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10話:世界最強の男

 幻獣:サラマンダーの撃破後。

 天空に浮かぶ台地、空島から流れ落ちる滝の音をBGMに歩くこと数十分。

 青く発光する美しい花畑の丘を越え、ボクが辿り着いたのは“光溢れる街”だった。


(随分と賑やかな街だなぁ。観光街:グラジオラス……地獄とは何もかも大違いだよ)


 血の匂いと殺伐とした雰囲気で満たされていた地獄とは打って変わり、こちらは異国情緒の中にそこはかとないワクワク感が漂っている。

 建物は全体的に丸みを帯びたデザインの建物が多く、不思議な模様をなぞる光のラインが走っているのも特徴的だ。

 まるで魔法の国に迷い込んだかのような光景を前に、隣の少女が負けじと大きな瞳を輝かせる。


「はぁ~、凄いね~。右も左もキラキラ光ってて夜の遊園地に来たみたい。まぁ行ったこと一度も無いけどね。えへへへ」


「……パルフェ、まだいたの?」


「いるよ!! さっきからずっと一緒にいるでしょ!?」


「まぁそうなんだけど。もう街に着いたから――」


「あッ、見て見て。あの広場のお店でエルフ族がお酒飲んでるよ。あーいうの屋台って言うんだっけ? それで横のテーブルにいるのは……老け顔の子供?」


 彼女の興味が尽きない。

「そろそろ別行動に」という話を振る前に、パルフェの興味は既に他のことへ移っていた。

 別にボクが親切にしてあげる義理も無いけど、「老け顔の子供」と言われるのは流石に彼等が可哀想だろう。


「違うよ、アレはドワーフ族。エルフ族と並んで『Fantasy World (幻想世界)』の2大種族だよ。見るの初めてなの?」


「うん、ドワーフ族を見たのは初めてだね。エルフ族は初めてじゃないけど……まぁでも、今日が初めてってことにしておこうかな」


「ん?」


 歯切れの悪い言葉と共に、「あはは……」と苦笑いを浮かべたパルフェ。

 彼女が一体何を思ったかは知らないけれど、ボクにとってはどちらの種族も珍しいモノではない。


(地獄では色んな種族の咎人を見て来たからね――って、呑気にお喋りしてる場合じゃない。今後の予定を考えないと)


「ねぇねぇ、せっかくだし屋台に行ってみない? 私、一度でいいからあんなお店に行ってみたかったの」


「いや、ボクは遠慮するよ。行くなら一人で行ってきて」


「えぇ~? 屋台に女の子一人は行き辛いよ。それに助けて貰ったお礼もしてないし。私が奢ってあげるからさ、一緒に行こ?」


「別にいいよ。ボクは一人の方が気楽だし」


 これ以上は時間を無駄に出来ない。

 キッパリと彼女の誘いを断った、そのタイミング。



『ピピーッ!!!!』



(ん?)


 突如として“警笛”が街に響く。

 一体何事かと周囲の様子を伺い、すぐに気づいた。


 常闇の中でキラキラと輝く鱗粉。

 それを撒き散らす“小さな姿”を前に、ボクが「おっ」と驚いて一歩下がり、パルフェは「あっ」と驚いて一歩前に出る。


「わぁ『妖精族』だ、珍しい~。小っちゃくて可愛い♪」


「馴れ馴れしく触らないで!!」


「あうッ!?」


 パルフェがおもむろに伸ばした手を、妖精族の少女が鋭いキックで弾き返す。

 痛そうに右手を抑える彼女を尻目に、ボクは“小さなその服”を見て冷や汗をかいた。


(この制服……間違いない、管理者だ!!)


 小さな彼女の肩には『F』の紋章も見える。

 ここ『Fantasy World (幻想世界)』の管理者であることは疑いようもないだろう。

 脱獄したボクを捕まえに来たのなら、少々仕事が早過ぎる気もするけれど……。


「奴等を逃がすな!!」

「囲んで逃げ場を失くせ!!」


 どうするべきかと悩んだ僅かな時間。

 その間に、妖精族に遅れて5人の管理者が姿を現した。

 耳の長いエルフ族に、小柄で筋肉質なドワーフ族、そしてボクみたいな普通のヒト族の“混合”管理者集団だ。


 妖精を含めた管理者6名に逃げる間もなく取り囲まれ、それを街の人達が「何事だ?」と更に取り囲む。

 あっという間にできた“人の壁”の中心で、小さな妖精は大きく勝ち誇った顔をこちらに向ける。


「観念しなさい悪党共、最早アンタ達に逃げ場なんて無いわよ」


「ちょっとッ、何で私達が悪者扱いなの!? 悪い事なんて何もしてないのに!!」


 ボクの背に隠れたパルフェが叫ぶも、妖精族の管理者は涼しい顔。


「知らないふりしても無駄よ。“保護対象”の希少な幻獣:サラマンダーを、アンタ達が殺した事は把握済み。30分くらい前に生体センサーが1つ反応を無くした、って言えばわかるかしら?」


「な、何のコト? 私にはサッパリわかんないなー。何の話だろー?」


 必死で知らないふりを決めるパルフェだけれど、棒読み口調で目が泳ぎまくっている。

 演技力は皆無だと思っていいだろう。

 どのみち相手はボク等が犯人だと既に断定しており、ここから誤魔化すことは不可能だと断定して動くべきか。


「保護対象だか何だか知らないけれど、ボクがやったのは正当防衛だよ。やらなきゃこっちがやられてたんだ」


 ボクが一歩前に出ると、妖精族の管理者は拍子抜けした顔で肩を竦める。


「あら、案外あっさり認めるのね。坊やにしては肝が据わってるけど、言い訳しても無駄よ。どうせ密猟目的でしょ?」


「だから違うって。幻獣の密猟なんか興味もないよ」


「じゃあ何で花畑の丘にいたのよ? あんな幻獣の住処を訪れる観光客なんて皆無よ。パンフレットにも立ち入り禁止区域って書いてあるのに」


「それは……」


 地獄から脱獄した先がたまたま花畑の丘でした、などとは口が裂けても言えない。

 そんなボクの沈黙を降参とでも捉えたか、妖精族の管理者は鼻高々に声を上げる。



「『幻獣保護法違反』により、アンタ達の身柄を拘束するわ。捕らえなさい」



「「「はッ!!」」」


 威勢の良い返事と共に、5人の管理者が一斉に襲い掛かって来た!!


(問答無用か。体術はあんまり得意じゃないけど……)


「観念しろチビガキ!!」


 一番手はエルフ族の管理者。

 罵声と共に殴り掛かって来た彼の長い脚、その脛に“つま先蹴り”!!


「ぎゃッ!?」


 続けて二番手。

 突進を喰らわせようとしたドワーフ族の管理者に、石畳の隙間に溜まった砂をかける!!


「うおッ、目が!?」


 更には三番手。

 ヒト族管理者の喉仏を強打!!


「がッ!?」


 四番手、五番手は、そのままの流れで“股間を蹴り上げる”。


「「ッ~~~~!?」」


 言葉にならぬ声を上げ、結果的に5人全員がその場で悶絶。

 僅か数秒の攻防は勝負あったと見ていいだろう。


「どう? これで諦めてくれた?」


「……チッ」


 部下5名を一瞬で無力化された妖精族の管理者。

 小さく可愛らしい顔に似合わない舌打ちし、苦虫を潰したような顔をボクに向けてくる――が。

 彼女は「ハッ」と何かに気づき、すぐさま“勝ち誇った顔”に切り替わる。


「諦めなさい。多少体術の心得があったところで、どのみち無駄な抵抗よ。アンタに勝ち目は無いわ」


「そう? 実力差は圧倒的だと思うけど」


「えぇ、そうね。“圧倒的な実力差”を前に、さっさと降参した方が身の為よ」


「ん?(何だ? 急に自信満々になったけど……)」



 ――ズンッ!!



「……え?」


 “それ”は突然降ってきた。

 ボクの目の前に、見上げるほどに馬鹿デカい男が。


(は? えっ? この男、まさか……ッ)


 生で見るのは初めてだけど、ボクはこの男を知っている。

 嘘みたいに大きな身長5メートルは、地獄の閻魔王と並ぶ『AtoA』最大クラス。

 その正体は、“世界最強の男”。


「『Fantasy World (幻想世界)』の覇者、“魔人:ホルス”……ッ!!」

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