694 【醜い魔物の成り上がり】蛮勇の結果と黄金色の光
「ンエーーーーーーッ!!!」
彼は、叫んだ!
前世を含めても記憶にない程、全力で叫んだ!
すると彼の両目からとめどなくあふれていた毒液がふわふわと宙に浮かび、彼の頭上で一つにまとまり......円錐の形を作り出す!
毒液で作りあげた、槍だ!
ドクゲーゴンはその槍を頭上でドリルのように高速で回転させると......それを陸クジラの瞳に向かって、発射した!
ギュイイイイイーーーンッ!!
凄まじい勢いで放たれたそれは、あっという間に周囲をクジラジラミが這いまわる巨大な瞳までたどり着き......そして!
分厚いまぶたによって、瞳への直撃は、妨げられた。
「ボオオッアアアーーーッ!?」
が、しかし!
ドクゲーゴンは肉体の脆弱さと引き換えに己の毒をひたすら磨きあげてきた魔物だ!
その毒の威力たるや凄まじく、陸クジラのまぶたはドロリと溶け、周囲に浸食し炎症を広げるには十分なものだったのだ!
陸クジラはその痛みに苛立ち、ズシン、ズシンと地団駄で地震を起こし、そしてうまく動かないまぶたを無理やり上げて、ドクゲーゴンを睨みつけた!
それまでエミーが一身に受けていた巨獣の台地の覇者の殺気が、小さくて醜い魔物へと注ぎこまれる!
「ンエッ!ンエーーーッ!!」
圧倒的なプレッシャーに襲われ、ドクゲーゴンは怯んだ。
しかし、逃げなかった。
体の震えを闘志で抑え込み、己の周囲に毒液の弾丸を多数生み出し、そして!
「ンエーーーーーーッ!!」
それを、機関銃の如く撃ちまくる!
「ボアアーーーッ......!」
巨大すぎる陸クジラの体に毒液の弾丸は狙わずとも命中し、陸クジラは煩わしそうな声をあげた。
するとその意をくんで、陸クジラの体表を這いまわっていたクジラジラミ達が動く!
「「「「「ギチギチギチッ!!」」」」」
外骨格を軋ませ奇妙な音を鳴らしながら、クジラジラミ達は一斉に陸クジラの体表から跳び離れた。
そして一斉に......まるで波のように!
ドクゲーゴンへと殺到する!
「ン、ン、ンッ......!ンエーーーーーーッ!!」
あまりにもクジラジラミの数が多すぎて、一匹ずつ毒液を当てていたのでは間に合わない!
そう判断したドクゲーゴンはさらなる毒液を分泌してそれを操作し......毒の壁を作った!
理性の感じられぬ勢いでドクゲーゴンに殺到するクジラジラミ達は、なんの躊躇もなく毒の壁に突っ込み、そしてコロリと腹を見せて次々に死んでいく......!
ブッ、ブッ、ブッ、ブッ、ブッ!!
そしてドクゲーゴン自身はフワリと高く飛びあがり、そこからしつこく毒液を射出し続けるのだ!
陸クジラの体表の炎症が、徐々に徐々に、広がっていく......!
しかし!
「ンエッ!?」
この時ドクゲーゴンは、気づいた。
一番最初に毒液をぶつけた陸クジラのまぶただが......既に治癒が完了している!
それ以外の炎症個所についても、白い煙をあげながら凄まじい速度で治りかけており、それはドクゲーゴンが炎症を広げる速度よりも、速い!
まるできりがないのだ!
「ンエーーー......!」
どうすれば良い!?
すぐに弱気になり折れそうになる自分の心を叱咤しながら、ドクゲーゴンは必死に考えた。
自分にできることは、毒液を浴びせることだけだ。
どこに......何を、攻撃すれば良い!?
「ボアアーーーーーーッ!!」
しかしドクゲーゴンに、十分な思考時間は与えられなかった。
陸クジラが再度吠え......自ら、動いたのだ。
一向に成果を出さないクジラジラミ達に、業を煮やしたのだ!
せっかく飼ってやっているのに、役に立たないムシ共め!
そう憎々しく思いながら、陸クジラは前足を動かし爪先ですくいあげるように、地面を蹴り上げた。
陸クジラにとっては、気軽で些細な動作だ。
しかし、陸クジラの巨体で行われる全ての動作は、周囲にとっては致命的な破壊行為である!
陸クジラが地面を蹴り上げることで......そこに転がっていた岩石だの倒木だのからなる瓦礫が、ドクゲーゴンに向かって凄まじい勢いで射出された!
「ンエーーーッ!?」
瓦礫の砲弾は、毒では止まらない!
次々と己に向かって飛び来る砲弾を、ドクゲーゴンはフラフラと飛びながら、必死に避けた。
しかし、彼の飛行能力は、それ程高くない。
機敏な動作はできないのだ。
故に。
「ンエッ......!?」
飛んできた小石にぶつかり、ドクゲーゴンは撃ちおとされた。
「ン、エ......」
ドサリと地面に落ちたドクゲーゴンは呻き、体を動かそうとする。
しかし、だめだ。
全身に激痛が走り、身動きがとれない。
雑に蹴とばされたたった一発の小石は、ドクゲーゴンの肉体を致命的に破壊していた。
骨はそのほぼ全てを砕かれ、筋肉も断裂し、内臓もぐちゃぐちゃ。
今、意識があるのが、奇跡的なくらいだ。
(あ......)
朦朧とする、意識の中で。
(し、死にたく、ない......)
ドクゲーゴンは、生を願った。
そして次に、彼の頭を過ったのは、何か。
どうして自分ばかりこんな目に、という、不満?
誰か助けて、という、他者への依存?
......不思議なことに、いつもまるで口癖のように繰り返していたこの言葉が、この時は浮かばなかった。
彼の頭の中に、自然と浮かんだその感情は。
(悔しい......)
悔恨。
そして。
(強く、なりたい......!)
力への、渇望......!
が、しかし、無情なことではあるが。
ドクゲーゴンは、死にかけだ。
普通の生き物にとって、死に際に浮かびあがる渇望など、何ら意味がない。
だって数秒後には、死ぬのだから。
それがどんなに強い思いだろうと、関係ない。
その意識はすぐに霧散する。
誰にも届かず、消え果てる。
だが、しかし。
ドクゲーゴンは。
......『普通の生き物』では、なかった!
「ン、エ」
最後に一声、弱々しく鳴いて。
ドクゲーゴンは、息絶えた。
......その瞬間だ!
<<<対象の、死亡を確認>>>
ドクゲーゴンの体が、黄金色に発光し始めたではないか!
「ボアアッ!?」
陸クジラはその光を見て、大いに驚愕した。
そして彼は何故かその光に......畏敬の念を抱いたのだ。
ドクゲーゴンに、ではない。
その光を生み出す力の、“本来の持ち主”に、だ。
それは。
その力の、持ち主は。
決して逆らってはならない......崇めるべき、己の主!
理屈も、理由もわからない。
だが、陸クジラの直感は、そう判断した。
故に陸クジラは、ドクゲーゴンが光に包まれている間、何ら行動を起こさなかった。
ただ、黄金色の光に、見ほれていた。
<<<クライアントの神気を注入し、即時復活処理を行います>>>
<<<神気に耐えうるよう、魂及び肉体の更なる変異を開始します>>>
<<<対象の、精神的な変質を確認。それに基づき、変異の大きさを増強します>>>
しばらくの間、周囲を黄金色に染め上げた、激しい光。
それがおさまった時。
そこにたたずんでいた存在......それは。
「............ンエッ!?」
一回り大きくなり......見た目の変わった、ドクゲーゴンだ。
それまでは、かつての兄弟達とは異なり、不気味な地肌を晒し続けていた彼であるが。
今や、違う。
ドクゲーゴンの全身は、美しい紫色の羽で覆われて......艶々と、光輝いていた。
連続投稿は、ここまでです。
今後は、ぼちぼちと更新されていきます。




