577 目覚めた場所は、どこかと言うと
「......む」
パチリと目を開け、飛び起きると。
そこは、それまでのジメジメとしていて暗い旧帝都地下道とは、全く別の場所だった。
何が違うって、空気が違う。
まず、凄く気温が高い。
サウナの中にでもいるような暑さだ。
だけど、とても乾燥している。
地下水道を流れて来た後だから、私の髪はかなり湿っていたはずなんだけど......。
どれだけ眠っていたかは知らないけど......強制転移させられ意識を失っている内に、すっかり乾いてしまっている。
ってか、転移で意識を失うとは。
初めてなんだけど。
<つまりはあの転移玉、粗悪品でしたね。所詮はパーティグッズということです。それよりも、ここはどこでしょうか......>
「............」
オマケ様の困惑の声に無言で小さく頷き、同意する。
そして周囲を見回す。
私が今いるこの場所は、どうやら四角い形をした小さな部屋であるらしかった。
四方の内三方は、ずいぶんと硬そうな石造りの壁だ。
その内の一つの壁には、天井近くに、換気口なのかな......どう頑張っても人は通れない程度の細長い穴が開いており、そこから埃っぽい室内に赤い光が差しこんでいる。
そして床も天井も、同じく石造りだ。
床の上にはほとんど物は置かれておらず......唯一、用途のわからぬ大きめの壺だけが、部屋の隅にたたずんでいる。
「............」
と、まあ。
このように、室内を描写してみたものの。
何よりもこの部屋を特徴づけているものが、残された一方の壁面だ。
いや......壁面ではない。
これは......。
「鉄格子......?」
そう。
四方の内三方は石壁なんだけど、残りの一方は古めかしい鉄格子なんだよね。
これってさ、オマケ様。
<はい>
もしかしなくてもさ、オマケ様。
<はい>
「......牢獄、かな」
<その通りですね、エミー。ムノーデス......あの人間、やってくれましたね。確かにここは、あれの言う通り直ちに命の危険がある場所ではない。しかし......!>
普通ならば、脱出できないような場所ってことか。
まあ、嘘はついていない。
<『嘘はついていない』じゃ、ないですよエミー!あああ、もう、エミーをこんなところに、送りこむなんて!エミー!もし、あの人間にこの先出会うことがあれば、絶対に八つ裂きにして、殺しましょうね!>
落ち着いて。
落ち着いて、オマケ様。
多分あれは、ほとんどアカシテリカから離れることはないから。
彼女の前で、人殺しは避けたいかな......。
<逆になんであなたはそんなに落ち着いているんですか!?>
ははは。
まあ、さ。
ちょっと今、喪失感で脱力しているってのもあるけど。
それよりも。
「鉄格子如きで、私が封じられるか」
ここは、どう見ても牢獄。
だけど、ここから出たいのならば、壊してしまえば良いだけだ。
私の自由は、全く損なわれていない。
ならば、そこまで怒る必要も、ないかな。
私は膂力に任せ、それを折り曲げ破壊して外に出ようと......両手で二本の鉄格子を、無造作に掴んだ。
......しかし!
「!?」
バチィッ、と!
鉄格子を掴んだその瞬間......私の両手を起点として、全身に電気が流れたような痛みと衝撃が走った!
「............!」
思わず鉄格子から手を離し、両手のひらを見る。
ジュウジュウと音を立てながら、既に回復し始めてはいるものの......私の手のひらは今の一撃で、すっかり焼けただれてしまっていた。
というか、今の痛みはただごとではないよ?
常人なら、ショック死しても、おかしくないのでは!?
「............」
私は少し焦りながらも回復を待ち、焼けただれた手のひらが元通りになったのを確認すると、今度は拳を握って石壁に向き直った。
腰を落とし、拳に魔力を集中する。
「らッ!!」
そしてその拳を、思いきり石壁に、叩きつける!
【魔撃】だ!
でも......!
「!?」
私の拳は確かに石壁に到達し、何かを殴ったという感触は、あったんだけど。
ガイン、という妙な音がして。
私の【魔撃】によるダメージは、石壁には一切通らなかった。
崩れ、大穴をあけると予想した牢獄の石壁は、なんら変わりなく、そこに現存したままだ。
<これは、【結界】......!?それも相当に、高度な!>
オマケ様は驚き慌て、そして。
<エミー!これは、本当に......まずい事態かもしれません!天井付近の換気口から、外の様子を確認できますか!?>
私にそう、指示を出した。
私は【紙魚】を使ってヤモリのように石壁を這い登ると、細長い穴から外を覗き見た。
すると、まず目に飛びこんできたのは、雲一つない夕焼け空......あるいは朝焼け空だ。
旧帝都は現在、夜だったはず。
それだけ時差がある場所に、転移させられたということだ。
そして次に目に留まるのが。
......というか、空の他には、一面これしかないんだけど。
......砂だ。
雲一つない空の下には、草木一つない砂の大地が、地平線まで延々と続いているんだ。
ああ、お日様が......沈んでいく。
沈むってことは、夕日だったんだな。
沈む夕日が、丸い地平線の向こうまで覆いつくす砂の大地を、真っ赤に染める。
地平線が丸い。
つまり、私のいる牢獄は、それなりに高い位置にある。
塔みたいな建物なんだろうか。
ああ、もう。
ちょっと注意力が、散漫だ。
やっぱり私も、それなりに動揺しているらしい。
とにかく!
ここは、どこなのかと言うと!
端的に、まとめるならば!
砂漠の中の、牢獄です!
<あああッ!なんということでしょうッ!>
ここで、オマケ様が嘆きの声をあげた。
どうやらオマケ様は、今の風景等から、ここが一体どこなのか......正確に理解したらしい。
そして、嘆いている。
え、なんなの?
ここ、そんなにやばい所なの?
<ええ、エミー......異世界転生配信で、視たことがあります>
オマケ様の、この台詞......いつもなら嬉々として言う言葉なんだけど、今回は違う。
かなり、重々しい口調だ。
<落ち着いて聞いてください。ここは、全世界から凶悪な犯罪者たちが......そして神々に歯向かう世界運営の妨害者たちが送りこまれ、命尽きるまで収監される......神々が創りし牢獄>
オマケ様は、ゆっくりと語る。
私はとりあえず床に降りて座り、その話を聞いた。
夕日はどんどん沈み、換気口から差しこむ赤い光も、微かなものになっていく。
牢獄は徐々に、闇へと沈んでいく。
そんな中。
オマケ様は、ついに。
私が今いる、この場所がどこなのか。
<その名も......>
はっきりと......明らかにした!
<デレネーゾ大監獄!!>
新たな物語の舞台......それは、“デレネーゾ大監獄”!
きっと、並大抵のことでは出ることができない、恐ろしい監獄に違いありません!
なんてわかりやすい名前なんだ!
いや、いつも通りアホみたいなってかアホな名前だとも、思ってはいますが。
実はこの監獄、第18章にて、名前だけは既出ですので。
今さら変更する気は、ないのです。
さて、とても長かった第24章でしたが、おつきあいいただきましてありがとうございました。
残りはいくつかのエピローグをやって、第24章本編とは関係のない閑話をやって、この章はおしまいです。
慣れないことをして、私的にはとても大変な章でした。
いつも以上に粗もあったかとは思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
第25章以降も、どうぞよろしくお願い申しあげます。




