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94話:鬼と黒ヘビ

「……見逃してくれた、ってことでいいのかな?」


 ホッと安堵の息を漏らすも、独りぼっちとなった浜辺でボクの心臓は大きく鼓動している。


 つい先ほどの事だ。

 予期せず姿を現した3人の管理者が、更に予期していなかったバグを追って、この場を後にしたのは――。



 ~ 数分前 ~


 バグを追い詰めたと思ったら、そのバグが青い光に包まれて消えた。

 つまりは”世界を渡航”したのだ。

 まさかの光景を目の当たりにした管理者達は、端的に言って非常に慌てていた。


「おいッ、やべーぞコレ!! 渡航したってことは既にレベル4じゃねーか!!」


「……だね。放置してたら本気で局長に怒られるやつだよ」


 これまでずっと怒っていた弟の管理者。

 彼が珍しく慌てた表情を見せ、冷静だった兄の管理者からも僅かに動揺の色が見てとれる。

「どうするんだい?」とは鬼の管理者で、その台詞を受けた兄の管理者が懐から四角い端末を取り出す。


「バグの渡航先は……なるほどね。すぐに追うよ」


「なら、さっさとあのチビをぶっ殺して――」


「駄目だ、今すぐ行くよ。僕等の使命を忘れたのかい?」


「……チッ」


 不満を隠そうともしない舌打ちの後、弟の管理者は渋々と身を引いた。

 先程までボクを「殺す」と喚いていたのに、バグが現れ、そして渡航した途端にこの変わりようだ。


「おいチビ、テメェの首はまた今度だ。足洗って待ってろ」


「ブラ君、そこは“首”を洗ってが正解だよ。兄として恥ずかしいから、これ以上痴態を晒すのは辞めてくれないかな」


「うるせぇ!! 追うならさっさと追うぞ!!」


「おや、やる気を出してくれたのは結構だね。さぁ行こうか」


 四角い端末を懐にしまい、続けて兄の管理者が手のひらサイズの青く光る石を取り出す。

 ボクにも最近見覚えのある『ポータブル世界扉』に間違いなく、慣れた手つきで操作しながら、彼は少し離れた鬼の管理者に声を掛ける。


「エンジュ君はどうする? 僕等は一度“基点”の本部に戻って、そこから改めてバグを追うけれど」


「気にするな。私は私のやりたいようにやる」


「そう。なら僕達はこれで」


 あっさりとした別れの言葉。

 天使の管理者兄弟二人はそのまま青い光に包まれ、呆気なく『Ocean World (海洋世界)』から姿を消した。


 これで場に残ったのは、ボクと鬼の管理者の二人だけ。

 戦いの続きでも始まるのかと思ったけれど、しかし彼女の刀は、何故かボクではなく明後日の方向を向いている。


「そっちに何かあるの?」


「まぁそんなところだ。岩場の陰にバグがもう一匹隠れている」


「あ、本当だ」


 全然気づかなかったけれど、確かに彼女の言う通り、岩場の陰にバグがいた。

 先程の奴よりは小さく、せいぜい50センチといったところだろうか。


「さっき分裂したバグの残りかな?」


「いや、別個体だよ。もしアレが先程のバグの残りなら、“本体”が渡航した時点で消滅する筈だ」


「……本体?」


「“緋核レッドコア”を持っている部分のことさ。人間でいえば、心臓と脳が合体した部位だと思えばいい」


「なるほど、それは確かに重要そうだ」


 スライムみたいで生物感が薄いバグだけど、一応「弱点」というか、明確に「本体」だというモノがあるらしい。

 『Closed World (閉じられた世界)』で遭遇した岩の化け物:岩奇獣ガンズマンでいうところの、蓄熱光石レイジナイトみたいなものか。


「あの兄弟の尻拭いをするのは癪だけど、まぁ私としてもバグを無視する訳にはいかないからね」


 言って、鬼の管理者が刀を振るう。

 

 ――斬ッ!!

 バグが真っ二つに割れ、その片側に真っ赤な石みたいなモノが見えた。

 アレが“緋核レッドコア”、つまりはバグの弱点だ。


「はい、終わり」


 鬼の管理者がもう一度刀を振り、“緋核レッドコア”をパキンッと粉砕。

 小さなバグは黒い霧となって、『Ocean World (海洋世界)』の青い空に霧散して消えた。



 ――――――――



「さて、そろそろ私も行こうかな」


 バグを倒した鬼の管理者が、慣れた手つきで刀を腰の鞘に収める。

 邪魔者が全ていなくなり、これから本格的な1対1が始まるのかと思いきや、そういう流れではないらしい。


「戦わないの?」


「興が削がれた。そもそも今のキミを倒しても面白くないからね。もっと強くなってもらわないと戦いが一方的過ぎてつまらない」


「別にそんなことは無いと思うけど……まぁいいや」


 明らかに舐められているのは少々癪だけど、管理者と戦わないで済むならそれに越したことはない。

 素直にありがたいなと思いながらクロを身体に戻す――すると、鬼の管理者が静かに刀を構えた。


「気が変わった。邪魔者もいないし、ここで決着を付けよう」


「……わかったよ」


 ぬか喜びとはこのことか。

 仕方なく左手にナイフを構え、クロの右腕を出す――すると、鬼の管理者がスッと刀を降ろす。


「やっぱり気が変わった。また今度にしよう」


「えぇ、気が変わり過ぎでしょ。山の天気じゃあるまいし……もう戦うなら戦うでいいよ。1対1なら別に逃げないし、やるならやろう」


「駄目だ。気が変わったからね」


「………………」


 ボクをからかっているだけなら今のを最後にして欲しい。

 仕方なくクロの右腕を引っ込める――すると、再び鬼の管理者が刀を構える。


「前言撤回。脱獄者のキミを管理者として見逃すわけにはいかない。そうだろう?」


「………………」


 今度は何も言わない。

 クロの右腕を出すと、鬼の管理者が刀を降ろした。


「辞めだ。子供をいたぶる趣味は無くてね」


「………………(もしかして?)」


 “一つの可能性”が頭を過ぎった。

 それから改めてクロを出し、呼応するように刀を降ろした鬼の管理者にボクは告げる。


「もしかして、クロのこと苦手?」


「そッ、そんなわけないだろ馬鹿者!! 別にヘビなんて怖くなギャッ!?」


 クロを伸ばして顔に近づけたら、思いっきり仰け反って尻餅をついた。



「「………………」」



 互いに沈黙。

 非常に気まずい時間が流れる。


 その気まずさに耐えかねたのか。

 鬼の管理者は無言のまま立ち上がって歩き出し、ロープでぐるぐる巻きにしていた密猟者二人を、「足蹴」にしてから崖の細い道に消えていった。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



「た、助かったのか俺達?」


「よくわからねぇが、今の内に逃げるぞッ。あんな化け物共に目を付けられたら終わりだぜ」


 管理者3人が海辺から消え、命拾いしたのはボクだけではない。

 ロープでぐるぐる巻きにされ、そのまま放置されていた密猟者二人も同じだ。

 

 ゴツゴツした岩でロープを痛めつけ、最後は力にモノを言わせてロープを引き千切ったドワーフの男。

 海鱗シーガ族の仲間も同じようにロープを解き、それから二人はボクに視線を向け、逃げるように崖の細い道を駆け上ってゆく。


「……まぁいいか」


 ボクは賞金首だ。

 仮にあの二人を捕まえたところで管理局へは連れて行けない。

 肝心の番貝ナンバールが入った麻袋も浜辺に放置してあるし、下手に出しゃばる必要は無いだろう。


「さっきの炎で焼き貝になってなきゃいいけど……うん、大丈夫そうだね」


 炎の直撃は逃れたおかげか。

 麻袋の中で、貝からはみ出ている“中身”部分が動いていた。

 おじいちゃんからは「生け捕りじゃないと意味が無い」と聞いていたので、これなら一安心だろう。


 蒸発した潮だまりも打ち付ける波で復活しており、そこに麻袋一杯の番貝ナンバールをゴロゴロと入れる。

 時間経過と共に2匹1セットの構図が生まれ、その中から1組だけ手に取り、水平線から太陽が顔を出す頃にボクはホテルへと戻った。



 ■



 ~ 管理者3人との邂逅から2日後 ~

 秘密結社『朝霧』の隠れ家(アジト)にて


 おじいちゃんから借りていた『ポータブル世界扉』を利用し、ボク等は無事に“基点”となる隠れ家(アジト)のロビーへと戻って来た。

 この3日間、『Ocean World (海洋世界)』ではしゃぎにはしゃぎまくったパルフェとテテフは早速お風呂に向かい、ボクは持ち帰ったお土産と共に「番貝ナンバール」をローテーブルの上に置く。


「むっ、戻って来たか。番貝ナンバールは手に入れたようじゃな」


「うん。色々あったけど、まぁ何とかね」


 二階の自室にいたのか、螺旋階段を降りながら声を掛けて来たおじいちゃん。

 任務達成したボクを労ってくれる――訳もなく。

 ソファーに座ったおじいちゃんは番貝ナンバールを杖で転がし、さも当然とばかりに告げる。


「次の任務は“鬼”じゃ」


「……へ?」



*あとがき

 次話「95話:暗闇に浮かぶ真っ赤な瞳」の前に、一旦挿絵を挟みます。

 そういったモノを見たくない方は、遠慮なく飛ばして頂いて大丈夫です。

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