水問題を解決しよう!!
私はカリーンに帰還の挨拶だけした後、自分の天幕で白いとかげの様子を確認していた。相変わらず眠り続けている。
「ローズ、見守ってくれて、ありがとうね。この子用のポーションも、ちゃんとあげてくれたみたいだね。状態は、変化なし、と。とりあえず悪化はしてないか」と、白とかげの状態をスクロールで確認しながら、ローズにお礼を伝える。
二股に別れた蔦を、ふりふりして答えてくれるローズ。不在中に定期的に白とかげにかけて欲しいとローズにお願いしていたポーション。私の不在の日数分、きっちり消費されていた。
過度な魔素は、人間以外のあらゆる生命にとって害になる。モンスターでも過度な魔素を摂取すると死んだり、そこまで大量でなければ凶暴化したりする。そのため、人間に使うように魔素がどばどば入ったポーションで、あっという間に治してしまうという事が出来ず。今回のように長期戦の治療の時は、きちっとした性格のローズがこういう点でも非常に頼もしい。
私は再びローズに白とかげを見守るようお願いすると、仕事を片付けてしまおうと、天幕をあとにした。
そうして、浄水機能つきの水瓶の前に来ている。
ロアとアーリは先に帰って来ていたようだ。中古の水瓶の横に二つ、新しい水瓶が並んでいる。もちろん、その二つはただの瓶だ。
一つが人の背丈よりも大きな水瓶が三つも並んでいると、なかなかの迫力だ。
「さーて、浄水機能をぱぱっとつけちゃいますか」と私が準備を始めていると、ロアがやってきた。
「お、ロア。水瓶の調達ありがとう! 良いのが手に入ったね。輸送、大変だったでしょ」とロアに声をかける。
「問題ない」と言葉少なく答えるロア。相変わらず表情は見えないが、声の感じでは私から労われて嫌、という雰囲気はなさそうだ。
「輸送も速いし、傷ひとつなし。素晴らしいね。他には何も問題は起きなかったかな?」と彼女達の持つ目の異能をもってすれば、だいたいの困難は回避できるだろうなとは思いつつ確認する。
「王都、空気がピリピリしている。物価も消耗品で高くなっていたものがいくつかあった」と珍しくちゃんと答えるロア。
「ほー。何かあったのかね。それはカリーンには?」
「当然。カリーン様には報告済み」
私はカリーンが知っているならいいかと、特に深くその事については追及しなかった。王都で、錬金術協会からの各種錬成品の納品が遅れ始めているせいで、物価にまで影響が出ているなどと思いもよらなかったのだ。
「よし、準備完了っと。ロア、少し離れてて」とこちらを見守っているロアに声をかけると、スクロールを展開していく。
今回は簡易的な錬成だ。
「《展開》《展開》《展開》《展開》《展開》」
空中でくるくると広がるスクロール達。
「《研磨》」
一つ目のスクロールの上にミニ竜巻が発生する。
今回は金剛石の粉は最大濃度だ。ここまで高濃度だと、かなり殺傷力も高い。
そこに、手にいれた魔石を数個、慎重に放り込む。
魔石が、粉々に粉砕されていく。
あっという間に魔石の粉が出来ると、金剛石の粉の濃度をゼロにする。ミニ竜巻のなかは、魔石の粉だけとなる。
先に用意していた完全なる純水のボトルを、ミニ竜巻の下へ持ってくる。ゆっくりミニ竜巻を下から解除していく。
完全なる純水の表面に、魔石の粉がさらさらと降り積もる。
純水の完全さを保持していた魔力を解除。
物理法則の支配下に戻ってきた完全なる純水が、極限まで下げられたエントロピーを増やそうと、一番手近な物──魔石の粉を溶かして行く。
あっという間に魔石の粉が完全に溶ける。
「まずは魔導回路を描くための溶液が完成っと」
「いつ見てもすごい……」と後ろで見ていたロアの感嘆の声。その目はふよふよと動くスクロールに釘付けのようだ。
そんなこと言うの珍しいなと、私が後ろをちらりと振り向くと、プイッと顔を背けられてしまう。
まあいいかと作業を続ける。次はいつもの《転写》《解放》と、普段あまり使わないスクロール、あわせて三本を同時使用だ。それと一冊の本。
「《解放》重力のくびき《対象》魔導回路溶液。《転写》《投影》」
ふわふわと空中に浮かぶ魔導回路を描くための溶液。両手が空いたところで、左手に持った本に右手をかざす。この本自体も魔導具だ。
「《索引検索》浄水回路《実行》」
本が開いたかと思うと、パタパタと自動でめくれていく。
真ん中ぐらいまでめくれた所で、ピタリと動きが止まる。
私は間違いなく浄化用の魔導回路が載っているのを確認すると、《転写》のスクロールでその魔導回路を写しとる。
そのまま《投影》のスクロールで転写された魔導回路を新品の水瓶に映し出す。ふよふよと浮いていた溶液を投影のスクロールへ。
霧吹きのように、投影された魔導回路の形に溶液が水瓶へと吹き付けられていく。あっという間に浄水の魔導回路の形に溶液が水瓶の表面に張り付く。
「《定着》」最後のスクロールで魔石の粉の溶液で描かれた浄水の魔導回路を水瓶に一体化させる。
「よし、後は動力用の魔晶石をくっ付けて完了っと」私はこれも予め作っておいた魔晶石を《定着》で水瓶に一体化させる。
そのまま二つ目の水瓶もささっと浄水機能をつけておく。
「これで、水使い放題──」と嬉しそうなロア。声が弾んでいる。
「いやいや。まだこれからだよ?」
「え?」と不思議そうなロアの声
「え? だってこれだとまだ水を運んだだけしか使えないでしょ?」と私。
無言で頷くロア。
「今から別の魔導具を作って、運ばなくて良いようにしに行くから」
「そ、そんなことが出来るのっ!?」とずいっと近づきながら聞いてくるロア。これまでにない食い付き。
ただ、一つ目のフードが目の前に近づいてくるのはちょっと怖かった。
予算ゼロ 登場するスクロール一覧(現時点)
・顕現 《顕現》《送還》 錬成獣を召喚、送還する。ヒポポ。ローズ
・転写 《転写》 文字や画像のコピー。 《転写開始》《示せ》 物体の状態を読み取りスクロール上に表示
・解放 《解放》重力のくびき《対象》~ 対象としたものの重力操作
・純化 《純化》 純水の作成。物体の状態異常完全防御化
・定着 《定着》 状態を固定する
・研磨 《研磨》 竜巻を発生。金剛石の粉を竜巻内で発生させる
・投影 《投影》 画像等を投影する。液体を吹き付ける




