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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
24 美少女探偵アカシテリカ編!
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579 うずくまる男

「ちッ......ちッ......ちッ......!!」


 ムノーデス刑事は黒い傘をさしながら、顔を真っ赤に染め舌打ちを繰り返しながら、どしゃぶりの旧帝都を警察署に向かって歩いていた。


「ちッ......ああ、くそ......ちッ......!!」


 舌打ちの合間に、時折汚い罵り言葉も混じる。

 だがしかし、ザアザアという激しい雨音が、それらを全て覆い隠す。

 故にこそ道ですれ違う人々の中に、悪態をつきながら歩くムノーデス刑事に対して注目を向ける者はいなかった。

 人々はただ、無関心に、ムノーデス刑事の横を通り過ぎていく。




 さて、何故ムノーデス刑事がこうして怒っているのか。

 それは、アカシテリカが、彼の思うような反応をしなかったからだ。


 ムノーデス刑事は、ボロボロになったエミーの服を見てアカシテリカは絶望し、彼女の生存を諦めると考えていた。

 爆発に巻きこまれて地下水道に落ちたのだ。

 その時点で、生存の可能性は低いのだ。

 ダメ押しの証拠を見せられれば、いかにアカシテリカがあのエミーのことを大切に思っていたとしても......さすがに諦めるだろうと。

 そう、思っていた。


 ところがアカシテリカは、ボロボロの服を見せられて、むしろそこに希望を見出した。

 エミーの生存を、確信してしまった!




「くそ、くそお、あの、バケモノめ............!!」


 ムノーデス刑事は、今度は既に遠い異国へと飛ばされたエミーに対して悪態をついた。

 水たまりを踏み、バシャリと飛び散った泥水が彼のズボンを汚すが、怒りに囚われた彼はそのことに気づきもしない。

 ただまっすぐに、道を歩き続ける。


「これで......これで!アカシテリカちゃんの物語から!あの、異物を......取り除けたはずだったのにッ!!」


 そして、相対的に、その物語におけるムノーデス刑事の存在感は向上し!

 彼の“居場所”は、守られる......そのはずだったのに!


「あの、バケモノはッ!!これからも、思い出として、アカシテリカちゃんの心の中で、輝き続けるつもりだなッ!?くそおおおおッ!!」


 さっきの、あのアカシテリカの冷たい微笑み!

 完全に、エミーの生存を否定したムノーデス刑事のことを、拒絶していた!

 これは、一大事である!

 アカシテリカの物語から締め出されてしまっては、彼には、『彼の欲する“居場所”』は、ない!


 つまりは現在、ムノーデス刑事の策は、完全に裏目に出てしまっていると言って良い。


「ああああああッ!!消え去ってなおこのボクを苦しめるか、悍ましい呪い子めえええええッ!!」


 ムノーデス刑事は唸り、そしてわざと寝ぐせでボサボサにしたままの髪を、さらにぐしゃぐしゃにかきむしった。


 相変わらず、雨は酷い。

 ザアザアという雨音は、ムノーデス刑事の唸り声を、やはり覆い隠す。

 そもそも、道行く人は、雨を凌ぐことに必死だ。

 ムノーデス刑事に注意を向ける者は、誰もいない。




「ぜえ......ぜえ......!!」


 しばらく歩きながら『ああああああ』だの『うわああああ』だのと唸り続けたムノーデス刑事は、ここで少し立ち止まり、荒い息を吐いた。

 少しの間、肩で息をしながら......体調が整うのを待つ。


 待ちながら......。


「え?」


 ムノーデス刑事はとある事実に気づき、ストンと、その表情をなくした。




「息が......苦しい?」


 そりゃあ、雨にも関わらずツカツカと速足で歩き、ずっと独り言を言っていたのだ。

 息もあがろうと言うものだ。

 ......普通ならば。


 しかし、ムノーデス刑事は、普通ではない。

 神の使徒だ。


 アカシテリカの物語を円滑に進めるため、探偵神から力を授かっている。

 少し速足で歩くくらいで、息はあがらない。

 無能のふりをしてごまかしていたが、使徒としての使命を授かって以来、本当は疲れを感じたことなど一度もないのだ。


 それなのに。


 今、自分は。




 ......疲れている。




「ひッ!?」




 その事実の意味することに気づき、ムノーデス刑事は顔を青くした。


「ひ、【人探しの極意】ッ!!」


 そして慌てて、探偵神より授かった異能を発動しようとした!

 【人探しの極意】とは、思い浮かべた人物の居場所を瞬時に探り当てることのできる、探索系の異能だ!

 しかし......。


「は、反応が、ないッ!?」


 何も、起きなかった。


「【過去視】ッ!!【相関図作成】ッ!!」


 他の異能も次々と試すが、やはり反応がない。

 つまり。


 ムノーデス刑事は。


 探偵神の使徒として授けられた、力を。


 全て......失ってしまっていると、いうことだ。




「そんなあああーーーッ!?嘘でしょおおーーーッ!?探偵神様ーーーーーーッ!!」


 ムノーデス刑事は思わず傘を手放し、水たまりがあるにも関わらず、その場で膝をついた!

 衝撃のあまり、力が入らない!

 そのまま四つん這いになって、嘆く!


「ボクは今まで、探偵神様の言いつけ通り、物語をサポートしてきましたッ!!探偵神様は、いつも言ってたでしょ、『ボクの判断を尊重する』ってッ!!」


 そしてムノーデス刑事は、ダンダンと、力なく緩慢に水たまりを叩いた。

 ビチャビチャと飛び散った泥水が、彼の顔を汚す。


「だからボクは、た、探偵神様のためを思って、物語のためを思って、あのバケモノを排除しましたッ!!あのバケモノは、明らかに危険な存在ですッ!!常識から逸脱した、暴力的なクリーチャーですッ!!あんなのを主人公の近くに置いておいておけば......どんな悪影響がもたらされるか、わかったものじゃないッ!!だって、呪い子なんですよッ!?」


 そう言いながらムノーデス刑事は、空を見あげた。

 バシバシと、痛いくらいの勢いで、雨粒が彼の顔を打つ。

 しかしムノーデス刑事は、顔を下げない。

 真っ黒な雨雲を見つめながら、叫び続ける。


「ねえ、冗談でしょッ!?冗談なんでしょ、探偵神様ッ!?これまでだってボクが失敗しても、許してくれたじゃないですかッ!?それなのに、なんで呪い子一人排除したくらいで、こんな仕打ちを受けなければならないッ!?こんなのおかしいッ!!理不尽だッ!!」


 しかしムノーデス刑事の叫び声に、雨雲の向こうにいるはずの尊き存在は、何ら返事を返さない。

 ムノーデス刑事の耳に届くのは、ただザアザアという、滝が落ちるような雨音のみである。


「返して、くださいッ!!ボクの力を......“居場所”をッ!!返してくださいよおおおおおーーーーーーッ!!!」




 いくら叫んでも、叫んでも。

 彼の神は、返事を返すことはなかった。

 彼の叫び声は全て雨音に遮られ、神どころか道を行き交う通行人にすら、届くことはなかった。


 説明も叱責もなく、信じるものからただただ唐突に見限られてしまった、その男は。

 しばらく自分勝手なことを、空に向かって延々と喚き続けていたが。

 疲れたのか、次第にその声は小さくなっていき。

 ついには、顔を下げ。

 泥水の広がる歩道の上に、小さくうずくまった。




 道行く人々はそんな男の姿をチラリと一瞥し。

 ある者はその異様な姿に恐怖を感じて怯え、ある者は邪魔に感じて眉をひそめた。

 いずれにしても人々は、そんな男から少し距離をとるようにして歩き......『あれは、何なんだろう』と首を傾げ......。

 しかしながら本当に雨が酷いので、すぐに見ず知らずの男のことは意識から追いやり、自分の目的地に向かって歩いて行った。


 ある者は、自宅へ。


 ある者は、職場へ。


 それぞれが、自分の“居場所”に向かって、歩いて行った。

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― 新着の感想 ―
自ら以外によってたつ力のなんと空虚なことか。 神は使徒を信じて用いはしても、信じて頼りはしないんだよって話。 お前のものなんか一つもねぇよバーーカ!ペッッ! スカッとしたわ!!
[良い点]  ファンタジー作品なのに何故か都会の冷たさを浮かび上がらせる社会派ディティクティブな余韻を味わえる見事なオチ(・Д・)名前忘れちゃったけどこれ以上ないほどの〈ザマァ!〉ありがとうございます…
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