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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
13 とある冬の日の出来事編!
230/740

230 採用 09時52分

「合格です」


 白縁眼鏡をかけた男アンビシャスは、再び面接会場である礼拝堂に呼び出され、未だに緊張し体をこわばらせながら椅子に腰かけた青年に対し、開口一番そう言った。


「え......」


 思わず、小さくそんな声が漏れる。

 もちろん、その言葉をかけられることを望んで青年はこの面接に挑んでいたわけだが、それにしたって椅子に腰かけたその瞬間にそう言われてしまっては、呆けてしまうのも致し方なかろう。

 目を大きく開き、口もぽっかりと開き、青年はその整った顔立ちを間抜けに歪めながら、固まった。


「我々『紫ノ二ツ輪』は、君を歓迎するよ。皆、新たな暗殺者の誕生に、拍手を」


 パチパチパチパチ!

 アンビシャスがそう高らかに宣言したその瞬間、気配を消して青年の周りを囲んでいた『紫ノ二ツ輪』の構成員たちが、一斉にその存在感を露わにし、手のひらを叩く!

 突然のことに固まっていた青年の思考が、徐々に徐々に動き出し始める。




 まず、青年は驚いた。


 突然の合格発表に。

 そして知らぬ間に自分を取り囲んでいた達人たちに。

 いつ殺されてもおかしくはなかった、己の迂闊さに。


 そして次に、喜んだ!


 憧れの組織に所属できることに!

 そして学びを得られる師たちの、実力の高さに!

 これからまだまだ強く、強く成長することができる、己の未来に!




「あ、ありがとうございます!」


 そして拳を握りしめ、勢いよく立ちあがり、腰を曲げ頭を下げた。

 あまりにも勢いをつけて立ち上がったものだから、彼が座っていた椅子はそのせいで後ろに倒れ、大きな音を立てた。

 彼は顔を真っ赤に染めて、上背のある体を小さく丸めながらいそいそとその椅子を起こし、申し訳なさそうに座りなおした。


「ははは、全く初々しく、微笑ましいものだね」


 アンビシャスは若干苦笑をこぼしながらも、一際強く、パンと手を叩いた。

 それだけで、少し緩んだ室内の空気が切り替わる。

 一斉に、拍手の音が止み、無音の世界に。

 良く通るアンビシャスの声が、さらに、良く響く。


「それでは早速だけど、我らが同志となった君に、誰にでもできるミッションを一つ与えよう」


「ミッション?」


「言ったろう?難しいものではない」


 緊張して少し不安げな顔を見せる青年に対し、アンビシャスは白い歯を見せ、にっこりと笑う。


「君にはこれから、私たちのコードネームと、基本的な戦闘スタイルを覚えてもらう。つまりは、端的に言えば......自己紹介だ」


「なるほど」


 途端にほっとした顔つきになる青年。

 ......先ほどから考えていることが顔と態度に全て現れているが、彼はこの通り、生来素直な性なのだ。

 暗殺者としては今後、要改善の部分である。


 さて、そんな安心した様子を見せる青年に対し、アンビシャスはしかし、人差し指を振りながらチ、チ、チと舌を打って音を鳴らす。


「だけど、相手の自己紹介を疎かにしてはいけない。相手を理解しようとすることは、コミュニケーションの基本だよ。相手が何を考えているのか、何が好きなのか、弱点は何か、何をすれば苦しむのか、どうすれば殺しやすいのか......常に考えながら行動する。これはとても大切なことだ」


「はい!」


「そして相手を理解する、これは仲間となる人間に対しても重要なことだ。より効率的な連携を果たし、確実に仕事を遂行するためには、仲間との相互理解が必要になってくる。そのための自己紹介だ」


「はい!」


「私たちは、秘密主義者ではない。特に仲間に対して、隠し事などしないよ。お互いに信頼関係を築き、より良い職場環境を作り上げていくためだ。君も『紫ノ二ツ輪』所属の構成員となったんだ。いわば、私たちは家族みたいなものだ。家族に隠し事は、君もしないでくれたまえよ」


「はい!」


 そうアンビシャスが語っている間に、彼を中心に『紫ノ二ツ輪』は横一列に並んだ。

 その体つきや服装はそれぞれ個性的であり、統一感がない。

 しかし共通しているのは、威圧感。

 人を殺し、飯を食ってきた。

 その経歴から生まれる邪悪な職業意識、自負、そして自信、貫禄が、彼らからは確かににじみ出ていた。

 窓から差し込む日の光が足元ばかりを照らすものだから、彼らの顔つきは影に覆われはっきりと認識できない。

 それが、妙に恐ろしい。

 青年は、再度自然に立ち上がり、ごくりと唾を飲み込んだ。




「なら......まずは、オレからだな」


 そう言って、アンビシャスの隣に立っていた額に傷のある男が、一歩前に進み出た。

 中年の男であるが細身のその体は良く鍛えられており、その刃のような肉体を、獣の皮をつなぎ合わせて作ったような独特な服装で覆い隠している。

 少なくとも青年は、見たことのない服装である。

 彼のオリジナルなのだろうか?


「オレの名前は、ショートワープ。【身体強化】したうえでの近接格闘が主な戦闘スタイルだ。そして、それだけではなく......」


 そう口にした次の瞬間、突然ショートワープの姿がかき消えた。

 それと同時に、青年の首筋に軽く、手刀があてられる。


「......このように、【短距離転移】という異能が使える。これがコードネームの由来だな。よろしく頼む」


 ショートワープは、突然のことに心臓の鼓動ばかりをはやくして全く身動きがとれない青年の肩をポンと叩き、元の立ち位置へと戻った。


「よ、よろしく、お願いします」


「彼は古参で、この組織最強の男。その実力は折り紙付きだ。異能を最大限に生かすことができる近接格闘能力こそ、彼の真骨頂だよ。何しろ、近接格闘において並ぶものがいないとまで言われるとある伝説の暗殺者に、師事したこともあるほどの男なんだ」


「......師事なんぞ、しとらん。しばらくしつこく付きまとって、最後にはボコボコにされて、捨てられただけだ」


 笑顔で補足をするアンビシャスをショートワープは軽く睨み、不機嫌そうに鼻を鳴らし、顔を背けた。




「次は、我であるな」


 そう言いながら一歩前に進み出たのは、ローブのフードを目深にかぶり、すっかり顔を隠した男だ。

 薄汚れた灰色のそのローブにはびっしりとわけのわからぬ文字が書き込まれており、イビルソードの恰好つけの包帯風の布とは異なり、何らかの魔法的効果が付与されていることがうかがえる。

 もしかしたら、ダンジョン産の遺物なのかもしれない。


「我は、スムースタン。見ての通り魔法使いであり、格闘は得意ではない。しかし一通りの魔法を使えるし、暗殺者としての経験も長い。貴様が新人の内は、我がサポートに入ることも多かろうから、覚えておくが良い」


「はい、よろしくお願いします」


 スムースタンは淡々とそう語ってから、自分の立ち位置へとすぐに引っ込んだ。

 感情の乗らない、抑揚の少ない不気味な声だった。

 フードの影に隠れ顔が見えないことも相まって、青年には彼が、おとぎ話に謳われる悪霊が現世に舞い戻った存在なのではないかとすら感じた。


「彼の持ち味は、高速詠唱だ。常人の何倍もの速度で魔法を放つことができる。よく頼ると良い。次は......ビッグレディ、頼んだよ」




「はい」


 そうアンビシャスに促され次に自己紹介を始めたのは、身の丈3メートルを超える巨人の女だ。

 先ほどおそらく特製の椅子に腰かけ、面接をしていた時からその体の大きさには圧倒されていたが、立ち上がった今では、その威圧感は何倍にも跳ね上がっている。

 礼拝堂の天井に頭をぶつけないよう気をつけながら、その女は見かけ同様に威圧感のある野太い声で、見かけに反して丁寧に、自己紹介を始めた。


「私のコードネームは、ビックレディです。この通り体が大きいので、隠密には向きません。攻撃を正面から引き受け、そして敵を粉砕するのが得意です」


「はい、よろしくお願いします」


 隠密には向かない。

 確かにその通りだろう。

 彼女の体は、この廃村の礼拝堂に出入りするための大きな扉よりも、さらに大きいのだから。

 そもそも、この建物の中にどうやって入ったのだろうか?


「彼女のパワーは、凄いよ!彼女にかかれば城塞なんて、おもちゃの積み木も同然だ。仕事も丁寧だから、君も後輩として色々と教えてもらうと良い。素晴らしい先輩になってくれることだろう」


「そんな、素晴らしい、なんて......」


 ビックレディはアンビシャスに褒められ、顔を赤くしながらもじもじとした。

 そしてちらちらと、熱のこもった視線をアンビシャスへと向ける。

 その様を見て、青年はすぐに気付いた。

 彼女は、恋を......しているのだ。




「つ、つつ、次は私、ですね!」


 そしてそんなもじもじ巨人をまるで気にせず、そう言って一歩前に進み出たのは、背の小さな小太りの男だった。

 ちょび髭を生やした気の弱そうなおじさんであり、肩に三匹の小鳥を乗せている。

 このおじさんは冬だというのに何故か白いタンクトップを着ており、そのまるで鍛えられていない贅肉まみれの太い腕を露わにしていた。

 明らかに他とは違い、なんかこいつだけ弱そうだなと、青年は思った。


「えと、あの、私は君の次に新人と言いますか、あの、この歳でって思われるかもですけど、その、ペットの食事を兼ねたお仕事ができるって、最高だなって思いまして、この仕事を始めまして、あの、趣味はペットをなでることで、私はペットが本当に大好きで、あの......」


 男はハンカチで汗を拭きつつ、どもりながら自己紹介をしようとするが、どうにも話がまとまっていない。

 たまらずアンビシャスが口をはさんだ。


「彼は、モンスターマスター。俗に言う“従魔師”というやつで、アサルトチワンワン、緑竜、そしてバレットピッピを三匹従えている。本人は見ての通り弱いが、魔物を使った殺しは自然を装えて非常に便利なんだ。馬鹿にするものでは、ないよ」


「はい!馬鹿になんかしません!」


 釘を刺すアンビシャスに対し、青年は背筋を伸ばし、きりりと顔を整えてそう言った。

 正直に言うと、内心では馬鹿にしていた。


「よ、よよよ、よろしくお願いします」


「よろしくです」


 モンスターマスターは汗を拭きながら、後ろへとさがった。

 たくさんキャラクターが登場しましたが、一切覚える必要はありません。


【身体強化】

 非常にポピュラーな魔力操作技術。

 効果は読んで字のごとく身体能力を強化すること。

 意識する、しないは別としてこの世界ではたいていの人が使用しており、そのため異能とはみなされない。

 第2章より登場。

【短距離転移】

 非常に強力な異能。

 この異能に加え高度な近接格闘能力も持ち合わせたショートワープは、かなりの難敵なのだ。

 彼ほどの男が何故かつてダハチエの配下におさまっていたのかは、彼の死に様を見れば、何となく想像できるかもしれない。

【ダンジョン】

 初出の単語。

 この世界にもあるらしいが、本格的な登場は第2部以降。

【悪霊】

 実は第1章から言及されていたりする。

【従魔師】

 第11章にて登場したサクラという偉大な冒険者を祖とする、魔物を従え使役する人々のこと。

 サクラ自身は彼女の異能により魔物たちと意思疎通をはかっていたので、一般的な従魔師としての技術は彼女の後続たちが編み出したものであると思われる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉たくさんキャラクターが登場しましたが、一切覚える必要はありません。 もう死んでるからね!
[良い点] >たくさんキャラクターが登場しましたが、一切覚える必要はありません ここで吹いた
[一言] >>彼ほどの男が何故かつてダハチエの配下におさまっていたのかは、彼の死に様を見れば、何となく想像できるかもしれない。 ショートワープは転移で接近してからの不意打ちが売りだから、それを防げる魔…
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