691 【醜い魔物の成り上がり】乱戦の決着と覇者の乱入
「ン、ンエーーー......」
彼は、上空をプカプカと浮かびながら、真下に広がる惨状......飼い主の大暴れの結果を眺めながら、呆然としていた。
大怪獣、と言って差し支えないサイズの、巨大魔物達が、ビームっぽい光線を吐いて。
でも、それを受けてもエミーは死ななくて。
キレて。
......上空に漂う彼にも、エミーの怒気は伝わってきて、思わず気絶しそうになったけど、なんとか意識を保って。
それで、次に生じたのが、エミーを起点とする、瘴気の大津波だ。
巨大虎と巨大蛇は、瞬く間に瘴気にのみこまれて。
それが薄まり、辛うじて視界が晴れ始めた数十秒後。
巨大魔物達は。
......バラバラに切り分けられた、肉塊へと変貌していた。
つまり、勝者は彼の飼い主エミー。
一応、味方が勝ったのだから、それは喜ばしいことだ。
だけど、更地になった森と、巨大魔物達の肉塊を見ると。
それをなしたのが、あの小さな美少女であることを考えると。
喜ぶよりも前に......理解が追い付かず、彼は呆然としてしまうのだ。
「ドクゲーゴンッ!!!」
と、ここで。
地上で飼い主が、彼の名前を大声で呼んだ。
「ンエーーー......」
彼は呆然としながらも、条件反射的にその声に従い、ゆっくり地上へと降りていく。
エミーはすぐに彼の所在に気づき、無表情のまま片手を振る。
もう片方の手には、巨大蛇から抉り取った肉の塊。
「ここ、多分一番おいしい。たくさんあるから、特別に分けてあげる」
「ン、ンエーーー」
無表情ではあるが......先程無差別に漏らしていた殺意も害意も【威圧】もなく、今のエミーは持っていないらしい。
むしろ、ケンカを売ってきた魔物を殺せたからか、機嫌が良い。
この少女は、表情は動かないが、良く見ていればその感情は察しやすいのだ。
それがわかる程度には、彼のエミーとの付き合いは深まっていた。
「さ、お食べ」
(いや、ボクは生肉はちょっと......はは、いや、ボクの意志なんて関係ないですよね、今さらですよね、ははは......)
内心ではぐちぐちとつぶやきながらも、彼はエミーの言葉に従い、ちびちびと肉をついばみ始めた。
「おいしい?」
(生臭いです......)
「おいしいよね?」
(あ、いや、おいしいです......)
「良かったね?」
(はい、良かったです......)
彼の、前世を引きずっているが故の心理的抵抗はともかく。
少しずつ、肉をついばむ彼と、その彼の頭を優しくなでるエミー。
そこには、確かに、ゆっくりとした時間が流れていて。
その雰囲気は悪くないと。
彼は内心で、苦笑した。
......しかし、その時だ。
ふわりと、冷たいそよ風が吹いた。
「......?」
何かを感じとったエミーは彼をなでるのをやめ、風の吹いて行く方向......未だ木々の残る森の奥へと、視線を向けた。
すると、次の瞬間!
ズオオオオオーーーーーーッ!!!
そんな、掃除機の稼働音を何千倍にも増量したような音と共に、突如としてそよ風が突風に変わった!
凄まじい風圧!
重たいはずの倒れた木々、そして巨大魔物達の死骸が!
フワリと宙に浮き、風の力で運ばれていく!
「ンエーーーーーーッ!」
「ドクゲーゴンッ!?」
当然、彼の小さな体も、風で飛ばされていく。
エミーはすぐさま【黒触手】を伸ばして彼に巻きつけ、自身のことも地面に触手を突き刺すことで固定し、身を守る!
十秒、二十秒、三十秒......。
突如として発生した突風はすぐには止まず、終いには未だ根をはる生きた大樹すらも吹き飛ばし、そして......。
それが止んだその時、彼とエミーの周囲には、何も残っていなかった。
ただまっさらになり、視界の開けた、大地だけが残っていた。
(な、な、何が起きたのぉ!?)
触手によって引き寄せられエミーの胸に抱かれていた彼はもぞもぞと動き、慌てて周囲を見回した。
そしてすぐに、エミーがある一点を見つめていることに気づく。
恐る恐る、彼は自身の視線を、その方向に向け......そして。
凍りついた。
そこにいたのは。
彼がいつぞや、見たことのある。
山のように大きな......陸クジラの、姿だった。
陸クジラは、今しがた“吸いこんだ”木々や巨大魔物の死骸をバリバリと噛み砕きながら。
睨みつけた。
彼の敵を。
彼の縄張りを荒す侵入者......エミーのことを!
「ボアアアアアーーーーーーッ!!!」
ようやく、見つけた!
ようやく、この時がきた!
ようやく、侵入者を殺すことができる!
陸クジラは怒りと喜びがないまぜになった咆哮をあげた!
グラグラと、まるで怯えるように......大地が震えた!




