324 (呪い子)王都の花屋の看板娘
アーシュゴー国王都は、とっても賑やかな町だ!
王城の門から東に走る大通りはいつだって人が大勢歩いていて、市場も大賑わい!
少し前に魔族が何やら事件を起こしたっていう噂だけど......でも一般庶民には、詳しい情報はわからない。
だから今日もこの町に住む人々は、これまでと変わりなく、平和な毎日を送っている。
街並みも、美しい。
灰色の石材で密集して建てられた家々はデザイン性も高く、等間隔で設置されている魔灯すらも、なんだかとてもおしゃれな形だ。
だけど。
そんな賑やかでおしゃれな町の雰囲気も、一本裏通りに入れば、また様相が変わる。
いきなり日陰で薄暗く、かび臭い雰囲気に早変わりしてしまう。
人通りも少ない。
最近では、怪しい連中が人をさらっていくなんていう恐ろしい噂まで流れている。
つまり。
つまりは。
裏通りの、とりわけ薄暗い場所に店を構える花屋なんてのは。
流行るわけがないのだ。
何の努力も、無しではね!
「............よし」
私は頬をごしごしとこすり、たった今出来上がったばかりの手持ち看板を前に、大きく頷いた。
その看板にカラフルな絵の具で書かれている文字は、『ヌムブリ鮮花店』。
ヌムブリ鮮花店とは、私が今現在厄介になっている花屋さんの名前であり、もっと言えばヌムブリとはこの花屋を一人で経営しているおばあちゃんの名前だ。
ザラトプと別れた後、私はこの王都へとやって来た。
道中、【黒翼】の操作を誤り墜落したりしてるんだけど、それはさておき。
とにかく私は、この王都という都会の観光をしていたわけだ。
私が見たことのある都会と言えば、セレリリンの町くらいなんだけど、ここはその十倍は大きい!
そして賑やかで、キレイ!
しかも、パネッモ村で村長が言っていた通り、この国の人々は確かに、黒髪黒目の人間に対してそこまで拒否感を露わにしない。
そりゃ、物珍しそうに見られたり、中には私のこと、気持ち悪そうに見てくる人も、やっぱりいるけど。
それでも、石を投げられたり、入店拒否をされたりと言った差別が無い。
私にとっても、過ごしやすい町なのだった。
割とトカゲが多く住んでいて、おやつに事欠かないという点も、私的にはポイントが高い。
もう秋だと言うのに、彼らはまだまだ活動的だ。
いつも数匹で、灰色の石壁の上を走っている。
そんな町で私はヌムブリばあちゃんに出会い、ご厚意で毎日の寝床と食事を、提供していただいているというわけだ。
いや、ま、食事については、一般人の食事量では満足できないので......王都東側に広がる森で毎日狩りはしているんだけどね。
とにかく、ヌムブリばあちゃんには、凄くお世話になっているんだ。
でも、お世話になりっぱなしでは、申し訳ないでしょ?
だから私は考えた。
ばあちゃんに恩返しできる方法を。
そして、思いついた。
それは......お店の宣伝大作戦だ!
ばあちゃんの花屋、さっきも言った通り薄暗い裏通りにあって、店内も薄暗く花の数も少ない。
せっかくお店の裏の、建物に囲まれた状態で存在している花畑には、キレイなお花がいっぱい咲いているのに!
もうばあちゃんもお歳だから、疲れているってのもあるんだろうけどね、お客さんが来ないから、店頭にはあんまりたくさんお花を出していないんだ。
とにかく、やる気の無い店なんだ。
でも、せっかくお店があるのに、それではもったいないじゃない?
寂しいじゃない!
っていうか、ばあちゃんも、どことなく寂しそうにしてるしね!
だから、私は、このお花屋さんの宣伝をして、お客さんをもっと呼びこむことに決めたのだ。
そうしたら、お店の中も賑やかになって、ヌムブリばあちゃんも少し元気になるんじゃないかな?
今は私と言う労働力があるのだから、お客さんにも対応できるし!
と、いうわけで。
私はこのヌムブリ鮮花店の宣伝のため、手に持って掲げながら歩ける看板を製作したと、言うわけだ。
プラカードってやつだね。
この看板を使って、私はどんどんお客を呼びこむよ!
準備もできたので、私はさっそく看板片手にお店の倉庫から飛び出し、寂れた店内を通り過ぎて、玄関から裏通りへと飛び出した。
ばあちゃんは、お店の中には、いなかった。
お出かけかな?
それとも、花畑でお花のお世話?
まあ、どっちでも良いや。
さあ、呼びこむ人を探すぞ!
<でも、大丈夫ですか、エミー?あなた、宣伝なんてやったことないでしょう?うまくできるでしょうか?>
ここで、オマケ様が声をかけてきた。
オマケ様は、心配性だなぁ。
大丈夫、うまくいくよ。
だって私、強いし。
<この上なく頭の悪い回答をいただき、なんだか不安が倍増しましたね>
それに、美少女だし。
今の私の恰好は、普通のスカートにエプロンをつけて、大事な物を入れる小さなかばんを肩から下げ、頭には三角巾を巻いているというお花屋さんスタイルだ。
自分で言うのもなんだけど、相当可愛い。
こんな美少女看板娘に声をかけられて、喜ばない人がいるだろうか?
いたら殺してやる。
<美少女というのは否定しませんが......まあ、やるだけやってみてください。でも、うまくいかなくても、傷つかないでくださいね?>
ははは、オマケ様は、過保護だなぁ!
とにかく、出発出発!
私は大通りに向かって、看板を掲げながら、裏通りを歩き始めた。
【エミー】
主人公であり、現在の本名はエミー・ルーン。
絶世の美少女であるが、無表情。
アーシュゴーでは若干事情が異なるが、黒髪黒目のため、この世界では基本的に“呪い子”として蔑まれている。
微塵も動かない表情筋とは裏腹に、その内面はそれなりに感情豊か。
その心の中には呑気さと苛烈さ、善意と害意、可愛さと悍ましさなどが同居している。
基本的にわがままであり、自分の目的のために他者を傷つけることを厭わない。
主人公ではあるけど、決して倫理的なお手本とはなり得ない、危険人物。
だけど、一生懸命に生きている女の子。




