698 【醜い魔物の成り上がり】自分の感覚に当てはめて相手の気持ちを考えたため、すれ違った事例
「死ぬ気でやるって......何が何でもこのムダデカクジラを倒すって、決めたんでしょ!?」
小雪がちらつく寒空の下......エミーの絶叫が響く!
(決めてませんけどぉ!?)
ドクゲーゴンの絶叫は、彼の心の中でのみ響く!
「こいつは......私だけじゃ、倒せない!多分、私の......お母さんくらい、強いッ!!」
(いや、あんたのお母さん何者だよぉ!?)
「でもドクゲーゴン、お前の“力”は......きっと色々相性が良い!悔しいけど......私ではなく、お前が行くべき!オマ......私の勘も、そう言ってるッ!!」
(勘を根拠に命はって戦いたくないよぉ!?)
と、ここで!
ギシ、ギシミシミシ、バキバキバキと!
エミーの【黒つっかえ棒】が、嫌な音を鳴らし始めたの!
音と共にヒビも入り始め、そこからどす黒い瘴気が漏れ出し始めている!
「オアアッ......!!」
陸クジラは手ごたえを感じ、口を閉めるため顎にさらなる力を込め始めた!
バキバキバキッ!!
【黒つっかえ棒】の軋む音が、さらに大きくなる!
エミーは【黒つっかえ棒】のヒビ割れをちらりと見やると、叫んだ!
「とにかく早く行けドクゲーゴンッ!!もう【黒つっかえ棒】が持たないッ!!」
「ンエッ!?」
そしてそれと同時に、エミーはドクゲーゴンに向けて、1本の【黒触手】を伸ばした!
それは先端が巨大な柄杓のような形状になっており......容易く周囲に浮く毒液ごとドクゲーゴンをすくいあげると......。
「らあああああーーーーーーッ!!」
(うわああああーーーーーーッ!?)
凄まじい勢いで、ドクゲーゴンを陸クジラの口内へと、放り投げた!
「私に、してやれることは......背中を、押してあげることだけ......!」
ドボンと、毒液ごと陸クジラの舌の上に落下したドクゲーゴンの耳に、エミーの悔し気なつぶやきが届く......!
(そんな助力、求めてないからぁ!むしろ地獄に突き落とされてるからぁ!!)
ドクゲーゴンが慌てて体勢を立て直し、外に向かって逃げ出そうと振り向いたのと。
バキインッ!!
そんな音を鳴らしながら、エミーの【黒つっかえ棒】が折れたのは、ほぼ同時のことだった。
ドオオオオオンッ!!!
そしてまるで巨大な壁が降って来たかのような轟音を鳴らしながら......陸クジラの口は、閉じられた。
◇ ◇ ◇
「ンエーーーーーーッ!?」
巨大な口が、閉じたのだ。
それによって生じる風圧は、凄まじいものだった。
ドクゲーゴンは柔らかで湿った舌の上を、風に押されて跳ね転がり、陸クジラの口内を奥へ奥へと進んでいた。
ようやく速度が減じ、動きが止まった時......彼は慌てて体を起こし、辺りをキョロキョロと見回した。
陸クジラの体内は、静寂に包まれていた。
嫌な臭気に満たされており、当然のことながら足元に広がるのは陸クジラの桃色の肉であり、非常にグロテスクだ。
そのグロテスクな肉の上に、吸いこまれた樹木や、巨獣の死体が無造作に転がっている。
そして......外界から閉ざされた体内という環境であるにも関わらず、何故それをゴクゲーゴンが視認できるのかと言えば......不思議なことに、そこには光があった。
頭上にも、壁面にも、あるいは現在ドクゲーゴンが転がっている周囲にも。
無数の......それなりに巨大な何かが蠢いていて、それらが黄色に光っているのだ。
そのおかげで、体内であるにも関わらず......陸クジラの体の中は、一定の明るさが保たれているようだった。
ドオオーーーンッ!!!
と、その時だ!
突然、陸クジラの体が、大きく跳ねあがった!
(え、エミーだ!)
ドクゲーゴンはすぐに、その原因に思い至る。
彼をこんな所に送りこんだ飼い主エミーが、陸クジラの体外で暴れているのだろう。
今、放ったのはきっと、言うなればアッパーカット。
何故わかるかって?
陸クジラの頭部が、大きく上へと打ち上げられたからだ。
しかし、それは、つまり。
現在ドクゲーゴンは、人間で言う所の食道のあたりに転がっていたわけだが。
頭部が跳ね上がることで、陸クジラの体内に傾斜がつき......。
「ンエーーーーーーッ!?」
ドクゲーゴンは......何かを考える間もなく、陸クジラの体内のさらに奥へと、転がり落ちていくことになった。




