690 【醜い魔物の成り上がり】初冬の台地の生存競争
「ンエーーーッ!?」
巨大魔物達に殺害宣言をぶちかました後、エミーがまず手はじめにやったことは......彼の体を掴み、天高く放り投げることだった。
(は、速ッ!?高ッ!?)
もちろんこれが安全のための緊急避難であることは彼も簡単に理解できたが、それにしても高く投げ過ぎだ!
巨大魔物達の体が豆粒のように小さく見える程の高度に到達した時、彼は【毒液操作】を用いて上昇を止め、そこでふわふわと漂い始めた。
もちろん、下に降りる気はない。
地上では、既に苛烈な戦いが始まっている。
上空の彼からすれば、小さすぎて真っ黒な点にしか見えない生き物......つまりエミーは、どうやってか知らないが、まず超巨大などす黒い大剣を作り出した。
そしてそれを、横薙ぎに振るう。
攻撃範囲内にいた巨大ノシテルケッチは、初手でその巨体を上下に分断され、真っ先に斬り殺された。
恐ろしいのは......その攻撃が、広範囲な森を巻きこんで行われている点だ。
エミーの大剣の一振りで巨獣の台地の森の一区画が吹き飛び、あっという間に更地と化した......。
(......絶対に!下には降りない!絶対に!)
彼は震えながら、空中に留まることを決めた。
巻きこまれたら、絶対死ぬし。
◇ ◇ ◇
「らああーーーッ!!」
巨大ノシテルケッチを斬殺したエミーは、すぐさま【黒大剣】を編みあげていた触手を解き【黒腕】を形成した。
そして【黒大剣】を思いきり振り回したその勢いに乗ってくるくると回転しながら、【黒腕】を頭上へと伸ばし......。
巨大虎が振り下ろしてきたその右足を、真横へと弾いた!
「ガアアッ!?」
隙を突いての一撃。
それをいなされるとは思っていなかった巨大虎は、思わずバランスを崩したたらを踏む。
エミーは、そんな巨大虎の顔面に向かって、【黒腕】の拳を放った。
巨大な拳による、右ストレート!
それは猛烈な勢いで風を切り、巨大虎の頬を強かに打ちつけ......はしなかった。
「シャアアーーーッ!!」
真っ黒な巨大蛇による、横槍が入ったからだ。
「ぐッ......」
「ガアアッ!?」
森の木々をなぎ倒しながらエミーと巨大虎に衝突する、“動く壁”。
それは巨大蛇のあまりにも巨大で長い、尾部である!
体重の軽いエミーは巨大蛇の尾の横薙ぎの一撃を受け、真横に吹き飛んだ。
常人であればその衝撃で体が弾け飛び、死んでもおかしくはないところだが、そこはエミー。
吹き飛びはすれどもダメージはそれ程ないらしく、特に表情を変えることもなく空中でくるくると回りながら、【黒触手】を伸ばして地面に突き刺し、勢いを殺す。
一方巨大虎は痛みで顔をしかめてはいるが、吹き飛んではいない。
倒れてすらいない。
巨大蛇の攻撃を、正面から受け止めた形だ。
それは彼の誇る重量の......そしてそれ以上に、彼の持つ土を操る能力のおかげである。
気づけば巨大虎は、その巨体を周囲に集めた土で包みこみ、倍以上に大きくしていた。
ただでさえ巨大な質量が、さらに巨大に!
「ガアアーーーーーーッ!!」
そして巨大虎は、土がまとわりつき大きく、そして鋭くなった己の右前足の爪を......思いきり巨大蛇の尾へ、振り下ろした!
「シャアアッ!?」
巨大虎の爪はスッパリと巨大蛇の尾を切断した。
その痛みのあまり、短い悲鳴をあげる巨大蛇!
「ガアアッ!?」
しかしそれと同時に、巨大虎も悲鳴をあげる。
吹き飛ばされていたエミーが......その背にどす黒い翼を生やし、文字通り飛んで戻って来て......巨大虎の横面を、思いきりぶん殴ったからだ!
「む」
エミーとしては、その一撃で巨大虎の頭を吹き飛ばし、殺す算段であった。
が、しかし。
「ガアアッ......!」
巨大虎は......生きていた!
その身にまとった土くれが、エミーの一撃の衝撃を和らげ!
元来誇るタフネスでもって、それでも襲い来るダメージに耐えきったのだ!
「ガアアッ!!」
巨大虎はブンと頭を振って己の頬に小さな拳を突き立てたエミーを、空中に放り投げる。
エミーは翼を出し入れできるとはいえ、自由自在に空中を飛び回れるわけではない。
くるくると回転しながら、なんとか体勢を制御しようともがく。
大きな、隙である。
「シャアアーーーーーーッ!!!」
巨獣の台地の巨大魔物達は、小さなイレギュラーに生まれたそれを、決して見逃さなかった!
鎌首をもたげ、まず行動を起こしたのは巨大蛇。
巨大蛇はその口内に魔力を集めて激しく発光させながら......極太の光線を吐き出した!
【ブレス】だ!
「ガアアーーーーーーッ!!!」
そして間髪入れず、巨大虎も小さなイレギュラーへと、【ブレス】を放つ!
これまで交わした攻防は、たったの数度。
しかしその、たった数度の攻防が......大魔境たる巨獣の台地を数百年にわたり生き残ってきた巨大虎に......この小さなイレギュラーを、これまで出会ってきた全ての敵の中でも、最大の脅威であると確信させていた!
叩ける時に、叩かなければならない。
全力で!
ドオオーーーーーーンッ!!!
巨大蛇と巨大虎の【ブレス】が、エミーを交点として交差し爆発した。
あまりにも高濃度な魔力がぶつかり合ったが故に生じた、魔力暴走!
爆発で生じた衝撃波が、戦闘にまきこまれず辛うじて無事だった周囲の大木を、次々になぎ倒していく......!
「「............」」
これ程の、爆発が起こったのだ。
さすがに、仕留めただろう。
巨大蛇も、巨大虎も、常識に従ってそう判断はした。
しかし、何故だか確信は持てなかった。
彼らが培ってきた生存本能は、未だに警鐘を鳴らし続けていたのだ。
故に彼らは、もくもくと真っ白な煙があがる爆心地から、目を離せずにいた。
そして......彼らに囁く直感は、正しかった。
ビュウと冷たい風が吹き、周囲に漂う煙が晴れていく。
すると、そこに現れた物は。
......どす黒い色をした、“繭”だ。
時折、錆びたような赤色が浮かびあがるそれは、何本か伸ばした触手を大地にねじ込み、それを支えとして空中に静止していた。
ミシ、ギシ、ギシ......。
そしてその繭は、金属が軋むような音を立てながら左右二つに裂けた。
途端にその中から、巨大魔物ですら忌避感を覚える、どす黒い瘴気があふれ出し。
......無傷の小さなイレギュラー、エミーが現れた。
「やってくれたな」
淡々と無表情に......しかしこれまで以上に、その声に殺意害意を染み込ませ。
ポツリとエミーはつぶやいた。
実に小さな声だった。
しかしその声は、何故だか良く通った。
次の瞬間、エミーから、これまで以上の【威圧】が放たれる!
大量の、瘴気と共に。
......勝てない!
おそらくようやく“本気”を出したエミーを見て、巨大蛇と巨大虎の本能は、すぐさまその事実を悟った。
そして、逃げ出そうとした。
しかし、数百年にわたり巨獣の台地を生き抜いてきた強者としての矜持が、それを邪魔した。
本能と矜持の板挟みとなり、巨大魔物達は一瞬、その動きを止め......。
......押し寄せるどす黒い瘴気にのまれ、その姿を消した。
【ブレス】
高密度の魔力を叩きつけて相手を破壊する奥義。
竜などが多用するらしいが、本作ではヤドカリ等も【ブレス】を放つ。
危ないなぁ。




