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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
30 森の中の素敵なおうち編!
711/713

711 そして、もう一人

「......オレの名前は、ダラケルス。魔法使い」


 お互いがお互いを指さし、正体を尋ねあったその後。

 まずそうやって名前を明かしたのは、ダラケルスだ。


「この家に、住んでいる者だ」


 そしてダラケルスは、自分も先程この家にたどり着いたばかりだと言うのに......しれっと嘘をついた!


 何しろ彼は、長らく倫理観の低い底辺冒険者界隈で生きてきた男......自分の欲求を満たすため些細な嘘をつくことに、微塵も罪悪感を感じない。

 そして今回の場合、彼の欲求は、『偶然見つけたこの家を、どうしても自分のものにしたい』というものだ。

 目の前の小男の事情は、よくわからない。

 しかし、この小男が彼の目的に対する障害になるであろうことは、すぐに理解した。

 故にこそ、そう言って牽制したわけだ。




「なッ、住んで......」


 すると小男......フレットは、ポカンと口を大きく開けてよろめき、目に見えて慌てた。

 しかし。


「......ハッ!!」


 周囲を見回すとすぐに余裕を取り戻し、嫌味ったらしい笑顔を浮かべた!


「その割に、ずいぶんと部屋が埃まみれじゃないかッ!?見え透いた嘘をつくな浮浪者めッ!!」




「............」


 的確な反論を返され、ダラケルスは思わず黙った。

 何しろ、繰り返すが、彼は長らく底辺冒険者界隈で生活していたので......この後に想定していた展開は、『うるせぇ黙れやボケがーーーッ!!!』というアホみたいなセリフから始まる殴り合いである。

 基本的に暴力の応酬で物事を決める環境で、彼は生きてきた。


 だから、反論されるなんてことを......想定すらしていなかったのだ!


「良いかッ!?私の名前は、フレット・フル......かのフル商会の......跡継ぎ、であり、ゼナーリニ商工会の理事も務める男だッ!!」


 反論の浮かばないダラケルスの様子に気を良くしたフレットは、調子づいて胸をはり、堂々と名乗りをあげた。

 フル商会と言えば、最近ゼナーリニで最も羽振りの良い商会であり、ダラケルスもその名を聞いたことがあった。


「そしてこの家は、私が入手した古書をもとに長年捜索し、ようやく見つけ出した物件なのだッ!!それを、なんだ、貴様ッ!!突然横から、かっさらうつもりかッ!?貴様は所詮、この家に不法侵入した浮浪者に過ぎないッ!!とっとと、出ていくが良いッ!!そうすれば、ゼナーリニ警備隊への通報は、勘弁してやろうッ!!」


 そう言うとフレットは、数歩移動して居間の扉の前から体を動かした。

 そして、半身になってくいと顎を振り、ダラケルスに出ていくように無言で指示を行う。




「............」


 しかしダラケルスは、動かない。

 腕を組み、覇気のない瞳で、じっとフレットを見つめている。


「おい貴様ッ!!浮浪者が、何故この私に従わないッ!!私はフル商会の跡継ぎで、理事だぞッ!!逆らえば貴様、ゼナーリニで生きていけなくしてやるぞッ!!」


 フレットは苛立ち、舌打ちをして、キャンキャンと喚いた。


「............」


 しかしダラケルスは、やはり動かないのだ。


 何しろこの家は、彼がようやく見つけた安住の地......になるかもしれない物件。

 出ていけと言われて、はいそうですかと従うわけにはいかない。

 その先に待つ未来は、野垂れ死にだ。


 それに『ゼナーリニで生きていけなくしてやる』という脅しは、今の彼にとってはちっとも恐ろしくない。

 つい先日、ダラケルスは既に、ゼナーリニで生きていけなくなったばかりだからだ!


「その脅し文句は......言うのが三日、遅かったなぁ?」


 ダラケルスは皮肉気に笑うと、腕組みを解いて全身に魔力を巡らせ始めた。

 ......臨戦態勢だ。




「ひッ!?やるのか、貴様ッ!?この私を......甘く見るなよッ!!」


 フレットはダラケルスの殺意の高まりを感じ取り......恐れおののいた。

 しかしすぐに懐に手を入れ、金属の塊を取り出した。

 ......魔導銃だ!


「ちッ......」


「フ、フハハッ!!この魔導銃は、と、特別性だぞッ!!大人しく、私の言うことを、聞けーーーッ!!」


 ひきつった笑みを浮かべ、カタカタと震えながら......フレットは叫んだ。


 フレットと、ダラケルス。

 二者の放つ殺気が穏やかな日差しの差し込む家の中に満ちる。




 もはや、一触即発だった。




 誰がどう見ても、殺し合いが始まるまで、あとわずか......。




 ダラケルスが隠しナイフを投げ、生じた隙を突いて魔法を詠唱するのが早いか。


 震えながらも覚悟を決め、フレットが魔導銃の引き金を引くのが早いか。


 お互いの額に大粒の汗がにじみ。


 ポタリと床に滴り、シミを作る。




 ......そして、次の瞬間!




「うるさい」




 突然、くぐもった声が、ダラケルスとフレットの耳に届いた!

 それは、両者のどちらの声でもない。

 少女の声だ。


「だ、誰だッ!?」


「............」


 ダラケルスとフレットは臨戦態勢を維持したまま、部屋をキョロキョロと見回し声の主を探した。


 すると、どうしたことだろう!

 部屋中央の天井に、どす黒い不気味な繭が存在しているではないか!


 二人はその事実に同時に気づき、唖然とした。


 その繭は、堂々と、天井に張り付いているのに。

 二人は、その存在に、これまでまるで気づくことができなかったのだ。

 気配も何も......これっぽっちとして、掴むことができていなかった。

 ゼナーリニのスラムで過ごしていた期間も長く、比較的警戒心が強いはずの、ダラケルスですらも!

 間違いなく......このどす黒い繭は、人知の及ばぬ超常の存在!

 怪異的な、何か!




「なんだ、これ......ひッ!?」


 震えながらフレットがそうつぶやいた、その時!


 ビシリと、繭にひびがはいった。

 そこから......明らかに人体に有害な影響を及ぼすであろうどす黒い瘴気が、すごい勢いで噴き出し始める!


「ひいいッ!?」

「おいおいおい......んだよ、これーーーッ!?」


 もはや二人とも、争っている場合ではなかった!

 二人は恐ろしさのあまり、抱き合ってガタガタと震えた!




 ミシ、バキ、ミシミシ......!




 そんな二人の目の前で、嫌な音を立てながら繭のひびは徐々に大きくなり......そして、ついには!


 ボトリ、と。


 どす黒い何かを、床に落とした。




 初めのうちは瘴気に包まれ、正体のわからなかったそれは。

 ゆっくりと、長い二本足で立ちあがった。


「「えッ......」」


 次第に瘴気が晴れ、その姿があらわになる。

 二人は、それの正体を見て息をのんだ。




 そこにいたのは、見たことのない程の美貌を誇る、少女であったのだ。




 その少女は大人になりかけの、女性的になりつつあるその肉体を、素材のわからぬどす黒いゴムのような何かで覆い。

 少し吊り上がった大きな瞳で、冷たく二人のことを見つめていた。


 その瞳も、髪も。

 ......不吉に、おぞましくどす黒い。

 つまりは、呪い子だ。


 それと対比するかの如く、肌は輝くように白い。

 どんな宝石よりも、美しい。


 魔性と神性を併せ持つ、その少女は。




「ふん」




 二人のことを冷たく見つめ、無表情のまま鼻で笑ってから。




「私は旅人。エミー・ルーン」




 【威圧】を放ちながら、その名を告げ。




「この家を、一番最初に見つけたのは、私」




 静かに。




「だから、この家は......私のもの!」




 この家の争奪戦に......名乗りを上げたのだ!

【フル商会】

 ゼナーリニで躍進著しい新興商会。

 第21章にて言及。


【繭】

 エミーが眠る時に作る、寝床。

 頑丈で、中は快適だが、見た目が非常に不気味。


【その少女は大人になりかけの】

 5歳から始まったエミーの物語ですが、現在彼女は13歳。

 まだまだ旅は、続きます。




 以上で、第30章導入部は終了です。

 これ以降のお話は、のんびり投稿されます。

 気長にお待ちください。

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― 新着の感想 ―
エミーが少し威圧的な感じで自己紹介するところが可愛いですね... 急がなくてもいいので、あなたのアップデートを辛抱強く待ちます
もう8年たったのか
毎度怪しげな繭で巣作りするのカワイイ このくらいで成長止まらないかなと思うけどまだまだ育っちゃうんだろうか
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