708 三人の入居希望者
あけましておめでとうございます。
第30章が始まります。
二日おきに、導入部分だけでも投稿しようと思います。
四話と短いですが、お付き合いいただけると嬉しいです!
「ミョーゴ、ミョーゴ、シュゴシュゴーーーッ!ミョーゴ、シュゴシュゴーーーッ!シュ、シュッ!」
......遠くでミョゴミョゴシュゴが、鳴いている。
窓を通り過ぎて、甘い香りのする板張りの床に四角形を描く日の光は温かくポカポカしていて、穏やかだ。
......が、しかし。
この室内で円形のテーブルを囲む三名は、そんな穏やかな初夏の午後には似つかわしくない剣呑な雰囲気を醸し出しながら、お互いに睨み合いを続けていた。
全員が立ち上がり、椅子は床に倒れている。
......一触即発。
この状況の三名を見れば、大多数の人間は接触を避けようとするだろう。
まあ、この建物内には現在、彼ら以外の人物はいないわけだが。
「オレにはよぉ、行き場がねぇ」
そんな中......酒焼けした声でつぶやくようにそう言ったのは、ボロボロのローブをまとった、みすぼらしい魔法使いの中年男だ。
白髪交じりの髪もひげも、ボサボサで伸び放題。
背は高いが随分と痩せていて、眠たそうなその瞳には全くと言って良い程覇気がない。
「ゼナーリニにはもう、帰れねぇ。年もとった。もう無理はできねぇ。静かで安全に寝起きできる、この家が必要なんだ」
そう言って魔法使いは......そっと手を伸ばした。
目指すは......小さな鉄製の箱に備え付けられた、青色のスイッチだ。
しかし。
「おい、貴様ッ!!ふざけるなよッ!!」
バチンッ!
そんな大きな音を立てながら、その手は払いのけられた。
それをやったのは、眼鏡をかけた若い男だ。
仕立ての良いスーツを身にまとい、金色の髪を後ろへとなでつけている。
「この家の真の価値を理解しているのはこの私だし、真にこの家の全てを活用し社会に貢献できるのも、この私なのだッ!!この家は、私にこそ必要だし、この家も私を必要としているのだッ!!」
そういうと眼鏡の男は、今度は自分が勢いよく青色のスイッチに向かって手を伸ばした!
......しかし。
「ダメ」
眼鏡の男の手は、スイッチには届かなかった。
何故なら、スイッチのついた鉄製の箱は黒髪黒目の少女によって抱えられており......少女がその箱を、さっと動かしたからだ。
その少女は大人へと変じ始めた年の頃であり、息をのむ程の美貌を誇っていた。
「そもそも、ここ、私が最初に見つけた。だから、私が住む」
しかしながらその少女は......常にどこか不気味な気配を漂わせており、成人男性二名を相手どっても一切引く気配を見せない。
それどころか、彼女が放つ【威圧】には殺気の色が濃くなりつつあり......戦闘のプロが見れば、この場で一番危険な存在はこの少女なのだと断定することは、間違いがなかった。
少女は無表情のまま、悔しそうな顔をした男たちを冷たく睨みつけた。
そして。
己の右手を、抱えていた箱の青色のスイッチへと、伸ばした。
◇ ◇ ◇
さて。
先程の描写に登場した、三名の男女。
年齢も見た目もバラバラで、まるで共通点が見えない。
しかし彼らは、森の中の小さな草原に建てられた一軒家の居間に集まり、丸い机を囲みながら、睨み合いを行っていた。
一体どうして、そんなことをしていたのか?
それを理解するため、時間をさかのぼることにしよう。
まず語られるのは......ボロボロの中年魔法使い、ダラケルスの物語である。
【ミョゴミョゴシュゴ】
セミみたいな生き物。
夏が来ると鳴く。
【ゼナーリニ】
第21章で言及された商業都市。




