SSヤィードの記憶《第四世界》
「そちらのお嬢さんだがね、もしかしてストーンヘルさん、かね?」
地下水脈ダンジョンをゆっくりと進むヤィードがポツリと、ヒルダちゃんにむかって訪ねてくる。
「──申し遅れましたわ。おっしゃる通り、わたくしはヒルダ=ストーンヘルと申します。リサルザム=ストーンの娘。錬金術師です」
どこか警戒した様子のヒルダちゃん。それでもしっかりと名乗りをあげる。
確かにいきなり名前を当てられたなら警戒してもおかしくはない。私もどうしてヒルダちゃんの名前がわかったのか不思議に思う。
「そうかそうか。あのリハルザムも人の親か。第四世界ともなると、色々と変わるものだな。さて、ついたぞ。少し雑然としているがの」
「父をご存じなのですか!?」
ダンジョンの一室を改造して設えられた様子のヤィードの部屋。しっかりと魔物避けもされている。
魔物避けの錬成品は一見、作りは荒いが、効果は確かなようだ。そして何より、私が見たこともない仕様で作られているようだった。
「前回、少しな。協会長をしていた時に一緒に働いていたのさ。向こうは覚えてないだろう」
私はヤィードの物言いを不思議に思う。いまいち整合性がとれていないのだ。しかし、嘘や虚言を言っている雰囲気も感じられない。
世捨て人特有の妄言の可能性もあるが、整えられた室内や、粗雑とはいえ機能している錬成品を見ると、それも違うように感じる。
ヒルダちゃんも同じように感じているのが伝わってくる。ヒルダちゃんも、次にヤィードにどう尋ねるか、考えあぐねているようだ。
「……ヒカリダケの乾燥茶ですね。美味しいです」
「それは良かった」
そうしている間にヤィードによって用意されたお茶。ヒルダちゃんは一口でそれを当てる。
私はヒカリダケのお茶とやらを飲んだことはなかったが、確か結構な高級品だったはず。
「こちらで育てているのですか」
「ああ。照明用魔導具の錬成素材に。あまりをお茶にしている」
そこで、ヒルダちゃんが意を決したようにして質問を投げ掛ける。
「あの、ヤィードさんは、錬金術協会の協会長だったのですか? 失礼ながら、歴代の協会長にはヤィードさんのお名前はなかったように記憶しているのですが」
「そうかね」
ヒルダちゃんの礼を逸した質問にも淡々としているヤィード。
逆に私たち四人の顔を順々に見ている。まるでなにかを見定めようとしているかのようだ。
「まあ、よいか。これは老いぼれの妄言と思ってくれても構わんのだがね。私は一度、死んでるのだよ。羽の生えたアーマーサーモンにやられてね。その時に、役人から錬金術協会の協会長になっていたのさ。その錬金術協会には、リハルザムもルストもいた。まあ、ルストは退職してしまっていたがの」
一口、ヒカリダケのお茶を啜るヤィード。
「そして死んで、気がつけば、こちらにいたのさ。まだ、役人としては働いている時まで戻っていての。しかもそれ以外にも前とは違うことが色々とあってな。愚かにも私は、その自分が死んだときまでのことを黙ってられなくてな。おかしくなったと思われて役人はクビさ。それから色々とあって今はここで暮らしとるのよ」
ふぅ、とため息をつくヤィード。
「ここらの錬成品は前の生きている時に見たものを見よう見まねで作っておるのさ。どうやら、私はあの時羨ましかったんだよ。錬金術師たちのことがの。自分でも錬成をしてみたかったんだと、今ではわかる。さて、これで老いぼれの話がはおわりだ。信じられんだろ、こんな話?」
達観したように告げるその姿は、私にはやはり嘘をついているようには思えなかった。
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