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冒険の中に生く~冒険に憧れたプレイヤーは、現実となったゲームの世界を攻略なんて無視して冒険する。家、武器、道具、鎧そして料理。全部作るから街には戻らない。世界の果てを見てきてやる~  作者: 天野 星屑
第2章:強者集う闘技大会、そして浮遊大陸へ

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105/120

100.始まりの街ルクシア-25

「あっつ、ふぅ…ふぅ…」


がっついたタクが熱さで悲鳴を上げているのを見て、俺はゆっくりと冷ましてから食べることにする。


うむ。おいしい。グラタンはこの甘さが良いのだ。


「ああそれと、お前闘技大会には出るのか?」


「いや、出ないな。まだPvPの用意は整ってないんだ」


「そうか。カナちゃんたちも何人か出るらしいぞ。応援してやれよ。そしてもちろん俺の応援もな!」


「二日目か三日目からしか見ないから、そこまで残ったら考えてやる」


「見とけよ。絶対優勝してやるからな」


「まあ頑張れ」


タクの今の強さを俺は知らない。攻略組でもトップクラスの実力は持っているだろうから、かなり上位には来るだろう。


「それまではどうしとくんだ?」


「東の農業都市に行っていろいろと食材を買いたいと思ってる」


「ほーん。ダンジョンには行ってみないのか?街のすぐ近くに2つあるんだが」


「今の所興味はないな。ボスエリアの向こう側の探索の方が優先だ」


「もったいねえな。今最前線が結構広くて人数が足りてないし、お前みたいな戦闘より探索が得意な奴はもっと希少なんだけどな」


「そっちに参加するとしても、イベントが終わってから少しの間だけだぞ。冬は向こう側で越したいと思っているから冬になったらあっちに戻るし。一度行ってしまったら戻ってくるのに時間がかかるからな」


「んじゃあちょっとでいいからこっちに参加してくれよ。ちょうどうちは一人空いてるし。クランにも入ってないからイベントの後は暇ができるんだ。その間に一気に攻略しちまおうぜ」


イベントが終わった後、俺はログハウスに戻るつもりだ。だが、すぐに戻る必要があるという程でもない。それなら、少しぐらいタクたちの探索に参加しても良いだろうか。フォルクたちからは今のところは呼ばれていないので、イベントの後は確かに手が空いているだろう。


「わかった。少しの間だけ参加する」


俺の返答にタクが小さくガッツポーズをする。


「よっしゃ。ちなみに今レベルはどんぐらいだ?」


「種族が39だ」


「え、39?もうそんなに上がってるのか?」


思っていた反応と違いタクが驚いたので、俺も疑問を返す。


「ん?普通じゃないのか?」


「攻略組もちょうどそんくらいなんだよ。お前はソロで探索メインでそのレベルかと思ってさ。どういう戦い方してるんだ?」


「モンスターの群れに喧嘩売って、10体ぐらいを相手に訓練してる。後は一体でかなり強いやつと戦ったりとかだな」


「あれか、お前連戦ボーナス発動してるのかもな」


「ああ、そう言えばそんなのあったな。明確な基準はわかってないんだったか?」


「ああ。そこまで顕著に効果がわかるわけでもないし、ほとんどの奴は存在すら忘れてるだろうけどな。確かにずっとソロでそれをやってるお前なら、積み重なっててもおかしくないな」


連戦ボーナスは、文字通り連戦をしたときに獲得できる経験値に付与されるボーナスのことだ。ただどういう条件下で発動するかというのが具体的に判明しておらず、あえて活用しようというプレイヤーはほとんどいない。俺も忘れていた。


「まあそういうことなんだろう」


戦っている相手は俺も攻略組も変わらず手強いぐらいの相手だろうし、おそらくそのボーナスによって差が埋まっているはずだ。


「じゃあ戦闘の方は問題なさそうだな」


「ああ、でも俺は“解錠・解除”スキルは取ってないぞ」


「それはタントが持ってるから大丈夫だ。ただそれ以外の索敵スキルまで入れてしまうと戦闘が弱くなるから困ってたんだよな」


「もうひとりパーティーに入れろよ。冒険者酒場は他の街にもあるんだろ?」


冒険者酒場は、冒険者がパーティーを募るための場所だ。パーティーに入りたいソロのプレイヤーも、パーティーメンバーを加えたいプレイヤーもそこに行き、仲間を探す。掲示板よりも顔を合わせて確認できるので楽で確実に仲間とするプレイヤーを探せる手段だ。


また仲間を探しているプレイヤーが他にもたくさん集まるので、パーティーに適した仲間を多くの選択肢の中から探しやすいことも利点だ。


「優秀なスカウトは大体どっかのクランとパーティーに入ってるからな。それに全体数も少ないし。どの実力帯でもパーティーに一人はほしいもんだしな」


スカウト、それは単純な戦闘力だけでなく、罠の発見や解除、モンスターの索敵に対応できる能力を持ったプレイヤーをさす。


ちなみに俺自身はスカウトの中でも、レンジャー、ハンターとよく呼ばれるスキル構成とプレイスタイルをしている。攻撃において遠距離を得意とし、弓を基本の武器として森の中での探索が得意だからだ。


スカウトの中には、他にアサシンと呼ばれる、アヤメやトーヤのように気配を消した死角からの攻撃を得意とするものや、シャーリー自身がトレジャーハンターかどうかはわからないが、彼女のように槍などを持って前線戦闘に遊撃枠として参加するものもいる。


特にスカウトが力を発揮するのが罠や鍵付き扉などが存在するダンジョンだ。それらはスカウトの手でしか対応できないので、特にダンジョンに挑むレベルのプレイヤーの間ではスカウトの需要が高まるのだ。


「ならクランでも作ってしまえよ。そして後発を育てながら一緒に戦えるやつを探せばいい」


「クランなあ。リーダーの責任ってのが俺には重いんだよな。今は仲いい奴らでやってるからどうにかなってるけど、クランを作ったらそういうわけにもいかないからな。ほんと、大手クランのリーダーたちはほんとすごいと思うわ。かと言ってそこらのクランに入るのもな」


クランというのは少し違うが会社のようなもので、ある一定の集団内で取引や活動を完結させてしまうというものだ。戦闘職のみで出来たクランから、生産から戦闘までなんでもござれのクランなど様々なものがある。


普通は、自分たちが出来ない事のできるプレイヤーとのつながりや、効率的な探索、攻略を考えてどこかしらのクランに所属することを選ぶ人が多い。それに有名クランに所属していることは社会的ステータスにもなる。


だが一方でクランには内部での決まり事やクラン全体の決定として協力しなければならないことがあったりするため、タクのようにしがらみを嫌うプレイヤーには所属してない人も大勢いる。彼らはソロだったりパーティだったりするのだが、いずれにしろクランの恩恵を受けずに自分たちでなんとかしようとしているのだ。


「なあムウ、腕の良いスカウトに心当たりねえ?そこそこの実力だったら一緒に戦いながら実力をつけてもらっても良いんだけど。それすら見つからねえからなあ」


聞くところによると発見されたダンジョンはかなり深く、浅いところでは一般プレイヤーが、深いところではタク達攻略組が日々したへ進もうと挑み続けているらしい。


「一応できそうな奴は一人知ってるけど、その子は生産職だしな。まあお前らのレベルではきついだろう」


「え、いんの?誰?」


「だから一応生産職だって言ってるだろ。本人に確認取って紹介して良いって言われたら名前を教えてやる。それまではだめだ」


「ふーん。ま、楽しみにしてるわ。一緒に行ってくれると良いけどなあ」


タクが先程からスカウトにずっと固執している。かなり困っているのだろう。


「珍しく困ってるみたいだな」


「そりゃあなあ。今攻略してるダンジョンが罠とか仕掛け扉が多すぎてよ。だいぶ出遅れてる。宝箱は開けられるから多少は稼げてるんだけどな。危なすぎて先に進めてない」


「攻略組としては致命的だな」


「そうなんだよ。まさか初っ端のダンジョンがここまでスカウトを必要とするとは思ってなかったからな。クランによっちゃあメンバーをスカウトに転向させてレベルを上げさせる所から初めてるみたいだし」


「そこまでやってるのか」


「そんだけみんな困ってるってことだよ。とりあえず、イベントの後数日は頼んだぞ」


「わかっている。“解錠・解除”スキルをとるかはまた考える。確かにソロだと欲しいものだけど、そんなにダンジョンに潜るわけじゃないからな」


「お前みたいなのりでスキル増やせるようになりてえよ」


「スキルポイントは余ってるだろ」


「レベル上げが追いつかんわ」


タクの愚痴を聞いては答え、やがて話は戦い方やスキル、出会ったモンスターの方へと移っていった。


こうやって高いレベルの話をするのは心地いい。一緒に同じ場所に挑んでいるわけではないが、長年の友と語り合っている感じがするのだ。

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