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カリーンの演説!!

「諸君、私は誇らしい」


 演壇の中央まで来たカリーンの演説が始まった。その第一声が、静粛に包まれた群衆へと届く。


「我々は今、困難のさなかにいる。強力なモンスターばかりの辺境の地。土は魔素に満ち作物は育たず。恐ろしい風土病に苦しみ。空からのモンスターの襲撃もあった」


 ゆっくりと群衆を見渡すカリーン。カリーンの背後から見ている私にも、群衆が一心にカリーンを見つめ返しているのがわかる。


「そのどれもが、私一人の力では乗り越えられなかっただろう。しかし、諸君らがいてくれた。最高の部下達がいた。頼れる隣人がいた。我々は協力し合い、その全てに打ち勝ってきた! 我々は、一人では無いのだ」


 いったん口を閉じるカリーン。


「カリーン様っ」「万歳!」「アドミラル領、万歳!」


 群衆から上がる声援。

 それをカリーンは片手をあげ、静める。


「最初、数個の天幕から始まったこの地。数多の苦難の果てに、今がある。見よ、まわりを」


 ゆっくり大きく腕を振るカリーン。皆がその手の動きに合わせ、周囲を見渡し、そして笑顔になる。


「ついに、ついにだ。ここまで来たのだ。見よ。皆の献身と協力の成果を。そしていま横に立つ仲間達を。私は誇らしい。諸君らのことが、誇らしくてたまらない」


 静かにアーリがカリーンの横へと控える。その手には一枚の羊皮紙。


「私は今ここに、命名する。諸君らと共に作り上げた、この街。領主としての権限の元、名付ける。この街の名は、ハーバフルトン」


 アーリがカリーンの台詞にあわせて羊皮紙を広げる。羊皮紙を高々と掲げ、そこに書かれた街の名を皆に示す。


「ハーバフルトン」「ハーバフルトン……」


 ざわざわとその名を繰り返す群衆。まるで自らの口に、その名を馴染ませるかのように。


「さあ、いにしえよりの習わしに従い、カゲロを植えよ。ハーバフルトンの栄光を祈願して」


 群衆の真ん中を指し示すカリーン。

 ロアが、カゲロの苗を手に、進み出る。壇上から下り、まっすぐカリーンの指差す先へと進むロア。

 群衆が自然と二つに割れる。広場の真ん中に道が出来る。

 その中央を、苗を捧げもったロアが進む。


 広場の中央に設えられたレンガの囲い。その中には私が魔素抜きをした土が露出している。


 ロアがその中央に、苗を置く。ゆっくりと土をかけていく。


 その時だった。

 高らかな鳴き声が広場に響く。


「キュルルルルー!」


「ホワイトドラゴン?」「ルスト師の?」「あれ、セイルークだ」「あれが噂の! 美しい」


 ざわめく群衆。


 ──え、セイルーク? なんで? 命名式の式次第には、なかったはず!


 驚く私の気も知らないで、セイルークが翼を羽ばたかせながら、カゲロの苗の前へと降り立つ。


 ロアが、押し出されるように後ろに下がりながらこちらを見てくる。私は手で謝罪の気持ちを伝えるも、どう対応すべきか一瞬戸惑ってしまう。

 その間に、事態は急激に進行していく。


 首を上に上げ、再び高らかに鳴き声を上げるセイルーク。

 その顔の前に、不思議な紋様の魔法陣が現れる。


「あれはっ! 原初魔術の魔法陣!? ワシですら見たことのない形だぞっ」がたっと物音を立てて叫ぶハルハマー。


 セイルークの前に現れた魔法陣が回転しながらカゲロの苗へと吸い込まれていく。

 カゲロの苗が光り輝きながら、急速に成長を始める。


 根が力強く大地を割り。

 みるみるその幹が太くなり。

 葉が生い茂る。


 瞬く間に、大木へとなったカゲロ。その枝には既にカゲロの実がなり始めていた。


 群衆から、どよめきがおきる。口々に奇跡だと叫ぶ者。ホワイトドラゴンの祝福だと、喜ぶ者。

 そして、いにしえのドラゴンの伝説を知る者は、ハーバフルトンの栄光が約束されたと声を上げる。


 歓声が、広場を埋め尽くした。







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