47.西の岩場-1
北の森のボスである巨大猪を討伐してから一日。一度街に戻った俺は西の岩場の探索を行っている。
ルクに連絡して確認したところ、今日もしくは明日中には俺を呼びたいから楽しみにしておいてくれということだった。すぐに呼ばれるのであれば、一度街に戻ってきた俺の選択は正しかったということだろう。
他のメンバーは何人か街に残って農業をしたりしているようだが、特に用事もなかったので昨日は会わなかった。後衛であるので、ダメージを受けることもほとんどなくポーションの消費もほとんどないのだ。
軽く近くの屋台で食事を購入して腹を満たしたあと、街で絵画セットを購入してから岩場に来ている。
ルクからは絵の腕を磨いておけと言われているので、探索がてら昼の休憩時にでも練習しておこうと思ったのだ。
それほどガッツリと書くわけではなく、岩場周辺で気に入った地形があれば書こうと思っている。
俺は現在丁寧に探索を行っているのでそれほど進んでおらず、他のプレイヤーもあたりにちらほら見えるあたりにいるので注意を引いてしまうかもしれないが、気にしないようにしよう。
このエリアに出現するモンスターの中で、今のところ俺が遭遇したのはロットバードという小型の鳥モンスターと、ロックビーストという頑丈な装甲を持ったモンスターに、マントパイソンという蛇だ。
マントパイソンは小さいとはいえそれほど動きが早くなく、ロットバードも適度な高度にいるので矢をあてることは難しくないのだが、ロックビーストは正直言って相手が悪い。装甲が頑丈であるために矢を受けつけないのだ。
アイアンアントのように完全に鉄のような硬度で矢を弾くのではなく、硬いだけで威力のある一撃であれば刺さるのだが、それを放つにはアーツを連発する必要があり、戦闘時は常に使用している“魔力操作”と相まってMPの消費が速い。
頭を出した瞬間が隙ではあるのだが、頭に当てても一撃では死なずHPが半分程度残る上に、頭を甲羅の中にしまったまま動いて攻撃してくる。素材は回収しておきたいが、あまり相手にしたくない。
そんなモンスターを倒しながら、しばらくアイテム回収などを行う。このエリアでは岩の下にアイテムを回収できる場所があるようで、いくつかのアイテムが回収できた。
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粘質石 品質D レア度:1
柔らかい石。この石を砕いた粉を水に溶かすと、高い粘度と接着性を有する液体になる
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研磨石 品質D レア度:1
刃を研ぐ際に鍛冶職人たちが使用する石。この石を使用することで武器の耐久性が回復する。
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粘土質の砂 品質D レア度:1
水に溶くことで粘土になる砂
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他にも鉄鉱石などの鉱石アイテムも回収できた。
石系統のアイテムはそのままアイテムインベントリに入れることができるが、砂をいれるわけにはいかない、というか入れたら取り出すのが大変そうなので布袋に入れて採取した。
今後こういったアイテムを回収するには何かしらの容器が必要になりそうだ。
この中で俺が使うのは《研磨石》と《粘質石》だろうか。《粘質石》は武器の加工に利用できそうだし、研磨石で鉄の鏃を研げば貫通力か何かが高まりそうだ。
《粘土質の砂》に関しては俺の使いみちはなさそうだが、何かの際に必要になるかもしれないので一応プライベートエリアにしまっておこう。ゴールドに困ったら売却すればいい。
拾えたアイテムはその程度だ。もちろん木は生えていないので木材の入手は不可能。このエリアは石工職人が一番得するエリアではないだろうか。彼らが現段階で何を作るのかは謎だが。
三時間ほど探索したところで、セーフティーエリアを発見したので、その周辺で休みがてら絵を書くことにする。
セーフティーエリアは、地面に引かれた緑色の線で囲まれた場所だ。
大体の場合は、窪地になっていたり周囲の木が多かったりと、他の場所と比べて安全そうな地形をしているので発見は容易である。この場所も、周りの土が高くまで積み上がっていたり岩が積み重なっているので、周囲の様子を伺うことが出来ない。
モンスターに襲撃されにくい場所にするには周りから見えにくい必要があるだろうが、その中からは周りが見えないので絵を描くのには不向きであるため、セーフティーエリアから少し外に出て描く必要がある。
セーフティーエリアへの入り口は一箇所であり、他の部分は入ってこようとしてもきつい傾斜になっていて崩れやすくなっているので、入り口以外を通ることは出来ない。
一度外側に回って、セーフティーエリアを囲う外壁の上に行く。セーフティーエリアの部分は周りより一段下がっているので内側から見ればかなり高い壁だが、外から見ればそれほどのものではない。
外壁の上は予想通り、周りよりも一回り高くなっているので見通しが良い。
見渡す限り岩と砂利が続いているが、街と反対の方向には、かなり大きく盛り上がっている部分がある。
おそらくあそこに、北の森と同様にボスエリアがあるのだろう。そこそこ遠方にあるので、たどり着いている人はいたとしても少なそうだ。
街で購入してきたイーゼルを建て、キャンバスを置く。ここが中世の世界に似通っているからか、紙ではなく布でできたものが売っていた。
絵の具も油絵ではあるようだが、これはMPを消費することで好きに調色できるようになっており、あちらの世界ほど絵の具の扱いそのものの難易度が高くないので、油絵はあまり詳しくない俺でも楽に絵を描くことが出来た。
せっかくなので描くのは遠方に見えているボスエリアがあるらしい山だ。反対側には街があるのだろうが、残念ながらそちらは岩の陰に隠れてよく見えない。
まずは大雑把に形を描き、そこから色を入れていく。光を浴びた部分の中でも平均的な色を塗った上で、より光を受けている部分や、影になっている部分に色を足していく。
あちらの世界でこのような方法を取っていると、下の色が目立ってしまって見た目とは異なった絵になりそうなものだが、この世界では割と思ったとおりに色がつけやすくなっているようだ。
ただ、そうした調色の際にはわずかながらMPを消費しているので、この世界では様々な活動の代替としてMPを消費するということだろう。
岩山をおおよそ描き終わったら、今度は空の色を塗っていく。青空と所々に浮かぶ雲。至って普通の空模様だ。そういえば一度も雨が降っていないが、どうなのだろうか。エリアによって雨だったり晴れだったりするのだろうか。
岩を避けるようにして空に色を入れながら、先に空から塗るべきだったかと思ったが、そこまで丁寧さを求めていないので今回は無視しよう。
しばらく色塗りに集中していると、後ろに気配を感じたので素早く振り返る。モンスターから感じる気配ではなかったが、PKも起こりうるこの世界では一人でいるときに後ろを取られるというのは避けたほうが良い。
振り返った先では見知った少女が呆れた様子で立っていた。
「なにかあったか?」
「なにかあったか、じゃありません。セーフティーエリアの外であんまり集中しているから心配して見ていたんです」
俺が当然のようにそう尋ねると、更に呆れたようにカナはいう。どうやら俺が気づくしばらく前から見ていたようだ。絵を描くのに集中して見ていなかったらしい。PKもこれほど目立つ場所では活動しないと思って気が緩んでいたようだ。
「そうか。ありがとうな」
カナに礼を言っておいて、絵を描く道具を片付ける。集中がきれてしまったし、ほとんど完成したのでちょうど良いタイミングだろう。
「もう良いんですか?」
「ああ、だいたいできたし、そろそろ昼飯も食べておきたいからな」
昼からはまた探索をするつもりなので、いつまでも絵を描いているわけにも行かないのだ。
「なら私達と一緒に食べますか?」
俺が食事の話をすると、カナがそう尋ねてくる。
「パーティーで来てるのか?」
「はい、βの頃からのパーティーの人と来てます。兄さんは一人なんですか?トビアさんは?」
「あいつは別のエリアだ。別にずっと一緒にいるわけじゃないからな」
「そうなんですか?」
二人でセーフティーエリアの外壁から降りてセーフティーエリアへと向かう。ひさしぶりにあったが元気そうにしていてよかった。




