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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
30 森の中の素敵なおうち編!
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712 フレットの背景

「ちッ!!」


 フレット・フルは思わず舌打ちをした。

 目の前では、魔法使いを名乗る小汚いおっさんが一人と、どす黒い繭から現れた不気味な呪い子が一人、フレットと同じ丸机を囲み、椅子に座ってお互いを睨み合っている。




「とりあえず、立ち話もなんだし」


 そんな風に日当たりの良いこのダイニングテーブルへの移動を促したのは、不気味な呪い子であった。


「おい貴様ッ!!何を偉そうに家主面してッ!!」


 フレットはその発言にとりあえず反発した。

 しかし彼は、ゼナーリニから二日は歩き、この場所に来ている。

 ホワイトワーカーである彼には、いかに若く魔力で肉体を強化できるこの世界の住人であるとはいえ、体力がそれ程ない。

 口だけはペラペラと動くが、正直に言えば体はもうヘロヘロだった。

 故に文句を言いつつも呪い子の誘導には従い、他二人と同じ席に着いたのだ。




(一体どうして、こうなったッ!?)


 “一発逆転”の夢を見て、無謀にも一人、森に繰り出し......目的の家を奇跡的に発見し、大喜びしたすぐ後に、これだ。

 目標を達成したと思った途端に現れた......障害。

 それが、目の前の二人である。


(どうして、思い通りにならないッ!!この私が、こんな思いをしなければならないッ!!)


 フレットは眉間に皺を寄せながら、小汚いおっさんと不気味な呪い子を睨んだ。

 体は重いし、胸は不安で締め付けられる。

 フレットは、苛立っていた。


(何もかも......あいつの、サクセスのせいだッ!!)


 彼の脳裏に、能天気な笑顔を浮かべた、憎々しい弟の顔がよぎった......。




◇ ◇ ◇




「フレット......お前をこのフル商会の後継から......外す」




 その日は、大雨の降った前日とは打って変わって快晴で......夕日は実に美しかった。

 夕暮れのゼナーリニは、真っ赤に染まっていた。


 そんな中で。


 何故か魔灯もつけず、不自然に暗いままの父の執務室に呼ばれたフレットは。

 現商会長である父から、そう告げられた。


 その時、父はどんな顔をしていたのだろう。

 窓から差し込む夕日による逆光で、ほとんど何も見えなかったが。

 その声は、やけに硬かった。




「ハ、ハハハッ!!ハハハハハハッ!!何を言っているのですかッ!?私はこれまで、次代の商会長にふさわしい実績を、残してきたはずですッ!!」


 父の発言の、意図がわからず。

 冗談か、何かだと思い。

 フレットは大笑いした。


 だって、そうだろう?

 自分はこれまで、人脈を増やし、商工会理事にも推薦され、都市運営にも一定の発言権を獲得し、当然商会の売り上げも伸ばしてきた。

 この若さでだ!




「その実績が......虚飾でしかないこと。それを私は、問題視している」


 しかし、父の声は相変わらず硬かった。


「虚飾ッ!?」


「お前が特許をとった、携帯型コンロに、ドライヤー......それに、改良型洗濯機、その他諸々......全て......本当はサクセスの発案らしいじゃないか......」


「............」


 そして次に続いた言葉に......フレットはとっさに反論できなかった。

 反論しようと口をパクパクと動かしたが、意味のある音が出てこなかった。


 何故ならば、父の指摘は、事実であるからだ。


 フレットの......フル商会の躍進の原動力となった数々の目玉商品......それらはもともと一番下の弟サクセスが、友人の弱小魔道具工房主と一緒になって作り上げたものだ。




「......しかしッ!!」


 ここでようやく、フレットの口は、ようやく動いた。


「あいつらでは、売れなかったッ!!これは、断言しても良いッ!!私が売ったから、売れたッ!!商会長としての能力を持っているのは、誰かッ!?それは、私だッ!!サクセスじゃないッ!!」


 それは、フレットの本心だ。


 良いものを作る?

 それが、どうした。


 商人にとって大切なのは、それをどう売っていくら稼ぐかだろう。


 愚弟の仕事は、いつだってフレットに言わせれば“遊び”でしかない。

 脇が甘く、放っておけばよその商会にほぼ全ての利益も権利も吸い上げられ、搾取されていたはずだ。


 よそに盗られるのならば、自分が。


 そうすれば、フル商会の利益は守られる。


 何が悪い!?




「商会に対するお前の貢献も、私は理解している。しかしお前のやり方は、いくら何でも倫理にもとる」


「父さんッ!!私は、商会のためを思って......」


「商会のためを思っているのならば、何故商会長であるこの私に真実を隠したッ!?......やり方は、他にもいくらだってあったはずだッ!それなのに、お前は、サクセスの功績を全て、自らのものと偽ったッ!フル商会ではなく、自らの利益とするためになッ!」


 ここで、商会長である父は激昂し、大声を出した。

 父は穏やかで、どちらかと言えば商人とは思えない程にはお人良しだ。

 父のこんな怒鳴り声を、フレットはこの時初めて聞いた。


「ご、誤解だよ、父さんッ!?」


「それにな、フレット。お前......ドンゴズゴズ会と、付き合いがあるそうじゃないか......」


 ドンゴズゴズ会......それは、ゼナーリニ周辺で幅を利かせている、闇組織。

 犯罪者の集まりであり、非合法行為、暴力を振るうことに躊躇しない連中だ。


「それは......大げさに言う程の話じゃないッ!!多少金を、流しただけだッ!!理事になるために、必要な経費だったんだッ!!皆やっていることだッ!!」


「黙れッ!!我々の使命はなんだフレットッ!!商売を通して、人々を笑顔にすることだッ!!それなのに、お前は......よりにもよって、闇組織に与するとはッ!!恥を知れッ!!」


「恥ッ......!?」


 これまでの自分の仕事を、『恥』とまで断言されて。

 フレットは、頭が真っ白になった。

 父は、何故ここまで、自分のことを否定するのか?

 頭が真っ白になり、うまく働かず、理解できない。


「それにな、フレット。お前は......世話になっている魔道具工房やお得意先から、評判が悪い。横暴で、高圧的だとな......」


「それは、上に立つ者として、当然の態度で......」


「......どうやらお前の目指すものは、このフル商会の目指すものとは、違うようだ」


 ここで父は、一度言葉を区切り。

 大きく息を吸ってから。

 改めて、言った。




「フレット。お前を、このフル商会の跡継ぎから、外す」




◇ ◇ ◇




「............」


 その後フレットは、自室のベッドの上に腰かけ、ぼんやりとしていた。


「一体どうして、こうなった......?」


 特に答えを求めているわけではない独り言が、空しく繰り返される。


 私は、あれだけの利益を出したのに。

 私は、こんなにも有能なのに。

 どうして、父は理解してくれないんだ。


 嘆いて、嘆いて、嘆いて......その末に、脳内を過った笑顔。

 それは、能天気そうな、愚弟サクセスの顔......。


 勉強嫌いの癖に、頭が良くて、斬新なアイデアを閃く発想力を持っていて。

 運動神経も良くて。

 弟の癖に、自分よりも背が高い。


 ......憎たらしい、サクセスの顔だ。




「そうだ......あいつだ......」


 フレットは憤怒で顔を真っ赤に染め、立ち上がった。


「全部......あいつが悪いんだ......!」


 この時のフレットは、後になって考えれば、まるで自分が自分でないと思える程の怒りに支配されており、一切の冷静さを失っていた。


 フレットはドシドシと歩き、自分の机の引き出しを乱暴に開く!

 そこに入っているのは......護身用の、特別性魔導銃!

 魔灯に照らされギラリと光るそれを懐に入れ、サクセスの自室へと向かおうとするフレットだが......しかし!




 ふと、魔導銃が入っていた机の引き出しの中にある......古びた“日記帳”に、目をとめた。




「これは......」


 その日記帳は、確か......フレットがゼナーリニから離れ出張に行った時......戯れに手に入れたものだ。

 それを持っていたのは、全身が緑色の鱗に覆われた行商人、ロンギ。

 かつてゼナーリニで働いていた、商売敵だ。


 出張先の町で偶然出会った......落ちぶれ、貧しい行商人に身を落としたかつての商売敵。

 そんな彼のことをあざ笑ってやろうと、フレットは彼に近づいた。


 しかしロンギは......妙にすっきりした、楽しそうな顔をして、商売をしているではないか。


 それがフレットには、なんだか面白くなかった。

 だからいちゃもんをつけて、その時ロンギが持っていたものをいくつか、二束三文で巻き上げた。

 そのうちの一つが、この日記帳なのだ。




「そうだ......私には、この日記帳があったッ!!」


 ロンギが『ひょんなことから手に入れた』と言っていた、この日記帳。

 妙に格式高い装丁をまとっていて高く売れそうだが、中身は何の変哲もない、老人の日常が綴られている。


 ......ように、見える。


 実際ロンギもこの日記帳のことを、『ただの古びた誰かの日記』としてしか認識しておらず、フレットがこの日記帳を寄こせと要求した時には、『これで良いのか?』と苦笑していた程だ。

 しかしフレットの勘は、この日記帳に何かを感じ取った。

 だからこそ、買い取った。


 そして、その勘は正しかった。


 この日記帳......至る所に暗号が仕込まれており、それを解読すると浮かび上がったのは......フレットにとっては『宝のありか』だった!

 日々の仕事が忙しく、宝探しなどしている暇はなかったので、今まで『宝』の捜索には、手を付けていなかったが......。




「今こそッ!!今こそだッ!!今こそ、この『宝』を......手に入れるべき、時なんだッ!!」




 フレットは、叫んだ!


 この時彼の頭の中では、自分の中から湧きあがっているとは思えない程の激しい怒りが、『宝を手に入れる』という一発逆転への道筋を見つけた興奮とまぜこぜになり......神ですら予想しえない爆発的な行動力が生み出されていた!


「そうと決まれば、早速ッ!!」


 そしてフレットは、必要最低限の着替えや保存食などをかき集めると、もう夜だというのに外に飛び出し、カルムエットの森へと突入していったのだ。


 全くもって、無謀である。

 しかし、『宝』さえ、手に入れば......それを、商売につなげることさえできれば......!

 フル商会の跡継ぎに返り咲くことなど、造作もないはずだ!




「見ていろサクセスーーーッ!!お前の幸運もーーーッ!!ここまでだからなーーーッ!!ハハハハハハーーーッ!!」




 夜の森に、そんな絶叫と哄笑が、響きわたった。


 いやはや、本当に。

 いくら暗号を読み解き、その位置を特定していたとは言え......そんな状態で、フレットが大した魔物と遭遇することなく、『宝』......森の中の一軒家までたどり着けたのは、奇跡のような幸運に恵まれたと言う他あるまい。




◇ ◇ ◇




 しかし、その幸運だけでは、足りなかった。


 フレットが目的を達成するためには......フル商会の跡継ぎへと返り咲くためには、解消するべき問題がまだ残っている。

 それがフレットと同じくこの家の所有権を主張する......目の前の、薄汚いおっさんと不気味な呪い子だ。


 おっさんの方からは、何やら“追い詰められた者の凄み”を感じる。

 こういう輩は、何をやらかすかわからない怖さがある。

 捨て鉢になって、周囲を巻き込み破滅する......爆弾になるかもしれない。


 呪い子の方は......わけがわからない程不気味だ。

 その強さを感じ取るための感性を、いち商人であるフレットは持っていないが......。

 天井の繭から湧いて出てきた少女が尋常の存在でないという事実は、常識的に考えて理解できていた。


 とにかく二人とも、厄介な相手であるということだ。


 だが。




(私は......絶対に、手に入れる!)




 フレットには、諦めるという選択肢は端から存在しない。

 諦めたその先にあるのは、彼にとっての破滅であるからだ。

 眼鏡に覆われた陰湿そうなその瞳に闘志の炎が燃え上がり、汗が頬を伝って流れ、ポタリと机にこぼれる!




(この......“伝説の魔道具作家ギャシキヌーの隠れ家”をッ!!そして......この家に隠された、彼の知識の全てをッ!!)

【ロンギ】

 第21章に登場。

 全身をくまなく緑色の鱗で覆われた男で、つば広の中折れ帽を目深にかぶっている。

 何故か突然発生した強迫観念に突き動かされフル商会を攻撃し、失敗。

 逮捕され、一度商人としての全てを失った。


 その後、ラッカスナクラの大瀑布に身を投げようとしていたが、その寸前にとある出会いを果たし、再起。

 その出会い、そして彼の再起は世界にとっての小さなイレギュラーであり......。

 つまり、フレットが日記帳を手に入れたこともまた、“運命”には記されていなかった。

 

【魔道具作家ギャシキヌー】

 大魔導マジュローグ・マジュガムの仲間で、共に魔導研究を進めていた。

 故人。

 第25章にて言及されている。

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サクセスが誰か思い出せない
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