678 【醜い魔物の成り上がり】進化による変化の詳細の確認
「......ンエッ!?」
さて、彼が“目覚めた”のは、それから数時間が経ってからのことだった。
木々の隙間からまっすぐ地面に降り注いでいた日の光は既に薄く、あたりは橙色にほの暗い。
(毒が、抜けたのかな......あれ、体が軽い......?)
彼は起き上がり、相変わらず地肌の露出した翼をパタパタと動かしながら、体の調子を確かめた。
目覚める前までは空腹で死にそうで、身じろぎするのも辛かったのに......今はすこぶる快調だ。
(ってか、あれ、あれ?体が、大きくなっている!?)
そしてさらには、どうやら肉体が一回り大きく成長しているようだ。
数時間眠るだけで、成長!?
前世ではありえない未知の現象に気づき、彼は再びパニックを起こしかけたが......。
(まあ......異世界、だもんなぁ......)
そう思って、細かなことは端に置いた。
気にしても、どうしようもないことがある。
彼は、既に日本人ではないし。
鳥だし。
多分、魔物なのだ。
(あッ、そうだ!ボクが異世界転生をしたっていうんなら、もしかして......)
と、ここで。
彼は生まれて初めて、異世界転生物のテンプレ行動をとってみることに思い至った。
(【ステータス】オープンッ!)
そして彼の、心の中の叫び声は、想像した通りのファンタジー的現象を生み出した。
突然、彼の目の前に、青い色をした半透明の薄い板が出現したのだ!
そこには、おそらく彼のものと思われるパーソナルデータが、以下の通り記載されていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
種 族:醜毒鳥
名 前:なし
年 齢:生後5日目
生命力:7
魔 力:62
レベル:2
スキル:【毒耐性5】、【毒生成1】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(“醜毒鳥”!?み、醜いって、そんなぁ......!)
その記載を見て、彼はまずその酷い種族名にめまいを起こした。
そりゃあ、彼は兄弟姉妹達と違って、羽毛が未だに生えていないけど......。
というか、彼の兄弟姉妹達は皆、醜毒鳥なのか?
おそらくだが、違うだろう。
(これは......きっと、あれだ。テンプレ的に考えれば......ボクがあのヘビイチゴモドキを食べて倒れた後に、【進化】的な現象が起こった結果に、違いない)
その結果として、彼は醜毒鳥に“なった”のだろう。
きっと彼が、巣の中にいる時に【ステータス】を開いていれば、その時には今と違った種族名が表示されていたはずだ。
(そして名前が『なし』って、なんで!?僕は、晴馬情なのに!)
次に彼は自分が名無しになっていることを、嘆いた。
理解は、できる。
もはや、自分は人間の晴馬情では、ない。
そのことを、【ステータス】表記にも裏付けされてしまい、彼は改めて喪失感を味わった。
年齢については、特に言うことはない。
生命力、魔力については......正直これが高いのか低いのか、よくわからないから判断がつかない。
レベルが既に2なのは、【進化】した結果なのだろう。
そして。
(スキルが【毒耐性5】に、【毒生成1】かぁ......)
最後に表示されていた、スキル欄。
これはきっと、彼がこれからこの巨大な森で生活していくための、生命線となる情報だ。
(【毒耐性5】は......麻痺で倒れたから、ついたんだよね。『5』は、レベルかな?)
彼は、このスキル名を見てから......周囲にまだまだ転がっている、ヘビイチゴモドキを、少しだけくちばしでつついた。
何故だか、彼の中に......『大丈夫だ』という直感が生まれていたからだ。
そして確かに、少量を嚥下してしばらくしても、体に異常は見られない。
ヘビイチゴモドキはもはや、彼にとってはただただおいしいイチゴ以外の何者でもないようだ。
(そして、【毒生成1】......耐性がついたから、生成できるようになったってこと?微妙に、理屈が通らない気がするけど......)
そしてもう一つのスキルについては、釈然としない思いはあれども、『異世界だからな』の一言で受け入れることにした。
何しろきっと、【毒耐性】は守り、そして【毒生成】攻めの貴重な手段。
細かなことは置いておき、このスキルを使いこなさなければ......。
そう、思いながら彼は周囲を見回す。
黄昏に沈みつつある森は、何もかもが圧倒的に巨大だ。
下草ですら彼の背丈の何倍も高く、落ち葉の一つ一つも彼が5匹いてもその上に乗りきれる程に大きい。
耳をすませば、遠くの方から、正体の掴めぬ鳴き声が響いてくる......。
彼は、この森の中で、生き抜いていかなければならない。
(死にたく、ないよぉ......)
そのあまりの心細さに彼は呆然とし、心の底で弱音をこぼした。
覚悟なんて、決まるわけがなかった。
少しだけ体が大きくなっても、彼は未だ、ただの雛鳥でしかなかった。
ただ怯え、震えていた。
......周囲への警戒など、まるで気にすることもなく。
だから。
ガッ!!
「ンエーーーッ!?」
彼は......不意打ちを受けたという事実を、痛みを感じると同時に知ることになった。
客観的に描写すると、彼はこの時振り回された長い尾によって背後から打たれ吹き飛ばされていた。
主観的には、突然背中に鋭い痛みが走り、周囲の風景がぐるぐると回転した、と描写することができる。
一体何が起こったのか彼には皆目見当もつかず、ただ混乱と痛みと恐怖によってぐちゃぐちゃになった思考が、自然と彼の本能を呼び起こした。
即ち、【毒生成】の発動である。
よろよろと起き上がる羽毛のない雛鳥の皮膚の上に、汗のように青紫色の粒が浮かびあがる。
「ギョアアア......!?」
それは明らかな異臭を放っており、襲撃者はその臭いに怯んで追撃を思い留まった。
故に彼は、訳もわからず嬲り殺される前に、その襲撃者の正体を知ることができたのである。
痛みに耐えながら声の方向を慌てて振り向けば、そこにいたのは大きな......。
彼にとっては大きくとも、この森に住まう生物の中では全くもって小さな。
トカゲだった。
ツヤツヤとした比較的スマートな体を持つそのトカゲは、しかしながらその尾の先端に大きな瘤を持っていた。
彼はその瘤を見て、前世で幼い頃に読んだ恐竜図鑑に載っていたアンキロサウルスを思い出したが、それはともかく。
そのトカゲは彼の毒に怯みはしたものの、彼を捕食することを未だ諦めておらず。
「ギョアアアーーーッ!!」
その両眼を懐中電灯の如く光らせながら、威圧的に咆哮した!




