に大勢の採掘作業員が昇降機に乗っており、そこへボク等も乗り込む――その前に“首に巻いたマフラー”で口元を隠す。 

 ボクの手配書を知っている人間がこの中にいても、これで気付かれることは無いだろう。


「ねぇ下僕。ずっと言おうと思っていたのだけれど、その“趣味の悪いピンク色のマフラー”は何? 昨日までは巻いてなかったわよね?」


「うん。出掛ける前にパルフェが巻いてくれたんだ。これでも一応脱獄者だし、なるべく顔がバレない様にって徹夜して編んでくれたみたい。ほんのりハチミツの香りもするし、悪くないかなって」


「ふ~ん? 徹夜で編み物なんてちょっと焼けちゃうわね。そのマフラー燃やしていいかしら?」


「………………」


 冷酷過ぎるクオンの言葉は一旦無視するとして。

 ボク等が乗り込んですぐ、昇降機はガタガタと音を鳴らしながら降下を始めた。

 あとはこのまま下層に到着するのを待つだけだけれど、その時間を我慢出来ない人がボクの隣にいた訳で……。


「はぁ~、男ばかりで酷くむさ苦しい空間ねぇ。――下僕、ちょっと『肉壁』になりなさい」


「……はい?」

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