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22.北の森-4

ライアは、ダンロンベアと激しいインファイトをしていた。


「よいせっ!」


ダンロンベアの叩きつけ攻撃をバックラーでそらしたライアが、地を這うような姿勢から体を跳ね上げ、右手で引き絞っていた剣でダンロンベアの体を思い切り突き上げる。


相当な勢いがこもっていたようで大型で重量のあるダンロンベアの体がわずかに起き上がっていた。


しかし、続けて斬撃を受けたダンロンベアはそれで体勢をさらに崩すことなく、体勢を整えてライアにとびかかる。


ダンロンベアの強力な点がこれだ。


スーパーアーマー、つまりちょっとやそっとの攻撃ではよろけたり怯んだりしない特性を持っており、よほどの威力の攻撃でなければ体勢を崩さない。


俺が相手をするとしたら、目や口に矢を突き立てながらひたすら距離をとってHPを削っていくしかないだろう。


だが、ライアはインファイターだ。それも、手数を増やすために短めの剣やバックラーを使っておきながらそ威力を損なわないように武具の重量をまして衝撃を増やしているタイプの。


普通の斬撃や盾による打撃でダンロンベアの体勢を崩すのは難しいが、さっきのように体全体を使って突きを放ったり上段から叩きつけたりすれば一時的に体勢を崩すことはできるはずだ。


ダンロンベアの残りHPはおよそ2割。


戦闘が始まってからすでに5分が経過している。


レンとシンは残り一体のソアウィーゼルを相手にしており、二人のHPは7割を切っていない。油断しても一撃でやられることはない。


ライアが危なくなれば俺が出せる火力を出し切って一気に倒しきればいい。


「《タウント》ォ!」


敵はダンロンベアしかおらずそのターゲットは自分になっているのに、ライアがでかい声で《タウント》を放っている。


あの声の大きさからしておそらく“大声”スキルを取得しているんだろうが、それなら《タウント》を発動しなくても気を引けるだろうし。なんなら今叫ぶ必要もない。


のりだろう。


近接職の何人かは戦闘中にテンションが上がると、何かしら叫びたくなるそうだ。


『遅い!』だの『食らっとけ!』だの戦闘中に叫ぶのは意味がないように思えるが、そういうもののようだ。


とにかく叫びたいと。


俺は後ろから攻撃や支援をする役であり、大声を出すにしても味方に指示を出すくらいなものだが。


「ベアアアァァ!」


HPが少なくなり、激昂したダンロンベアが腕を振り回しながらライアの方へ突っ込んでいく。


それをライアは正面から受けることはせず、ダンロンベアの死角となる側へと姿勢を低くして入っていく。


振り回された腕が頭上をかすめるが、それを盾でかちあげた反動で更に下へと潜り込んでいく。


普通に剣を振っていたら絶対にならない体勢だ。剣を剣としてではなく腕の延長として扱っているライアならではの戦い方。


なぜに俺の仲間には特殊な戦い方をするやつが多いのだろうか。


「もう終わりそうだね」


レンとシンが合流してくる。HPを見る限りあれ以上苦戦することはなかったようだ。


「ああ」


武器をしまっている二人に合わせて俺も武器をしまう。ライアの動きが予想以上にいい。特殊な能力も持たないダンロンベアではライアを捉えることは難しいだろう。


その後、とくにライアにダメージを与えることなくダンロンベアは倒れた。と、その直後にポーンと、通知音のようなものが響く。続いてアナウンスがあった。


『種族レベルが12に到達しました。《身体覚醒》により強化できる部位が一つ増えました、指定を行ってください』


周りを見ると、他の三人も同じタイミングでレベルアップを迎えているようだ。


「レベル12で指定できる部位が一つ増えるのか。なら次は24かな?」


「純粋に成長していけばな。俺たちが格上のモンスターを相手にしていることを考えてもここまでの種族レベルの上がり方はかなり早いし、そのうちペースが落ちてくんだろ」


「だろうな」


三人が話しているのを聞きながらどの部位を指定するか考える。


感覚器官である耳は一番最初の《身体覚醒》によって、そして目は“鷹の目”スキルによってそれぞれ強化している。


とくに身体覚醒は発動している間は自然とMPを微量づつではあるが消費しているので、これ以上常時発動できる部位を増やす必要はないだろう。


MPは戦闘をしていなければ少しずつ回復するので、戦闘でアーツを使わない限りは収支はほぼ±0に収まっているものの、これ以上身体覚醒を同時に重ねればMPの消費量が増すのは当然だ。ここは戦闘の際に必要となるような部位を強化しよう。


強化すべきは背筋か握力か。


今のところは変則的な動きをして弓を射つ必要に迫られていないので、足腰を強化する必要はないはずだ。


握力を強化すれば近接戦闘でもより有利に立ち回れるようになるだろう。背筋を強化すれば、木の上などの足場の安定しない場所でも十分に弓を引き絞ることができる。


しばらくはパーティーでの探索を行うだろうから、ここは射撃に特化した背筋を強化しておこう。


魔法を使えない種族でありながら、ロストモアはやたらと魔力を消費する。


この種族にした最初は物理だけで戦う種族かと思っていたが、魔法という手段をとらずに魔力を使用できる種族だったというわけだ。


そのうち、ファンタジーによくある魔力武装や魔力による身体能力の強化が使えるようになるかもしれない。


「進むぞ」


他の三人に声をかけてあるき始める。三人とも身体覚醒の設定は終わっていたようであるき出す。


俺とライアは装備を新調したおかげか、明らかに昨日より戦闘能力が上がっている。レンとシンはまだ新しい武器を持っていないが、それでも全体的にレベルが上っていることで戦闘能力が高くなっているし、今日はレンの作ってきたポーションも昨日とは違う特製品だ。


『効果が1.5倍ぐらいになってるよ。あの薬師のおばあちゃんは本当にすごい』


道中そう話してくれた。おそらく、レンの持つアビリティのおかげだろう。レンのポーションを売れば、攻略組に高値で買ってもらえそうだ。


それはさておき、HPもMPと同様に戦闘をしていない間は少しずつ回復するが、その回復速度は非常に遅く一時間休憩して5割回復する程度のものなので、今の戦闘のようにダメージが大きかった戦闘の後は必ずポーションを使用している。それらのおかげで、今日は明らかに昨日よりも大胆に探索を行うことができている。


そこからしばらくは、ダンロンベアとソアウィーゼルのパーティーや、ダオックスの群れを倒しながら進む。


森がどこまで続いているかはわからないが、出現するモンスターのレベルで考えると三段階目のところまで来ていると考えていいだろう。


ウルフやマンキーが主として出現していた領域、ダンロンベアやダオックスが単体で出現していた領域、そして今いる、ダンロンベアやダオックス、ソアウィーゼルが群となって出現する領域だ。


大体はダンロンベア+ソアウィーゼル、もしくはダオックス+ソアウィーゼルの群れだが、まれにダンロンベア+ダオックス2匹だったり、ダンロンベア2匹だったりが出現する。


そういう場合には、なるべく群れを分散させてから戦うように心がけることで、一人に2体以上のモンスターの攻撃が集中しないように気をつけている。


一対一であれば俺以外は負けることはない。俺が一体を受け持たなければいけないような状態になったらひたすら距離を維持しながら引きずり回して倒す。


ただ、その過程でおそらくまた別のモンスターをひっかけることになるから、そんなことはないように願おう。

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