279 【冒険者ミトラン】謎の空間における、謎の存在との出会い
延長戦!
「「うわああああああーーーーーーッ!!?」」
ドボォンッ!
ドボッドボボッ!
ドボォォォンッ!
イブラバーレグの計略にはまり、遺跡の底へと落とされたボクとレーセイダさんだけど、ボクたちはそのまま固い地面に叩きつけられ潰れてしまうことのなく、運よく生き延びることができた。
何故なら、ボクたちが落ちた先には、深く水をためるプールのようなものが待ち受けていたからだ。
きっとあのイブラバーレグの異能【スキャン】には探れる範囲に限界があって、ボクたちが落ちた先が水面だなんてことを、把握しきれなかったんだろう。
何にせよ、助かった!
「......ぷはっ!レ、レーセイダさんっ!生きてますかっ!?」
「な、なんとか!ああ、弟に【身体強化】のこつを、習っておいて良かった......」
「う、うわ!?このプール、何かいるよぉっ!?ふ、服の中に、何か入って来たぁっ!!」
ボクたちは混乱しながらも、ばしゃばしゃとプールの端へと泳いで行って、そこから陸地にあがったんだ。
「ひ、ひぇぇ......死ぬかと思った」
ボクは思わず脱力し、仰向けになって天を仰ぐ。
大分深い場所まで落ちて来たらしく、ボクらが落ちて来た上層部の大穴は、暗闇に隠されてしまい、見えない。
そして上体を起こして辺りをきょろきょろ見回すと、ここはプール......というよりも、まるで地下に作られた運河のような印象を受ける場所だった。
石が組まれ、明らかに人工的に作られた運河のようなプールのようなものが一直線にずっと伸びており、その両側にあるのがボクらが今いる作業用通路のような細い道だ。
その道の壁には、ここにもやはり魔灯が設置されており、辺りを青白く照らしている。
「......うわっ!?わわわっ!?」
ここでボクは、さっき水の中で何かがボクの服の中に潜りこんで来たことを思い出した!
それは、未だにボクの服の中で、何やらピチピチと跳ねている。
慌ててそれを掴み取り出すと、それは......。
「あ、あれ?これって......」
「......ふむ、アハテカワエビ、だね」
......そう。
それは、ボクたちが散々食べたネボの町名物の、アハテカワエビだった。
改めて水の中を覗いてみると、そこにはうようよとアハテカワエビが泳いでいる。
ボクたちが突然落ちて来たものだから、エビも驚いたんだろう。
未だにピチピチと音を立てながら、水面から跳びあがっているエビが何匹もいる。
「なんで、アハテカワエビが、こんなにたくさん......?」
「ははは......まるで、養殖場だね......まぁ、それはともかく、服を乾かそうか」
そう言うとレーセイダさんは、ぶつぶつと詠唱を始めた。
「『水よ、離れよ、飛び去れ!【ドライ】!』」
これは、生活魔法だ!
この異世界アーディストが、地球よりも便利な部分その一!
ボクとレーセイダさんの服が、あっという間に乾いていく。
ちょっと渇きすぎて、肌触りがカサカサになっちゃうのが難点だけどね。
「ありがとうございます、レーセイダさん。ボク、この魔法苦手なんです。やりすぎて、いつも中の人まで死にそうになっちゃうんです」
ミイラみたいになっちゃうんだよね。
死人が出てなくて、本当に良かったと思っているよ!
「ははは......それはそれは......私がやっておいて、良かった......」
レーセイダさんは引きつった笑いを見せた。
◇ ◇ ◇
さて、いつまでもこの場に留まり続けるわけにはいかない。
なので、ボクたちはプール横の道を進み、周囲の探索を続けることにした。
この一直線の道なんだけど、片方はすぐに行き止まりにぶつかった。
道は壁で塞がれ、プールは続いているんだけど、それは鋼鉄の檻で十字に塞がれ、エビみたいな小さな生き物でなくちゃ、その先には進めない。
ボクたちはすぐに反転して、もう一方の方向へと進み始めた。
「ミトラン君......すまなかった。今回の件は、全て私の軽率な行動が原因だ」
レーセイダさんは、ボクの忠告を聞かずに飛び出していったことを、後悔しているらしかった。
俯きながら、そう謝罪の言葉を述べる。
「ああ......良いって、気にしないでよレーセイダさん。ボクにも非はあるんだし」
そう言って、ボクも少し、落ちこんだ。
レーセイダさんが飛び出していった時、なんだかんだ言って、ボクには危機感が足りなかった。
ボクにはチート能力があるんだもん、どんなピンチも切り抜けられると思っていた。
それが、死体を見て顔を青くしている間に、相手の策略にまんまとはめられ、こんな地下深くまで落とされたんだもん。
......明らかに、ボクの油断が招いた事態だよ、これは。
これが......もしカマッセが同じ状況に陥ったとしたら、彼はどう行動しただろうか。
きっと、もっとスマートに事態を切り抜けたはずだ。
戦闘能力だけが、冒険者の実力ではない......。
本当に、落ちこんじゃうよ......。
「む......それならば、あれだな。二人とも、悪かったということだな!ははは、それなら私も、気が楽だ!」
ボクが目に見えて落ちこんでしまったせいだろう。
レーセイダさんはあえて明るく振舞い、大声で笑った。
「......あはは!」
ボクも思わず、つられて笑う。
その気づかいが、とてもありがたかった。
ボクも大人になったら、こういう気づかいができる人に、なろう!
◇ ◇ ◇
「......む?おや?あれは?」
さて、それからしばらく進んだボクたちは、プールの横に空間が広がる場所にたどり着いていた。
そこに並んでいたのは......いくつもの大きな、円形の水槽だ。
魔灯によって照らされたそれの中には、無数の小さな生物が蠢いている。
「こ、これは......エビ、だよね?」
「うむ。小さいアハテカワエビ、だな」
この水槽で大きくそだったエビが、さっきのプールに放流されるのかな?
「これは......まさか、本当に......アハテカワエビの養殖場、なのか?」
「ええっ!?レーセイダさん、何を言っているのさ!?」
水槽を見上げ、顎をなでながらそう考察するレーセイダさんの発言に驚き、ボクは思わず彼の顔をまじまじと見つめた。
でも、レーセイダさんは至って真面目だ。
冗談を言っている気配はない。
「そもそも、アハテカワエビの生態には謎が多い......実はどこで産卵し、増えているのかも......明らかにはなっていないのだ。これまでは、おそらく川の上流で増えているのだろう程度の推測がなされていたが、もしかしたら......」
「え、アハテカワエビは全て、この遺跡で養殖されていたってこと?この謎の遺跡は、古代のエビの養殖場だった?」
「......わからない。わからないこと、だらけだ......」
そう会話しながら、ボクたちは小エビ水槽の横を通り抜ける。
するとそこには、またしても水槽のようなものが、設置されていた。
でもそれには、明らかに水槽とは違う点が、いくつも存在していた!
まず、円筒状のそれを満たしている液体が、水ではない。
だってその薄水色の液体は、それ自体が仄かに輝いているんだもん!
そして、その中に入れられ身動き一つしない生き物も、エビではなかった。
それは、クマ程の大きさがある、毛むくじゃらの生き物だった。
その形は、大雑把に言えばクマに似ている。
ただし、体毛の色は紫色だし、首や頭がついていない。
それの顔は胸の部分から浮かびあがっていて、その口は人一人なら余裕で丸のみできてしまう程の大きさだ。
さらにその腕は丸太のように太く、きっと殴られれば、人間はひとたまりもないだろう。
爪や、口元から伸びる牙は鋭く、恐ろしい。
体毛に隠されてはいるが、その全身はおそらく強靭な筋肉によって覆われており、戦闘時には恐るべき膂力を発揮することだろう。
「これは......!?」
見たこともない恐ろしい生き物に、思わずボクの鳥肌が立つ。
「これは、エビイーターじゃないかッ!!」
レーセイダさんが驚愕し、そう大声をあげる!
「エビルイーター!?」
「違う!エビイーターだ!......ネボの町は以前、謎の魔物によって困らされていたという話は、聞いたことがあるだろう?その謎の魔物が、こいつなんだよ!この水槽の中の奴はサイズこそ小さいが......ネボの町のアハテカワエビ記念館に飾られている謎の魔物の剥製と、うり二つなんだよ!」
「何だって!?じゃあ、こいつのは、その......ネボの町を襲っていたエビルイーターの仲間ってこと!?」
「だから、エビルイーターではない、エビイーターだ!凶悪そうな見た目とは裏腹に、胃の中にはエビばかり入っていたことから、そう名付けられたのだ!」
レーセイダさんはボクにそう解説しながらも、ポケットから手帳を取り出してカリカリとメモをとり始める!
「つまり、この場所はやはり、エビの養殖場なのだろう......しかし、エビ養殖の目的は人間の食料とすることでは、ない。このエビイーターのエサにするために、アハテカワエビは育てられていた......そのエビのうちの何割かが、アハテ川へと逃げ出し、我々人間に漁獲されてきた......」
レーセイダさんの頭脳は高速で稼働し、驚くべき仮説を次々に組み立てていく!
「待って、待ってよレーセイダさん!じゃあさ、このエビイーターは、何なの?この施設を作り上げた誰かさんは、なんでこのエビイーターを、育てようとしたの!?」
ボクは混乱に頭を抱え、そう質問した!
レーセイダさんはメモをとる手を一旦止めて、沈黙。
しばらく後に、ゆっくりと口を開いた。
「それは......きっと......この遺跡の、ガーディアンとするため」
「ガーディアン......?」
「遺跡の最奥に眠る......遺物を、守るための、ガーディアンだ......」
「遺物......?それって、あの悪党が最後に言っていた......魔剣『ソウルデバウラー』......!?」
ボクたちの議論が遺跡の謎に迫り始めた、ちょうどその時だった。
バシャン、バシャン、バシャン!
ボクの【超感覚力】が、どこか遠くの方で、何かが水を叩いている音を、捉えたんだ!
「......レーセイダさん、静かに......向こうの方、何かいる」
「何......!?」
ボクは剣を抜き放ち、構えながら、音の方向へとゆっくりと進み始めた。
「まさか......水槽から逃げ出したエビイーターがいて......エビを獲っているのか......?」
「............」
わからなかった。
でも、その可能性はある。
さっきレーセイダさんは、『エビイーターの胃からはエビばかり出てきた』って言ってたけど、この謎の魔物は人間を見つけると、見境なく襲いかかってきたと、冒険者ギルドの報告書には記載されていたはずだ。
つまり、この音の発生源がエビイーターだった場合、友好的な接触は期待できない。
ボクはごくりと唾を飲みこみ、慎重に歩みを進めた。
仄かに輝く液体の中に、エビイーターが浮かんでいる。
そんな水槽が林のようにそびえたつその空間を、ボクとレーセイダさんは水槽の影に隠れながら、徐々に音のする方へと近づいていった。
バシャン、バシャン、バシャン!
「「............」」
いよいよもって、音が近づいてきた。
ボクたちはお互いに目を合わせ、頷きあってから、ゆっくりと水槽の影から顔を出し、音の発生源へと目を向けた。
そこにあったのは、先ほどと似た、プールだった。
ただし、かなり浅いようだ。
揺らめく水面の下に、プールの底の床が見えている。
そしてプールの水面では、アハテカワエビたちがぴょんぴょんと飛び跳ねている。
何故か?
バシャン、バシャン、バシャン!
それは、そう音を立てながら、水中にその腕を突っこみ、目にも止まらぬ速さでエビを掴み取っては口に放り込み続ける存在のせいだ。
エビたちはそれから逃げようと、混乱しているのだ。
そして、エビを捕食し続けるその存在。
それは、小さかった。
大体ボクと、同じくらいの大きさだ。
そう、それは、エビイーターでは、なかったのだ。
ボクたちは音を鳴らしていた存在の正体に驚き、目を見開いて思わず固まってしまった。
これは、しょうがないと思う。
だって、あまりにも、予想外だったんだもん。
それは。
エビを捕食していたのは。
少女だった。
黒髪黒目の、どす黒い布のようなものを全身に巻きつけた、少女だった。
その少女が、一心不乱にエビを獲り続け、そして食べ続けていたのだ。
火も通さず、生のままで。
「......なんだ、お前ら」
しばらくして、その少女は呆けるボクたちに気づいてこちらに顔を向け、そんなことを言った。
「「いや、お前がなんだよ」」
ボクとレーセイダさんのつっこみが、揃った。
きりの良いところまで進んだので、連続投稿はおしまいです。
次回投稿はしばらくおまちください。




