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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
30 森の中の素敵なおうち編!
715/715

715 過去からの手紙

「......とにかくッ!!理解したな、浮浪者ッ!?私の言う通りここはギャシキヌーの隠れ家であり、私が受け継ぐべき資産なのだということをッ!!貴様のような人生の落伍者は、どこへなりとも行き、好きに生きてさっさと野垂れ死ぬが良いッ!!」


 ごほん!

 そう、わざとらしく咳ばらいをしたフレットは胸をはって立ち、眼鏡をくいと指先で引きあげながら、ダラケルスに向かって高圧的に宣言した。


「理解できねぇ。この家は、お前よりも先に、オレが見つけた。だから、オレのものだ」


 一方のダラケルスは背中を丸めて高い身長を小さくし、無残に引き裂かれた鉄扉からフレットに視線を戻し、上目遣いで睨みつけながら強情にそう主張した。

 『ここはギャシキヌーの隠れ家ではない』と言い張ることでフレットを追い出す作戦は失敗したが、そもそもダラケルスは、フレットより少し早くこの家を見つけている。

 だから今度は、そちらの筋で所有権を主張しようというわけだ。


「いや、一番最初に見つけたの......私」


 しかし残念ながら、二人がこの家に入ってきた時点でエミーの繭が天井にくっついていたということは、そういうことなのだ。

 ダラケルスは、『一番最初に見つけた人間が、この家の所有者』という主張も、できない。

 彼はエミーに指摘されて、ようやくそのことを思い出した。


「............」


 だからじっとエミーの顔を見つめ、少しの間何か考えてから。


「あ、ゲホゲホ......ああ、腰が痛ぇ......もうオレは歳だからダメかもしれない......」


 再び着席し机の上に上半身を投げ出して、弱々しい態度に戻り、泣き落とし戦略に舵をきった!




「うるさいッ!!そのまま死ねッ!!」


「ねえ、ところでこの鉄の箱、どうやって開ける?」


「の、喉が痛い、体が重い、節々が痛い......」


「それはただの、風邪の諸症状ッ!!貴様、弱ったアピール下手すぎだろッ!?」


「ねえねえ、箱、箱どうやって開ける?あと、なんか、おなか空いた」


「ああーーーッ!!うるさーーーいッ!!」




 ......場が、混沌としてきた!


 左隣には、わざとらしく弱ぶる腹立たしい浮浪者!

 右隣には、マイペース過ぎる呪い子!

 この二人は、追い詰められ情報処理能力の下がりきったフレットの限界をやすやすと突破するだけのストレスを、矢継ぎ早に投げつけてくる!




「風邪は、よく寝て治せッ!!箱は、蓋の中央の三つの突起を、左、右、左、真ん中、右と押せーーーッ!!」




 だからフレットは勢いに任せて、彼が知る秘密の一つを、またしても開示してしまった!


「へー」


「あッ!!」


 口を滑らせた!

 フレットが顔を青くしたその時には......エミーはもう、鉄の箱の突起......ボタンを、手順通りに押し始めていた。


「......なあ、お前、さすがに口が軽すぎねぇか?」


「おかしいんだよッ!!数日前からッ!!思ったことを簡単に口に出してしまうし、気づけば体が動いているッ!!」


 ダラケルスにすら呆れられる己の失態に、フレットは頭を抱えた。




 パカリ!


 そんなフレットの耳に、何かが開いた音が届く。


「!!」


 当然それは、エミーの持っていた鉄の箱が開いた音だ。

 弾かれたように勢いよく開いた箱の蓋は、不思議なことにパタパタと自動で折りたたまれながら箱の側面にひっつき、その箱の中からは......ニュウウと音を立てながら底面が盛り上がり、二つのスイッチがせり上がってきた。

 青いスイッチと、赤いスイッチだ。


「「おおーーー」」


 そのギミックに、エミーとダラケルスの目は釘付けになり、間抜けな歓声をあげた!




「......!!」


 その姿を隙と見たフレットは、鉄の箱を奪うべく勢いよく右手を伸ばす!


「............」


 が、しかし!

 その速度、残念ながらエミーにとっては、あくびが出る程に遅い。

 エミーはその伸ばされた右腕を軽く掴み、ちょいとひねりながら引いた。


「のわあッ!?」


 するとその動きだけでフレットの体はぐるりと半回転しながら宙に投げ出され、床に背中を打ち付けることになった!

 まさに達人技!

 エミーは戦闘の際、最近では単純にその規格外の膂力を押し付けたり【黒触手】等の魔導を用いたりすることが多いが、幼少期に師匠により授けられた武術の鍛錬を、今も欠かしてはいない。

 彼女の戦闘技術は、今もなお高まり続けているのだ。

 まあ......軽く殴れば大抵の相手は死ぬので、使うあてはそんなにないんだけれども。




「............」


 さて、鉄の箱に腕を伸ばしたフレットの姿を見て、ダラケルスも反射的に動いた。

 理由は知らないが、この鉄の箱を確保しなければならないのだと、彼の欲深な勘がささやいたからだ。


 しかしながら彼の動きも、エミーにとっては遅い。


 机にだらしなく上半身を投げ出していたダラケルスは、弧を描くように......机の上を滑らせるように腕を動かし、鉄の箱の奪取を狙った。

 しかし彼の手が鉄の箱をつかみ取る、その寸前......タイミングとしては、ちょうどフレットが床に叩きつけられたその瞬間、鉄の箱がふわりと、浮き上がった!

 エミーが膝を使って机を蹴り、その衝撃で箱を飛ばしたのだ!


「んなッ!?」


 ダラケルスの腕は、空しく机の上を滑るだけで空振り......それだけでは終わらず、エミーによって引っ張られた。

 するとその勢いで机の上にだらりと体重を預けていたダラケルスの上半身は、くるりと横回転。

 下半身も椅子から離れ、彼の体はふわりと宙に浮いた。


 出来の悪いブーメランのように、ダラケルスの大きな体が空中を横回転する......その前に。


「............」


 立ち上がったエミーはとん、と、ダラケルスの背中を押した。


「ぐべッ!?」


 するとダラケルスはまっすぐ床に落ちて、その顔面を強打!




「ふう」


 エミーは軽く、息を吐いた。

 彼女にとって、人体はまるで豆腐のように脆い......。

 殺さないように手癖の悪い男どもをお仕置きするのは、それなりに神経を使う仕事であった。


 もし殺してしまえば、せっかくの素敵なおうちに、血のシミがついてしまう......。

 そんな瑕疵をつけるのは、できれば避けたいところだ。


「............」


 彼女の脳内では、オマケ様が今の動きの流麗さを、やんややんやと褒めている。

 エミーは少しだけ気恥ずかしくなって、ポリポリと己の頬をかいた。




『ピポッ』




 すると、その時である!


「!」


 頬をかくエミーの目に映っていた鉄の箱が、かわいらしい電子音を合図に、再びニュウウ、と稼働音を鳴らし始めた。

 何事かと凝視すれば、青と赤のスイッチの間から、小さな三角錐が上に伸び始め......すぐに止まり、その先端から空中に向かって青白い光を放った!


「おいおいおい......?」


「何がおこったッ!?」


 稼働音に気づいたダラケルスとフレットが痛む体をさすりながら起き上がり、青白い光を注視する。


 その光は数秒、空中にただ青色を放射していたが......すぐに変化が起きる。

 青白い光が少し薄くなった、その時。

 その光の中に......ぼんやりと人物像が浮かび上がり始めたではないか!




「なんだこれ!?」


「凄いッ!!立体映像だッ!!」


 騒ぐ男共の目の前で、その人物像は徐々に、その鮮明度を増していく。


 深い皺の刻まれた、細面。

 腰に届く程長く、さらりとした質感の白髪。

 そこに映し出された男性は、俗な言い方をすれば、イケオジ、ならぬイケジジだ。

 ピンと背筋は伸びており、長身で、黒いズボンをはいた足は長く細い。

 そして膝のあたりまで届く、白衣を羽織っている......。


「ギャシキヌーだッ!!」


 その姿を見て、フレットは喜びに顔を輝かせながら叫んだ!


「......こいつが?」


「ああッ!!彼は滅多に人前には姿を現さなかったと言われているが......その肖像画は、何故か数多く残されているッ!!この姿は、晩年のギャシキヌーの肖像画に描かれたものと、全く同じだッ!!」


 この時、フレットは映像とはいえ歴史的偉人に出会えた喜びで、すっかり興奮していた!

 エミーに投げられた痛みなどすっかり忘れ、はしゃぎまくっている。




『フ......さて、今、我が秘密研究所の『コントローラー』の前にいるであろう、諸君。私の声が、聞こえているかね?』




 と、ここで。

 今度は鉄の箱から、声が聞こえてきた。

 映像のギャシキヌーの口の動きに合わせて発せられる声なので、おそらく映像と共に録音されたものだろう。


「ああ、聞こえているッ!!」


 フレットは興奮状態のまま、思わず返事をした!


『初めに伝えておこう。今、諸君らが見ているこの私は、記録映像である。一方的に私が送り付ける、過去からの手紙だ。故に、返事は不要である......まさか、していまいな?愚かにも』


 そういってニヒルに笑うギャシキヌーの姿を見て、フレットは顔を真っ赤に染めて黙りこくった。


「愚かにも」


「黙れよッ!!」


 その様子を見てダラケルスがニヤニヤしながらおちょくってきたので、フレットは素早くダラケルスを殴った。




『ああ、そうそう。一応、自己紹介をしておこう』


 と、ここで。

 当たり前だが、フレットたちのことなど気にかけることなく、映像のギャシキヌーは話を続けた。

 腰に片手をあて、長い白髪をふわりとかきあげて、この老人は名乗りをあげた!




『私の名前は、ギャシキヌー。生まれる時代が“遅すぎた”、天才魔道具作家さ』

【師匠】

 霊峰ザハヌに隠れ住んでいた、伝説的な暗殺者。

 二つ名は『アーシュゴーの死神』。

 エミーに基礎的な戦闘技術を伝えた。

 黒髪黒目だったのに老いるまで生き延びた、作中世界観に照らし合わせると稀有な人物。

 主に登場するのは第3章と第17章。

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