316 貫け、【エミー砲】!
<<<は......はあああああッ!?>>>
ガロズグはその意味不明な行動を目の当たりにして、驚きのあまり思わずその動きを止めた!
食べた!?
相棒を、食べた!?
何故!?
まさか......あの陸上生物の魔力を、食すことで、取りこもうとでも、言うのか!?
しかしながらガロズグのその推測、全くもって的外れである。
そして、ここで動きを止めたこと。
それこそが、彼の運命の、分水嶺でもあったのだ!
<<<さあ、いくっすよ、フジツボお化けっ!>>>
<<<!!>>>
そんな、ザラトプの【念話】に引きずられ、数秒間思考に囚われていた意識をはっと眼下に向けると。
そこにいるのは、その頬を大きく膨らませた、大海蛇である。
一体何を、しようというのか!?
<<<合体奥義!!【エミー砲】ぉーーーっ!!!>>>
大海蛇は、ガロズグを睨みつけながら......【念話】でそう、叫んだ。
そして、次の瞬間!
彼の口から......超高速の水弾が、ガロズグ目がけて一直線に放たれた!
<<<は、なんだ!それは先ほど、エビに向かって撃っておるところを、見ていたぞ!驚かせおって......>>>
ガロズグはそれ防ぐため、振り下ろそうと天高く掲げた腕を水弾の軌道上へと動かし......そこで、気づいた。
あの水弾が......ただの水弾では、ないということに!
その証拠に、色が黒い!
そして!
「らあああああーーーッ!!!」
何やら、叫んでいる!
そう、エミーだ!
その水弾には!
【黒腕】でその身を完全に覆い、どす黒い砲弾と化したエミーが!
......内包されて、いたのだッ!!
<<<な、なんだとおおおおおーーーッ!?>>>
ザラトプの見立て通り、それがただの水弾であるならば、ガロズグはそれが水巨人の体に触れた瞬間に、制御をのっとることができる。
しかしながらそれは、水弾に内包された、慣性に従って動く殺意に満ち満ちたどす黒い弾丸には、あてはまらないのだ!
ドッパアアアアアンッ!!
かざされた水巨人の片腕に、大きく円形の穴が穿たれる。
水しぶきと殺意と黒い靄をまき散らしながら、弾丸がそれを、貫いたからだ!
<<<おおおおおおーーーッ!?>>>
慌ててガロズグはもう片方の腕をかざすが、黒い弾丸は止まらない!
ズパンッ!!
先ほどより小さな衝撃音を生じせしめながら、やはりその弾丸は、海水を集めてつくったその巨腕を、容易く貫通してしまった!
<<<待て、待て、待て......待て待て待てッ!?>>>
よく見ればその弾丸、形状が、初めの頃とは変わっている。
円形ではなく、より空気抵抗の少ない、槍のような円錐状へと、その姿を変えている!
そして!
「らあああああーーーッ!!!」
何やら絶叫をあげながら......超高速で、回転している!
どういう、ことなのか!?
......簡単だ。
エミーが、あのどす黒い弾丸の中で、体をひねりぐるぐると、回り始めたのだ!
ギュルルルルルルーーーッ!!!
空気とこすれあいながら、凄まじい音を鳴らしてガロズグへと進み続ける、殺意の塊!
<<<調子に......乗るな、陸上生物がーーーッ!!>>>
しかしそれに怯え、逃げ出す。
そんな選択を、ガロズグは取らなかった。
何故なら、彼は王だから。
王としての矜持が、無意識の内に恐怖に蓋をする!
彼は激昂し、吠え叫び......水巨人の体を操作して、弾丸を阻む水の壁を、何枚も作り出した。
水巨人の体は、いかようにも形状を変化させられるのだ。
......しかし!
ズパンッ!
ズパンッ!!
ズパパパパンッ!!!
ガロズグの作り出した防壁の、そのことごとくを突き破り、弾丸は直進する!
その勢い、全く衰えない!
と言うかむしろ、何故かここに来て徐々に......その速度が、増している!?
<<<何故だあああああーーーッ!?>>>
おそらく、弾丸後方からジェット噴射のごとく放出されているエミーのどす黒い魔力が、そのファンタジー挙動に一役買っていることは間違いないが......!
エミーは、必死だ!
無意識の内に魔力を操り、最善を引き寄せている!
ガロズグも、必死だ!
考察などしている場合ではない!
オマケ様も必死だし、海面からこの攻防を見上げるザラトプにも、細かいことはわからない!
だから、誰一人として!
今、この場で起きている現象に、説明を加えることはできない!
だがしかし、実際のところ!
そんなことは、どうだって良いのだ!!
とにかく、今、ここで重要なのは!
もはや、どす黒いその、弾丸は!
何重にも設置された水の防壁を、全て突破し!
フジツボ・ガロズグの身を守る、分厚い、ごつごつとした殻に!
ついには、たどり着いたという!
......その、事実!!
チュイイイイイイイインッ!!!
弾丸と化したエミーは超高速回転し、ドリルが如く、ガロズグの殻に食らいつく!
金属を削るような、甲高い音が周囲に響き渡り、火の粉がまき散らされる!
一方のガロズグは、必死に殻を魔力で強化!!
己の鎧、食い破られてなるものかと、必死で防御力を高める!
「らあああああッ!!!」
<<<おおおおおおッ!!!>>>
ドオッ!!!
エミーが弾丸後方から放出し続けている魔力ジェット噴射が、さらにその勢いを増す!
ミシィッ!!!
ガロズグの殻から、嫌な音が鳴る!
<<<ふ、ふ、ふざけるなぁーーーッ!!余は、余は、王であるぞーーーッ!?>>>
ガロズグはもはや、出し惜しみをしない!
凄まじい勢いで神の魔力を消費し、殻の強化をさらに強める!
殻の損傷、その進行が、止まる!
<<<ツボボ......ツボボボボーーーッ!>>>
まだ、神の魔力に余裕はある。
一方でこの、弾丸と化している陸上生物。
こいつは何故だか妙に強いが、しょせんはただ、少し強いだけの陸上生物である。
さすがにこの勢い、長くは持つまい!
神の力を取りこんだ、ガロズグとは違うのだ!
さすれば、この我慢比べ、己が勝つは必然である!
少しだけ心の余裕を取り戻したガロズグは、哄笑した!
<<<諦めよ、陸上生物!滅びよ、陸上生物!!>>>
ガロズグは嘲りながら、エミーへと語りかける。
<<<余は、王である!王の道程を、邪魔するでない!余は、フジツボ新世界を構築する者!この世の全てを、支配する者ッ!>>>
減っていく。
神の魔力が、減っていく。
しかし、まだまだ余力はある。
問題は無いのだ。
故にガロズグは、余裕を持って語り続けた。
語り続けようとした。
<<<何故なら......何故なら、余は......!!>>>
だが、しかし。
ああ、哀れなことに。
<<<余は......余は......!?>>>
ガロズグの弁舌が、止まった。
何故か?
彼は、知らなかったのだ。
彼が、必死で戦ううちに。
神の魔力と同時に、消費していた物が、もう一つあったことを。
それは、妄執。
彼が取りこんだ妄執とは、一体何であったのか。
それは、宝玉の魔力に染みついてしまった、思念なのだ。
神の魔力には、まだ余裕がある。
だがしかし、妄執については、どうか?
所詮は、人間の王たちが、数千年ためこんだ程度の、妄執である。
神の魔力全体から見れば、それに染められてしまったのは、ほんの一部分。
大量に使えば、すぐになくなってしまう程の、上澄み。
それが、ガロズグを王たらしめていた、妄執の正体だ。
支配への欲求を生み出していた、躍進の原動力だ。
その妄執が。
気づけば、無くなっていた。
使い果たしてしまった!
その、途端に。
<<<余は......王?......何故?>>>
ガロズグは。
この、哀れなフジツボは。
<<<全てを、支配......何故?>>>
そのアイデンティティを。
<<<フジツボ新世界......何それ?>>>
......失って、しまった。
ぽっかりと。
ガロズグの心に、大きな穴が開いた。
そして生じる、一瞬の隙。
「らあああああーーーッ!!!」
ミシ......ミシミシミシッ!!!
その隙は、殺意の弾丸を前にしている今、致命的なものだった。
魔力による強化の綻びを突き、弾丸は殻に、ダメージを加え始める。
嫌な音と共に、数十年かけて肥大化させてきたガロズグの鎧に、ひびが入り始める。
<<<あ、あ、あああッ!?やめ、やめ、やめろおおおおッ!?>>>
ミシミシミシッ!
ミシミシバキッ!
哀れなフジツボの叫びなど、どす黒い弾丸と化し高速回転中のエミーには......届かない!
ついには懇願空しく、フジツボの殻が、砕け散り始めた!
<<<あ>>>
そして、ついに。
バキンッ!
そんな音を、立てながら。
殻に、小さな穴が開いた。
そして、それと同時に。
このフジツボが、殻の中で大切に保管していた......白い宝玉が。
外へと、こぼれ落ちた。
<<<ああああああッ!>>>
あれを、無くしてはいけないッ!
妄執によって強固に作られた、未だ消え去らぬ強迫観念が、フジツボの体を突き動かす!
彼は、防御など、かなぐり捨てて。
無意識の内に、宙を舞う白い宝玉に向けて、その蔓脚を伸ばした。
<<<......あれ?>>>
だけど。
なんで、こんなことを?
蔓脚を伸ばしてから気づく、自らの行動の不合理。
蔓脚の動きが、止まる。
白い宝玉は、止まらない。
海に向かって、落ちて行く。
そして、弾丸も......止まらない!
「らあああああーーーッ!!!」
バキンッ!
バキバキバキバキバキッ!!
最後のダメ押しとばかりに、魔力ジェット噴射の勢いをさらに増し!
エミーは、フジツボの殻を、完全に破壊し!
大穴を開け!
そして、ついには!
フジツボの本体を......貫いた!!
<<<ぐぎゃあああああーーーッ!!!>>>
フジツボの絶叫が、周囲に響きわたる!
エミーは弾丸の形状のまま、殻の反対側をも突き破り、海の向こうへと飛んでいく。
水巨人の体は、それを維持していた膨大な魔力の供給が無くなることで、ざばざばと、轟音を立てながら崩れていった。
後に残った物は......何も無い。
水巨人が消え去った後、そこには。
波があった。
空は青かった。
雲は白かった。
つまりは、ただただ。
いつもと変わらない海の風景が、広がっていた。




