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71.コリナ丘陵-9

今回は他プレイヤー目線が含まれます。

後書きで評価について書いています。

「よし、やっと戻ってきたな」


視界の先に懐かしい巨大な岩柱が見える。一月ぶりにコリナ丘陵で初めて作った拠点に戻ってきた。一月放置していたが中は変わっていないだろうか。


この一ヶ月、北に向かって拠点を作りレベル上げをした後、西に向かって川を見つけてたどり、湖を発見した。湖の近くの安全そうな森の中にも一つ小屋を立ててきたので、この一月で追加で拠点を二つ作ったことになる。


今は再度戻った北の拠点から岩柱の拠点まで戻ってきたところだ。


北の拠点の近くを探索しているときには新しくダンジョンを見つけた。少し探索してみたが《亜人の巣》とは全く違う特徴を持ったダンジョンだった。


ただ、全体的なレベルも《亜人の巣》よりは高かったので奥まで探索するのはやめておいた。


この一月はとりあえず生き残って街に戻ることを一つの目的としていたので、レベル上げはしていたが無茶はしていない。一度大型モンスターのワイバーン型に狙われるというハプニングはあったが。あれは事故のようなものだ。


入り口の岩を登り初めて作った拠点に入る。倉庫などを確認するがどうやら変わりないようだ。


今日は一日ここで泊まり、明日には街に戻る予定だ。装備のアップグレードにアイテムの売却、情報交換とやることはたくさんある。


他のメンバーとはフレンドコールで何人か話したが、フォルク、トビア、グレンは俺と同様にコリナ丘陵の探索を、ルクはライアを連れてサスカー海岸の探索を、そして残りのメンバーは二つのパーティに別れてルクシアの方で新しい街に行っているらしい。


詳しいことは自分で見てみたいので聞いていないが、やることが色々あるようで面白い。


昼前に拠点に着くことができたので、今日は道中狩ってきたファシリカの肉を焼いて豪華に食べることにした。あいも変わらず味付けは塩だけだが。リンオなどの果物を使ってソースなんて言うのもありそうだが、あまり好みではない。


肉を串に刺し、火の側に刺そうとしたところで、遠くで戦闘の音がするのに気づいた。三匹も頭を上げて遠くの音に聞き入っている。


大型モンスター同士の戦闘はこのコリナ丘陵では割と日常茶飯事なのだが、今日は様子が違うようだ。


「剣の音、それに魔法だな、これは」


モンスター同士の戦闘では魔法が使われることはあっても剣の音がすることはない。


この周辺のモンスターで体に剣のような部位を持つモンスターは確認できていないし、おそらく他のプレイヤーが大型モンスターと戦っているのだろう。


「まずいな」


大型モンスターは幾度か軽く様子を探ってみたが、現状のプレイヤーが勝てるような相手ではない。


最低でも種族レベルが50はないと厳しいだろう。それに対して俺がこの一ヶ月戦い続けた結果の現在のレベルが37だ。レベルの上がり方はどんどん小さくなっている。


基本的に積極的に他のプレイヤーに関わっていくつもりはそれほどないが、せっかくコリナ丘陵で初めて他のプレイヤーを見つけたのだし助けに行っておこう。


******


「アル、早く回復しろ!」


「わかってるけど…!」


「あんなのがいるなんて聞いてねえぞ」


木の裏に身を隠しながらジントは悪態をつく。他の攻略組よりも先にこのボスエリアの向こう側のエリアに行ってやろうと息巻いて来たは良いが、どうやらここはレベルの違うエリアだったらしい。


「マナミ、大丈夫か?」


「部位欠損はもらってない。だが、だからといってどうにかなる相手でもないぞ」


「私の魔法も全く効いてないわ。明らかに格上よ」


拳闘士のマナミに追従するようにこのパーティーで最も魔法火力のあるアキハも意見を述べる。だが、そんなことはジントもわかっているのだ。


「そんなことはわかってる。だからってこのままやられるわけにもいかないだろ」


「…何か手があるのか?」


黙って話を聞いていたセブンが木の向こう側をにらみながらそう尋ねてくる。木々の向こう側にはワイバーンが待ち受けているのだ。


ジントたちは木々の密集したところに逃げ込んだが、ワイバーンはそれでも逃してくれるつもりはないらしい。後ろが岩の壁になっている以上逃げることもできず、こうしてにらみ合いが続いているのだ。


「手は今から考える。お前らも意見をくれ」


幸い、巨体を有するワイバーンは木々の密集したこの場所に入り込むのを嫌っているので時間はある。


「あれを倒すのは無理だ。だから、俺達が逃げ切る間だけ時間を稼げればいい」


「でも、魔法は全く効かないのよ。それに誰かが引きつけるとしてもその人は犠牲になるわ」


「そうだよね…」


やはり、攻撃の通じない相手から逃げるには最低でも一人囮になるしか無い。だが、ジントは、そしてパーティーの誰もが、他のメンバーにはそんなことを言い出す勇気も、自分がやる決意もないのだ。


「…!避けろっ!」


セブンが近くにいたアキハを突き飛ばし、反対側にいたジントとシャーリーを突き倒す。直後、直前まで4人の体があったところの木々が吹き飛んだ。


「なんっ…!」


射線上から外れていたマナミが絶句する。木々の外にいるワイバーンがしびれを切らして攻撃してきたのだ。


「あんなのもあるのか…!」


「少し移動するぞ。捕捉されたらやばい」


今ほどの攻撃を連発できるかはわからないが、森ごと吹き飛ばされるのがわかっている以上足を止めるのは危険だ。


直後、続けざまに三度の轟音が響き、ジントの周囲の木々が吹き飛ぶ。


「まじか…」


「マナミがやられたよ!回復する!」


「…俺が囮になろう。みんなはその間に逃げろ」


誰かを犠牲にする以外に取れる手がなくジントが苦悩していると、セブンがそう告げた。


「…すまない。頼んだぞ」


「…街で待っている」


付き合いの長いジントはセブンが一度決断したらひかないのを知っている。だから止める言葉を飲み込み、謝った。


そのとき、ワイバーンの咆哮が響いた。しばらく暴れまわる音がした後、ワイバーンがどこかへ走り去っていく。


「何があったの?」


「俺が聞きてえよ」


だが、危険は去ったようだ。今のうちに街へ戻り始めたほうが良い。こちらへ来た場所からはかなり離れたところへ来てしまったが、この危険な場所に留まるよりはましだ。


「回復が終わったら街の方に戻るぞ。まだこのエリアは俺達にははええ」


「そうだな。私もそれが良いと思う。あんなに重たい攻撃は初めてだ」


ワイバーンの攻撃から復帰したマナミが同意を示す。


「帰って報告しましょう。ここは私達だけで探索するのは困難です。他のパーティーに協力をお願いしましょう」


相談しながら森を出ようとすると、ニ体の小さなモンスターが目の前に飛び降りてきた。


ジントとマナミは前に飛び出して武器を構える。


しかし、それを気にしていないのか敵意のない様子でイタチのようなモンスターは近づいてくる。


「可愛い…」


6人の中で一番年の低いアキハがポツリとそう呟く。敵意の無いことを確認した他のメンバーも武器をしまった。


「随分人懐っこいモンスターだな」


しゃがんだアキハにじゃれついてる二匹を見てジントがそう呟く。


「…なにか来る」


周囲の確認をしていたセブンはジントとマナミにそう伝えた。


「モンスターか?」


「いや…これは多分プレイヤーだな」


「一応姿を隠しておくか。こんなところまで来てPKもないと思うが」


そうして6人は姿を隠し、そのプレイヤーが近づいてくるのを待った。



******



拠点を出た俺は戦闘音のしたあたりに向かった。途中で一度モンスターの攻撃らしき轟音が響いていたので場所の特定は楽だった。


プレイヤーのパーティーは後ろが崖になった森の中にかくれているようであり、その前にワイバーン型の大型モンスターが陣取っていた。俺が以前追いかけられたのもこいつだ。とすると先程の轟音は風の塊を吐き出した音だろう。


そう思っている間に再びワイバーンが風の塊を放ち、そのうち一発がパーティーの一人に命中したようだった。


とりあえずこいつを追い払うことが先決なので、俺はジャンプで頭に飛びつくと目に向かって鉈を振り下ろし、続けて矢を放つ。


その攻撃でワイバーンの注意は完全に俺に向いた。後は俺がその場から離れるだけでワイバーンもついてくる。


幸い近場に別の大型モンスターがいるのはわかっていたので、後はそいつにワイバーンをなすりつけてくるだけだ。縄張りの概念がそれほどないとはいえこいつらは対面したときにはたいてい戦い始める。今回もそれを狙ってなすりつけることができた。


争う二体のモンスターに気付かれないように気配を消して最初襲われていた場所へと戻る。プレイヤーが逃げていたらそれでいいし、逃げていなかったら軽く話をすればいい。


「アキはまた寝てるのか」


木の上で動かない一匹の気配に若干呆れた声が漏れる。


あいつ、どんどん図太くなっている気がする。三匹には一応プレイヤーたちの側で待っていろと言ったのだが、プレイヤーと一緒に隠れている二匹は良いとして、どこでも寝ているアキには感嘆の念すら覚える。


先程襲われていたプレイヤーたちは木々の下で身を隠して息を潜めているようだ。どうしたものか。別に助けた恩を着せたいわけではないし、彼らが関わることを拒絶しているならそっとしておこう。


森に入って木に登り、樹上で眠っているアキを抱えあげる。


最近ではこうして俺に抱えてもらえることを覚えたのか、移動の際にも目を開けなくなってしまった。放っておくとやがて自分でついてくるのだが、抱えるか抱えないかという駆け引きのようになって来ている。


「ナツ、フユ、帰るぞ」


俺がそう茂みに向かって声をかけると、茂みの中から二匹が飛び出してくる。そのとき少女の「あっ」と言う声が聞こえたが、気づかなかったふりをしておこく。自分からは積極的に話しておきたいことは無いので、なんと声をかけていいかわからないのだ。


三匹を連れた俺が森から出ようとすると、後ろから隠れていたプレイヤーの一人が声をかけてきた。


「なあ、あんた」


「なんだ?」


振り返ると、茂みから一人のプレイヤーが立ち上がってこちらに声をかけてきている。他のメンバーはまだ隠れたままのようだ。


「急に声をかけてすまない。俺はジント。プレイヤーだ。あんた、プレイヤーだよな?」


どんな内容で声をかけてくるかと思ったら、


「プレイヤーだ」


「あんたたちが街の方に戻るんだったら俺たちも一緒に行かせてくれねえか。ここのモンスターは俺達の手に余ってな。できればそっちのパーティーと協力できればありがたい」


「俺はソロだし街に戻るのは明日からになる。それでも良いなら俺は別に構わないが」


俺がそう伝えると、そのプレイヤーは驚いた表情をする。


「ソロ、って、あんたこのエリアにソロで来たのか?」


「ああ。固定パーティーがいないんでな」


いないというよりは、そういうプレイスタイルなのでできないわけだが。


「いや、俺たちも一人でも戦力がほしい。一緒に来てくれるならソロでも構わない」


「わかった。俺はムウという。そっちのパーティーも紹介してもらっていいか?」


「…よく気づいたな。まあ俺も俺たち、とは言ってたんだが」


「もう少しスキルや道具を使って気配を隠す努力をしたほうが良い。今のままじゃあ視界から隠れただけでここのモンスターによっては見つけられるぞ」


気配に敏いのはアーカンやワイバーン、巨大な鳥型モンスターぐらいだろうか。狩りをするときの奴らは離れた場所にいる獲物の気配を察して襲いに行く。近くを通るときには俺も気配を消して通っているのだ。


「なんだ、あんた最初から気づいてたのか。人がわりいな」


ジントと名乗ったプレイヤーが相好を崩す。口調はあらいが、性格が攻撃的なわけではないようだ。


「知らない人間になんとなく声をかけるのは苦手でな。正直そちらから声をかけてくるのを待っていた」


「そうかい」


ジントはそう言うと、笑いながらパーティーメンバーの紹介をしてくれた。


魔法使いが二人いて法衣のような装備を着た少年がアルで、トンガリ帽子にローブの少女がアキハ、槍使いの少女がシャーリー、武器を携行しておらずおそらく拳闘士の女性がマナミ、大柄なナイフ使いのプレイヤーがセブンだ。


盾を持った片手剣士のジントと合わせて、少しばかりタンク能力には不安はあるが機動力の良さそうなパーティーだ。


「俺はムウだ。こいつらはナツ、アキ、フユ。種族はわからないが、おそらく害はない」


といっても、おそらく俺がワイバーンを誘導している間に交流があったのだろう。アキハが、三匹に触りたそうにうずうずしている。


「俺が街の方に戻るのは明日からになるが、それまでどうする?もし良ければ俺の拠点に案内するが」


三匹をアキハの方に送り出した後俺がそう尋ねると、ジントはホッとしたように息を吐く。


「ありがてえ。さっきみたいなのがいるからちょっと怖かったんだよな。拠点ってことは、襲われにくい洞窟かなんかなんだろ?」


「まあそんなところだ。ついてきてくれ」


それから俺は6人を岩柱の拠点に案内した。ジントは先程の会話で完全に打ち解けているが、セブンとマナミはまだ俺のことを警戒しているようで時折探るような目を向けてくる。街の方ではPKが流行っていて警戒しているのだろうか。だとしたらめんどくさいことだ。


俺から少し離れて歩いていた6人からジントだけが離れて俺の隣まで来る。


「色々とすまねえな」


「こっちで他のプレイヤーを見かけるのは初めてだったから物珍しかっただけだ」


「それでわざわざあんな化け物追い払ってくれるとは、あんた優しいな」


気づいていたのかと、俺は疑問の目をジントに向ける。


「よく気づいたな」


「最初は気づかなかったけどな。よく考えりゃあタイミングが良すぎる。あんたが追い払ってくれたって考えるのが妥当だろうよ」


「にしては、あっちの二人はまだ警戒してるみたいだが」


そう言いながら目線でセブンとマナミを示す。


「俺は大体信用しがちだからな。仲間が疑ってくれたら安心だろ」


そんなことを堂々と言うものだからつい吹き出してしまった。


「良いパーティーだな」


「おう。相性が良いやつばっかり集まったら、バランスが取れてたっていう幸運に恵まれたからな」


そりゃあ運が良かったな、と言葉を交わしながら拠点に向かって歩く。6人が襲われていたのは拠点の本当に近くで、歩いて10分もかからない。


「この中だ」


「大きい…」


「君はこんな目立つところに拠点を作っているのか?」


マナミの問いかけに、まあついてこいと返して岩を登り、岩柱の内部へと入る。段差が少し大きいので、魔法職のアキハとアル、背の小さいシャーリーは登るのに苦労していた。


基本的に俺しか登らない予定だったから仕方がない。いずれ使う人が増えたら誰かが勝手に作るだろう。


「ようこそ、我が拠点へ」


俺の拠点の様子に6人はそこそこ驚いてくれたようだ。見せた甲斐があるというものだ。


「なんか、思ってたよりちゃんと拠点だね」


「アルはもっとしょぼいのを想像していたのか?失礼だな」


マナミがからかうようにアルに言うと本人は過剰に反応する。


「そういうわけじゃ…、いや、まあテントをはる場所を確保してるぐらいだと思ってたのはたしかだけどさ」


「…あの小屋は、自分で作ったのか?」


ずっと口を閉ざしていたセブンが静かにそう尋ねてくる。


「ああ。ちょっと時間はかかったがな」


6人が珍しそうに小屋の中や篝火、焚き火の様子などを観察している間に、俺は作りかけだった串焼きの続きを作る。適当な大きさに切ったファシリカの肉を鉄串にさして焚き火を囲う岩の隙間に立てていく。


「昼がまだだったら一緒に食わないか。ちょうど新鮮な肉を取ってきたんだ」


「そりゃありがてえ。こっちに来てからもう二日パンしか食ってなかったからな」


肉がある程度焼けてきたところで声をかけると、ジントが率先して食べに来た。アキハとシャーリーはナツらと遊んでおり、アルはさっき地下へ降りていった。セブンとマナミは何か相談中だったが中断して食べに来たようだ。


「お前、料理もできるんだな」


「ソロでやるなら料理ができないと詰むからな。単純に毎食作るだけじゃなく、干し肉とかの携帯食料を作るのも“料理”スキルだ」


そんな雑談をしながら肉にかぶりつく。味付けは塩だけだが、臭みが猪ほどは無く十分に美味しい。毎日干し肉では飽きるから、新鮮な肉を食べるというのも良いものだ。

【評価について】

評価とは、今小説を読んでいるこのページを下にスクロールしたらある星のことです。クリックすると評価が付きます。後で訂正も出来ます。


面白くなかったら1を、なんとなく面白いかな~と思ったら2や3を。次が読みたいと思ったら4や5を押して頂けるとありがたいです。


作者にとっては、読者の方に読んでもらっているという実感が湧くことが一番力になります。好きの反対は無関心というように、面白くない、の評価すらいただけないのが一番つらいので、面白くないな、と思ったら星1をつけていただきたいです。もちろん面白ければそれ以上を。


私の小説に限らず、読んだ場合にはとりあえず星を押しておいてもらえると作者の元気になります。ので是非お願いします。

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