殲滅しよう!!
広場につく。
漆黒のフルプレートアーマーを着こんだカリーンが、戦いながら陣頭指揮を取っているところだった。ロアとアーリも無事な様子。
──そういえばあのフルプレートアーマーがカリーンの二つ名の由来なんだっけ。隕鉄製の鎧、だったか。あれ着て戦っているのを見るのは、初めてだ。
常人の数倍の筋力を誇るカリーンにとって、一番不足しているものは重さ、そのものだったりする。その不足していた重さを補うのがあのフルプレートアーマーと巨大な大剣、らしい。
そんな事を考えている間に、カリーンが地上近くまで降りてきたスカイサーモンの群れに、単身、突撃する。
一足で、風を切る速さにまで加速したカリーン。その足跡の形に、土がめくれ上がる。
大剣を振り回しながら、スカイサーモン達の中へ。
豪腕で振るわれた大剣が、切ると言うよりもすり潰すようにしてスカイサーモン達の命を散らしていく。
一匹のスカイサーモンが大剣をかい潜る。そのまま、カリーンへと迫るスカイサーモン。
カリーンはしかし、一瞬のためらいも見せない。
カリーンがスカイサーモンとぶつかり合う。そしてそのまま、轢き殺してしまう。
「……あれが戦争の英雄、漆黒の猛牛、か」私は思わず、カリーンの二つ名を小声で呟いてしまう。
「ルスト師! 準備は?」と手の届く範囲のスカイサーモンを殺し尽くしたカリーンが、こちらに気づいて声をかけてくる。
「準備は完了!」
「相変わらず、仕事が早いな! ほとんど時間経ってないだろう。私が暴れ足りないくらいだ」と苦笑するカリーン。
「一つ質問! 非戦闘員は?」と私は気になった事を訊ねる。
「食料保管庫だ」
──なるほど空から襲われるのだから、地下の食料保管庫は合理的な選択だ。安心した。
「了解! それじゃあ開始する」
「よろしくな! ルスト師。ロア、アーリ! 二人は小休止を」と二人にも声をかけるカリーン。
私は近くに来る彼女達を横目に、スクロールを取り出す。
「《展開》《展開》《展開》────《展開》」
取り出したのは計九本のスクロール。それが展開状態となり、私の周りの空中をくるくると移動する。スクロールに込められた魔素、それが移動した跡にそって、つかの間のきらめきを残す。
「きれい」「こんなに同時展開出来るなんて」「まだまだこれから凄くなるさ、ルストなら」とすっかりくつろぎモードのカリーン達三人。
「《顕現》ローズ」
と、私は苦笑しながら一言。
その一言で九本の《顕現》のスクロール、全てからローズのイバラの蔓が溢れだす。
「何あれ?」「ローズの蔓じゃないかしら」「ほう、これはすごい」とカリーン達。
これこそが《顕現》のスクロールの応用的活用。すでに召喚済みの錬成獣の体の一部だけを《送還》し、待機空間を経由させて別のスクロールから現実空間へと顕現させているのだ。
そうしている間にも広場にいたスカイサーモンへと絡み付いていくローズのイバラの蔓。その棘に絡めとられたスカイサーモンが次々とバラバラにされながら、スクロールへと引きずり込まれていく。
ローズによる順調な処分で、すぐに広場からスカイサーモンの姿が消える。
そのタイミングを見計らい、私は次の段階へと進めていく。
「さて、殲滅の時間だ。スクロール、散開」私の声に合わせ、九本のスクロールがローズの蔓を生やしたまま野営地の各所へと飛び去っていった。




