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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
29 巨獣の台地の小さな魔物編!
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688 【醜い魔物の成り上がり】二度目の冬の彼

 曇天のもと、巨獣の台地の森にチラチラと白い物が舞い始める。

 つまり、冬が来たのだ。

 土地柄それ程降雪はないが、それでも気温は下がり食料は減る。

 冬は大抵の生物達と同様に、巨大魔物達にとっても厳しい季節である。


「ミギャー......」


 ズシン、ズシンと地響きをあげながら森をうろつく、全身が黄色で背中にトゲのある三つ目の魔物ジャイアントイエロートポポロックにとっても、それは同様だった。

 鶏のように二足で歩くその魔物の体高は、おおよそ4メートル。

 彼は今日も、その巨体を維持するための食べ物を探して、森の中をさまよっていた。


 状況は、よろしくない。


 このまま座して待てば、待つのは死ばかり、である。


 故に、いささか集中力を欠いた状態であるにも関わらず、彼女は狩りに出かけたのだ。




「............」


 そんなジャイアントイエロートポポロックを、木の枝の上に潜みながらじっと、見つめる存在がいた。

 それは、一言で言うなら、ゴミの寄せ集めのような生物だ。

 小石や落ち葉、小枝などを、体表から分泌されたベタベタとした毒液によって体にはりつけ、バスケットボールのような大きさの、丸い卵状のフォルムを形成しているその生物の種族名は、醜毒鳥。

 個体名を......自身は決して認めたがらないが、ドクゲーゴンという。




「ミギャー......ミギャー......」


 眼下のジャイアントイエロートポポロックは、頭上の彼の存在に気づかない。

 餌を探し、地表を覆う枯れた下草の茂みを、鼻先でガサコソと漁っている。


 かつての彼、ドクゲーゴンであれば、このように敵に接近されながらも身を隠し続けることは、不可能であった。

 何故なら、毒液由来の異臭が、彼の存在を強く主張していたから。

 存在を隠さない代わりに、異臭によって外敵を遠ざける。

 彼が無意識の内に醜毒鳥としてとっていた、生存戦略であった。


 しかしながら、彼はその戦略の方針を、転換した。

 正確には、“無理やり転換させられた”。

 ......彼の飼い主の、『ちょっとお前、くさいから臭い出すな』という、身も蓋もない無茶苦茶な命令によって。




(いや、無理言わないでよぉ!?生き物が自分の体臭を自由自在に変えられるわけないでしょ!?)


 ......と、それを受けた当初の彼は、憤慨したものだが。

 結論から言えば、その命令は割と容易く達成された。


 何故なら彼は......彼の持つスキル【毒生成】は、飼い主より日々地獄のような試練を与えられ続けた結果、その時点でかなりのレベルに達していたからだ。


 毒液を無臭にしたり、甘い良い香りにしたり、逆に異臭を強めたり、あるいは色を変えたり、と。

 彼は実に自在に毒を生成することができるようになっていた。


 そしてさらに言えば、彼の成長はそれだけにとどまらない。




「ンエーーー......」


 彼は体の震えを誤魔化すように小さく呻くと、プッ、プッ、プッと......全身から小さな毒液の雫を、周囲に放出した。

 物理法則が我々の住む世界のように働いてくれれば、それらの雫は重力に従って地面へとこぼれ落ちるところだ。


 が、そうはならない。


 彼が放出した毒液は、どういう訳かふわふわと空中を漂い......一つにまとまって紫色の、小さな毒液の球となった。

 実に、ファンタジーな挙動。


 これこそが彼が新たに獲得した能力......【毒液操作】である!

 彼は、自身が生み出した毒液が対象であれば、それをかなり自由自在に、念力で操ることができるのだ!


 飼い主に『カウンター頼り一辺倒は危険。遠距離攻撃覚えて』というお言葉を賜り、具体的な方策を何も与えられぬまま巨大ヤマアラシの前に放り投げられ死にかけたあの日、開眼したスキルであった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


種 族:醜毒鳥

名 前:ドクゲーゴン

年 齢:1歳

生命力:83

魔 力:852

レベル:45

スキル:【毒耐性103】、【毒生成98】、【擬態8】、【木登り4】、【毒液操作52】


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ちなみにこれが、現在の彼のステータスである。

 レベルや魔力の急上昇具合を見れば、彼がどれだけ辛い試練を日々与えられ続けたのか、想像しやすいだろう。


 ともあれ、閑話休題である。


 とにかく彼は脳裏にふとよぎる辛い日々を思い出し遠い目になりながら......いくつもの毒液の球を作り出し、気づかれないようジャイアントイエロートポポロックの頭上へと移動させた。


「............」


 そして、小さく息を吸ってから。

 それを......一斉に彼女に向かって、射出したのだ!




「ミギャーーーッ!?」




 ビチャッ、ビチャビチャビチャッ!


 毒液は狙い過たず、全てがジャイアントイエロートポポロックの巨体に全て命中した!

 彼の強化された毒液によって彼女の外皮は焼けただれ、嫌な臭いの煙をあげ始める。

 さらには毒液はじわりじわりと体内へと浸透を始め、彼女の体力を急速に奪っていく......。


「ミ、ミギャーーーッ!!」


 しかしジャイアントイエロートポポロックは、巨体を誇る強力な魔物だ。

 そう易々とは、沈まない。


 ズシン、ズシンと足を踏み鳴らし、尾を振り回し、姿を見せぬ襲撃者に【威圧】を送る!

 振り回された尾が近くの大樹の幹を叩き、それをへし折った。

 このまま好きに暴れさせるのは、危険だ。

 彼は強力な毒を操れるようにはなったが、相変わらず非常に打たれ弱いのだ。

 戦いが長引きつまらない事故が起きれば、彼は間違いなく死ぬ。


「ン......ンエーーーッ!!」


 だからこそ!

 彼は気合を入れて叫び声をあげると、すぐさま一際大きな毒液球を作り出し......それを怒り狂い叫び声をあげるジャイアントイエロートポポロックの口の中に、放りこんだ!




「ミギ......ギャ、ゴボッ......!?」




 その効果は、覿面だった。

 硬く丈夫な外皮とは違う、柔らかな喉の粘膜に触れた彼の毒液は、周辺の組織を焼き尽くしながら血管へと侵入し、体内を巡り始める......。


「ゴボッ、ゴボッ......ミギャ......」


 ジャイアントイエロートポポロックはふらふらと2、3歩動き、最後まで敵を探し一矢報いようという気概を見せたが......。




 ズシーーーンッ!!




 ついには、横に倒れ呼吸を止めた。




「ン、ンエーーー......」


 【毒液操作】を応用し、自らの皮膚に付着する毒液を宙に浮かせることで、彼は自身の体も宙へ浮かせた。

 そしてゆっくりと、樹上から降りていく。

 毒で死んだ魔物の、苦悶の表情が近づいてくる。

 全身は毒で焼けただれ、所々肉が露出している。


(う......気持ち悪い......)


 自らが殺した魔物の凄惨な有様を見て、彼は思わずえづいた。

 しかし、怯んではいられない。

 彼は、自分のしたことに向きあわなければならない。

 逃げ出すわけにはいかない。

 何故なら。




「良く、頑張ったね、ドクゲーゴン」


 気配を消し、どこぞに潜んでいた......何よりも恐ろしい彼の飼い主エミーが、彼のことを見ているからだ。

 エミーは、地上近くをふわふわと浮く彼の背中をポンと押し、ジャイアントイエロートポポロックの死骸へと近づけた。


「さ、ご褒美の、時間」




 ......敗者の血肉はご褒美である。


 それを食べることは、勝者の義務である。


 ......権利ではなく。


 明確に口には出さないものの、彼の飼い主エミーはそう思っている節があり、彼が狩った獲物の肉に口をつけないことを、許さない。


(い、嫌だよぉ、生肉なんか、食べたくないよぉ......)


 そう思いつつも、彼は逆らえない。

 飼い主の意向に。


 いや、それだけでなく。


 魔物としての、本能にも......。


 ためらいがちに、ゆっくりとジャイアントイエロートポポロックの死骸に近づいて行った彼は、ついにその死骸の上に降り立ち、毒により外皮が溶け露出した......さらには毒によってそれ自体もドロリと溶けた肉に向かって、くちばしを突き立てた。




(う、うぅーーー......)


 人間としての心は、嫌悪感を発する。

 しかし、魔物の体は、歓喜している。


 心と体の板挟みで苦しみながら、彼は肉をついばみ続けた。


 しかしながら、この苦しみ。

 以前と比べれば、緩和され始めている。

 狩りをして肉を食べることに、抵抗が少なくなり始めている。


 それが良いことなのか悪いことなのか、彼にはわからなかった。


(ボクは......人間、なのに)


 少なくとも彼は、そんな自分の変化が......恐ろしかった。

 しかし、それと同時に。


(ボクは......人間......なのに、どうして、こんな......)


 既に、気づいては、いた。

 認めたく、なくとも。




 その変化は、生きていくために、必要なことなのだと。




 そしてその変化を彼へ強制する飼い主のことを、恐ろしい、横暴だと嫌い、壁を作り続けることは......。


 決して正しいことばかりでは、ないのだと。




「アオーーーンッ!!」




 さて、その時である。

 突如、獣の叫び声が周囲に響きわたり......彼は驚いて身をすくませ、辺りをキョロキョロと伺った。


 しかし、そんな彼の傍らにたたずむ飼い主エミーに、一切の動揺はない。

 彼女は既に一方向をじっと見つめ、無表情のまま警戒を続けている。




 ズシン、ズシン......メキメキ......ズシン......。




 巨大魔物の足音、そして森の木々を押しのけ倒す音が、エミーの視線の先から、徐々に近づいてくる。


 そして。




 遥か頭上、大樹の幹に未だしがみつく赤茶けた葉の塊からぬっと、黒い鼻先が飛び出した。

 その周囲を覆う体毛は純白。

 鼻の奥に爛々と光る瞳は、青色。


 それは、あまりにも巨大な、狼だった。




「アオオーーーッ!!」




 巨大狼は、地面に転がるジャイアントイエロートポポロックの死骸を見つけて舌なめずりし、笑うように口元を歪めてから、エミー達を【威圧】し、吠えた。


 とてつもない、大音量。

 周囲の木々は幹をビリビリと震わせ、落ち葉を大量に振り落とした。

 彼も、その吠え声の風圧に耐えきれず、身をすくめたままコロリと獲物の上から地面へと転げ落ちた。




「ドクゲーゴン」




 しかし、彼の飼い主エミーの声には、何の怯えもない。


「今回は、見ていて良いから」


 いつものように、冷淡で感情の読みにくい、美しい声ではっきりとそう言って。


 次の瞬間。




 事実を羅列するならば、エミーは猛烈な勢いで跳躍し、涎をダラダラと垂れ流す巨大狼の顎を、下から殴り飛ばした!




 しかしその動きはあまりにも早く、彼の動体視力では追いきれなかったので。




 “巨大狼が悲鳴をあげながら、突然吹き飛ぶ”。




 彼は、そんな結果だけを、認識した。


 ポカンと、くちばしを開けたまま。

【トポポロック】

 この世界アーディスト固有の魔物で、世界中に生息しており亜種が多い。

 歩き方が鶏で、顔がトカゲに似ていて、目が3つある。

 味が良い。

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