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21.北の森-4

薬師の集落のある岩がモンスターに襲われないのは本当のようで、集落から降りて歩きはじめて2〜3分の間は、一切モンスターを見かけなかった。


今日最初に遭遇したモンスターはダンロンベアであった。今まで遭遇したモンスターの中では一番強いが、ライアが昨日よりも遥かに動き回っており、大して手間取ることもなく倒すことが出来た。


現状の俺達の攻撃力からすればダンロンベアの体力は少しばかり多いが、手間がかかるだけで倒すことには支障はない。ライアがヘイトをとってくれたので俺の方に攻撃が来ることもなく軽くうち続ける事ができた。


そこからしばらくは、ある程度蛇行してマップを広範囲に渡って作成しながら、昨日村長から聞いたように北東の方向へと探索を進めていく。


ダイアウルフの討伐に必要なスキルレベルは、武器スキルのレベルで20ぐらいだと俺は予想している。


あのクエストは始まりの街で受けることが出来たものだからだ。そうである以上、そこまで強力なモンスターがクエストの対象になることはないだろう。推測に近い予想だ。


「気をつけろ。ソアウィーゼルとダンロンベアがパーティーを組んでいる」


視線の先に木の隙間から見えるモンスターの姿を三人に示す。


「ウィーゼルは6体だね。どうする?」


「俺がダンロンベアを引いてる間に残りを片付けてくれよ。そうすりゃ楽に勝てる」


「それライアが楽しみたいだけだろ」


武器を新調したおかげでダンロンベアの相手をすることぐらいなら十分に可能になったライアがそう言うと、シンが文句を言う。


たしかに近接職である彼らからすれば、強敵であるダンロンベアと一対一で戦うのは心躍ることだろう。


だが、今は探索を優先すべきである。


「シンのほうが小型のモンスター相手の殲滅力が高い。今回はライアが抑えに回ってくれ。余裕があるようだったら次はシンが抑えをすればいい」


ライアはどちらかといえば大型のモンスターを相手にしたり、一対一の戦いに向いた戦闘スタイルである。多数の相手でも十分に戦えるが、少々力押し気味なところがあるので被弾は抑えられない。


シンやレンは基本的にどちらでも行けるので、この場合に最も合理的な役割配分は、大型のモンスターを相手にするのに向いたライアがダンロンベアをひきつけて倒せないにしても時間を稼ぎ、その間に三人でソアウィーゼルを倒し切るということだ。


ソアウィーゼルは攻撃力はそこそこあるもののHPが低いため、三人でかかればそこまで時間はかからない。倒しきったあとにライアの援護に回れば被害を小さくすることができるだろう。


「次は俺がやるからな」


「わかったから。行くよシン」


彼我の距離は25メートル。レンが先にシンを連れて駆け出していく。ライアが動き出さないのでそちらを見ると、俺の方を向いてニコニコしている。


「どうした」


「援護はいらねえからな」


「…了解」


それが言いたかったのか。


俺はレンやシンと違って、遠距離から攻撃できるので攻撃の対象を変えるのに時間は全くかからない。


だから、場合によってはライアの支援をしようかと考えていた。


それをやめてくれと言われたのだ。


一人で楽しみたいというのだろう。俺の予想では、今のライアでも時間をかければダンロンベアを倒すことは十分に可能だ。


ただ、不測の事態というのは、この現実となった世界ではゲームであっても確実に存在する。


俺たちの現在の目的は探索を行うということであるので、優先すべきはそれであり、そのためにはライアの楽しみを邪魔するのもいとわない。


なんて、そんな馬鹿なことを考えるはずもない。


生きるならとにかく楽しく。楽しくやりたいと強く言うなら邪魔をするわけには行かない。


「んじゃ、行ってくるぜ」


剣を引き抜きながらライアが駆けていく。レンとシンはうまく位置取りをしてダンロンベアとの間にソアウィーゼルを挟んでおり、ライアがダンロンベアを引きずり出しやすくしている。


「《シールドバッシュ》!」


ライアがダンロンベアの側面から《シールドバッシュ》を当てる。顔は他の部位に比べて更にモンスターのヘイトを稼ぎやすいものであり、ダンロンベアはレンとシンからは一切攻撃を受けていないので、その一撃でターゲットがライアに向かったようだ。


ソアウィーゼルが一体ライアの方に向かいそうになったので、レンたちの後ろに回り込んでいた俺はそいつに矢を2発あててこちらへとターゲットを向けさせた。


俺とそのソアウィーゼルとの間にはレンとシンがいて俺の方に向かいそうになるソアウィーゼルのターゲットをうまくさばいてくれるので、俺は回避を気にせずに攻撃をすることができる。


(《パワースナイプ》)(《クイックショット》)


連続してアーツを発動する。


アーツには、クールタイムという連続で同じアーツを使うことを防ぐ仕組みがある。


一度アーツを発動するとクールタイムがあけるまでそのアーツを使うことができないのだ。


俺の使用しているアーツはそこまで強力なアーツではないのでそれほど長いクールタイムは課せられない。


より高位のスキルのアーツは使ったことがないのでどれぐらいのクールタイムがあるかはわからないが、高位のアーツは動きは複雑になり威力が上がる以上クールタイムは伸びてくるはずだ。


“弓”スキルレベル10で新しく習得した《クイックショット》は、連続して矢を二本放つアーツだ。俺はまだ矢を早射ちすることはできないのでこのアーツを使用して手数を増やしている。


後々早射ちするためのスキルを取得したり、ステータスが上昇してコンスタントに高速で矢を放つことができるようになれば、このアーツを使用することも減るだろう。


「出るよ!」


「おう!」


シンと肩を並べて戦っていたレンが、ソアウィーゼルの群れの中に突っ込んでいく。


シンとレンが並んでいたためソアウィーゼルの群れはその正面に集中している。


その群れのど真ん中を割るように突っ込んでいった。


一度納刀すると、後ろを振り向きながら一体に居合斬り。

再び納刀して次の一体に居合斬り。


一発目はアーツのようだが二発目はアーツを使っていない。少し動きがぎこちない。


だが、十分に注目を自分の方に向けることができたようだ。


ソアウィーゼルのうち半分くらいはレンとシンに挟み撃ちされる状態になっており、すぐにHPを減らしていく。


レンは逆にソアウィーゼルに取り囲まれる形になっているが、攻撃をやめて攻撃をかわし受け流すことに集中したため、威力の高い攻撃は食らっていない。


プレイヤーが威力の高い攻撃やアーツを発動する際にため動作を必要するのと同様に、ソアウィーゼルも風の刃をぶっ放すときにはためを必要とする。


その予備動作を見ていれば苦もなく避けることができる。


大型のモンスターを相手にするときは、後ろから敵の全容が見えている俺が予備動作を見て指示を出すことが多いが、敵の数が多く小さい今は自分で判断したほうが早い。


スコン  スコン


風の刃のため動作に入ったソアウィーゼルには、俺の矢が気持ちいいぐらい当たる。


彼我の距離が20メートルになるように位置取りをしているので、小さなソアウィーゼルの頭に当てることも可能だ。動いている敵ならおぼつかなかっただろうが、定期的に風の刃を放つために動きを止めてくれるのだから造作ない。


「ムウ!あとは片付けとくからライアの援護に回って!」


「了解」


ライアから援護は必要ないと言われているが、念の為カバーできる位置に移動する。戦闘中も常に把握していたが、ライアは動き回ってこちらに迷惑がかからないようにかなり離れた位置まで移動していた。


木の間を駆け抜けてライアが視認できる位置に向かった。

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