side リハルザム 6
「ここが一番近いな」とトルテーク達は基礎研究課が使っていた保管庫に来ていた。
「少し片付ければ全部しまえそうですね。あそこら辺の古そうな木箱を捨てましょうよ」とスキーニが指差した先には数個の埃をかぶった木箱があった。
「箱にかかれた文字がかすれて読めないな」とトルテーク。
「どうせ貧乏基礎研究課の備品でしょ。大したものじゃないっすよ」とスキーニ。
「ふむ。とりあえず開けてみるか」とトルテーク達は木箱を開けていく。
中にはずらりとボトルが詰められていた。
「箱の中身は全部、無色透明な液体か。魔素の反応はある。無色透明ってことは、これは出来損ないのポーションだな」とトルテークはボトルをかざしてそう断言する。
おもむろにボトルの口を開けると、一滴、自らの手の甲へ。
「やっぱり間違いない、な」と呟くトルテーク。
「さすが貧乏な奴らは物持ちがいいっすね。こんなしょうもない物までとっとくなんて」とスキーニ。
「全くだな。スキーニ、そこの川に全部捨てておいてくれ。他の奴は木箱を片付けてさっさと新型魔晶石を運び込むぞ」と指示を出すトルテーク。
運び出されていく木箱の蓋の裏に、実はその液体の名称と取り扱いに関する注意事項が明記されていたのだ。『濃縮魔素溶液』と。しかし、トルテーク達は全く気がつかずに、液体は全て川へと捨てられてしまった。
その濃縮魔素溶液は、ルストがある基礎研究の初期段階で昔よく使っていたものだった。濃縮魔素の作成に手間がかかるため、作りおきが保管されていたのだ。
幸運なことに魔素は人体に害がなく、川に流しても人への被害は発生することはない。その反面、不幸なことに、被害が出なかったことで手遅れになるまでトルテーク達がやらかした事は発覚しないままとなってしまった。
◆◇
「サバサ! どうだ!」とリハルザムが通信室に駆け込むなり大声をあげる。
最新式の情報通信装置が並ぶその部屋で、サバサは顔面を蒼白にして手にした羊皮紙をリハルザムへと渡す。
「リハルザム師、大変です。魔晶石が、旧型の魔晶石が出回っているみたいです。それも大量に」と震える声で伝えるサバサ。
「バカな! そんなことはあり得ないはずだっ。もし錬金術協会の協会員が裏切ってそんなことをすれば、追放ものだぞ! もぐりの野良錬金術師どもには、そんな技術はないはずだ。輸入も完全に禁止されている。少数なら密輸の可能性はあるが大量になんてあり得ん!」とわめき散らすリハルザム。
「わ、わかりません。ただ、どの取引先も、新型魔晶石は返品するの一点張りで。どうしましょう。完全に不良在庫です」とサバサ。
「売上はどうなっている!」
「ごく一部だけ回収できていますが……。大赤字です」とサバサが概算の赤字額を計算して手渡す。
「あ、赤字だと! そんなことは許さん、許さんぞ! 万が一そんなことになったら、わしがルストの奴に頭を下げて復帰をお願いしに行かなければいけなくなる。そんな屈辱を受けるぐらいなら、いっそのこと……」段々と声が小さくなり、やがてぶつぶつと呟き続けるリハルザム。
そこへ協会長からリハルザムへ呼び出しがかかる。
「おいっ、サバサ、なんとかしろ!」
「そ、そんなっ! 無理ですよ。もうどうしようもありません」
「くそくそくそっ!」と叫ぶリハルザム。
こうして、協会全体の売上が目標から大幅に落ちた事をリハルザムが協会長から責任追及されている頃。魔素濃度が異常に高まった川の水は、どんどんと下流へと流れていっていた。その先の海へ向かって。アーマーサーモンが大量発生中の、海へ。




