皆の笑顔を受け取ろう!!
「以上が今回のスカイサーモンの襲撃に際しての被害状況及び獲得した魔石の概算金額となる。この中から、特に素晴らしい働きをした者に特別報奨を授けるものとする」
カリーンの天幕に野営地の主要メンバーが集められていた。私も呼ばれたのでカリーンの話を聞いている所だった。
「アーリ、ロア」
「はい」
「スカイサーモンの襲撃に際しての戦力調査、ご苦労だった。危険な任務をこなし、情報を素早く広めてくれて、本当に助かった」
カリーンの労りの言葉に続き事務官の男性が報償金の入った封筒をそれぞれ二人に渡す。
「次にリットナー」
「はっ」
「非戦闘員の護衛任務、大儀であった。非戦闘員から被害が出なかったのはお前のお陰だ。うちの連中は皆、血の気が多いからな。前に出たがるやつを統率するお前の手腕を信頼している」
「恐縮です。現役からは退いたつもりだったんですが、お役に立てて良かったです」
リットナーもカリーンにこたえると事務官の男性から封筒を受けとる。
「最後に、ルスト」
「はい」と私は答える。
「あれだけのスカイサーモンの大群に対し、あっという間に準備を整え、一瞬で野営地に被害を増やさない手段で討伐したこと、偉業と称えられてしかるべき行いだ。お陰で野営地の被害は最小限で済んだ。一歩間違えればこの開拓事業自体が頓挫していただろう。感謝の言葉もない。ルストに来てもらっていて、本当に良かった」
「恐縮です」とあまりに絶賛されてしまい思わず言葉短く答え、私も封筒を受けとる。
すると、自然と天幕の中にいるメンバーから、拍手が上がる。
私は驚いて皆を見回す。そこにあるのは皆の笑顔だった。
ゆっくりと皆を見回していく。
ロアは表情はあまり変わっていないが、誰よりも大きな拍手を送ってくれている。
アーリは優しく微笑みながら。
リットナーはその大きな手を豪快に打ち鳴らしている。
カリーンはとても安心した表情をしている。
それ以外の皆も、誰もが笑顔で手を打ちならしていた。
皆のその喜びの表情。
リハルザムを取り逃がした事で、胸の奥で感じていた僅かばかりのわだかまりが、その皆の笑顔でほどけるように消えていくのを私は感じた。
拍手が止むのを待って、カリーンが再び話し始める。
「また、今回のスカイサーモンの襲撃の前にあったリハルザム師によるルストへの凶行については、錬金術協会へ正式な抗議を行っている。ただ、見たものも多いとは思うがスカイサーモンはやはり王都も襲撃していたようだ。どうも錬金術協会に大きな被害が出たらしい」
そこで一度言葉を切るカリーン。こちらを向いたカリーンと目が合う。
私は知らされた古巣の悲報に、戻る気は更々なかったとはいえ、思うところはある。しかし、気持ちを切り替えてカリーンの視線に応えて口を開く。
「王城も混乱していそうですね。これは沙汰を待つより、この機会に魔晶石の流通を一気に推し進めるべきですね」
「そうだな。ルストには労力をさいてもらうことにはなるが」
「問題ありません」
「よろしく頼む。次のカゲロの実も近日中に到着予定だ。そしてだ、今後を踏まえ、道の整備の優先順位を上げる事にした。隣の領の領主も熱望しており、これから詳細を詰めていく。皆も協力をよろしく頼む」
と頭を下げるカリーン。皆がそれに肯定の返事を返す。
そこで解散となった。
私はカリーンの天幕を出て、自分の天幕へと向かう。
すれ違う野営地の人々の顔は皆、明るい。
そして何かしらと、声をかけられる。そのどれもが感謝や称賛の言葉ばかりで中々に面映ゆい。
なんとか自分の天幕にたどり着くと、ほっと息を吐きながら中へと入る。
中に入って数歩、歩いた時だった。いつもと様子が違う雰囲気。
辺りを見回して、最後に部屋の隅へと視線を送る。
大きくてつぶらな瞳と、目が合う。
眠っていたはずの白トカゲが目を覚ましていた。




