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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
29 巨獣の台地の小さな魔物編!
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693 【醜い魔物の成り上がり】晴馬情の生き方、ドクゲーゴンの生き方

(にッ......)


 何よりも強い、無茶苦茶な生き物だと思っていた恐るべき彼の飼い主エミーが、いともたやすく潰されて。

 彼はしばし呆然とした後に。


(逃げなきゃッ......)


 単純に、そう思った。

 そしてふわりと浮かびあがり、巨大で山のような陸クジラに背を向ける。


(嫌だ、死にたくない、助けて、誰か助けて......!)


 そんな彼の頭の中を占めるのは、己の死への恐怖。


(............)


 それと。


(......しょうがない、しょうがない、ことなんだよぉ、これはぁッ!!)


 ......言い訳だった。




(どうしようもないじゃん!あんなに大きな相手、ボクではどうしようもないじゃん!あのヒトですら、やられちゃった相手、ボクではどうしようもないじゃん!)


 そんな風に、彼は脳内で必死に喚き散らしながら、陸クジラから遠ざかろうとして。


(あのヒトだって、すんでのところでボクを逃がしたんだよ!?逃げろってことじゃん!意をくんで、逃げなきゃいけないじゃん!)


 陸クジラから遠ざかろうとして。


(ボクにはどうしようもないんだよぉ!ボクのせいじゃないんだよぉ!だから、逃げるんだよぉ!)


 ......遠ざかろうとしたけれど。




 体が、動かなかった。




(......なんで?)


 その事実に、彼は驚いた。

 だって、彼は。


 晴馬情は。




 いつだって、そうやって生きてきたから。




 しょうがない、しょうがないと諦めて。

 嫌なことからは逃げ出して。


 壁を作って、生きてきた。


 彼は、既にその事実には、気づいていた。




 前世で、家族とうまくいかなかったのだって。

 家族にも、悪いところはあっただろうと、それは今でも思うけど。


 大きくなるにつれ、勉強もスポーツも苦手だってことに気づいて。

 でも、やってもうまくいかないことを努力するのは、辛くて。

 『どうして情は』、『お兄ちゃんはできたのに』......そんなお小言を、とにかく聞きたくなくて。


 諦めて、家族との間に壁を作っていたのは。


 結局のところ、自分だった。


 問題から目を反らして、逃げていたんだって。




 ......だから、今だって。


 これまでのように、逃げれば良いのだ。


 ためらいなく、彼はそう動くことができる。


 そう、思っていた。




 幸い、陸クジラが執着しているのは、エミーだけのようだし。

 今彼が逃げだしても、陸クジラは気にも留めないだろう。

 だから、逃げれば良い。

 客観的に見ても、それが正解のはずだ。


 それなのに。




(どうしてッ......!!)


 どうして、逃げようとしても、体が動かないのか。


 どうして、両目からとめどなく、毒液があふれて止まらないのか!


 その、理由を。


 彼はぐるぐると混乱する頭で必死に考えた!


(どうして体が動かないんだよぉ!?ボクはちっぽけで、弱くて、醜くて、何にもできやしないんだよぉ!?晴馬情は、役立たずの臆病者なんだからぁ!!)




 彼は。


(バカで、運動音痴で、意気地なしで!だけど、弱い者いじめはする、知り合いも見捨てる!卑怯者だから......それが、晴馬情だろぉ!?)


 そうやって、逃げ出すために、自己否定の言葉を必死で繰り返して。




(............)




 急に、言葉を失った。


 気づいたのだ。




(ああ......そっか)


 自分の。


(ボクは、そんな人間の......晴馬情で、いたくなかったんだ......)


 心の奥底に。




(ボクは、変わりたいんだ......)


 彼は振り返り、じっと陸クジラのことを見つめた。

 苔とフジツボとクジラジラミに覆われ、視界を埋め尽くしているが故に、もはや壁としか認識できない程の、巨大魔物。


 勝てっこない。


 理性も本能も、100パーセントそう断言する、強大すぎる存在。




 だけど......憎き、敵!




(......いや、違う。とっくに、変わっていたんだっけ)


 この時彼は、ようやく認めたのだ。




(ボクは......もう、魔物で......ドクゲーゴンなんだッ!!)




 その、事実を!




(嫌なことからは逃げて、生きてきた!それが、ボク、晴馬情だったッ!!)


 ドクゲーゴンはカッと目を見開いて、陸クジラを睨みつけた!




(でも......!試練に立ち向かい、強くなる!そうやって生きていく!それが、ドクゲーゴンなんだッ!!)




 ドクゲーゴンが今見ているのは、自分のことを気にも留めていない、巨大な陸クジラの瞳だ。

 しかし、ドクゲーゴンの頭の中に浮かんでいるのは、エミーの無表情な顔だった。

 強くて、無茶苦茶で、恐ろしくて......だけどドクゲーゴンには優しい、飼い主の顔だった!




(そうだよね......エミーッ!!)

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