3 虚無と焼肉のかおり
黒い渦に吸い込まれた先、虚無の中には......何もなかった。
どこまでも、どこまでも続く真っ黒な空間。
何もかも真っ黒で塗りつぶされ、何も見えないし聞こえない。
寒くもなく暖かくもない。
そんな虚無の中に、私のどす黒い魂だけがプカプカと浮いている。
......いや、本当は真っ黒な空間すらないのかも?だって虚無なんだし。
なんか言っててわけわかんなくなるけど。
............はぁ~~~~......。
ってか何よこの展開。
ため息もつきたくなるでしょ。
自分の人生ふりかえってみても、楽しいモノではなかったと思う。
父親は犯罪者で刑務所から出てこない。
母は気を病み、私が物心つく前に死去。
私を引き取った親族たち......“家族”たちからは厄介者扱いされ、幼いうちから住む場所を転々とし。
友達もできず。
父親のことでいじめられ、“家族”からも虐待され。
......それでも。
それでもだよ!!
私はまっすぐに生きようと頑張ってきたよ。
無理やり笑顔を作って、愉快に過ごそうと頑張ってきたよ!
頑張って、頑張って、頑張って、不満があっても表にはださず!
きっといつかこのつらい日々も、良い思い出になる日が来ると、そう自分に......言い聞かせて!!
その、頑張った結果が、これかよ!?
わけわからん神々に拉致されて、臭いからってポイ捨てされて!!?
ふざけんな!ふざけんなよ!!ふざけんじゃねぇーーーーーーーーっ!!
とめどなく、怒りがあふれ出てくる。
私の魂が、さらにどす黒く染まっていく気がする。
怒って、怒って、怒って、己の人生の不遇を悲しみ、嘆き、呪って......ひとしきり喚きたてたところで......。
なんか、冷めた。
まぁ......むなしいのよね。
私がいくら騒いでも、ここにはそれを聞いてくれる人すらいないんだもん。
疲れるだけ。はーい、やめやめ。別のこと考えよ。
......あ~~、おなか減った気がする。
お肉食べたいなぁ。
焼肉食べたい。
私、お肉大好きなの。
肉食系女子なの。
前世では、あんまり食べさせてもらった記憶はないけど......来世では、アレだね。
もうどんどん肉を食う。
そうやって生きていきたい。
でも、虚無に捨てられた私に、来世ってあるのかな?
輪廻の輪?みたいな?
そんな感じの流れに、今からでも乗れますかね?
輪......輪かぁ......。
グルグルまわる、輪廻の輪......。
グルグル巻きになったウィンナー、食べてみたかったなぁ......。
そんな風に、とりとめもないことを延々と考えていた私だったんだけど。
......ふと、においを感じた。
ってか、魂の状態で見たり聞いたり嗅いだりってどうやってんの?って思わなくないけど、それはとりあえず置いといて。
このにおい......。
これは間違いない。
肉の、焼けるにおい。
甘く香ばしい......タレの香りも混じっている。
焼肉だ。
焼肉のにおいだ。
誰かが近くで......焼肉をしている......?
わたしはプカプカと、そのにおいの方向に引き寄せられ......。
キュポンッ!という音と一緒に。
またしてもどこかに吸い込まれた。